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「もっと詳しく調べたいところだけど、残念ながら今は時間がないわね。他のパーティーもここを通るだろうし、あたしたちがいると怪しまれるわ。とりあえず、ここから離れましょう」
ヴィクトリアの言葉に従おうとしたとき、11時の方向から爆発音が聞こえてきた。『魚鱗の陣』が撤退の狼煙を上げた場所からだ。あそこには黄玉竜がいるという情報だったが、すでに勝負は決しているのではなかったか。
「逃げ遅れてる人間がいる可能性がある。もしくは、全員逃げられなかったか」
リーディが、その可能性を口にする。そうなんだよなあ。撤退の狼煙が上がったといっても、俺たちの方に『魚鱗の陣』のメンバーが逃げてきたわけではない。通り道は俺たちのところか、『探訪者たち』のところなんだが、普通Sランクパーティーが戦っている横を「あ、すいません」と言いながら通るだろうか。いや、通らないよね。
おそらく、逃げ損ねたのだ。爆発音が聞こえてきたということは、今も戦っているのだろう。撤退の狼煙を上げたということは、何人か戦闘不能になっている可能性が高い。今は生きているかもしれないが、そう長くは持たないだろう。
どうしよう。
個人的には助けに行きたい。が、そんな一人の感情でメンバーを巻き込むわけにもいかない。しかし見殺しは後味が悪すぎる。でもうちのtリスクを考えると……。
葛藤の中、アリアン嬢と目が合う。彼女はこちらの目を見ると、にっこりと微笑んだ。
「わかってますよ。クリスさんは、そういう人ですもんね」
「仕方ないから付き合ってあげるわよ。特別よ? 撤退のルートが確保できてるからやれることなの。他でやろうとしても反対するから、そのつもりでね」
「準備はできている。いこう」
ヴィクトリアとリーディも賛成してくれる。いい仲間に恵まれたなあ俺。なんだろう。ちょっとうるっと来た。
手早く準備を整え、11時の方向に進む。やはり500メートルほど行くと、少し開けた場所で、黄玉竜が何かを足で踏んでいるのが見えた。俺を含め、『黒いメンフクロウ』のメンバーが、一斉に駆け出す。何を踏んでいるかなど考える必要もない。一刻も早く助け出さなければ。
神の都合により、この世界は最大4対4までの戦いしか認められていない。つまり、『魚鱗の陣』の連中と戦闘中である、と神が見なせば俺たちは手も足も出せないのだが、今回はすでに決着済みと神が判断したようだ。全身鎧を着、兜を被ったために、大男に見えるリーディが、『咲き誇る花葬』を発動する。
魔物にも、こちらの敵意は伝わったようだ。首をもたげ、こちらに向かって戦闘態勢を整える。数は3匹。一匹は、『魚鱗の陣』がすでに倒したらしい。斜め前方に倒れている竜は、ピクリとも動かなかった。背中に、剣が刺さっている。
『魚鱗の陣』はといえば、一人が十メートル程先で倒れていた。これは先ほど踏まれていたやつだ。この距離では生きているのか死んでいるのかわからない。かすかに動いているように見えるが、今は俺自身がかなり動いているので、そう見えているだけかもしれなかった。
別の一人はもうだめだ。首から上がなく、脇腹に大きな穴が開いている。戦闘不能というレベルを遥かに超えていた。
他に、と探すと、大分向こうの壁際にもたれている人間を一人発見した。こちらも生きているのか死んでいるのかわからない。近くで狼煙が赤い煙を上げ続けていた。おそらく合図を出したのはコイツだろう。
もう一人いるはずだったが、残念ながらパッと見た限りでは見当たらなかった。黄玉龍の腹の中に収まってなければいいのだが。
「『組織暴力』!」
仲間にバフを。敵にはデバフを。俺の声に呼応するかのように、アリアン嬢が高らかに宣言する。
「砕けて散らせッ! 『火樹銀華』!」
彼女の号令の下、人間の胴体ほどもある木の枝が、恐ろしいほどしなって魔物たちに襲い掛かる。
黄玉龍を組み敷いたそれは、彼らの次の行動を阻害する、木製の鎖だ。俺のバフにより強化された一撃が、同じく俺のスキルにより弱体化された彼らの防御を打ち砕く。
大きく腹部にめり込んだ枝が苦しいのか、黄玉龍が悲鳴を上げる。
「心よ逸れ!『幸福論』!」
ヴィクトリアのスキルにより、俺たちの身体が軽くなる。行動速度の上昇が始まったのだ。そのまま、リーディが『手厚い病』で魔物たちにデバフをばらまく。
「右と左に攻撃力弱体化がついた!」
リーディの声に、標的を真ん中の魔物に定める。俺の拳は、竜の太ももに深々と突き刺さった。骨まで到達した手ごたえがあり、敵の口からは悲鳴が漏れる。
続けざまに、アリアン嬢の一撃。首を狙ったそれは、いともたやすく黄玉龍の生命を断った。『魚鱗の陣』が頑張ってくれていたのだろう。
大きな音を立てて地面に倒れる竜を横目に、ヴィクトリアが右へと標的を変更する。彼女の武器から放たれた怨霊が、竜の周りを飛び始めた。『約束された破滅』だ。
この後、少し経つと、この怨霊が巨大化し、魔物に大ダメージを与えることになる。あれと同じだ。火をつけてしばらくすると、打ちあがる花火のような感じ。時間差があるが、その分威力は大きい。
残った二体は、ようやく拘束を解こうというところだった。遅い。そこにはすでにリーディがいる。彼女の標的は左だ。
振りかぶった戦槌は、さながら地獄の断頭台。ものすごい衝撃音とともに、黄玉龍の頭がはじけ飛ぶ。だから、頭は残しておきなさいってあれほど言ったでしょうに。
残る一体に、再び拳をお見舞いする。しかし、魔物を倒すまでにはいかなかった。なんだろうねこの破壊力の差。それが個性といえばそれまでだが、リーディやアリアン嬢を見るとやはり少しだけうらやましくなる。俺も魔物をバッタバッタと切り倒して、英雄と崇められたい! と思っていた時期があるのだ。
今でこそ彼女たちの破壊力を引き出すことに喜びを感じるようになったが、昔は本当にこのスキルが嫌で仕方なかった。
それを変えてくれたのは、彼女だ。
俺を飛び越えて、全体重をかけた一撃をお見舞いするアリアン嬢。見事に肩口から心臓まで刃が通る。魔物は二、三歩ほど、武器を身体に埋めたままで後ずさり、そのまま倒れて動かなくなった。
怨霊が、標的の死を知り、霧散する。
俺たちはすぐに、生き残りを探す。一人は死亡確定しているので、残る二人の安否を確認だ。
魔物に足蹴にされた方に駆け寄る。薄くだが、まだ息がある。カバンの中から、ハイポーションを3本ほど出してぶっかけた。傷口がふさがり始める。
「こっちは生きてる!」
「こっちもです!ぎりぎりですけど!」
アリアン嬢が、こちらに聞こえるように大声を出した。どうやら狼煙の側で倒れていたやつも生きているらしい。あとひとりはどうだろう。
「あー……見つけたけど、ダメね」
そばに来てくれたヴィクトリアがそう言う。
「ダメ? 死んでたか?」
「それはわからないけど……誰のものでもない腕が一本、落っこちてたの。で、あの爆発跡じゃない?」
あちこちにある、地面にあいた大穴を指さす。
「なるほど」
「うん。木っ端みじんになった可能性が高いから、ちょっとね。見つけられないかも」
「いや、ありがとう。二人も助かれば上出来だ。俺のわがままに付き合わせて悪かった」
「いいのよ。貴方がやりたいことを手助けするのがあたしの仕事なんだから」
そういうと、ウインクをして素材を採りに向かった。
なぜだかこの時は素直に思った。ヴィクトリア、ありがとう。




