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 アリアン嬢がレア素材探しに戻ると、ジルベールが影の中から話しかけてきた。


「で、どうなんだ?」

「何の話だ?」

「ククク。それは当然、あの中の誰が一番好みかって話に決まっているだろう。ロリ、巨乳、スレンダーとタイプの違う美女が揃ってるんだ。ど真ん中とはいかなくても、方向性くらいは決まってるんじゃないのか?」

「ねえよ。一緒に冒険する仲間だぞ? 何言ってんだ全く」


 影の中では、悪魔公爵が笑い続けている。その声と、照りつける日差しにイラつきを感じながら、俺は手の中で悪魔の金剛石を弄んだ。

 

「まあ、私はヴィクトリアさんが好みだがな。あのスタイル、そしてあの頭脳。人間にしての中でも彼女は中々だと思うぞ。まあ、我が主はアリアン様なので、彼女を応援せざるを得ないのだがな」

「悪魔もスタイルとか気にするんだな」

「当然。悪魔も人間と同様、美醜の感覚はあるのだぞ? でなければ文化の発展などありえないだろう」

「まあ、それは確かに」

「で、誰が一番好みなんだ?」

「だから、そんな目で彼女たちを見たことはないって」


 向こうの方では、ヴィクトリアが、先ほどアリアン嬢が見つけた「歯車になりかけの心臓」を発見して喜んでいたが、アリアン嬢から同じものを見せられ、ここからでもわかるほど肩を落としていた。確かに色合いは歯車と一緒だからなあ。見つけたと思ったのに違うと、さぞがっかりするだろう。


「なんで彼女たちが、こんなに一生懸命になっているかわかるか?」


 再び、影の中から声。俺は腰かけている位置を変えながら答えた。


「知らんよ。Aランクの魔物の素材を集めれば、いい武器が作れるからじゃないのか?」

「そうじゃない。お前、本当に人の気持ちに鈍感だな。彼女たちがあれだけ一生懸命になっているのはな、この勝負に勝った者が、お前にモーションをかけることができる権利を手にできるからだ」

「モーション?」

「あー……。何というか、その、そう。お前に好意を伝えることができる権利と言い換えてもいいな。気が付いていないのか? 彼女たちは皆、一人の女性としてお前のことが好きだぞ」


 言われて、今も素材探しに勤しんでいる彼女たちを見た。一心不乱に歯車を探す姿は、鬼気迫るものを感じる。それから自分を見た。鏡は持っていないので、手のひらを見る。

 毎朝見る自分の顔は、お世辞にも格好いいとは言えない顔だった。昔からどちらかというと老け顔の部類だったため、年を取った今もあまり変わっておらず、逆にちょっと若く見られることの方が多い。女性が接待してくれる夜のお店などでは、「優しそう」と言われるこ

とが多いが、それが「特徴のない」男を褒めるための手段であることは、良く知っている。

 だから、ヴィクトリアが俺のことを好きだと言ったとき、からかわれているのかと思った。あれ以来、何のそぶりも見せていないし。

 俺と比べると、ダニは本当に整った顔をしている。貴公子とはかくあるべし、世の女性が「白馬に乗った王子様」を思い浮かべるとき、白馬を駆るのは間違いなくダニのような男だ。


 スタールもいい男だが、あれは人を選ぶタイプのいい男だ。「綺麗」というタイプの顔立ちではないしな。ちょっと癖のある女性が好む顔だと思う。事実、三人で夜の街に繰り出したときには、ダニが一番人気、スタールは数人に囲まれ、俺はその店でお茶を引いていた女性が付くというのが常だった。あれは切なかったなあ。


「おい、どうした?」


 過去の自分のモテなさ加減にちょっと憂鬱になっていると、影の中からジルベールの声。そういや、こいつも意外と整った顔をしてるもんな。くっそう。うらやましい。


「いや、お前もモテそうでいいなと思ってな。奥さんと子供がいるんだっけか」

「そうとも。愛する妻と子供のため、私は人間の下僕に身をやつしても生き延びなければならなかったのだ」

「今ふと気になったんだけど、魔物ってどうやって発生しているんだ? こうやって話していると、突然自然発生しているというわけでもなさそうだし」

「自然発生なんかするわけないだろう。こんな完成品が、庭でトマトが生るかのように生えてくるとでも思っているのかね?」


 いや、だから不思議なんだ。人間の目には、突然現れたようにしか見えないから。

 そういうと、悪魔公爵は鼻を鳴らして教えてくれた。


「教えてやろう。人間が『魔物』と一口にくくる存在は、大きく分けて二つに分かれている。私のように、意志と言葉を持ち、文化と文明を謳歌する『魔族』と、言葉を持たず、本能に従って生きる『魔獣』だ。人間の世界もそうだろう? 貴様らは言葉と文明を持ち、家畜を飼育する。我々も同じだ」

「めちゃくちゃ意外だわ」

「文明がある以上、当然そこには身分というものが生まれる。最たるものが魔王だな。まあ、魔王と言っても様々だ。人間と同じように何人もいる。中には人間と関わらず、自国の勢力を拡大することに執心する王もいるぞ」


 知られざる魔物たちの内幕に、開いた口がふさがらなかった。聞けば聞くほど、人間の世界とそう変わらない。

 だが。ここで一つ不思議なことがある。それだけ王がいて、国民がいて、魔獣がいるのであれば、人間の世界でも魔王の国を把握していて当然だろう。どうして今まで、そんな話が出てこないのか。


「人間が、お前らを見つけててもよさそうなものだがな」


 そういうと、ジルベールが再び鼻を鳴らした。


「お前は本当に愚かだな。少しはあのヴィクトリアさんに、爪の垢でも貰って煎じて飲んだらどうだ。その馬鹿さ加減も、少しは治るかもしれない」

「喧嘩売ってるなら買うぞ」

「お前に喧嘩を売ったことが我が主にバレたら、私は一巻の終わりだ。ああ、イバネス、チャスティン。お父さんは強く生きているよ……」

「奥さんと子供、そんな名前なのか」


 思っていたより普通の名前だ。彼のいう文化とやらも、意外と俺たちのそれと近いのかもしれない。


「人間が把握している世界が、世界のすべてだと思うなよ。霧に閉ざされた谷の向こう、あるいはわたり切れない海の向こう。そういったところに我々の国はある。そして、魔族の中で人間の国を見つけた連中が、こちらに進出しようとして来ている。それだけのことさ」


 人間界でもよくある、ただの領土拡大だよ、と一人ごちる。


「いつも、突然現れるのはなぜだ?」

「貴様が魔族の国に来たとしよう。さて、その状況で『私は人間です』といった格好をしながら、大手を振って歩けるかね」

「なるほど。確かに隠れるな」

「たまたまそのタイミングで見つかってしまっただけの話だ。たまに、本当に奇襲が成功していることもあるがね」

「魔王候補が複数来ているようなんだけど、何か知っているか?」

「貴様のその気安い感じ、なかなか侮れんな。いらぬことまで喋ってしまいそうだ」

 

 そういいながらも、丁寧に答えてくれるジルベール。意外といいやつじゃん。

 同時に、ダニたちといった夜の街で、「話しやすーい」と言われていたことを思い出し切なくなる。なんだよ話しやすいって。あんな店に行くような連中は女の子大好きなんだから、大体誰だって話しやすいわ。


「今回は、ちょっと特殊で、いくつかの国がそれぞれ魔王候補を出してきている。その国々がそれぞれ領有権を主張している小さな島があってな。最も成果を出した魔王候補のいる国に、その島を領土とする取り決めだ」

「あー。それで4人も来たのか」


 というか、そのうち一人が俺たちと一緒に行動しているけどいいんだろうか。


「で、話を戻すけど、誰が一番好みなんだ? 誰にも言わないから、言ってみろ、ほれ」

「大分戻してきたな。何度も言うけど、彼女たちが俺のことを好きなわけがないだろ。何言ってんだお前」


 影の中で、悪魔が考える気配がする。


「本当に鈍いなお前。あれか? 小説の主人公かなんかなのか?」

「うるせえ」


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