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「それじゃ、『魚鱗の陣』とやりあってるのは黄玉竜で間違いないんだな」
「ああ、数は8。その連中がどの程度の力なのかは知らんが、まあ荷が重いだろうな。ちなみにさっきの爆発音は、黄玉竜のブレスによるものだと思うぞ。あいつらの攻撃は威力はあるんだが、いかんせんコントロールが雑なのが珠に疵ってやつだな。その辺が、Sランクに位置づけられる蒼玉竜と違うところで……」
「アリアン嬢が怖いからって、滅茶苦茶喋るなお前……」
影の中で、ジルベールがむっとした様子が伝わってくる。
「我が新しい主のために、泣く泣く元同僚の情報を売っているのだ。この断腸の苦しみ、貴様も人の心があるなら少しくらいはわかってくれても良いのではないか?」
「悪魔が『人の心』とかいうのかよ」
「人の心と魂は、我々の専売特許だからな。悪魔だからこそ、さ」
なかなかうまいことを言う。
素材集めはまだ続いている。状況は先ほどとそう大きく変わっていなかった。『探訪者たち』と魔王の戦いはまだ続いているようで、何の合図も上がっていない。
他のところでは、入り口から2時と3時の方向で撤退、6時とその上、『探訪者たち』の手前の地点で勝利の狼煙が上がっていた。ちなみに、6時の位置に序列1位、その上は『破戒僧』が担当している。撤退戦の要となるこの地点で勝利の合図が上がったことは喜ぶべきことだった。『破戒僧』、やるじゃん。言うだけのことはある。
「魔王ってのは、どんな奴なんだ?」
「あー、魔王様な。何というか、謎の多い人だったよ。ただ、持っている力が圧倒的だ、というのは良くわかった。私は『鑑定』系スキルを持っているわけではないが、それでも肌で感じた。あれは、Sランクの魔物の中でも別格なんだと」
「なるほど」
「ちなみに、貴様からはなんのオーラも感じない」
「うるせえ」
悪態をついていると、伯爵の死骸、その頭部から輝くダイヤモンドのようなものが出てきた。体内に入っていたとは思えないほど、汚れもついておらず綺麗で、日の光を反射して七色に煌めいている。
「おお。それは『悪魔の金剛石』だぞ。伯爵の頭部からまれに出るかなりの貴重品だ。良かったな」
「元同僚じゃねえのかよ。もっと心配してやれ」
そういいながら、周りを見渡し、メンバーを呼ぶ。ほどなくして集まってきた3人に、こんなものが頭部から出てきたが、ジルベールの話によると貴重品らしい、と話をすると、ヴィクトリアがため息をついて言った。
「でも、頭部がきれいに残っているのなんか、ほとんどないけど」
「え? 本当に?」
「そうよ。周り見てごらんなさいな。ほとんどリーディとアリアンちゃんが吹っ飛ばしちゃってるわよ。あなたが見つけたのと、後何体かあれば御の字なんじゃないの?」
言われて見てみると、確かに、ほとんどがその頭部を吹き飛ばされたものだ。これは間違いなく、リーディのあの「ナイスショット」によるものだろう。うわ、あれなんか陥没しちゃってるよ。マジか。
じゃあ、と頭のついてるものを探すと、中途半端に頭頂部のみ切られているとか、真紫に染まって膨らんだものとかが目についた。こっちはアリアン嬢か。
二人とも攻撃力が高く、必然的にトドメを刺すのは彼女たちのうちどちらかということになる。さっき俺が『悪魔の金剛石』を取り出したのは、おそらくたまたま俺かヴィクトリアのどちらかが倒したものだったのだろう。
二人に目をやると、露骨に目を逸らしていた。
「……二人とも、あのな。魔物の頭部って、結構レアな素材が取れることが多いから、できるだけ吹き飛ばしたり、切り飛ばしたり、毒で汚染したりしないで欲しいんだが」
「仕方ない。吹き飛ばすの気持ちいいし」
「リーディ⁉ 人の話聞いてた?」
「わ、私はできるだけ努力します。ただちょっと、この子が切れすぎるので、もうちょっと抑えるようにしますね」
アリアン嬢が掲げた長槍斧が、彼女の言葉を否定するように先端から毒液を垂らす。地面に落ちたそれは、じゅっという音とともに紫色の煙を上げた。ダメだこりゃ。
ため息を突きながら続ける。
「……まあ、いいか。できるだけ頑張ってくれればいいよ。そう言えばジルベール、他に悪魔伯爵からレアな素材って採れないのか?」
「心臓の位置に、たまに歯車が入っていることがある。これが入っているのは10匹に1匹くらいだ。そういう意味では、レアと言えるのではないかな。コイツが入っている個体は、他と比べてやや戦闘力も高かった」
「なるほどな。じゃあ、そいつを探し終わったら、うちも勝利の狼煙を上げるとしようか」
「あ、それならあたし、さっき見つけたわよ。これでしょ」
ヴィクトリアが袋から取り出したのは、思っていたより小さな歯車がいくつか組み合わさった箱だった。金なのか真鍮なのか、ぱっと見では判断できない怪しい輝きをたたえている。今は動いていなかった。
「おお!これです。さすがですなヴィクトリア殿。もう見つけておりましたか」
「あ、それなら、私も見つけましたよ」
「私も」
奇しくも、アリアン嬢とリーディも見つけていたようだ。三人の手に、わけのわからない金属の塊が乗っている。
「ふうん。じゃあ今は皆一つずつ見つけたってわけね」
ヴィクトリアが不敵に笑う。なんだなんだ。
「クリスさんは見つけていないんですよね?」
「お? おお。見つけてないな」
「クリス、これ、いっぱいあったら嬉しい?」
「レアなんだろ? じゃあ、嬉しいかな。カムに聞いたら、何かの装備に使えるかもしれないし」
俺がそう答えると、三人が自分たちの歯車に目を落とし、それからお互いに目線を戻した。
「久々開催のようね」
久々?
「そうですね。ルールは明確。まさか、ここにきて異論のある方はいないですよね?」
いや、俺ルールも何も把握していないんですけど。はーい、異論あります。
「受けて立つ」
え? 何を?
「クリスは黙ってて。これは私たち三人の勝負なの。じゃあ、いいわね。残りの中から、歯車を一番多く採ってきた人が勝ちってことで」
「負けないですよ。今度も私が勝ちます」
「こないだのはまぐれ。本当の実力を見せてあげる」
なんだろう。俺を置いて、話がどんどんと進んでいく。
「じゃあ、クリスさんはそこに座っててください。話し相手はジルベールがいるからいいですよね。私たちはこれから、歯車を探してきます」
「ああ……。うん……。よろしくお願いします」
アリアン嬢の笑顔の裏に、言葉にならない圧を感じて、こちらも曖昧な笑顔を浮かべて頷く。彼女たち三人は、何かを示し合わせたかのように頷きあい、それから目にも止まらぬ速度で悪魔伯爵の死骸へと向かっていった。
うわ、リーディすげえな。胸の部分を戦槌で吹き飛ばして素材を確認してるぞあれ。
アリアン嬢とヴィクトリアは、オーソドックスな素材の剥ぎ方で確認している。ヴィクトリアのあれは、普通の心臓……だろうな。放り投げてるけど、あれもレアではないとはいえ素材なんだが。後で拾いに行こう。
アリアン嬢も心臓を取り出した……が、今までのものとは色が異なっていた。形は心臓なのだが、色はあの歯車と同じ不思議な金属の色だった。
「どうですかこれ! 歯車じゃないですけど同じ色なんですが!」
こちらに向かって走ってくるなりそう聞く彼女。息が若干上がっている。
ジルベールが影の中から答えた。
「それはおそらく、歯車になる前の心臓です。残念ながら、歯車よりレア度は落ちますし、歯車ではありません」
「なんでですか! いいじゃないですかこれでも!」
「我が主」
ジルベールが厳しい声で言う。
「そんなズルをして勝って嬉しいですか? 正々堂々、あの連中を叩きのめしてやりましょう。我が主ならそれができるはずです。さあ! 頑張りましょう!」
「うう……。絶対、レア素材だと思ったのに……」




