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 さすがにもういいと思ったのか、リーディが俺の方を見てくるので、こくりと頷いてやった。

 彼女がスキルを発動する。公爵よりも俺の方が早いようだったので、俺も続いた。


「狂い咲け。『咲き誇る花葬(テイクアウェイ)』」

「『組織暴力(アーリマン)』」

「何をブツブツ言っている! さあ、守護れ! 『悪いのは全部あいつ』!」


 しかし、リーディのスキル『咲き誇る花葬』は、敵のスキルを全て封じるというものだ。当然、魔物公爵のスキルは発動しない。

 手ごたえのなさに首をかしげる魔物。もう一度試みるが、それでも発動はせず。顔に、焦りの色が浮かぶ。

 打つ手がなくなったため、顔に困惑の表情を浮かべている。タネを知りたいだろう。だが明かしてやらない。

 魔物が、仕方なく剣を抜いた。すらりとした長身で細身の、黒い刀身だった。表面に、波のような模様が浮かんでいる。

 そして、かなりのスピードで攻撃を仕掛けてくる。標的はやはりアリアン嬢だ。

 彼女の前に立ち、その身を庇う。俺の仕事はもうほぼ終わっているのだ。あとは、彼女をはじめとするメンバーに全て任せればいい。

 振り下ろされた剣を左手の手甲で受け止める。ずっしりとした衝撃が来たが、それだけだ。これなら耐えられないことはない。

 

「さあ、アリアン嬢! 見せてやれ! 君の出番だ!」

「ちょっ……待っ……」

「砕けてぇ、散らせッ!『火樹銀華(ハナビ)』‼」


 アリアン嬢の振りかざした長槍斧に従うように、地面から太い枝が伸び、魔物たちに襲い掛かる。

 

「がぁっ!」


 彼女のスキル『火樹銀華』は、クリティカルが出た場合に、追加効果として、対象の行動を阻害する。彼女はもう一つ、何もせずとも発動する「パッシブ」と呼ばれるスキル『大樹将軍(フォレストカリスマ)』を持っており、『火樹銀華』はそのおかげで確実にクリティカルが出るようになっている。悪魔よりも悪魔のような組み合わせだ。

 結果として、悪魔公爵たちの動きが拘束される。


 続けて、ヴィクトリアが『幸福論』を発動する。俺たちのスキルは再使用までに時間がかかるものがほとんどだが、このスキルはその時間を短くしてくれ、さらに俺たちの行動速度を上げてくれるのだ。


 軽くなった身体を巧みに操り、リーディが戦槌を持ち上げた。一瞬後、彼女の体勢はすでに振り切った形になっている。早すぎてインパクトの瞬間が見えないのだ。


「ぐあああああー!!」


 少しだけ遅れて、公爵の腹部が陥没し、絶叫が上がる。そりゃ、あの戦槌をあれだけのスピードで振ればそうなるよな。

 続いて、俺がスキル『素手喧嘩(ステゴロ)』で攻撃する。ダメージを与えた、確かな手ごたえとともに、悪魔公爵の行動速度が減少したことがわかる。

 次いで、アリアン嬢の『刀山剣木(ツリーインフェルノ)』。公爵の左腕から、鮮血がほとばしる。


「攻撃力減少、入りました!」


 アリアン嬢の情報共有にうなずき、ターゲットを次に移す。魔物たちはまだ動けない。その間、ヴィクトリアが『約束された破滅(テンカウント)』で一体の悪魔伯爵に怨霊を仕掛け、それをリーディが『手厚い病(シックネス)』を発動しながら力いっぱい殴り飛ばした。

 

「公爵に攻撃力減少! あとは防御力低下と精度低下! そこのやつは速度減少」

「上出来! 助かるぜ!」


 悪魔伯爵であれば、これまでの戦いから、誰が何回攻撃すれば倒せる、というのがなんとなくわかっている。こいつなら、俺に攻撃と、ヴィクトリアが仕掛けた怨霊が暴れれば倒せそうだ。

 ちらりとヴィクトリアを見ると、彼女も同じ考えだったようで、こちらを見て頷く。

 

「アリアン嬢! 次のやつを頼む!」


 ターゲットの顔面を殴りつけながら、アリアン嬢に指示を出す。魔物たちは拘束から逃れ、こちらに向けて体勢を整えているところだった。

 アリアン嬢が頷き、別の悪魔伯爵に切りつける。深々と肩口を抉った一撃は、どうやら劇毒による即死効果が発動したようだった。そのまま、泡を吹いて動かなくなる。

 

 ヴィクトリアが、さらに別の悪魔伯爵へ切りつける。体勢が整った悪魔公爵の一撃を、リーディが全身鎧で受け止めた。少しはダメージがあったのかもしれないが、鎧には傷一つない。魔物の顔が、驚愕に染まる。

 続けて、傷ついた魔物伯爵が攻撃しようとしたが、その瞬間に怨霊が膨れ上がり、伯爵へと総攻撃を加える。血しぶきを上げながら、伯爵が絶命した。

 残り二体か。

 未だ元気なもう一体の悪魔伯爵が振りかぶった剣は、公爵のものより明らかに質の劣るものだった。輝きが違う。ヴィクトリアを狙っているのが見えたので、その前に身体を挺した。

 武器は公爵より下のランクのものでも、攻撃力減少がかかっていないため、その破壊力は公爵以上だった。手甲と、その下の腕が軋んでいるのがわかる。激痛に声を上げそうになりながら、それでも伯爵の一撃を跳ねのけた。


 リーディが、『悪趣味な嗜虐(アリアスター)』で最後の伯爵に攻撃を見舞う。顔面を捉えた一撃は、そのまま頭を吹き飛ばさんばかりの勢いだ。たたらを踏んで、魔物が後退する。

 そして、俺は再び『組織暴力』を発動する。アリアン嬢が、俺の横から飛び出し、長槍斧を高々と掲げた。


「砕けて、散らせ!『火樹銀華』!」


 再び、枝による拘束。

 ヴィクトリア、リーディ、俺の攻撃で、最後の伯爵も倒れていく。


「嘘だろ⁉ 畜生、何だよこれ!」


 拘束されたまま叫ぶ公爵。気持ちはわからなくもない。こいつのスキルはデバフを防ぐものだとのことだが、確かに「普通の」冒険者には有効だろう。自分たちの想定通りに事が運ばなければ、練りに練った連携も意味がない。今までも、他の冒険者を相手にしたことが会ったのだろうと想像できた。慌てふためく彼らを屠ってきたのだろう。

 だが、相手が悪かったな。うちのリーディはそれも含めて、丸ごと封じ込めることができる。

 しかし、改めて思う。さすが魔王。そう呼ぶべき破格の才能。

 ただ、やはり行動速度は重要だ。今回も、リーディがコイツより遅かったら危なかった。

 優秀な装飾具職人を探すのは必須か。今回のサポートが終わったら、ヴィクトリアに相談してみよう。


「さて。一息に片づけて、『探訪者たち』の戦いを見に行きましょうか」


 見ると、アリアン嬢が、武器を構えて公爵ににじり寄るところだった。拘束されたままの悪魔公爵が、慌てた様子で首だけを振る。


「ま、待て! 待ってください!」

「待つわけないじゃないですか。魔物ジョークですか?」

「いや、あの! 私! 完敗を認めます! もう全くかないません! よっSランク! 見事!」

「驚くほどの変わり身」

「プライドってないのかしらね」

「そうだなリーディ。確かに言ってたわ。俺、今思い出した」

「じゃあ、死んでもらいましょうか」


 アリアン嬢が『悪夢の毒毒モンスター プルリンへ行く』を振りかぶる。悪魔公爵が、必死に叫んだ。


「お、王!」

「はあ?」

「あなたこそ、私の王! 私は貴方のために忠誠を誓います! ですからどうか、どうか命だけは……!」


 まさかの魔物の命乞い。呆気にとられた様子のヴィクトリア、困ったようにこちらを見るアリアン嬢。そして、何かを考え込んでいるリーディ。


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