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「砕けて、散らせ! 『火樹銀華』!」
アリアン嬢の声に呼応するかのように、地面から無数の枝が伸び、驚くほどのしなりを持って魔物たちを打ち据える。
「……ッ! フッ!」
リーディが振り回した戦槌が、「下から上に」魔物の頭を吹き飛ばした。俺の『』の力で、防御の弱体化かかっている状態で、同じく俺のスキルによる攻撃力強化が効いている魔王の力で力いっぱい殴られたのだ。まるでボールのようにはじけ飛んだ頭部は、俺たちの戦いが終わるまで、神の力によって控えている連中の中に落ちる。恐慌が広がるのが分かった。
「リーディ! ナイスショット!」
「今のは、自分でもかなりいい角度で入ったと思う。このフィーリングは、キープしておきたい」
何かのスポーツのように、お互いに声をかけるヴィクトリアとリーディ。
4対4で始まった悪魔伯爵と『黒いメンフクロウの戦いは、今や2対4となっていた。始まる前こそ、入念に回復手段等の確認を行っていたものの、実際の戦いになれば一方的に俺たちのペースだった。
リーディが敵のスキルを封じ、俺が味方の強化と弱体化を行い、アリアン嬢が敵の動きを封じ、ヴィクトリアが俺たちの行動速度を上げることにより、ほぼ一方的に相手を殴りつけることが可能となったこのスキームは、Aランクの中でも手ごわい方に属するといわれている悪魔伯爵にも十二分に通用した。
魔物の攻撃。だがしかし、スキルを封じられた状態であるため、ただ殴りつけてくるだけだ。これなら、なんてことはない。簡単に耐えることができる。
カウンター気味に、俺の拳が魔物の腹に入る。「く」の字に身体を折り曲げながら、魔物が悶絶した。その横から、ヴィクトリアの一撃。
たまらず後退したその瞬間、後ろからアリアン嬢の『|悪夢の毒毒モンスター プルリンへ行く《トキシックアベンジャーⅡ》』が襲い掛かる。そのまま、悪魔伯爵は絶命した。残り一匹。
「#&’&()$===~”!!」
魔物が、何かを叫んでいる。どうもこちらを口汚く罵っているようだ。言っている言葉は理解できないが、表情を見ればわかる。
「『意味が分からない、どんなイカサマだ』って言ってる」
「そっか、リーディはわかるのか」
「うん。不思議と、言葉がわかる。多分喋ることもできると思う」
悪魔伯爵はそのまま、何かスキルを発動しようとして、初めて封じられている状態に気が付く。再び俺たちを罵り、こちらに向かって持っている武器を振り上げた。俺はリーディの前に飛び出し、その一撃を左手の手甲で受け止める。ずっしりとした手ごたえだが、何のことはない。骨にも異常はないようだ。
俺の後ろから飛び出したリーディが、無言で戦槌を振るう。横なぎに払われたそれを、俺の目は確認することができなかった。早すぎるのだ。振り終わったリーディの横で、遅れて体半分が抉られた魔物が地面に倒れ伏す。
「あと何体?」
魔物たちとの戦闘は通常、連戦となるが、今回は周りの魔物が恐れおののいているため、少しだけ余裕があった。手早くハイポーションを口に含む。
「あと4体、もう一息です! 頑張っていきましょう」
ヴィクトリアの問いに、アリアン嬢が答える。
俺は拳鍔を嵌めなおした。カムの手によるこの武器は、驚くほど俺の手にフィットしてくれている。この間まではアリアン嬢の武器の素材をメインに集めようとしていたが、このサポートが終わればすこし暇になるはずだ。俺の武器も新しくしたい。
「そういえば、『探訪者たち』のところ、恐ろしく静か。どうなっているのか、とても不思議」
「確かに。何の音もしないわね」
「まさかとは思いますが、敗北したなんてことは……」
一度、『明けの明星』のときに痛い目を見ているアリアン嬢が、不安そうな声で言う。俺は、そんな心配を吹き飛ばすかのように、笑って答えた。
「まあないだろ。あの連中が負けるなら、それは人類が滅亡するってことと同義だ。リーディ、こないだ言ってたイーアン・モランってやつは、お前がその目で見た『探訪者たち』と比べてどうだった?」
「圧倒的に『探訪者たち』。あれは化け物。魔王より魔王らしい。あのクラスの連中が4人そろってるってことが奇跡。多分、個人一人ひとりでも、魔王より強い可能性がある」
すげえな。それほどか。
今は物音ひとつしない壁の向こうに、彼らはいる。音がしないというのは、どういう戦い方なんだろう。まだ戦っているのか、それとももう終わっているのか。いや、そもそも最初から音がしているか確認すれば良かった。今になって悔やまれる。
アリアン嬢が俺の方を見て笑顔を見せた。長槍斧を構えなおす。
「なるほど。心配いらないってことですか。じゃあ、あとは私たちが、サポートの役目をきっちり果たせばいいってことですね」
「そうね。このブロックは残り四体だし、ちゃっちゃと片づけて、様子を見に行きましょう。ここは大丈夫でも、他で困っているところがあるかもしれないし」
「賛成。私も興味がある」
「よっしゃ、じゃあ張り切っていきますか!」
俺の声とともに、『黒いメンフクロウ』が悪魔伯爵たちに襲い掛かる。全部で20体を超えていた魔物たちも、あと4体。こいつらを討伐すれば、俺たちの受け持ちの場所の安全は確保される。当面の間だが。
その間に、『探訪者たち』が魔王を倒せばよし、時間がかかり、また魔物が現れるようならそれを討伐する。今回は、とりあえず日没までを期限とし、例のしょぼくれた砦まで戻ることになっていた。確かに、こんな敵地のど真ん中で眠りたくはない。
4体の魔物のうち、一体だけ、やたらと線が細いのがいる。すらりとした長身に、糸のような細い目。たたずまいも、何か他とは違う気がした。気になって、『鑑定屋』を発動させる。
『悪魔公爵』。
「おい! なんか一匹だけ違うのが混じってんぞ! 気をつけろ!」
「え?」
「『悪魔公爵』だとさ! 伯爵より強そうだ!」
「おや、気づかれてしまいましたか。どうやら、『鑑定』持ちの方がいらっしゃるようだ」
悪魔公爵が、優雅に一礼する。
「喋れる……のか?」
「勿論。公爵たるもの、王を支え、守り、王のために命をかけ、王のために死ぬのが役目。そのために、ありとあらゆる知識を身につけております。人間の言葉なぞ、造作もないこと」
「クリス。もうやっていい?」
「まあ待て。せっかく喋れる奴が出てきたんだ、いろいろ聞いてみたい」
「ククク……下等な人間風情が、この高貴な魔族に何を聞きたいというのですか? せっかくですし、一つだけ答えてあげましょう」
慇懃に笑う魔族。俺は最も聞きたかったことを聞く。
「お前たちの目的はなんだ? 魔王に従って、何をしようとしているんだ」
「クク……。魔王様に従うことこそ我が目的。そして魔王様の深遠なお考えに、私の理解が及ぶはずもありません」
「つまり何も知らないってことね」
「驚くほど中身のない返答でしたね」
「こんなにがっかりしたのは久しぶり」
メンバーの冷たい言葉に、怒りの色を浮かべる公爵。
「人間風情が! すこし優しくしてやれば調子に乗って! もういい! 貴様らには絶望の中で死ぬ権利をくれてやる! 先ほどまでの戦いを見させてもらったが、そこのお前!」
「あ、私ですか?」
「そう貴様だ! 貴様のスキルで動きを止めるのが、最大の肝のようだな! 貴様らにより深い絶望を与えるため、私のスキルを明かしてやろう! 私のスキル『悪いのは全部あいつ』は、味方のデバフを解除したうえで、デバフに対する防壁を張ることができる! 理解できるか? 私がこのスキルを発動した瞬間、貴様の『火樹銀華』とやらは無効化されるのだ! ククク……!ククククク……!」




