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「え⁉ じゃあ、フレッド・カップスのスキルは二つしかないってこと⁉」
「しーっ! 大声出すな! 誰かに聞かれたらどうする」
夜半過ぎ。
魔王討伐は明日。各パーティーは各々のテントを張り、翌日の決戦に向けて身体を休めていた。
俺たちも他に倣い、立てたテントの中にいた。いつもは男性女性で分けて立てるテントも、今日ばかりは合同だ。場所が限られている関係上、仕方がない。
「にわかには信じられないけど……。でも、貴方が言うならそうなんでしょうね」
「クリスの『鑑定屋』が間違ったことはない。だから、多分あってると思う」
ヴィクトリアが唸り、リーディが追随した。
俺もそう思う。これまで、俺の『鑑定屋』が、スキルを見誤った例はない。誰のどんなスキルであれ、全てを白日の下に晒してきた。相手がSランクパーティーの冒険者であれ、それは変わらないはずだ。
……いや、待てよ。
「そういえば、スキルを見た時、おかしなことがあったんだ」
俺は皆に、あの時見た不思議なスキル表示を伝える。生まれて初めてだった。あんな風に、文章の間におかしな記号のようなものが入っていたのは。
「記号、ですか?」
「そう、こんな風に、スキル名のあちこちに変なマークが入っててさ。そんなことなかったから、ちょっとびっくりしちゃって」
俺が紙に書いた記号を、ヴィクトリアがじっと見つめる。
「なんか気が付いたこと、ある?」
「うーん。気が付いたとまでは言えないけど。あのさ、これ見つけた時、文字だけがおかしかったの?」
「というと?」
「貴方がどういう風にスキルを見ているのか、それがわからないから何とも言えないんだけどね。例えば、全体のうちどこかが乱れているとか」
「! ああー!」
俺の大声に、リーディが猫のように素早く距離を取る。それから、恨めしそうな顔でこちらを見た。
「びっくりした」
「いや、すまん。マジでごめんて。そんな顔でこっち見るなよ。今のヴィクトリアの話を聞いて、思い出すことがあってさ」
「あらあら、何か思い出したの?」
「そうなんだよ。言われて思い出した! 確かにあの時、スキル名以外もおかしかったんだ!」
俺はヴィクトリアに、あの時見た不思議な状況を説明した。スキルを囲むように枠が見えるのだが、その枠が滲んだように見えたこと。あんなことは初めてだったこと。
俺の書いた絵を見ながら、ヴィクトリアが難しい顔をして腕を組む。その隣に、リーディが立って、こちらも同じように難しい顔をしていた。
やがて、何かを確信したかのように顔を上げる。
「これ、もしかしたら、もしかするとだけど」
「うん。さすがSランク。隙がない」
「え? どういうことですか?」
アリアン嬢が首をかしげると、リーディが向き直る。
「もしかしたら、スキルを偽装しているのかもしれない」
「スキルの偽装?」
「鑑定の対策ってことよ。レアだけど、鑑定持ちの冒険者は確かにいるわ。それが、クリスの程高性能ってことは滅多にないんでしょうけど。でも、手の内を知られるってことはつまり、対策を立てられるってこと。だから、それを嫌がってるんじゃないかなと思ったの」
「なるほど」
「ま、それがあの人たちのスキルによるものか、装備品によるものかはわからないけどね。他の人たちのスキルは見られなかったんでしょ」
「ああ。あれ、深入りしたら絶対殺されてたと思うぜ。何で気づかれたんだろうなあ」
「それこそ、彼女のスキルの力なんじゃないの」
「かもしれん。まあ、真相は今のところ謎だな。追及するにはリスクが高すぎる」
そうね、とうなずいて、ヴィクトリアは引き下がった。
「それで、明日の配置はどうなったんですか?」
「ああ、確かに。それを話したかったんだよな」
『破戒僧』のモン・ヤップを完膚なきまでに叩きのめした後、何事もなかったかのように作戦会議が行われた。
『探訪者たち』のメンバー全員が一段高いところに座っている。スキルが見えてしまうとまた何を言われるかわからないので、目は伏せたまま、足先で気配を感じるようにしていた。
その前に、王国のAランクパーティーをはじめ、各国からのサポートパーティーのリーダー達が一堂に会するのは壮観だった。各リーダーはこれまでの経歴から序列をつけられ、その順に並ぶよう指示される。ただ、その場ではパーティー名だけでしか呼ばれなかった。
「『黒いメンフクロウ』」
「はい」
呼ばれたが、前には出ず、返事だけする。
「第8位だ。兵士宿舎のあたりを担当してもらう。頼むぞ」
「承知しました」
俺たちは第8位とのことだった。昇格3か月で序列8位か。ヴィクトリアの言う通り、俺たちは相当頑張っていたらしい。
ここで、俺はダニと再会した。
どのくらいぶりだろう。ダニのやつは、少しだけ痩せたようだった。男前は何一つ変わっていないが、水晶のようだった綺麗な青い瞳は、少しだけくすんでいるように見えた。
声をかけようと思ったが、それどころではないほどピリピリとした雰囲気だったので、ためらわれた。他のパーティーに何かを指示され、序列通りに並ぶ。第19位だった。
まあ、苦労しているみたいだしなあ。
ダイアナが前に立つ。フレッド・カップスは座ったままだ。
「まずは、集まってくれたことに感謝したい。我々は、明日ペロリ砦に巣食う魔物の討伐に向かう。魔王だそうだが、まあ、我々の敵ではないだろう」
不敵に笑い、それから、皆を見渡す。
「砦には、その魔王のほか、魔物が300体程いるそうだ。皆には、その魔物の相手をしてもらいたい。調査報告では、悪魔伯爵をはじめとする、Aランクの魔物だそうだ」
悪魔伯爵か。うわさしか聞いたことがないが、Aランクの中でも上位に位置づけられる魔物だ。知性があり、スキルのほか、言葉でもこちらの心を揺さぶることに長けていると聞いたことがある。
「まあ、諸君であれば敵を打ち砕くのも容易であろう。明日の配置を伝える。各自、パーティーのメンバーに伝えること」
そういいながら、壁に大きな羊皮紙を貼り付けた。赤と黒のインクで、ペロリ砦の見取り図が描かれている。そこに、ダイアナが配置を描きこみ、俺たちの持ち場が決まっていく。
俺たちは、砦の入り口を6時とした場合、10時の方向だった。ここで踏ん張れないと、『探訪者たち』が魔王を倒すまでに、いくつもの雑魚を相手にしなければいけなくなってしまう。
例の『破戒僧』は、序列第2位で、最も激戦となるであろう場所に配置された。モン・ヤップが、何とも言えない表情でそれを眺めている。あれほど派手に喧嘩を売られた相手を、この戦いで最も重要であろう場所に配置する。『探訪者たち』の懐が深いのか、それともあの程度、全くとるに足らない行為だと考えているのか。
『夜の牙』は、砦を出たところの左側、つまり、いつだったか俺たちが『明けの明星』のサポートで戦った場所と同じだった。この戦いでは、あまり戦力とみなされていないのだろう。
それでも、ダニはいつも通りのクールな横顔だった。淡々と、作戦を受け入れる。
ひとしきり説明を終えると、解散となった。『探訪者たち』が先に出て、そのあとに他のパーティーが続く。
ダニに話しかけようとしたが、先に出て行ってしまった。俺に気が付かなかったのだろうか。
少し寂しい思いもあるが、仕方ないことだろう。まさか俺が帝国でパーティーを組んでいるなど、思いもしないだろうから。
「ちょっと、何思い出に浸ってるのよ。早く説明して頂戴」
「わかったよ。それじゃ、良く聞いてくれ。明日の俺たちの配置は……」




