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全身の毛が粟立つ。
一瞬で、心で思うより早く、身体が理解した。
正直に答えたら死ぬ。
それは、俺以外の3人も同じ感想のようだった。俺の方を見ないよう、それぞれ視線を逸らしてくれている。有難い。
「あ、別に取って食おうってわけじゃないのよ。安心して。ただそういったスキルの持ち主は珍しいから、ちょっとお話したいってだけ」
絶対嘘だ。ついていったら取って食われる。
「いると思うんだけどなあ。ちょうど今回の依頼で、そういうスキルの持ち主がいたらなあって考えてたところだったの。この魔王討伐っていう大きな舞台で、あたし達『探訪者たち』に恩を売るって相当デカいと思うよ。もう一回聞くよ? この中に、他人のスキルがわかるような人って、いる?」
甘く優しい声。これはダメだ。うっかり名乗り出たら絶対に殺されるやつだ。
なるべく「すみませんそんなスキルを持っていない虫けらでごめんなさい」というオーラを出しながら、知らん顔をする。
それにしても、彼女はどこで俺のスキルを知ったのだろう。
これまでの彼女の動きから、そんなスキルの持ち主を探していなかったことは明らかだ。俺たちのところに来るまで、周りなど見えていないかのごとく突き進んできたではないか。
ということは、ここに来てから、何かスキルの気配を感じたということになる。それも、おそらく「このあたりからカレーの匂いがする」くらいのアバウトな感覚のはずだ。特定できるならば、俺はとっくに見つかっているだろう。
俺の能力の劣化版ということはあり得るだろうか。
もしくは、指定のスキルを頭の中の地図にマッピングする能力なのかもしれない。しまったな。不用意に近づくべきではなかった。
もしくは、使ったスキルの気配を感じ取れるとか。これは可能性が高そうだった。俺がフレッド・カップスの能力を見ようとしたことで発生したスキルの気配を感じ取られたのかもしれない。
顔を上げて一目見れば、彼女のスキルは丸わかりになる。なるのだが、こちらの正体にも気づかれてしまう可能性があった。特に気配を察知するタイプのスキルだった場合、次に『鑑定屋』を発動した瞬間に俺を補足されてしまう。
「んー、いないのかなあ。そんなわけないと思うけど」
「あたしたち『黒いメンフクロウ』の中にはいませんね。残念ながら」
他のパーティーに先んじて、ヴィクトリアがそう答える。心の中で、彼女にありがとうと叫んだ。よそのことは知らないが、うちは本当に鑑定スキル持ちがいる。この圧力を感じながら、平然とした顔で嘘をつきとおせる彼女はすごい。
ほかの連中は、『探訪者たち』に恩を売りたいものの、鑑定スキルを持っていないのでどうしようかと言う顔だった。彼女が本当に鑑定スキルを欲しているとすれば、魔王のスキルを確認したいということだろう。そこで全く違うスキルを伝えてしまった場合、あとが怖すぎる。それがきっかけで敗北し、全員死んでしまえば売った恩は無駄になるし、全滅する前に撤退することが出来た場合、命はないものと思った方がいい。
ダイアナは、周りの連中を見ながら尋ねる。
「そう。ありがとう。他にはいないのかしら」
「俺たち『魚鱗の陣』も知らねえな」
「『翼のない天使』も知らないわ」
いくつかのパーティーが、うちも違う、うちも違うと口を揃え始めた。恩を売るよりも、それを聞き、黒髪の美女がため息をつく。
「そう、皆違うっていうのね。それじゃ」
地面を見たままだったが、俺の全身が総毛だつのが分かった。ダイアナがこちらに向けて、明確な殺意を込めたからだ。
「あなたたちは、あたしが嘘をついてるっていうのね」
信じられない。仮にもサポートとして参加しているパーティーに向け、こんなクリアな殺気を向けるか普通? 修羅場をくぐってきたAランクのパーティーだからこそ耐えられているが、そこらの一般人なら死んでもおかしくないほどだ。
顔を伏せたまま、一歩前に出る。台風のような殺気から、少しでもメンバーを守るように。
「ねえダイアナ。ちょっと来てよ。あたしたちに絡んできた命知らずがいるの。面白いから、貴方も呼んで来いってフレッドが」
突然別の声。若い女性だ。誰なんだろう。
「トレイシー・スライディーニです。ダイアナさんの影から、急に現れました」
アリアン嬢がそっと教えてくれる。また急に現れたのか。多分スキルなんだろうが、いったいどんな力なのか。
「ふうん? フレッドが呼んでいるんなら、何を置いても行かなくちゃね。あなたたち、ありがとう。鑑定系のスキルを持っている人がいなかったのは残念だけど、もし他にもそんなスキルを持っている人がいたら教えて頂戴? お礼はするわ」
そういうと、足音がだんだんと遠ざかっていく。念のため、俺たちは逆方向に向けて歩き出した。先ほどフレッド・カップスがいた位置は覚えている。十分に距離を取った後、ゆっくりと顔を上げた。よし、『鑑定屋』は発動しない。
顔を上げた先では、ちょうど『破戒僧』のあの大男が、フレッド・カップスの胸倉を掴んでいるところだった。男の声は大きく、何をしゃべっているかここまで聞こえてくる。
「はっ! 汚ねえ手でSランクになったと思ったら、偉そうに、俺たちをサポートにして指図だあ? 調子に乗るのもいい加減にしろよ! なんでてめえらが上なんだ! 実力じゃ、どう考えても負けてねえ! 俺たちが魔王を倒してやるって言ってんだ! 感謝しながら譲れよ!」
さすがSに近いとされるパーティー。あわよくば自分たちが魔王を倒し、そのままSランクへと昇ろうという腹なのだろう。あの態度からすると、ついでに、Sランク昇格後の、パーティー間の序列もつけておこうという考えなのかもしれない。
当のフレッド・カップスは、胸倉を掴まれてなお、反撃する素振りすら見せなかった。あの大男に比べると、この距離では聞き取るのがほとんど難しいくらいの声でつぶやく。
「いや、是非代わってほしいくらいですよ。お願いしていいですか?」
その一言で、周りのパーティーが一斉に笑う。Aランクの『破戒僧』が、すでにSランク、しかも魔王殺しの実績もある『探訪者たち』の代わりになどなるはずがないというのが皆の共通認識。それを炙り出す一言だった。
しかも、あれほどの余裕。先ほどのスキル表示は、やはり何かの間違いなのだろう。
『破戒僧』の大男が、顔を真っ赤にしながら言う。
「てめえ! なめやがって! ぶっ殺してやる!」
「はあー、マジか。代われって言うから代わりますよって言っただけなのに。やめましょう。俺は平和的に物事を進めるのが大好きなんです」
その一言に、また周りが沸く。『探訪者たち』の代わりが務まらない、務まるはずがないと確信しきっているあの顔。ウィットにとんだやり取り。こう言っては何だが、めちゃくちゃかっこいい。
大男の顔は、今や赤を通り越して黒くなっていた。あれどこかの血管が切れちゃうんじゃないの?
「今ここでてめえを叩きのめして、誰が一番なのか、ここにきてる連中にも思い知らせてやる! 明日の魔王討伐は俺たちに任せて、てめえはテントのベッドでけがの療養でもしてるんだな!」




