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 あれが、『探訪者たち(トラベラーズ)』か。

 圧倒的な存在感。強者のオーラ。この距離でも、彼らの強さはよくわかる。近くにいるだけで、肌が削られるような感覚を覚えるのだから。

 確かに、『明けの明星』より強いといわれるのも納得だ。あれは、もはや人ではない。それを超越した何かだ。神と言われれば、納得してしまうだろう。

 先頭を歩くのが、リーダーのフレッド・カップス。短めに刈り上げた髪は焦げ茶色。トパーズのような黄褐色の瞳が印象的だ。

 身に着けている全身鎧は、彼の瞳に合わせたかのような黄金の輝きを放っていた。一目見ただけで、ただの鎧でないことがわかる。俺の攻撃くらいでは、傷一つつけられないだろう。間違いなく伝説級の防具だ。

 彼の体にジャストフィットしているところを見ると、「鎧が意志を持っている」と言われても信じてしまいそうだ。そうだ。彼は確かに、あの鎧に愛されている。

 武器を持っておらず、両の手には盾すらない。腰には細身の剣が一本だけぶら下がっている。あれで戦うのだろうか。

 俺たちを含め、周りの連中が大仰な武器を持っているのに比べると、その出で立ちは不気味さすら感じさせた。

 彼自身は、周りのそんな空気を気にした風もない。それどころか、サポートに来た連中を見て、眉をしかめている。彼の目から見れば、俺たちは力不足なのだろうが、それにしても余りに冷たい目である。ともに戦うというのに、彼のあの目は、まるで虫けらを見るそれだ。


「……やっぱり、迫力ありますね」

「アリアン嬢もそう思うか。肌が粟立ったぜ」

「……あの人、底の知れない何かを感じる。何にも感じられない。どこまでも落ちていく穴みたい。怖い」


 リーディの意見には、まったく賛成だ。

 少し震えている、彼女の肩をポンポンと叩く。頑強な鎧越しだが、気持ちは伝わったのだろう。こちらを向き、安心したように少し微笑んだ。

 

 彼のすぐ後ろにつき従っている長身の美女が、『教授』ダイアナ・バーノンだろう。すらりとした黒髪を後ろで束ね、長い槍を持っている。槍の穂先からは、赤黒い何かが滴っているのが見えた。地面に落ちたしずくが、煙を立てる。

 

「毒ですね。でも劇毒じゃありません。あれは、もっと強い何かです」


 同じ毒使いであるアリアン嬢が言う。さすが詳しい。というか、劇毒の上ってあるんだ。一体どんな効果なのか、見てみたいと思うが、残念ながら『鑑定屋』の有効距離からは少し離れている。

 

 こちらはカップスとは違い、わかりやすく強者のオーラを出していた。ただし、その量と出し方が尋常ではない。味方であるはずなのに、これはまるで敵意だ。俺たちも結構な距離を取っているはずなのだが、それでもなお、これほどの圧力を感じるのだ。たまたま近くにいたパーティーのメンバーが、泡を吹いて倒れるのが見えた。無理もない。

 

 少し後ろから歩いてきたのが、ロザリア・バートラムだろうか。身長が低いからという理由だけでそう思った。黒に近い茶色の髪をシニョンにまとめ、大きな斧を二つ、背中にしょっている。ビキニアーマーから、大きな胸がその存在を主張していた。

 斧もビキニアーマーも、やはり超一級品だ。斧は一見すると武骨な石斧のように見えるが、刃の部分はおかしな光り方をしており、触れただけですっぱりと斬れてしまいそうだ。よく見ると常に震えているようにも見える。何かの呪いだろうか。

 そんな彼女は、歩きながら周りのパーティーに手を振っていた。前の二人と比べると、だいぶ親しみやすそうだ。

 

「何言ってるの。よく見なさいよ。目が全く笑っていないじゃない」


 ヴィクトリアに言われて再度ロザリアを見る。ぎょっとした。

 確かに、彼女の目の奥は全く笑っていなかった。あれは、周りの連中の能力を確認する目だ。使えるか、使えないかを判断するための。

 

「あとは、トレイシー・スライディーニか」

「今までのやつら、全員強い。確かに、魔王と戦えるというだけある」

「さすがSランクだよな。『明けの明星』に慣れてたけど、やっぱ別格だよ」

「多分、『明けの明星』より彼らの方が強い。特にあのリーダー。あれは、関わってはいけないタイプ。私の本能が言ってる」


 元魔王として、敵意を向けられる圧を感じているのか、手のひらの汗をぬぐうように何度も開いたり閉じたりを繰り返す。俺は、そっとその手を握った。

 

「心配するな。今回は敵同士じゃない。あいつらに目を付けられないよう、戦果だけ挙げて帰ろう。目立たないけど着実に、がモットーだ」

「ん。ありがと」


 笑顔を見せてくれるリーディに笑みを返し、再びカップスたちを見て、違和感に気が付く。カップスの横に、いつの間にかもう一人いる。彼の腕に自分の腕を絡め、満面の笑みで彼を見上げる少女。

 

「あれが、トレイシー・スライディーニか」


 そう思ったのは、彼女の外見が、いつか見たぬいぐるみと全く一緒だったからだ。二つに結わえた金髪、青い瞳、小柄な体躯。背中に背負っているのは弓だ。

 なんと言っているのかはわからないが、フレッド・カップスを見ながら、あどけない表情で、とろけそうなスマイル。並みの男なら一発で恋に落ちるだろう。

 しかし、フレッド・カップスは迷惑そうな表情を浮かべるだけだ。あのクラスになれば、女性などよりどりみどりなのだろう。うらやま悔しい。

 というか、彼女、いつあそこに現れた?全く気配を感じなかったんだが。あれも彼女のスキルなのだろうか。

 

 と、フレッド・カップスの前に、一組のパーティーが立ちふさがった。先頭に立っているのは、眼帯をした、身長2メートルを超える屈強な男である。その白銀に輝く鎧から、名のある冒険者であることは一目でわかった。

 

「うわ、命知らずですね」

「あれ、テンプル騎士団から外れたメンバーで結成された『破戒僧』ってパーティーね。ランクはAだけど、Sに近いといううわさもちらほら聞くわ。あのふてぶてしい態度も納得ね」

「強いの?」

「さあ。でも今まで生き残ってるんだもの。そこそこやるんじゃないかしら。あ、なんか言ってる」

「もう少し近くで見てみようか。ちょっと興味ある」


 皆で連れ立って移動する。荷物を広げ切っていなくてよかった。すでに広げてしまっているパーティーは、荷物の盗難を恐れて移動が行えない。結構スムーズに近くまで寄ることができた。この距離なら、『鑑定屋』が発動する。

 伝説のSランクパーティー。

 そのリーダー、フレッド・カップス。

 さあ、あなたのスキルを見せてくれ。

 

 フレッド・カップス

 

 スキル1:平(手\打ち

 敵一#体%にダメージを’与える。

 

 スキル2:飛*び_|蹴>り

 敵一=体^にダ@メージ>を与える。

 

「なんだ、これ?」


 見えたのはスキルだけ。それも、何か表示がおかしい。スキルの周りの枠みたいなものも、いつもならきちんとしているのに今日は滲んで見える。

 しかも、このスキルはなんだ? 仮にもSランクパーティーのリーダーを務める男のスキルがたったの二つ? しかも、追加効果もなし?

 

「どうしたの?」

「いや、実は」

「ねえ」


 突然聞こえてきた声に、背筋が凍る。今の声には明確に込められていた。氷のような殺意が。

 気が付くと、俺たちを含む野次馬パーティーの前に、ダイアナ・バーノンが立っていた。何か嫌な予感がして、慌てて『鑑定屋』を発動しないよう、下を向く。

 彼女は俺たちを睥睨すると、言った。ねっとりと、甘く。

 

「この中に、他人のスキルがわかるような人って、いる?」


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