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「王国のギルドも、帝国のギルドとやってることはそんなに変わらないんですね」
「まあ、もともとは一つの組織だったみたいだしな。何百年の間に、仲たがいして分かれちまったみたいだけど、根っこのところは一緒なんだろ。後はあれだ。お互いのとこにスパイとか送ってるみたいだから、なんか革新的なワークフローとかあればすぐ取り入れてるんだろ」
「人間て、非効率」
「今はお前もその一員だからな? 滅多なことは言わないでくれよ?」
王国領、ペロリ砦。
魔王と思しき魔物に占拠されたその砦から20キロほど王国寄りに急遽作られた安普請極まる新造の砦。そこに俺たちはいた。
そう。ついに、『探訪者たち』のサポートとして、俺たち『黒いメンフクロウ』が王国に降り立ったのである。
まあ実際は拍子抜けするほどあっけなく入国できたのだが。前もって話は通っていたし、お互いの国の人の出入りは比較的緩い。緊張状態ではあっても戦争状態ではないし、ギルド同士が仲が悪いといっても現場は別だ。同じ冒険者同士、見れば何か通じるものはある。
俺たちが到着したのは、この砦からさらに2キロほど南に下った草原だった。そこに飛空艇を下ろし、徒歩で砦に到着。
遠目から見た時は、良くこの短期間でこんな砦を、と思ったが、近づいてみるとその種がわかった。中の設備が全くない。周りを囲む、先をとがらせた丸太を結んだ壁と、おそらく作戦を立てるであろう建物。
「なかなかカントリーな感じの建物だな。夜にはキャンプファイヤーでも焚いて、バンジョー抱えて皆で歌うのかな。」
「何言ってるの。あれ完全に丸太小屋じゃない。現実見なさいよ」
「だよなあ」
そう。中の設備はその小屋一つだけだった。ここまで来ると、逆にこれだけの期間があったのになぜ、という気持ちになってくる。なんだろう。王国では今、丸太が高騰しているのだろうか。
「あれですかね。出撃してペロリ砦を攻めるための中継地点だから、とりあえず矢とか石とかだけ防げるようにしたとか」
「なるほど」
「アリアン、天才」
「確かに、一理あるわね」
皆に褒められて、えへへとアリアン嬢が照れる。その様子を、他のパーティーが何事かと見ていた。
集まっているのは、Aランクパーティーのみ、20チームほど。総勢で30チームほどになるとのことだったので、後の10チームはまだ参戦していないのだろう。ちなみに、今回サポートに入るのは全てAランクパーティー。Sランクのパーティーは唯一、本命の『探訪者たち』だけだ。
俺たちのように他国から来るのは、あと8組だと聞いている。周りを見渡すと、明らかに異国から来たパーティーと思しき一組がいた。服装が全然違う。
だが話しかける気にはならなかった。喋ってる言葉が外国語過ぎてわけがわからん。さっきも、一人が言った「ポラーザ」って言葉に、残りの三人が大爆笑してたけど、まずその「ポラーザ」の意味がわからんからね。爆笑しながら息も絶え絶えに「ポ……ポラーザ」とかウケてても。まずなんだそれって感じだし。
仕方がないので、うちのメンバーに指示してテントの準備を始める。小屋以外何もないんだもの。出発は明日になるだろうし、寝床くらい用意しないと。
「あれ? お前、クリスか! おいおい、こんなとこで会うなんて!」
その太い声に、ペグを持ったまま固まる。ダニでもない。スタールでもない。いわんや、エカテリーナでもない。『夜の牙』と会う心の準備はしてきたが、そうか。ここ、王国だもんな。
「お久しぶりです。ビルさん」
「心配したぜこの野郎! 突然『夜の牙』から脱退しやがって。生きてんのか死んでんのか、それすら言わずいなくなるから、心配したじゃねえか! なんにせよ、まずは生きててくれてありがとう!」
突然現れた野太い声を持つ大男、ビル・マッコムは、そういって俺を抱きしめた。
本気で心配してくれたことが嬉しい。だが、力いっぱい抱きしめるのはやめてほしい。鎧が壊れそうな音を立てている。
呆気に取られているパーティーのメンバーを見て、俺は笑顔を浮かべながら彼を紹介する。
「あー、こちら、俺が『夜の牙』時代にお世話になったAランクパーティー『愉快な君』のリーダー、ビル・マッコムさん。関係性を説明するのが難しいな。右も左もわからない俺たちを指導してくれたというか、見守ってくれたというか。そうだな、今の俺たちでいうと『明けの明星』との関係に近いかな」
「完全に理解した」
「リーディ、すごいです!」
「『明けの明星』? じゃあお前、今は帝国にいるのか?」
「はい、『黒いメンフクロウ』というパーティーをやっています」
ビルさんたち『愉快な君』は、俺たちが初めてギルドに登録したときから良くしてくれた、頼れる先輩といった感じの人たちだ。右も左も、効率などという言葉すら知らなかった俺たちに、素材の採取方法や良く採れる場所、依頼をこなすにあたりやっておくべきこと、宴の席での場のつなぎ方や人脈の広げ方まで。お世話になった項目を上げればキリがない。
俺たちより6年早くAランクに昇格し、今に至る。ちなみにビルさん、これだけ大柄で強面な感じなのに、持っているスキルは味方全体を25%回復するという、超癒し系キャラなのである。彼だけではない、『愉快な君』は、防御強化の使い手やバリアを張るメンバーがいるなど、耐久に特化したパーティーだった。
「そうか、お前らがあの『黒いメンフクロウ』! 出世したなあおい。お前がいなくなったと聞いたとき、目の前が真っ暗になったぜ。なんであいつをクビにするんだって、ダニにも食ってかかっちまってなあ」
「あれは、俺の力不足でしたから。ですから、クビではなく自主的な」
「そういうことじゃねえんだよ」
ピシャリというビルさん。
「たとえパーティーメンバー間でも、スキルを秘密にすることがあるこんなご時世だからよ。当然俺もお前のスキルは知らねえ。だけど、『夜の牙』がお前を中心に回っていたのはわかる。見る目のない連中は、あれはダニのワンマンチームだなんて言うけどよ、それを支えてたのはお前だよ、間違いねえ」
息が止まるかと思った。この人は『鑑定屋』もないのに、なぜそんなことがわかるのか。
あとヴィクトリア、隣で嬉しそうにうんうん頷くのをやめなさい。アリアン嬢も、あーリーディもかよ。お前ら、いったん落ち着け。
「そんなことないですよ。ビルさん、俺のこと褒めすぎです」
「いーや、そうは思わないね。たしかにあいつらはAランクに上がったよ。新しいメンバーも入った。でも、やっぱり俺は以前の方がよかったって思っちまう」
あ、今のは別に、新しいメンバーが悪いって言ってるんじゃねえよ、と慌てて付け足す。
根本的にいい人なんだよなこの人。だから好きだ。
「もう、あいつらには会ったか?」
「いえ、まだなんです」
「『探訪者たち』が来て、今夜にでも会議が開かれるだろう。多分そこに、ダニが来るんじゃねえかな。もしお前が嫌じゃなけりゃ、『夜の牙』の連中にも会ってみればいい。そんで、見たまんまの感想を言ってやるんだな。俺にゃ最近、あいつが迷走してるように見えて仕方ねえ」
なんと答えようか、別にダニのことは嫌いではないのだ。アドバイスなどできる立場にないだろうが、話をするくらいならよいのでは。
そう考えていると、砦の入り口にものすごい気配を感じた。気を抜くと、押しつぶされそうな圧力だ。
「来たぜ」
見えない風に耐えるように、身体ごと入り口に向けながら、ビルさんが言う。
「『探訪者たち』。主役のご登場だ」




