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屋敷を出て、敷地内を少し歩くと、カムの工房が見えてきた。彼を迎えて、すぐに作ったものだ。平屋の木造。一応寝泊りできるようになっているため、玄関はあるものの、そのすぐ横に大きな作業場があり、外から直接入れるようになっている。
カムは、直接作業場に向かった。俺たちも続く。何か、金属同士がこすりあわされたような、独特の焦げた匂いが漂っていた。
奥に置いてある、一本の長槍斧を両手で抱える。
それを、アリアン嬢の目の前に置いた。
「わあ……!」
全体が銀色に輝く、流線型のボディ。今装備しているものより、全体としてスマートになっている。斧部分も、今より細身だ。血管のように走っていた緑の線は、斧の刃部分の内側に収まり、半月状になっていた。緑の色が深緑に近い色になっているのが印象的だ。毒の成分によって色が異なるのだろうか。
なんというか、全体として『未来』を感じさせるデザインだった。例えば、船や飛空艇も、将来的にはこうなっていくんじゃないか、と、そう思わせるような。
「銘は、『|悪夢の毒毒モンスター プルリンへ行く《トキシックアベンジャーⅡ》』です。本当はオリジナルで銘を打ちたかったのですが、彼女の希望や、向き不向きなどを考えると、設計思想がどうしても『悪夢の毒毒モンスター』と被る場所が出ましてな……断腸の思いで、Ⅱと名づけさせていただきました」
「よくわからないプライド」
「さあ、是非手に取ってくだされ。設計思想こそ前作を引き継いでおりますが、中身は全くの別物! 一番大きい変更は、まずここでしょうな。猛毒から劇毒への変更!」
刃の内側にある、深緑の部分を指さしながらカム。通常時はここに収まっているが、振るった際に自動的に斧と槍の部分に毒が供給される仕組みだという。これによって、常に出しっぱなしだった前作よりも、長く毒を使うことができるようになるんだと、熱く語る。
というか前のやつもそうだけど、毒って使用制限があるんだな。知らなかった。
「前の時も説明されてましたよ」
「マジか。全く気が付かなかったな」
「まあ、普通に考えたら無限に出るなんてこと、あるわけないですし。聞いてなくてもわかりますよね」
わからなかったぜ。
「それにしても、本当にきれい」
アリアン嬢が『悪夢の毒毒モンスター プルリンへ行く』を手に取る。スラァン……と、長剣を抜いた時のような音がした。部屋の明かりを反射して、壁に七色の光が映る。
その武器は、彼女の手に昔からあったようになじんでいた。感触を確かめるように、軽く振る。
見ただけでわかる。人と武器が一体化しているのだ。
『鑑定屋』の力でステータスが見える。
|悪夢の毒毒モンスター プルリンへ行く《トキシックアベンジャーⅡ》+67 劇毒による追加ダメージ、25%で即死
威力は前回より大幅にアップしているし、即死の確率はなんと25%。4回に1回だぜ。4対4で戦った際には、計算上いきなり一人を戦闘から排除できる。これスキルより強くねえかなあ?
「カム。すごいものを作ってくれたな」
「ふふふ。やはりクリス殿にはわかってしまいますか。愛で作品を作る拙者ですが、今回は持てるすべての情を注ぎこみましたからな。まさに最高傑作といえます。しかも、これでまだ使用している素材はAランクの魔物のものですからな」
「ということは……」
「すでに次の構想はあるのですよクリス殿。あとは貴殿らが、その高みに昇るだけ……」
「やってみせるぜカム! 任せておけ!」
「ふふふ。期待しておりますぞ」
「カーティスさん。ありがとうございます! 私、これとっても気に入りました! すごい! 振るのがこんなに気持ちいい武器があるなんて! 『悪夢の毒毒モンスター』のときもめちゃくちゃ手に馴染むと思ったのに、それ以上にフィットするんです! まるで吸いつくみたい!」
べた褒めじゃん。良かったな、とカムに言おうとしてぎょっとした。
泣いていた。両の目から、大粒の涙をこぼしている。
「クリス殿。拙者、天才ともてはやされてはいたものの、その実は、自分が一番使ってほしい人に、自分の作品を使ってもらえなかった男でござる」
「カム……」
「本当は、知っていたんでござる。彼女が、拙者を避けて、武器を売ってしまったということは。彼女のことを思って、彼女の為だけに作った武器だったのに」
ごしごしと目をこすって、眩しそうにアリアン嬢を見つめる。
「使ってもらえるって、嬉しいことですなあ」
そうか。彼もまた、誰かに拒否された傷を抱える者だったのか。
カムの肩に、軽く手を置く。
「聞いたか?『前のより、ずっと使いやすい』ってさ。お前が彼女を思った分だけ、あの武器は彼女の手に馴染んでいるんだと思うぞ。一言だけ言わせてくれ」
カムに目を真正面から見ながら、俺はハッキリと伝える。
「俺たちとともに戦ってくれて、本当にありがとう」
「クリス殿ぉぉぉぉ!」
抱き合っておいおいと男泣きする二人を、リーディとヴィクトリアが見ていたらしい。後ろから、こそこそと声が聞こえてくる。
「あれ、BLってやつでしょ。いやあね。あたしというものがありながら」
「聞いたことある。攻めがクリスで受けがカーティスってやつ」
「ちょっと! 何言ってるんですか二人とも!」
こいつら、清い男の友情に向かって何てこと言いやがる。一言文句を言ってやろうと振り返ると同時、アリアン嬢がヴィクトリアとリーディにぷりぷりと怒っているところだった。いいぞ。一言言ってやれ!
「攻めがカーティスさん、受けがクリスさんですよ! どう考えてもそっちの方が燃えるじゃないですか! カー×クリですよ!」
「む。それじゃただ意外性があるだけの出オチにしかならない。二人の関係性を考えた時、やはりクリ×カーであるべき」
「お? ふざけないでくださいよ。戦争じゃないですか。頭の中でだけそれを思ってるうちはまだしも、口に出したら、それはもう戦争じゃないですか!」
「受けて立つ」
「ストーップ!」
とうとう武器を構え始めた二人の間に入り、止める。うちの主砲二人がマジで喧嘩したら、この工房はおろか屋敷まで含めて消し飛びかねない。
「その元気は次の遠征に取っておきなさい! ヴィクトリアも止めてくれよ」
「何であたしが。ライバルが減るいいチャンスなのに」
「何言ってんの⁉ 同じパーティーのメンバーじゃんか!」
「くっ……私としたことが、危うくこの女狐の策略にはまるところでした」
「えっ、そこ乗るの?」
そんなことより、と一拍置いて、ヴィクトリアがいう。
「あと一回だけ、近場の依頼を請けるわ。アリアンちゃんの新しい武器を試すためよ。おそらく一週間もしないうちに帰ってこれると思う。そしたら、残りの期間はここで、パーティーの連携強化を図るわ」
ヴィクトリアが伝えてくれた予定に、空気が張り詰める。そうだ。あと2週間後には、俺は再び王国後を踏むのだ。
「クリスの『組織暴力』は、控えめに言っても世界最強のスキルの一つでしょう。それを活かした作戦を立てる限り、あたしたちが他のパーティーに後れを取ることは万に一つもないわ」
俺をのぞく全員が頷く。え? そんなこと思ったことないんですけど。
「アリアンちゃんの『火樹銀華』、リーディの『咲き誇る花葬、あたしの『幸福論』有機的に連動させて、『組織暴力』を十二分に生かす。そのための連携よ」
再び俺以外の全員が首肯する。
「ちょっと待てよ。最強なのは、俺じゃなくてお前ら」
「クリス。あなたはもっと、自分のスキルの市場価値を知った方がいいわ」
ヴィクトリアが呆れたようにいう。俺の唇に人差し指を当てながら、笑った。
「使われたが最後。どんな防御も意味をなさない。それに、誰と組んでも相性が悪いってことがありえない。このスキルを知ったら、『明けの明星』のメンバーも、あなたを入れたがるはずよ。そういうのを、世界最強っていうの。なんでも、一人で抱え込むことはないのよ」




