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「おはようございます! いやあ、昨日も二時間しか寝ておらずフラフラですぞ! いやー辛い、辛いですが、拙者今日もアリアンちゃんのため頑張る所存であります! どうですか、こんな大人の男性の魅力にメロメロになったりとかは」

「大人の男性は、わざわざそんな頑張ってるアピールしたりしませんよ」

「うは! 今日もクールでビューティ! たまりませんな」


 心底嫌そうな顔をするアリアン嬢。まあ気持ちはわからんでもない。同じ立場だったら、多分俺も同じ表情をしているだろう。ていうかカムのやつ、あきらかにアピール方法間違ってるんだよなあ。なんかもっとうまくやれそうな気がして仕方ない。根は悪い奴じゃないんだよ。根は。

 入ってきたカムは、少し痩せていた。『明けの明星』のサポートから帰ってきてからこっち、ほぼほぼ俺たちの武器防具を作り続けていてくれたからなあ。そりゃ体重も減るか。


 不触を誓う少女性愛者は、彼女の表情を気にすることなく、話を続けた。彼曰く、そういったマイナスの感情さえも、好きになった瞬間、振り子のようにプラスになって帰ってくるのだという。どこから来るんだその自信。少しだけ彼のメンタルがうらやましい。


「アリアンちゃんの武器が完成しましたぞ。いやあ、苦節二か月。ここまでの大作になるとは想像もつかなかったですな」


 カムがこの二か月、最も力を入れていたもの。それが、アリアン嬢の新しい武器だった。何しろ彼女の攻撃力は俺たちの生命線。Sランクパーティーのサポート、おそらくA級の魔物を相手にすることになるだろう、来る実戦に向けて、新しい武器を手に入れることは必須と言えた。

 この依頼をカムにしたところ、目を輝かせて彼が提案してくれたのが、A級の魔物の素材をふんだんに使った、新しい長槍斧だった。

 彼の要求する素材はかなり多く、また、かなり高難度の依頼でなければ取ることのできない素材が必要だった。社会性を持つ人喰鬼(オーガ)の群れを討伐したときなど、もともと連戦を重ねる必要があったのに加えて、最後に出てきた人喰鬼王(オーガキング)を倒さなければならなかった。あれ結局どのくらい戦ったんだろう。ちょっとした街くらいの頭数はいた気がする。


 そうやって集めたいくつもの素材をカムに渡し、できるところから作業に着手してもらう。例えば、今回最も早く出来上がったのは、実は斧の部分だった。必要となる魔物の種類が2種類だったため、比較的早い段階で作業に着手してもらえたのだ。

 一番時間がかかったのは、柄の部分だった。複数の素材を溶かして混ぜあう『合金』という技術で、今までと比較にならない程の強度が出るという。こちらは、先週やっと素材が揃ったところだった。

 彼が懇切丁寧に、どの素材がどこの部分に、どういう風に使われるかを教えてくれたおかげで、俺たちもどこか楽しみながらこの二か月半を過ごすことができた。

 今までは取ってきた素材に応じて武器や防具を作っていた俺たちにとって、「作りたい武器防具のために依頼を選ぶ」というのは目から鱗だった。目当ての素材を得ることができず、悔しい思いをしながら別の場所へ向かったこともある。


 そして今日、ようやく完成。

 長かった。今までの苦労を思い出し、思わずカムの手をとる。


「ありがとうカム。君がいなかったら、こんなにワクワクする武器今は作れなかった。アイデアさえ出なかったと思う」

「何をおっしゃいますかクリス殿。拙者を信じ、任せてくれたからこそ、日のこの結果があるのです。あなたの、いいえ、皆さんのお力添えがあったからこそ、ぼ……拙者はこの武器を完成させることができたのですぞ」


 言い直さずに、素直に「僕」でいい気がするんだが、彼の中では何かこだわりがあるらしい。

 

「さ、是非見てくだされ。そして、アリアンちゃんには実際に手に取って確認してもらいたいですな。そのあと、拙者があれやこれや、お楽しみタイムに入りますので」

「微調整、ってこと?」

「そうですよリーディ。あのおじさんの言葉のチョイスがおかしいんです」


 カムが広間から玄関を通り、外に出たのに続いて、俺たちも後に続く。隣に、ヴィクトリアが来た。俺の方が少し歩幅が広いので、少しだけ狭めてやる。


「そういうとこ、さりげなく優しいよね、クリスは」

「なんのことだ?」

「何でもない。それより、この二か月半で、私たちがこなした依頼の数、どのくらいになったと思う?」


 ヴィクトリアの突然の問いに、少し考えこむ。連戦や一回の遠征で複数の依頼をこなしているので、正直数はわからない。カムから提示された魔物について、どの依頼を請ければ良いのか、また『明けの明星』のツテを使う必要はあるのか、どうこなすのが一番効率が良いのか、全て考え、スケジュールを立ててくれたのはヴィクトリアだった。


「うーん。連戦が多かったからな。10はこなしているんじゃないか?」


 Aランクパーティーは、その性質上、強大な魔物を相手にすることが多い。そのため、現役バリバリの連中であっても、年に6回程度の依頼をこなすのが常だった。これは多い方で、例えば防衛を得意とする『実に醜い鳥』などは、年に3回、ひどい時は2回しか依頼を請けないなどということもざらだ。


 そんな中の10回は、かなり頑張った方だといえるだろう。素材欲しさに、あちこち行ったしな。

 しかし、彼女は口元に指を持っていき、左右に振る。


「違うのか?」

「答えは15回。普通のパーティーが2年半かけて到達する場所に、あたしたちはいるわ。これがどういうことかわかる?」

「いや……どういうことだ?」

「あなたの古巣『夜の牙』よりも、あなたは上にいるってことよ」


 え……?

 思わず思考が停止してしまう。そんな俺を見て、ヴィクトリアが楽しそうに笑った。


「いい顔するじゃない。頑張った甲斐があったわ」

「本当に?」

「ホントよ。『夜の牙』はあなたが抜けて以降、Aランクの依頼をクリアしたのは3回だけ。ウチの方が、実績から言っても圧倒的に上よ。あなたがリーダーの『黒いメンフクロウ』の方がね」


 歌うように、俺の周りをくるくると回りながらヴィクトリア。豊かな胸が、そのたびに上下に揺れる。くそっ、なんて強力な視線誘導のスキルなんだ。ダメだと思ってもつい見ちまう。


「これで、今度の遠征に『夜の牙』が出てきても、あなたは何一つ恥じることなく、気後れもすることなく戦える。見せてやりましょう。あなたを切った愚か者どもに、あなたの本当の価値を。教えてやりましょう。立場と実績の違いってやつを」

「そのために、こんなに頑張ってくれたのか……」


 やばいな。少しジーンとしてしまった。だってさ、そんなこと考えてくれてるなんて思わないじゃん。てっきりアリアン嬢の武器を作りたいからだと思ってた。


「もちろん、アリアンちゃんの武器を作りたいというのが一番よ」

「心を読むな」

「でも、『あなたの力になりたい』って押しかけたんだもの。これくらいはさせてよ」

「ありがとう」

「そう直球で来られるとなんだかこっちも少し照れくさいわね」


 そうか、すでに『夜の牙』を超えていたのか。

 俺がここまで来れたのは、間違いなくアリアン嬢、ヴィクトリア、そしてリーディのおかげだ。ダニたちに紹介したい。俺は、元気でやっているぞ、と。自慢の仲間たちもできたぞ、と。

 ダニ、スタール、エカテリーナの顔を思い出す。それから、少しだけ切ない気持ちになった。冒険者パーティーは、1にランク、2に実績だ。おそらく今回のサポートで、俺たちの方が彼らより良い待遇を受けることになるだろう。

 あいつら、寂しい気持ちになったりはしないだろうか。新しいメンバーとうまく連携が取れないのだろうか。


 そんな俺を見ながら、ヴィクトリアがぽつりとつぶやく。


「そういうとこ、優しいんだよね、クリスは」

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