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雲の上は風が強い。プロペラが回る音を聞きながら、ふとそう思った。
依頼を達成した俺たち『黒いメンフクロウ』と『明けの明星』は、帰国の途についていた。あの後、「そんな大事な話を、他の二人に聞かせることなく決められない」とごねたところ、帰りの飛空艇で話そうということになったのだ。
「王国のパーティーのサポート? 帝国のギルドに属するパーティーがですか?」
思わずそう尋ねるアリアン嬢。彼女の疑問はもっともだ。通常、ギルドは複数の国をまたがって活動することはない。王国には王国の、帝国には帝国のギルドがあるのだ。お互いの領分を侵すようなことはしない。
チラト公国は帝国のギルドに属しているが、これは公国が帝国の属国であるためだ。
しかも、帝国と王国はお互いの実績を競い合っている、いわばライバル関係だ。それなのに、王国のパーティーをサポート?
「そうだ。ああ、そんな顔をしなくてもいい。これがレアなケースだということは承知しているよ。理由を説明しよう」
リザ・メナの隣に立っていたシャルロットが、一歩前に出る。
「それでは私から。今回のターゲットは、王国に現れた魔王候補。ブルクス宗主国とマルデ王国の境にあるペロリ砦を攻め落とした後、多数の魔物とともにそこにとどまっているの。王国はこれを討伐するために、Sランクパーティー『探訪者たち』を向かわせることを決めたわ」
『探訪者たち』。
王国、いや世界最強の冒険者パーティー。今までに魔王を7体討ち滅ぼし、その実力は同じSランクである『明けの明星』よりも上だという。
世界中の冒険者のあこがれである彼らは、勿論俺でもその名を知っているほどだ。『夜の牙』時代、俺は王国の冒険者として活動していたが、すでにそのころから彼らは雲の上の人々だった。その姿さえ見ることが叶わないほどに。
リーダーのフレッド・カップスは、半ば伝説。気に入らない依頼があれば王の命令でも拒否し、逆に気になる依頼には、無報酬であろうと駆けつける。その言葉と行動は、常人の遥か先を見据え、彼のやることなすことには全て意味があるといわれている。一般人がその意味を理解するのは、全てが終わった後であると。
戦闘能力もすさまじいらしい。らしい、というのは、誰も彼の戦う姿を見たことがないからだ。気が付けば、いつも敵が彼の足元に倒れ伏している。一説では、スキルの中に「時間を止める」能力があるのではないか、ともささやかれている。
彼とともに行動を共にするうちの一人、ダイアナ・バーノンは、その博識さ故「教授」と二つ名がつけられている。20代中ごろの、長身の美女だそうだ。武器職人でもあり、彼女が作成した新規機構を備えた武器から繰り出される攻撃は、『武器の使い方を100年早めた』と言われている。
ロザリア・バートラムも、同じく20代中ごろ。ダイアナに比べると、やや背は低めらしい。うちのリーディと同じく戦槌を使用しているというが、その一振りで嵐が巻き起こるという。ていうかそれ、もはや神じゃん。神の領域じゃん。
最後の一人が、トニー・スライディーニ。ギルドが売り出した、彼らのぬいぐるみでは、一番子供っぽい姿をしていたのが彼女だった。どんなスキルを持っているかなどは全く謎で、酒場での吟遊詩人による語り口では、『魔法』を使うとされていた。なんだろう魔法って。
この4人は、結成してから一度もメンバーチェンジを経験していない。また、パーティーの乗り換えを行ったメンバーもいない。ただの一度も敗北せずここまで来たのだ。
それを考えていると、シャルロットが言う。
「ペロリ砦の魔王候補と共にいる魔物たちがAランク相当ということなんだが、その数が、想像以上に多いらしくてね。それで、王国中のAランクでは足りないらしくて、こちらのパーティーも出してほしい、ってなったの」
「魔王候補、どんなやつかはわかる?」
リーディが尋ねる。そうか。彼女なら、魔王候補が彼女を追放したメンバーかどうかもわかるのか。
「青い目に、白い髪。そして透けるような白い肌の持ち主だってさ。はん。そんなもやし野郎、あたしがボッコボコにしてやってもいいんだけどね」
「ドロシー」
「……ちっ、わかってるよ」
リザ・メナにたしなめられるドロシー。その様子を、ヴィクトリアがじっと見つめている。
リーディが、俺のそばに来て、小さな声でつぶやく。
「多分、イーアン・モラン。あいつらとも戦った」
「マジか。そういやお前も、『明けの明星』をは戦ったんだよな。正体ばれてないのか?」
「あの時は、仮面付けてたの。お揃いの、ウサギの骸骨のやつ」
「なるほどな」
じゃあ、魔王候補ってのはマジか。
「ていうか、あなたたちが逃がした奴じゃない。自分たちで何とかしようとは思わないの?」
言外にとげを含み、ヴィクトリアが『明けの明星』に向かう。
リザ・メナが苦笑いを浮かべた。
「痛いところをつくね。確かに、私たちが行くのが確実なんだが」ため息をつきながら続ける。「Sランク同士の縄張り争いみたいなものがあるんだよ。それで、断られたのさ。王国としては、帝国の失点を自分たちが取り返した、ということにしたいんだろう」
リザ・メナが舞台裏まで明かしてくれるが、こんなに気を遣わせてしまって、今度は俺の胃が痛い。
「帝国からは、何組のパーティーが参加するんですか?」
「君たちだけだ。王国からは、一組、Aランクパーティーの参加を求められている」
「一組ですか⁉」
思わず大声を上げてしまう。帝国も、先の魔王戦で損耗したとはいえ、俺たち以外のAランクパーティーだっているのだ。しかも、正式に言えば、俺たちはまだBランクの身。どう考えてもおかしい。
「『実に醜い鳥』もいるし、他のAランクパーティーだっているじゃない。王国のクエストだから、失っても惜しくない人材をあてがったってこと?」
「それは違うな」
ヴィクトリアの挑発に、リザが答える。
「私たちが君たちを評価しているというのは本当だ。Bランクからの昇格の際には、必ずAランク相当の敵を倒さなければいけない。いつかは必ず通る道さ。まあ、君たちはもう今日、それを叶えているが」
「それに、正直なところ、『実に醜い鳥』よりも、お前らの戦闘能力を評価してのことだよ。だから、Aランクへの昇格も急ごうと思ったわけ」
ドロシーが後を続けた。レズリーはその後ろで、先ほどから一言も発していない。
「それに、今回戦いに挑むのは、世界最強と名高い『探訪者たち』だ。生き延びる確率も高いんじゃないかな」
「いつなの? その遠征は」
ヴィクトリアが、深く息をつく。ここまでお膳立てを整えられてしまうと、逃げられないと悟ったのだろう。にやりと笑ったリザが答える前に、レズリーがぽつりとつぶやく。
「3か月後」
「3か月後⁉ 準備が間に合わないわよ!」
「心配しなくていい。帰ったらAランクの依頼が請けられるように手続きをしておく。もちろん、私たちもできるだけのサポートをするよ。必要なら、Aランクの魔物の素材を譲ってもいい。何しろ、可愛いアリアンちゃんを失うわけにはいかないからね」




