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地響きを立てて、最後の夜巨人が地面に倒れ伏す。
思わず空を見上げる。晴天の中、少しだけ雲があった。風はそこまで強くない。流れていく雲の速さでわかる。
深く息を吐く。代わりに吸った空気は、少しだけ冷たく、肺に刺さった。
やり切った。
まずはカバンからハイポーションを出す。緊張が緩むと、身体が忘れていた痛みを思い浮かべるようだった。右腕がずきずきとする。ヒビでも入っているのだろうか。
直接痛む部分にかけると、少し和らいだ。
周りに倒れている夜巨人は、全部で20体。よくぞ倒せたと、自画自賛したい気分だ。『黒いメンフクロウ』、すげえな。
大量に迫ってきた魔物たち。この世界の神が決めたルールにより、戦闘人数の上限は敵味方とも4人ずつ、と決まっている。
そのため、俺たちは夜巨人との5連戦に挑むことになったのだ。いやマジで、回復の間すら与えてくれないからねあいつら。ヴィクトリアのナイスな指揮があったから何とかなったものの、普通ならこっちが殺られてもおかしくない戦いだった。
装備品も、同ランクの魔物の素材で作られたものではなく、下位ーーつまり今回はBだがーーの素材で出来ている。今手に入る最高のもので作ったとはいえ、やはり受けるダメージはバカに出来ないものがあった。
2戦目以降では、リーディの『手厚い病』での攻撃力減少が付与できない場合もあり、その時はやはり結構なダメージを貰ってしまった。アリアン嬢の『刀山剣木』にも攻撃力減少の効果があるが、一体ずつしか攻撃できないため、今回のような、一点集中突破の作戦との相性が悪い。攻撃力減少が付与されていない魔物の拳を顔に受けた時には、小さい子供のおもちゃのように、目玉から何から全部飛び出るかと思ったからね。
アリアン嬢とリーディは、林の向こうで、倒した魔物の素材を集めていた。さすがに20体も相手にすると、大きく移動することになる。こちら側には、俺とヴィクトリア。
彼女は、少し離れたところで水筒を空けていた。喉が渇いていたのだろう、垂直に傾けている。綺麗な白い喉が、勢い良く動いた。こちらに気が付くと、手を振ってくる。
「なあに? もしかして、飲みたかったりする?」
「いや、それは大丈夫なんだが」
「どうしたの?」
「ケガとかしていないか?」
ヴィクトリアが目を丸くする。いや、そんなに驚かなくてもいいだろうに。
「あなたが心配してくれるなんて」
「いや、そりゃするだろ。仲間なんだし」
「明日は槍が降るわね」
「そこまでレアなことなの⁉ 君の中で、俺の立ち位置ってどうなってるのさ」
冗談よ、と笑ってから、特にどこも問題はない、と彼女は答えた。攻撃が俺、リーディ、アリアン嬢の三人に集中していたため、そこまでダメージがなかったらしい。
「位置取りの関係よね。ここ何戦か、この傾向が続いてる。特にダメージを受けているのがあなたよ。宝石以外の夜巨人の素材で、何ができるかはわからないけど、帰ったらカーティスに相談しましょ。これだけ倒せば、さすがに何か一つくらいは作れるでしょう」
背伸びをすると、水筒をしまい、夜巨人たちの素材を剥ぎ取りにかかった。
俺はヴィクトリア越しに、鉱山の向こうを仰ぎ見る。煙が上がっている方向から、大きな爆発音が響いてきた。蒼玉竜と『明けの明星』だろう。
「『明けの明星』が不覚を取るなんてことがあるのかな」
「そりゃあるでしょ。彼女たちは経験豊富、百戦錬磨の強者よ。だから、決して無理はしない。何か予想外のことが起きれば、潔く撤退する。こないだみたいにね」
「なるほど」
「ま、二度も失敗を繰り返すとは思えないけどね。念のため、早めに素材を集めましょう。ぼーっと立ってないで、早く素材を集めて」
彼女に急かされ、俺も夜巨人の素材を剥ぎにかかる。これはリーディの攻撃によってだろうか、ベコベコにへこんだ頭部の中から、砕けた宝石が見つかった。ため息を付く。
ほかに使えない部位がないかと探し、関節部分を動かしているギアのほか、脚を覆っているプレートなどを頂く。頭部の損傷が激しい代わり、下半身は比較的綺麗な状態で残っていた。
「こっちの宝石はだめだな。そっちはどうだ?」
「こっちも一刀両断されて真っ二つ。綺麗なものよ」
それはアリアン嬢の仕業だな。あの子たち、手心を加えるっていう言葉を知らないもんだから……。
ヴィクトリアが作業の手を止めずにいう。
「アリアンちゃんかリーディが見つけてくれているといいんだけど。これだけ倒して、一個もないっていうのはさすがに精神的に来るものがありそう」
『明けの明星』から買うのも癪だしね、とつぶやく彼女に、そういえばと思いたずねる。
「そういや、なんで今回の遠征を反対したんだ? Sランクの戦いぶりを間近で見られるなんて、チャンスだと俺は思ったんだが」
「まあ、あなたはそうでしょうね」
いったん手を止めて、ヴィクトリアがこちらに向き直る。指を二本立てて続けた。
「反対する理由は二つあったわ。一つはあなたが知らなくてもよいこと。もう一つは、あなたが知っておかなくてはならないこと」
「知らなくていいことってのは?」
「知らなくていいことだから、教えないわ。そのうち自分で気づくでしょ」
「じゃあ、知らなきゃいけないことってのは」
「ただで自分達の経験や知識を教えると思う? しかも、そのあとに出された条件はAランクへの昇格よ? これは」
「やあやあクリス君! 君たちも無事なようで何よりだ!」
突然上から降ってくる声に、首を持ち上げる。炎の翼を羽ばたかせ、空に浮かんでいる天使のような女性。リザ・メナだ。
「君たちも、ということは……」
「勿論、私たちも蒼玉竜を討伐したよ。本来は周りにいる夜巨人が邪魔をしてくるんだが、今回は君たちのサポートのおかげで快適に戦うことができた。その分、君たちの方は大変だったみたいだが……良く生き残ってくれた」
すぐにシャルロットたちも来る、こちらも全員無事だ、と、満面の笑みでリザ・メナが言う。
炎に包まれた彼女の体には傷一つない。新メンバーであるレズリーの『人生やりなおし機』を使用したのかもしれないな、と思った。もちろん、彼女は俺がスキルを見る能力があるなどということは知らないので、口には出さないが。
「君たちはやはり才能がある。私の見る目は正しかったようだ。帰ったら、早速Aランクへの昇格をギルドに打診しよう。力あるものには、それに見合った『格』というものが必要だ」
うきうきと、まるで自分のことのように喜ぶリザ・メナ。
しかし俺は、その笑顔に拭い去れない違和感を覚えていた。勿論、それを気づかせてくれたのはヴィクトリアである。
なぜ、これほどまでに彼女は俺たちに目をかけるのか。
「一つ教えてください」
「ん? なんだい?」
相変わらず羽ばたいたままの天使に、俺は尋ねる。
「俺たちがAランクに上がった後、最初に受けなければならない依頼は何ですか?」
「……」
羽の音だけが響く。彼女の笑顔は崩れていない。しかし、その目の奥は笑っていなかった。
「さすがに鋭いね」
「美味い話には裏がある、そう警戒するよう言ってくれたのは、他でもないあなたですよ」
やがて、観念したように両掌を上に向ける。
「そうだね。化かしあいは止めようか。私たちが君たちに望んでいるのは、王国のSランクパーティーが挑む魔王討伐。そのサポートだ」




