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「ただ、そうね。どのデバフが付いたのかは教えて頂戴。それによって、そのあとの戦い方が変わってくるから。4対4の時は、全員にかかったスキルをいう暇もないでしょうから、『攻撃力低下』がかかったかかかってないか、それだけでもいいわ」
「どうして、攻撃力低下なんですか?」
「それはね」
ヴィクトリアは、リーディに向けウィンクをする。
「今あたしたちが持っていないデバフで、なおかつ直接的にあたしたちの命にかかわるからよ。つまり、攻撃力が低下している敵としていない敵、二匹いたとしたら、皆には低下していない方をターゲットにしてもらうわ」
「ちょっとでも、被害が少なくなるから?」
「ご名答。攻撃力が低下しているなら2回殴られても耐えられるかも、でもそのまま殴られたら死んじゃうかもしれない、ってのは結構あるものよ。だから、まず殴られる回数自体を減らすわ」
それに、痛いのは嫌だしね、と付け加えて笑った。
リーディは忠実にそれを守っている。おかげで、おれたちがやることは明確になり、かつその内容を口に出す必要がなくなった。今集中攻撃を加えている左端を片づけたら、次は右端だ、と誰もが思ったに違いない。
飛び込み、『素手喧嘩』で殴りつける。横っ面にクリーンヒットした拳の先から、相手の速度が鈍くなったことが伝わってきた。
「『刀山剣木』!」
アリアン嬢の一撃が、夜巨人の胴体を襲う。『組織暴力』により強化された一撃は、金属製の体をへし折らんばかりの音を立てて突き刺さる。魔物の口から黒い液体があふれてこぼれた。
「ではさようなら。『約束された破滅』!!」
ヴィクトリアが、短剣で右端の魔物を指す。短剣の先から煙のように出た怨霊は、ゆっくりと人の形を取り始めた。そして、魔物の後ろにそっと寄り添う。
彼女のスキル『幸福論』により、俺たちの行動速度は上昇している。アリアン嬢の拘束を解き、魔物たちがこちらに攻撃してくるよりも早く、リーディが戦槌を振りかぶった。
重たいダマスカス鋼の一撃が、夜巨人の頭部がめり込むほどの勢いで振り下ろされる。金属同士がぶつかり合う高く、鈍い音がして、魔物が動かなくなった。
素早く右端の魔物に標的を切り替える。顎を振りぬいた拳から、確かな手ごたえ。速度減少がかかった。
続いてはアリアン嬢。横なぎに払われた長槍斧が、こめかみのあたりを通り抜ける。自分だったら、と考えてぞっとした。脳みそまで両断されてしまうに違いない。
「すげえなあ!」
「本当は一撃でぶった切りたかったんですけどね……!まだまだです……!」
悔しそうにいう彼女だが、『組織暴力』による攻撃力のバフは既に切れている。魔物側の防御力デバフは生きているとはいえ、ほぼ独力ですでにAランクの魔物とも互角以上に打ち合う彼女を見て、つい微笑んでしまう。
「何笑ってるんですか?」
「いやあ……大きくなったなあと思って」
「……時々思うんですけど、その親戚のおじさんが姪っ子見るみたいな目、やめてもらっていいですか?」
「いいじゃない。可愛がられてるってことよ」
ヴィクトリアが魔物に短剣を突き立て、そのまま下へ滑らせる。黒い体液が吹き出した。出血状態になったのだろう。
「またあなたはそうやって……! 全部わかってるくせに……!」
「ええ、勿論。でも残念。あたしも目指すものは一緒なのよね。だから、この状況はとても都合がいいの」
「くっ……! クリスさん、目を覚ましてください!」
「至って正常なんですけど⁉」
目の前の夜巨人が、立ち上がり、拳を振りかぶる。フックのような形で、空気を巻き込みながら飛んでくる。
左腕を構え、鎧の胸当て部分とあわせてガードするように動く。少し遅れて、岩がぶつかったかのような衝撃が走った。踏ん張っていられず、吹き飛ばされる。攻撃力低下のデバフが聞いているためか、思ったほどのダメージはない。しかし、口の中は切れたようだ。鉄の味が広がる。
体制を立て直すと、もう一体、俺に向かって拳を振りかぶっていた。おいおい嘘だろう?勘弁してくれよ。
苦笑いを浮かべながら、再び衝撃に備える。下から突き上げられるような豪快な一撃。目の前に火花が散ったような錯覚を覚える。
最後の一体は、アリアン嬢へ敵意を向けていた。突き出した拳を長槍斧で受けるが、衝撃を殺しきれず吹き飛ばされる。
立ち上がり、自分の体の状態を確認する。なんの状態異常も受けていない。リーディの『咲き誇る花葬』により、全てのスキルが封じられているからだ。
「リーディ、助かるぜマジで」
「? 何だか知らないけど、助かったなら良かった」
リーディが振り回した戦槌が、夜巨人の頭部を捉える。つぶれたヤカンのように、ひしゃげる魔物を見て、俺はおずおずと声をかけた。ここに来た目的を忘れてはいけない。
「あとから宝石が取れるくらいにはしとけよ。頭潰しちまったら、お目当てのブツが取れないぜ」
「そうだった」
膝をついている魔物を見上げ、その頭部のへこみ具合を確認するリーディ。
「次は一撃で頭と胴を切り離す」
「お、おう……まあ、その、何だ……頼む」
それ以上何も言えず、戦闘へと意識を戻す。印を組み、念じた。
「『組織暴力』!」
「砕けて、散らせッ!『火樹銀華』!」
体勢を立て直し、俺の横から飛び出したアリアン嬢が、長槍斧を高く掲げる。いつも思うが、この姿が俺は大好きだ。凛々しく神々しい、女神はかくあるべしといった姿。実に美しい。
「私を殴って、ただで済むと思わないでくださいよ! 生まれてきたことを後悔するくらい、粉々にしてやりますから!」
女神とは……。
俺の思いをよそに、地面から伸びた太い枝たちが、再び夜巨人たちを地面へと縫い付ける。ヴィクトリアが、甘いのによく通る声で叫んだ。
「『約束された破滅』が、そいつを潰してくれるはずだから! 次に移るわよ!」
「わかった。どっちをやるかは任せる」
リーディの返事に、ヴィクトリアが頷き、左側の魔物へと短剣を突き立てた。黒い体液が吹き出す。一瞬で距離を詰めたリーディの追撃が、こめかみを抉るようにヒットした。あれ、宝石は大丈夫なんだろうか。割れていませんように。
遅れて到着した俺が、拳を振りかぶる。頭部は殴らない。腹部に刺さった拳から、速度減少を感じたが、すぐに頭の中から消えた。どうやら二体目を倒したらしい。
拘束を解いた右端の夜巨人だが、その瞬間、大きく膨れ上がった怨霊が彼を殴りつける。『約束された破滅』の発動時間を迎えたのだ。激しく魔物を殴りつけていた怨霊が消えるとともに、夜巨人が倒れる。ヴィクトリアの読み通りだ。
「あと一体!」
残りの一体に向け、アリアン嬢が切りつける。拘束を解いたばかりだったため、無防備な状態だったようだ。金属にめり込む鈍い音が響き渡った。
ヴィクトリアが、再び『幸福論』を使用した。心のそこから、不思議な勇気が湧いてくる。
続けてリーディが振り回した戦槌が、またしても魔物の横っ面を捉える。ヒットした一瞬、時が止まったかと錯覚するほどの衝撃。そのまま振りぬけた戦槌を追いかけるように、夜巨人が吹き飛ばされる。いやいや、すげえな。
倒れている魔物めがけて、拳を振り下ろす。それきり、魔物は動かなくなった。
皆の方に向き直り、様子をうかがう。ちなみに俺は、もう肩で息をしている。彼女たちは大丈夫だろうか。
「皆、お疲れ様。大変だったと思うけど」
「意外と大したことなかった」
そうかリーディ? おじさん結構もうへとへとなんですけど。
「この調子でいけば、夜巨人たちは何とかなりそうですね」
アリアン嬢のこの自信。若いってうらやましい。
「さて、後16体ほどね。大丈夫よ皆。あたしたちなら勝てるわ」
ね、とウインクをしながら、ヴィクトリアが俺の方を見た。そんなこと言われたら、ねえ。俺は唇を持ち上げて、にやりと笑う。
「こいつぁ楽勝だな。皆、もう一息、やってやろうぜ!」




