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「ああもう! いいところだったのに!」
アリアン嬢が感情をむき出しにする。いいところ? まあ確かにあとちょっとで彼女の想い人がわかるというところではあったが、別にそこまでいいところかと言われると……これがとんでもないクズ男だった場合、俺の心労はいや増しに増すことになるし……。
ヴィクトリアはヴィクトリアで、アリアン嬢、俺、アリアン嬢へと視線を動かし、にやりと笑った。
「あらあら。どうやら運命の女神はまだあたしを贔屓しているらしいわね。ごめんなさいねアリアンちゃん。本当に、ほんっとーに悪気はないんだけど、たまたま偶然、蒼玉竜が現れちゃったから。本当なのよ? リザったら、自慢話が長くてさあ……!」
思い出していくうちに、何かスイッチが入ったらしい。怒りのボルテージを上げるヴィクトリア。その横では、リーディが無表情でうんうんと頷いている。どうやらリザの話は、相当なボリュームだったらしい。
「クリスさん! ちゃんと考えておいてくださいね!」
「お……? おう! わかった!」
アリアン嬢がこちらを指さしてきたので、ちょっとたじろぐ。一瞬何を言われているのかわからなかったが、それが彼女の好きな人の話だと気づき、相槌を返した。というかアンドラスでもないなら、あと誰がいる? 全員のスキルを見たつもりだったけど、あとサポートタイプなんて俺しかいなかったような気がする。誰か見落としているのかな。マジで誰だろう。
ブツブツと言いながら、鎧を持って外に出る。テント内ではアリアン嬢が着替えるためだ。
すでに『明けの明星』と蒼玉竜の戦闘は始まっていた。鉱山の奥にいると思っていたのだが、侵入者たちに腹を立てたのか、入り口まで出てきている。
テントを保護するためだろう。誰かが囮になったのか、数百メートル先でその戦いは行われている。こちらには、夜巨人の群れが向かってきていた。ざっと20体はいるかもしれない。
この世界の神の定めたルールで、戦闘は4対4まで、と決められている。つまり敵がどんなに大群であれ、俺たちが一度に相手にするのは4体までだ。その代わり、今回で言えば5回連続で敵を相手にしなければいけない。戦闘の後に一息つくということは許されないのだ。
蒼玉竜はその名の通り、全身の鱗がサファイヤで作られているドラゴンだ。炎を反射して煌めく宝石が神々しい。どこかの国で、神と崇められているのも納得だった。
体長は20メートルほど。見上げるような大きさだ。ここからでは足元が見えないが、おそらくドロシー達が向かっているのだろう。
炎の翼を纏ったリザ・メナが、空中から地上の魔物へと突撃を行う。少し遅れて、大爆発が起こった。蒼玉竜が炎に包まれ、周りの夜巨人が吹き飛ばされる。
続いて、津波が魔物たちを襲う。シャルロットの『超海嘯』だ。山のような波は、その勢いのまま蒼玉竜たちを飲み込んでいく。
手早く鎧を身に着け、拳鍔を嵌める。ちょうど、テントの中から、鎧を身に着け、長槍斧を持ったアリアン嬢が飛び出してくるところだった。こちらに向かってくる、夜巨人たちに視線を向ける。
ヴィクトリア、リーディもそれぞれ武器を構える。
俺は大きく息を吸う。これだけの数、Aランクの魔物を相手にするのは初めてだった。援軍も期待できない。何かをミスすれば即、詰んでしまう戦い。
だが、それがどうした。いつかは越えなければならない壁が、今日現れただけだ。
大きく息を吐く。ため息ではない。短く。強く。
皆を励ますように声を出す。
「さーて、今日も張り切って行きますか!」
「狂い咲け! 『咲き誇る花葬』!」
先制攻撃はリーディだ。元魔王の必殺のスキル、『咲き誇る花葬』が夜巨人たちを襲う。直接的なダメージはないものの、これで彼らはアクティブもパッシブも、スキルを封じられた状態だ。単純な力押ししかできない。ただの大きくて頑丈な塊である。
魔物がこちらを殴りつけるよりも早く、俺の準備が完了する。どうやら、素早さにおいてはやつらよりも俺の方が上のようだ。
夜巨人たちに意識を集中する。右手を握り、少しだけ浮かせた。
「『組織暴力』‼」
相手側の防御力ががくっと下がり、自分たちの攻撃力が上がったことを、本能で察知する。同時に、『鑑定屋』が発動し、夜巨人のスキルが頭の中に飛び込んでくる。
「全体攻撃でこちらの攻撃力を下げてくるぞ!確率は50%! 単体攻撃では相手の精度を下げてくる! あとは自分の体力を40%回復だ!」
確認したスキルをメンバーへ、端的に伝える。ヴィクトリアが答えた。
「一点集中! ぶち抜きましょう!アリアンちゃん、よろしく!」
「砕けて、散らせッ‼ 『火樹銀華』‼」
切っ先を魔物に向け、高く掲げた長槍斧。それに従うかのように、地面から太い木の枝が生え、夜巨人を打ち据える。「クリティカルが出れば、行動阻害」という条件が付いているが、彼女のパッシブスキル『大樹将軍』により、彼女自身のクリティカル発生率は大幅にアップしており、確実に行動阻害が起こる。彼女のスキルが「ぶっ壊れている」と評価される所以だ。
風を切る高い音とともに、彼らの紫色のボディに激突した枝たちは、そのまま魔物たちの動きを縫いつける。無生物であるせいか、毒は効かなかったようだ。アリアン嬢が小さく舌打ちをする。
俺たちに相対したのは4体。それぞれが地面に縛り付けられている。
俺は向かって左の魔物を囲い込むように走る。ヴィクトリアの指示通り、一体ずつ撃破していくため、まずはコイツがターゲットだと、無言で皆に伝える。
夜巨人たちが、枝を引きちぎって起き上がろうとする。しかし、こちらへの攻撃はまだ出来ない。その間隙を縫い、ヴィクトリアが短剣を高く掲げる。
「心よ逸れ!『幸福論』!」
彼女がそう叫ぶと同時、体が軽くなるのを感じる。心の底から何か、こう形容しがたいうきうきとした気持ちがわいてくるのが分かった。今なら何でも出来そうだ。
「『手厚い病』!」
俺の右側を抜けてきたリーディが、ダマスカスで作られた巨大な戦槌を振り回す。魔物の胴体に直撃した一撃は、鈍く重い音を立てて夜巨人を数メートル吹き飛ばす。
「攻撃力低下! 抵抗減少! 命中率減少! ほか3体のうち、攻撃力低下がないのは右端!」
「右端ね! 了解!」
リーディの『手厚い病』は、敵単体への攻撃の後、敵全体へ1~3個のデバフをランダムにばらまくスキルだ。そのランダム性ゆえに、魔王仲間からは「使えない」スキル呼ばわりされていたのだが、ヴィクトリアに言わせると違うようだった。初めてこのスキルを使い、魔物と戦った後、ヴィクトリアがリーディにポーションを渡しながら言う。
「最高じゃない。確定で1個、最大で3個もデバフが付くんでしょ? こんないいことはないわ。皆がどれだけ苦労してデバフをつけているのか。クリスならわかるでしょう?」
俺は頷いた。スキル説明に「25%の確率で」とか書いてあると泣きたくなるもんな。
そうなんだよ。何が付くかわからないというだけで、デバフが付くというのは大きなアドバンテージだ。
ヴィクトリアは顎に手を置くと、考え込むようにして続けた。




