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「しまったな。まさかあれ一匹ということはないと思うが……。すまんクリス君。明日はきっと会えると思う! それにあれだ、もし蒼玉竜を先に倒したとしても、夜巨人を君たちが討伐するまで帰らないことを約束するよ!」
「い、いえ……いいんですよ。こんな日もあります。そんなに気を遣わないでください」
「いや! そうはいかん。夜巨人をエサに、クリス君を釣っ……ゲフンゲフン。貴重な戦力を貸してもらっているのだからな! だが、あいにくともう夜だ。これ以上はどちらのパーティーにとっても危ない。そこで、今夜はこのあたりでキャンプを張ろうと思う!」
「はあ……そうですね。まあ確かに危ないですからね」
この人たちに「危ない」なんてことがあるのだろうか。俺は勢いに押されるように頷きながら、そんなことを思っていた。
夜巨人と『明けの明星』との一戦は、『明けの明星』がSランクパーティーの名にふさわしい強さで魔物を圧倒した。
強いだけではない。彼女たちの戦い方には、なんというか、こう、華があった。見ているこちらも引き込まれる、そんな不思議な魅力があるのだ。
「魅力だけで勝てるなら、誰も苦労はしないわよ」
ヴィクトリアはそっぽを向きながらそんなことを言っていたっけ。
その後、「次は君たちの番だ」とリザが言い、その言葉に従って俺たちは夜巨人を探し始めた。ちなみに、あれだけ「頭部を傷つけないように」と言っていた彼女たちは見事に頭部を粉々にしてしまい、若干意気消沈気味だったが。
だが、探せど探せど、夜巨人は見つからなかった。まるで、夜巨人たちが俺たちの場所を把握して、隠れているかのようだった。気配はある……気がするのだが、見つからない。Sランクパーティーの索敵能力にも引っかからないのは、純粋に驚きだった。
彼女たちは、蒼玉竜そっちのけで一生懸命探してくれているのだが、それでも見つからない。日も暮れはじめ、さすがに申し訳ない気持ちになって、先に彼女たちの目的を果たしませんか、といったところでの冒頭の彼女の発言。この人たちはなぜこんなに俺たちにやさしくしてくれるのだろう。
唯一、ヴィクトリアだけは終始不満顔だった。「あいつら……!」とか、「あたしに気配感知能力があれば……!」とかブツブツ言っている。いやいや、気配感知なんていらんよ。こうやって、Sランクの皆様が探してくれてるじゃないか。俺たちはおとなしくついていけばいいのさ。
しかし、今日は夜巨人と会うことはなかった。こんな日もある。そう思って、『明けの明星』に倣い、俺たちも荷物を下ろし、キャンプの準備を始めた。
俺たち『黒いメンフクロウ』が依頼を受けて探索中に睡眠を取る際、基本的には女性3人と俺、という分かれ方をする。アリアン嬢と二人の時は彼女と同じテントで寝ることもあったが、さすがにこの人数だし、俺みたいなおっさんと寝るよりも女性同士の方がいいだろう。そういう配慮だった。
「あ、そうだ。今日は君とアリアンちゃんはそっちのテントで、あとの二人はこちらのテントで寝てもらうから」
「え? ええ⁉」
「は⁉ 意味が分からないんですけど。そこの二人が一緒のテントの意味も分からなければ、あたしたちがあなたたちのテントに行く意味も分からないわ」
「意味ならあるとも。クリス君たちはチームを組んで長いが、君たち二人は比較的新しいメンバーだろう? しっかりとチームになじめるよう、いろいろとアドバイスをするとも。後は、そうだな……私たちの今までの冒険を聞かせよう。参考になるぞ」
リザ・メナとドロシー・ディードリッヒが、二人を見てニヤニヤしていた。シャルロットとレズリーはそんな二人を横目にテントを張り続けている。
悔しそうに、ヴィクトリアがリザを睨みつける。
「あなたたちの冒険譚なんて、飽きるほど読んでるわよ」
にやにやと、リザが答える。
「そういうなよ。本人から直接聞くのでは、また違った味わいがあるものさ。なあドロシー?」
「はは。確かにリザのいう通りだね。今夜はたっぷり語ることにしよう」
「それなら、あの二人はなんで別テントなのよ。クリス達にも聞かせてあげるべきなんじゃないの?」
「あの二人は、すでに私たちのことを良く知っているからね。逆にもっとよくお互いのことを知るべきだと思うんだ。なあレズリー?」
「どうでもいいわ」
「この通り、彼女も『いいと思う』と言ってくれている」
「『どうでも』いいって言ったのよ。耳はついているのかしら? さすが、あんな見え見えの魔物を見逃すだけあるわね。大した気配察知能力だこと」
「ほう? なかなか面白いことを言うね」
二人で笑いあう。いやあ、ヴィクトリアも不機嫌だと思っていたのだが、ずいぶんと打ち解けたようだ。やっぱり一緒に行動しているというのがいいんだろうな。良かった良かった。
リーディが、一度こちらを確認し、俺の表情を見てため息を突いた。一体なんだってんだ。
アリアン嬢は、顔を真っ赤にしながらこちらのテントを張るのを手伝ってくれていた。顔が伏せられているので、怒っているのか笑っているのかの判別がつかない。
もしかして、俺と二人が嫌なんじゃなかろうか。十分ありうる話だ。何しろあの年頃のこときたら、思春期真っ盛り。父親をばい菌扱いして、お父さんの洗濯ものと自分の洗濯ものは別にしてほしいと言い出す子もいるとかいないとか。
いつだったか、15年位前だろう。どこかの酒場でたまたま隣になったおっさんが、そんなようなことを嘆いていた。あのおっさんはいくつくらいだったのだろう。30は行ってなかった気がするが……と考えてぞっとした。今の俺と同じくらいなんじゃないか。
もしも、彼女が俺をばい菌扱いしていたとしたらどうだろう。すぐにどうこうということはないと思いたいが、あの年頃の子は繊細だ。不満をため込み、脱退なんてことになったらどうしよう。
おそるおそる彼女に聞いてみる。
「なあアリアン嬢。リザさんはああ言っているが、もしも嫌なら別に」
「嫌じゃないです」
「え? でも……」
「私も、クリスさんに話したいことありましたから。ちょうどいいんですよ」
ペグを打ち付けながら、強い調子で少女が言う。
ていうか話したいことってなんだよ。まさか脱退とかじゃないだろうな。マジで勘弁してくれ。せっかくうまくいくようになってきたってのに。
彼女の能力に掘れたのが最初だったが、その後冒険を重ねるうちに、人柄にも魅力を感じるようになっていた。とはいえ、男女の間柄とかそういうのではない。何しろ年が違いすぎる。たとえるなら、親戚のおじさんだろうか。
そんな親戚のオジサンは、彼女の様子に若干気圧されながら、俺は骨組みに革をかけた。
「あー、じゃあ、その」
「そんなことより、早くテントを設営して、向こうを手伝いに行きましょう。食事の支度もしなければですよ。ほら早く。そっち持ってください」
言われて、ロープを握る。彼女は耳たぶだけを赤くしたまま、ロープのもう一つの端を器用にペグへと結び付けていた。
あたりはすでに暗い。カンテラの炎に誘われるように、虫が周りを飛んでいた。




