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「しかし、君たちが4人組になっているとはね。驚いたよ。しかも全員女性じゃないか。アリアンちゃんとの二人旅では不満だったのかい?」

「リザさん!」

「冗談だよ、冗談。本題に入ろう」


 リザ。メナが、テーブルの下で組んでいた脚を組み替えて笑う。

 

「3人連れているけど、誰が好みなんだい?」

「話変わってませんよ」


 半眼でつぶやいた俺の声に、面白そうにその身を揺らす。背中まで伸びた赤い髪が、彼女の笑い声に合わせて揺れた。

 いたずらっぽい光を湛えた真紅の瞳が、俺を射貫くように見ていた。S級パーティー『明けの明星』のリーダー、リザ・メナである。

 

 アリアン嬢の言う通り、帝都でも一番と名高い、この『ホテルププリン』のラウンジに、彼女たちはいた。一般客がいる場所ではなく、ラウンジの奥、壁で区切られたVIPルームの中であったが。

 

 彼女の後ろでは、別のテーブルに腰かけながらも、こちらに視線を送ってくる女性が3人。そのうち二人は知っている。

 透き通るような金色の髪と白い肌を持つ、淑やかな雰囲気を湛えた女性は、同じく『明けの明星』のメンバーである、シャルロット・ペンドラゴン。全てのスキルが全体攻撃という、破格の性能の持ち主である。

 その向かいに座っている、金色に近い赤の髪と、優しい鳶色の瞳をもつ大柄な女性が、同じく『明けの明星』のメンバーである、ドロシー・ディードリッヒ。接近戦のスペシャリストだ。彼女につかまれば、逃げる術はない。


 二人の奥にいる、小柄な女性は、知らない人だった。少し距離がある上、意識を集中させていないので俺のスキル『鑑定屋』は発動しない。

 『明けの明星』は、数か月前の魔王討伐の依頼に失敗し、その際にパーティーの回復担当であるファイ・プレストを失っていた。スキル構成はわからないが、彼女が新しいメンバーなのだろうか。


「ああ、紹介がまだだったね。彼女はうちの新しいメンバー、レズリー・ピディントンだ。テュルリランド王国は知っているかな?ここからだと船を使って一か月といったところにある国なんだが、彼女はそこのAランクパーティーに所属していたところを、私たちが引き抜いたんだ」


 リザに紹介され、レズリーが頭を下げて会釈をする。深い茶色の髪を頭の後ろの高い位置で縛っているため、挨拶に合わせて、まるで馬の尻尾のようにぴょこんと揺れた。

 瞳はアイスブルー。気の強そうな印象を受ける、猫のような目だった。


「レズリー・ピディントンよ。よろしく」


 差し出してきた手を握り返すと同時に、彼女のステータスが俺の頭の中に浮かぶ。

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レズリー・ピディントン【金属性】 レベル:35


攻撃:101 (光法大師の錫杖 +40 光属性)

防御:139 (不思議に軽い重鎧(ワンダーライト) +81 光属性ダメージ半減)

速度:59 (首狩り族の首輪 +20)

精度:68

抵抗:61

運:24



【スキル1】禁じられた遊び(フォビドゥンフルーツ)

敵一体に攻撃を行い、バフ効果が付与されている場合、最も効果の長い一つを解除する。


【スキル2】幸せな支配(ザ・ハウス)

敵全体に攻撃し、25%の確率で行動速度を減少させる。


【スキル3】人生やりなおし機リーインカーネーション

自分たちの状態を、戦闘開始時に戻す。このスキルは、一度の戦闘で一回しか使えない。

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 装備品は、ファイ・プレストが身に着けていたものだった。あれだけの装備だ。他のものでは替えが効かないのだろう。

 スキルは、『人生やりなおし機』が強烈だった。戦闘不能を含む全ての状態を、なかったことにできる。『明けの明星』が全滅に近い状態になっても、彼女さえ無事なら、またベストな状態で戦うことができる。一度の戦闘で一回しか使えないという制限がついているが、その一回で十分のはずだ。

 なるほど。彼女なら、ファイ・プレストの代わりを務めうるだろう。


「それで、何だっけ?ああそうそう、夜巨人(ナイトゴーレム)の宝石だっけ。売ってあげたいところだけど、手持ちあったかな。どう? シャルロット?」

「夜巨人の宝石なんか、とっくの昔にストック切れよ。使い道が恐ろしく狭いんだもの。必要じゃなきゃ取りにも行かないわ。確かリズが何年か前に、趣味で作らせた靴かなんかにはめ込んだのが最後ね」

「ああ、結局あの靴も使わなかったなあ。いやあれ、実験的な装備作ってもらおうとするとヤムヤム爺さんが怒るからーー」

 

 そこまで喋って、俺たちを置き去りにしたことに気が付き、リザがこちらに向き直る。


「ごめんごめん。そんなわけで、君たちに譲ることはできない……んだけど。……あ」


 ルビーのような真紅の瞳に、子供のような無垢な喜びの色が沸き上がる。にやり、というよりにんまり、そんな言葉がふさわしい笑顔を浮かべたリザ・メナを見て、ドロシーがため息をついた。


「リズがそんな顔するときは、大抵ろくなことにならないんだ。今度は何を思いついた? 怒ってやるから言ってみろ」


 リザ・メナが、ドロシーを向き、次いで俺たちの方に向き直る。いや、正確には俺たちじゃない。なぜかアリアン嬢を見ている。


「一緒に取りに行けばいいじゃないか。私たちが請けた依頼のサポートで、ついでに夜巨人を倒せばいい。確か、鉱山系の依頼があったな?」


 リザの言葉に、シャルロットが依頼書を取り出す。


「メインは蒼玉竜(サファイアドラゴン)の討伐ね。その周りでうろちょろしてるのが夜巨人。確かに、『黒いメンフクロウ』がサポートしてくれるのは心強いわね」

「何しろ、今や帝国のBランクパーティーの中でも屈指の実力と言われているからな。お前らと共に戦えるのなら、それは面白そうだ」


 ドロシーが同意する。Sランクパーティーにその実力を認められて、俺はなんだかくすぐったい気持ちになっていた。

 レズリーは何も言わない。


「勿論、サポートとはいえ、今回は二つのパーティーでの共闘だ。お互いの距離も相当近いものになるだろう。知りたくないかい? Sランクの連中がどういう戦い方をし、どういう風に作戦を立て、どういう風に依頼をこなし、どういうものを食べているのか。私たちと一緒にくれば、これがすべてわかる。どうだい? 本来は、講習としてお金をとってもいいくらいの内容じゃないかな?」

 

 確かにその通りだ。

 俺の喉が、ごくりと鳴るのがわかった。

 その様子を見て、リザ・メナが続ける。顔に笑みを湛えたまま。


「あとは、そうだな。君たちの依頼の請け方、というか、請けている最中の過ごし方を見て、もしも何か改善すべき点があればアドバイスもしようじゃないか。今までそんなことはしたことがないんだが、私たちにはキャリアがある。割と的を射た意見になると思うぞ?」


 なあ、と、メンバーの方を振り返りながらいう。先ほどまで「怒る」と言っていたドロシーも、なぜか笑いながら頷いていた。どういう心境の変化だろう。


 俺たちに、反対する意見などあろうはずもない。行きます、と答えようとしたとき、異を唱えたのは、ヴィクトリアだった。


「ちょっと待って! あたしは反対。今回はあたしの武器の為でしょう。ならいいわ。帰って、カムに短剣を作るよう言うから」

「おやおや。君は確か」

「元『奇跡の泉』のヴィクトリア・ノワールよ。あなたたちと会うのは、前回の魔王討伐戦以来ね」

「『奇跡の泉』か。いいパーティーだったよ。残念だ」


 リザが目を伏せる。


「それで、なんで反対を……ああ、いい。言わなくてもわかった。なるほどなるほど。」


 先ほどまで浮かべていた、いたずらっぽい瞳の色は、今や燃え上がる炎のようだった。反対に、ヴィクトリアは顔をそむける。こちらは瞳ではなく、耳たぶを真っ赤にしていた。なんなんだ。


「済まないが、今回は譲ってくれ。我々としても、大切な友人のために力になりたいし、それに」手元にあるカップを口元に持っていく。「見たところ、いまリードしているのは君だろう? 少しくらい後ろから後押ししても、それほど影響はないのではないかね?」


 リザの言葉に、耳だけでなく顔も真っ赤にして、ヴィクトリアが答える。


「『蟻の一穴』って知ってる? あなたのせいで、あたしの計画が狂うかもしれない。悪いけど、そこは譲れないわね」

「仕方ないな。それでは、君たちのリーダーに聞くとしよう。クリス君」

「はい」

「この依頼は、我々も結構長く抱えてしまっていてね。つまり手伝ってくれるととても助かる。そこでだ。これが達成された暁には、君たちのAランクへの昇格を推薦しようと思う」

「え?」

「ちょっと! それ汚いわよ!」

「勿論Aランクへの昇格は、国を動かすことになる物だから、すぐには決まらないかもしれない。だがその場合でも、Aランクの依頼を特例として請けられるように取り計らおう」


 ギルドには強いんだ、と言って笑う。


「さて。以上を踏まえて、この依頼を手伝ってくれるかどうか。君の返答を聞いてもいいかな?」


 アリアン嬢は期待に満ちた目で俺を見つめ、ヴィクトリアは反対に顔をしかめていた。彼女があんな顔をするなんて、何か罠があるのだろうか。だがしかし。

 断る理由など思いつかなかった。小さいころからあこがれ続けた冒険者が、俺たちを引きあげる手伝いをしようとしてくれている。これに「No」を言えるほど、俺は人生に絶望しちゃいない。


「やります。やらせてください」

「そう来なくちゃ」

「……もう! 知らない!」

 


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