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「これは素晴らしい! 綺麗に採れておりますぞ! いやはや、腕が鳴りますな!」
俺たちが剥いできた素材を前に、興奮を隠せない様子でカムが唸った。
今回の依頼では、イヅモの大活躍もあり、割と早いタイミングで既定の数の小飛竜を退治することが出来た。
山間の小さな村の近くに現れた小飛竜が、家畜を襲っていたのだ。群れを成して生活をする彼らは、放っておけば街を滅ぼすくらいの規模にまで成長することがある。
俺たちが到着したころには、すでに100頭近くにまで増えていた。
請けた依頼は、50頭の小飛竜を討伐する、というものだったが、ドライに依頼を達成したので帰ります、とは言いづらい雰囲気だった。中には、今年出荷しようとしていた牛を食べられてしまった人などもいる。これからどうやって暮らしていこう、と嘆く村人を前に、「依頼達成したんで帰りますわアハハ!」とは、どうしても言えなかった。
全て退治するのは骨が折れたが、おかげで良い素材が手に入ったと思う。100頭もの竜の素材だ、持ちきれない分はイヅモの背に乗せて帰ってきた。今は庭に置いてあるが、カムが使いきれない分については売ろうと考えている。
「イヅモの防具については、これだけあれば十分です。イメージはこんな感じを考えていますぞ。予算は、金貨50万枚といったところですかな」
「おお、やっぱいいな。是非このまま進めてくれ。金は振り込んでおくよ。請求書だけ出してくれ」
「合点承知でござる」
カムが出してきたイメージイラストは、イヅモの鱗がない、または薄い部分をしっかりとカバーするものだった。特に目のところがかっこいい。騎士の兜のようだ。戦ってるとき、目玉にかみつかれないか、爪を立てられないかめっちゃドキドキしちゃうもんな。これが完成すれば、そんな心配ともおさらばだ。金貨50万枚でこの安心が買えるのであれば安いもんさ。
「ヴィクトリア氏の短剣なのですが、こちらは少し相談させていただきたくてですな……」
「何か問題でも?」
「いえ、問題ではなく、逆に嬉しい悲鳴と言いますか。当初はこの」
と、机の上に置いてある牙を落ち上げて言う。
「小飛竜の牙を使用した短剣を作るつもりでいたのですが、クリスが持ち帰ってきた素材の中に、いつもより上質なものが混じっていたので、コイツを使って別の武器を作ることができる、と思った次第です」
「それは、作ろうと考えていた武器よりいいやつ?」
「リーディ氏。よくぞ聞いてくださった。拙者の頭の中では、作ろうとしていたより3段階は上の物ができております」
「すごいじゃないですか。じゃあ、それを作ってもらえば」
「ところがですな。この武器を完成させるには、小飛竜や今までに討伐した魔物の素材では足りないのでござる。Aランクの魔物『夜巨人の額に埋め込まれた宝石が必要になってしまうのです」
「じゃあ、当初の予定通り短剣を作りましょうよ。それでいいじゃない」
「拙者の美意識が、もはや間に合わせの武器と化した短剣など作りたくないと……! くっ、静まれ! 拙者の美意識!」
「面倒くせえな」
しかし困った。俺たち『黒いメンフクロウ』は現在Bランクである。Aランクの依頼は請けられない。そうなると、素材を買わなければいけないのだが、Aランク以上の素材が市場に出ることは滅多になかった。その希少さゆえ、高ランクパーティー同士のトレードに使われたりする。
高ランクパーティーかあ。そんな知り合いいたっけな……。
「クリスさん。ダメ元で『明けの明星』に聞いてみるのはどうでしょう」
アリアン嬢が、大真面目な顔で恐ろしいことをいう。
「そんな、Sランクパーティーを友達みたいに」
「友達ですよ」
「またまたご冗談を」
そういうと、アリアン嬢は頬をぷくっと膨らませた。小動物のようでかわいい。
「本当ですってば。こないだリザさん達とガールズトークもしたんです。すっごく盛り上がりましたよ」
「まて。今聞き逃せない言葉があったような」
「すっごく盛り上がり」
「ちがうその前。ガールズトーク?」
「はい」
「ガールズトークって、あの、女の子たちが恋の話とかキャピキャピしながらいうやつ?好きな男の子が被ったときに、先に宣言した方を応援しなきゃいけない謎のルールがある、あのガールズトーク?」
「どういった種類の偏見なのか謎ですが、まあ、そのガールズトークです」
「マジか……一体いつそんなイベントが開かれていたんだ……」
泣く子も黙る帝国最強のパーティー、『明けの明星』のメンバーが、そんなことをやっているとは。というかそのトークの内容が気になるわ。リザ・メナやシャルロット・ペンドラゴンが気になっている男? 誰なんだそいつは。
「最初に声かけられたときから、なんだか気に入られたみたいで。そのあともちょくちょく誘ってくれるんですよ」
「意外な交友関係」
「でも、先刻はギルドにいなかったじゃない」
「この時間は、『ホテルププリン』でゆっくりしてるはずですね。どうせ暇してるでしょうから、これから行ってみましょうよ」
「Sランクのパーティーのメンツに向かって、『暇してる』ってのも中々聞かない言葉だよな」
まあいいか、と、俺はアリアン嬢に頷いた。いなければいないで帰ってくればいいし、断られても次を考えればいいだけの話だ。俺が知っているAランク以上のパーティーは、あとマルデ王国の『夜の牙』か、『実に醜い鳥』しかない。
『夜の牙』も、Aランクに上がってからのキャリアが長いわけではなかった。夜巨人の素材自体を持っているかが不明である。というか、おそらくないんじゃないかな。
『実に醜い鳥』は、撤退戦のどさくさで一度言葉を交わしたくらいだ。彼らからすれば、何組も通った脱出組の一つ。記憶に残っているかすら怪しい。
「じゃあ、お願いしに行ってみるか」
「はい、もっとゆっくりクリスさんと話してみたいとおっしゃってましたし、ちょうどいいかと思います」
「俺と?何でだろう。目を付けられるようなことをした覚えがない」
「噂の彼を見てみたいんですって」
「何で噂になってるんだ?」
「どうせろくな事じゃないわよ。下品な野良猫に好かれているとか、そんなところじゃないの?」
ヴィクトリアが、不機嫌そうに鼻をひくつかせながら会話に入ってきた。アリアン嬢が舌打ちをして顔をそむける。なんだなんだ。
リーディは話に飽きたのか、自分のバッグから携帯ビスケットを取り出してぱくついていた。確かに退屈だよね。ごめんね。
カムは何か頷きながら、懸命にメモを取っていた。ヴィクトリアに舌打ちをするアリアン嬢を見て、何か心に響くものがあったらしい。
俺はため息を突くと、座っている椅子から立ち上がり、外へと向かうことにした。
「カム、とりあえず交渉してくるから、ヴィクトリアの短剣製作は少し待っててくれ」
「勿論ですぞ。先にイヅモや、その他手直しする武器防具を作りますので、こちらのことは気にせずに」
「ありがとう。それじゃ行ってくる。アリアン嬢、案内してくれ。ヴィクトリア、リーディ。一緒に行くぞ。4人になった『黒いメンフクロウ』のこと、彼女たちは知らないだろうからな」




