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 その後のコックスの仕事ぶりは、「完璧」の一言に尽きた。

 『詐術』スキルの力だろうか、ギルドの連中の中では、彼は優秀なリーダーであり、カリスマ性にあふれ、またその勢いにもかかわらず、謙虚で人当たりの良い、端的に言えばとても魅力的な男だった。

 汚れた格好で粗暴な言葉を吐き、受付嬢に絡む連中が多い中、こざっぱりとした格好で柔らかな対応を取る彼が評判にならないはずがない。最初にコックスの担当になったのは、おとなしめな雰囲気の、まだ年若いお嬢さんだったが、すっかり彼の虜となっていた。


 もちろん、彼女だけではない。一度でも彼の依頼達成報告を受けたもの、またそうでなくとも受付越しに彼を見たものは、なんとしてでもお近づきになりたいと思うようだ。

 またそれを、担当としてあの若いお嬢さんが食い止める。おとなしそうな雰囲気はどこへやら、押し合いへし合いの戦いだ。女って怖い。


 そんなわけで、ひたすら高ランクの依頼ばかりをサポートとして受け続けた彼のパーティー『失望なき人生』は、破竹の勢いでランクを上げていた。

 はたから見れば、依頼を確実に達成しランクを上げ、また受付嬢達にもモテモテと、貶すところが見つからない最高の男に見えるだろう。本人も、そんな自分を楽しんでいるようだった。


 イヅモのレベルアップも順調だった。3つだった首は、脱皮を繰り返し、今は5つになっている。もしかすると、今はもう俺たちよりも強いかもしれない。

 成長するにつれ、性格の変わるペットや家族の話を良く聞いたことがあったため、イヅモにそれが起きないかを心配していたのだが、杞憂だったようだ。

 頭が四つになろうが五つになろうが、俺を見ると可愛い声で鳴き、首を擦りつけてくる。最近では両手にほっぺたを使っても足りないので、両手の他、両頬と髪の毛にこすりつけるように誘導した。可愛くて仕方ない。

 思い出したら撫でたくなってきた。早く帰らなければ。


 足早に屋敷へと戻る。リッチを退治して以来、多少霧が晴れた気はするが、それでもやはりじめじめとした、人通りの少ない道。

 少ないっていうか、ここを通っているの俺たち以外に見たことないんだけど。


 俺は馬車の手綱を握り、御者台に座っていた。

 六人乗りの座席が付いた、もとは辻馬車だったそれは、俺たちが屋敷からギルドに通うために購入したものだった。馬1頭で引くタイプである。

 依頼を受けるためにギルドへと赴き、請けた依頼のために遠出する場合は馬車をギルド近くの厩に預けておくことができる。いちいち辻馬車で移動するのももったいないし、そもそもあまりあの場所に住んでいるということを知られたくない。そういう意味で、俺たちにちょうどいい馬車だった。


 後ろから、アリアン嬢とヴィクトリアの話し声が聞こえてくる。


「カーティスさんの言ってた、イヅモ用の素材って、今回の依頼で揃った感じですかね」

「小飛竜の牙をリクエストされていたから、今回ので全部よ。一通り揃えるのって大変だったわね」


 この3か月、ヴィクトリアの提案で、俺たちは基本的なレベルアップと、それぞれの武器防具に必要な素材を集めに奔走していた。俺たちも大変だったが、付き合ってくれたイヅモとコックス、そして武器防具を仕立てるカーティスはもっと大変だっただろう。


 アリアン嬢の武器と、ヴィクトリアの鎧、イヅモの武器防具を除く、俺たちの全ての装備品がカーティス作の物になっていた。アリアン嬢の武器だけは、毒の特性もあり、そのまま引き続き使用している。このランクの他の魔物では、今以上の性能が出せないためだ。


「拙者の……! 拙者の作品を、よりにもよってアリアンちゃんに使っていただけないとは! 己の実力不足が恨めしい……ッ‼」

「想像しなさい。そして精進するの。あなたの武器を手に持ったアリアンちゃんが、戦場を華麗に駆け巡る姿を……!」

「はぁはぁ。アリアンちゃんが、拙者のを、握る……?」

「慰め方と受け取り方、どっちもおかしくないですか?」


 ヴィクトリアの鎧とイヅモの武器防具一式は、単純に彼のスケジュールが、他のメンバーの装備の作成に充てられていたため、空いていなかったのと、素材が足りていなかったためだ。

 精力的に活動し、俺たち全員の装備の適性を見てくれ、それに合った武器や防具を作ってくれる。彼には感謝してもし足りない。

 そう、伝えたことがある。ひと月前の依頼を達成した時だ。大きなイカの姿をした魔物、クラーケンが相手だったのだが、船に乗って海に出ての戦い、慣れない足場に苦戦を強いられた。それだけに、討伐に成功したときの嬉しさもひとしお。

 その日、ギルドからまっすぐ帰宅し、そのまま倉庫にあった酒樽を空けて飲んだくれた。何事かと近寄ってきたカムに、酒の勢いも手伝って俺は本音をぶちまけた。いつも本当にありがとう、と。

 カムは驚いて目を丸くすると、少しして手を振り言った。


「よしてくださいクリス。拙者、今の状況が気に入っているのです。もう一度、こうして誰かのために何かを作る日が来るとは思っていなかった。悪くないものですぞ。自分の作ったものをあれかが大事に使ってくれるのを見るというのは」


 金払いもいいですしな、と言って笑った。


 後ろでは、すでに話題が変わっていた。今日のギルドで、気になることがあったらしい。

ヴィクトリアが、興奮したように喋っている。


「そういえば、ギルドの掲示板にニュースが載ってたんだけど、マルデ王国で、あの『探訪者たち(トラベラーズ)』が、また魔王を倒したんですって!」

「はー、またですか。さすがSランクですね」

「『探訪者たち』って、何?」

「そっか。リーディは知らないのよね。『探訪者たち』は、王国が誇るSランクパーティーの名前よ。リーダーのフレッド・カップスは世界最強と呼ばれているわ。今まで彼らが相手にしてきた魔王は全部で6体。あ、今回で7体目ね。その全てで勝利を収め、あの『明けの明星ウェヌス・ゲネトリクス』でさえ、彼らには敵わないと言われているの。まあ、人間界代表ってところね」

「1体でも世界を滅ぼすといわれている魔王を7体もですからね。ちょっと想像がつかないですね」


 なんとなく、盗み聞く格好になってしまっているのでばつが悪いが、俺は俺でその内容に思いを馳せていた。

 『夜の牙』時代に、『探訪者たち』は知っていた。といっても、当時からすでに雲の上の存在、会うどころか、遠くから姿を眺めることすらなかった。噂だけは聞いたことがある。メンバーは全員、20代半ばごろの若者なのだと。


 当時からあこがれてはいたが、また遠くに行ってしまったなあ。


 そういえば、『夜の牙』はどうなのだろうか。彼らがAランクに上がって以降、その消息はあまり耳にしていない。もしかすると、意識していないだけで、こっそりと避けているのかもしれなかった。じめじめしているな、俺。


「すごいわよね。で、彼らの次の依頼が決まりそうなんだってさ」

「Sランクパーティーが出るってことは、また魔王とか、そのクラスの相手ってことですか?」

「そう。マルデ王国のペロリ砦ってところがあるんだけど、こないだ魔族らしき連中の襲撃にあって、砦が落とされちゃったんだって。生き残った兵士の話によると、その中に魔王クラスのがいたらしいよ」

「マルデ王国も災難」

「で、まだ公になってないらしいから、これは秘密にしておいてね」


 ヴィクトリアが声を低くする。俺も、可能な限り首を後ろに伸ばした。頑張れ俺の耳。彼女たちの声を拾うんだ。


 かろうじて聞こえてきたのは、驚くべき一言だった。


「どうもね、その魔王ってのの特徴が、こないだ『明けの明星』が敗北した連中の一人と一致するらしいのよね」


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