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 しかしながら、不気味な館だよなあ。

 昼なお薄暗い、霧に包まれた洋館。その玄関に立ち、屋敷を見上げながら俺は思った。

 昨夜のうちに庭に運んできたイヅモは、今は丸くなって寝ているようだった。俺たちと一緒に怨霊を退治したいとアピールしてくれたのだが、今回は留守番だというと、拗ねてしまったのだ。後で何か美味しいエサをやることにしよう。

 

 今日も、屋敷のあちこちで怨霊が蠢いていた。先ほどは一階の右端にある部屋の窓に、突然血の手形が浮かび上がった。浮かび上がる、というより、手をガラスにたたきつけたような破裂音とともに出てきたモノで、おそらく怨霊が威嚇しているのだろう。

 うっかり飛び上がってしまったリーディが、顔を赤くしながら霊への復讐を誓っていた。

 

 それにしても、家を購入した翌日、そこに巣食う怨霊を退治しにいくなんぞ、なかなかしない苦労だぜ。そうぼやくと、アリアン嬢がそれに応えた。


「引っ越した後、家具入れる前に一回掃除しますもんね。しょうがないですよ」

「そんな一般的な人類の活動と一緒にしていいのかな」

「あいつら、許さない」


 リーディの目は怒りに燃えている。俺たちの前でうっかりと驚いた表情を見せてしまったことが、どうも彼女の中では許しがたいことだったようだ。

 現在は兜をわきに抱え、もう片方の手で大きめの戦槌を持っていた。戦槌は柄が1.5メートル程もあり、その先に重さ50キロはあろうかと言う巨大な金属の塊がついている。金属塊を下にし、順手で柄を握っているが、あまりの重量に地面に少しめり込んでいた。

 これらは、昨日のうちに購入したものである。店売りの中ではいいものを選んだつもりだが、やはりオーダーで作ってもらったものには敵わない。

 リーディのステータスは、現状以下のとおりである。


-----------------------------------------------------------------------------

リーディ・ヘイソォ【闇属性】 レベル:70


攻撃:175(正規支給戦槌 +24)

防御:150(士官全身鎧 +20)

速度:67

精度:82

抵抗:79

運:30



【スキル1】悪趣味な嗜虐(アリアスター)

敵一体に攻撃を行い、50%の確率で少しの間、出血状態にする。


【スキル2】手厚い病(シックネス)

敵1体に攻撃し、その後敵全体にデバフを少しの間ランダムに1~3個付与する。付与するデバフは、攻撃力低下、防御力低下、行動速度減少、精度減少、抵抗減少、出血、命中率減少の中から選ばれる。


【スキル3】咲き誇る花葬(テイクアウェイ)

少しの間、敵全員のアクティブおよびパッシブを封印する。

-----------------------------------------------------------------------------



「それにしても、中にいるのはどの程度の魔物なんだろうな」

「そこそこ強力だけど、あたしたちの手に負えない相手ではないと思うわ。理由は二つ。一つは、一般人しかターゲットに出来ないこと。あの後少し調べたけど、冒険者を相手に戦った記録は一つもない。もう一つは、この館から一切出てこないこと。何人もの魂を繰ったのなら、相当強力になっているはず。普通なら、さらに上質な魂を求めて行動範囲を広げそうなものだけど、それをしない。館の中でしか、つまり自分の有利な場所でしか戦えないことを認めているようなものよ」


 そんな引きこもり、余裕で蹴散らせるわと、彼女は笑った。

 ヴィクトリアも、職人による武器防具を身に着けていない。Cランクのころから、ずっと同じ装備で戦っていた。せめて防具だけでもカムに作ってもらいたい。帰ったら何とかならないか、聞いてみよう。

 彼女のステータスは以下のとおりである。


-----------------------------------------------------------------------------

ヴィクトリア・ノワール【金属性】 レベル:24


攻撃:65(狼牙短剣(ウルフナイフ) +17)

防御:67(|水蛙の胸当て +21)

速度:41

精度:39

抵抗:44

運:27



【スキル1】死出の旅路(ロケットダイブ)

敵一体に攻撃を行い、40%の確率で少しの間、出血状態にする。


【スキル2】約束された破滅(テンカウント)

敵一体を少しの間混乱状態にし、少しの後、爆発する爆弾を仕掛ける。


【スキル3】幸福論(アルベキミライ)

しばらくの間味方全体の速度を上昇させ、敵にバフ効果がかかっている場合はランダムで一つ取り除き、スキル再使用時間をほんの少し短縮する。

-----------------------------------------------------------------------------


 

「じゃあ皆、準備はいいな。ヴィクトリアが扉を蹴破ったら突入。あとは手筈通りで」


 このメンツの中では、ヴィクトリアが最も行動速度が遅い。そのため、突入の際に扉を破る役目は彼女に任せることにした。俺たちが中に入り、行動を起こした後、まずは『幸福論』を使用するために。

 鍵は持っているが、可能であれば不意を突きたい。そのため、強硬手段に出ることにした。後ほど扉の修理が必要になるだろうが、とりあえず今は考えないでおく。


 3人が頷く。俺が頷き返すと、ヴィクトリアが扉を力いっぱい蹴りつけた。蝶番ごと外れる音がして、扉が前方に倒れる。

 屋敷の中は暗く、前方にはカーブを描いた階段が左右にあるのが見えた。その奥、おそらく食堂につながる扉の前に、薄汚れたローブを纏った髑髏頭が佇んでいた。落ちくぼんだ眼窩の中にともる赤黒い光は、生あるもの全てを憎んでいるようだ。手に持ったロッドは、もとは名のある僧侶のものだったのだろうか。こちらの先には、薄汚れた宝石が嵌っていた。先端をズルズルと引きずりながら、ゆっくりとそれを構える。


 俺の『鑑定屋(エエモンモロタノウ)』が発動し、相手のステータスを確認する。


-----------------------------------------------------------------------------

リッチ レベル:39


攻撃:125

防御:102

速度:66

精度:68

抵抗:49

運:18



【スキル1】ゴーストタッチ

敵一体に攻撃を行い、与えたダメージの30%分、自分を回復する。


【スキル2】死霊の盆踊り(フィアーダンス)

敵全体に攻撃し、少しの間攻撃力を減少させ、恐怖で動けなくする。


【スキル3】捲土重来(カモンカムバック)(パッシブ)

自分の行動が開始されるタイミングで、50%の確率で自分のステータスの4分の3の能力を持つレッサーリッチを召喚する。このスキルは、レッサーリッチ3体が召喚されているときには発動しない。

-----------------------------------------------------------------------------


「リッチだ! パッシブで仲間を呼び、全体攻撃で攻撃力減少と行動阻害! 単体攻撃で与えたダメージの3割を回復!」


 まずは把握した情報を、端的に仲間に伝える。至近距離限定で発動するスキルを持っている敵や、毒や麻痺の危険がある敵がいる場合があり、最初に相手のスキルを全てばらすことで、その後の戦い方を柔軟に変えることができる。ヴィクトリアの発案だった。

 その彼女が俺の言葉に頷き、叫んだ。


「リーディ! やっちゃって!」


 リーディが蹴破られた扉を飛び越え、建物の中に駆け込み、戦槌を器用に回転させリッチに向ける。あの重い戦槌を、あれほど軽々と振り回すとは。彼女にかかれば、まるで木の棒だ。


「わかった! 狂い咲け! 『花葬』‼」


 リッチの体から、白い光が吸いだされ、その頭上で球状になっていく。人の頭ほどのサイズになったところで、それが弾けた。あれがスキルなのだろうか。

 リッチがロッドを高く掲げるが、何も起こらない。一瞬の後、リーディを直接ロッドで殴りつけに来る。スキルが発動しないことへの動揺を最小限に押さえたのは見事と言えた。

 胸のあたりを強打され、リーディが少しよろめく。

 その彼女の横をすり抜け、魔物の背後に回りながら、俺が叫ぶ。


「『組織暴力(アーリマン)』‼」


 相手の防御力が減少し、俺たちの攻撃力を上げる、俺のスキル。発動したという確かな手ごたえが返ってくる。

 俺とは反対側に駆けてきたアリアン嬢が、長槍斧(ハルバード)を掲げ声高に謳う。


「砕けて散らせ!『火樹銀華(ハナビ)』!」


 地面から猛烈な勢いで生えた、人間の胴ほどもある太い枝が何本も、驚くほどしなりながらリッチを打ち据える。吹き飛ばされたというより、地面に打ち付けられたリッチは、そのまま枝により地面に縫いつけられた。


 ゴースト系の魔物にもかかわらず、なぜ物理攻撃が通用するのかについては、俺の昔所属していたパーティー、『夜の牙』時代に調べたことがある。ものの本によると、こちらに悪意を持ち、武器を手に取った瞬間、その霊体は実体化しているそうだ。だから、向こうもこちらを殴れるし、こちらも向こうを殴ることができる。

 「喧嘩をするなら、五分五分の状態で」と神様が決めたのではないか、と、その本には書いてあった。なんて俗っぽい神様だ。

 

 最後に、ゆっくりと扉から入ってきたヴィクトリアが左の手のひらを正面に向け、宣言する。会心の笑みを浮かべながら。

「心よ逸れ!『幸福論(アルベキミライ)』!」


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