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「クランはですね、簡単に言えばパーティーの互助組織ですね。この世界はなぜか、戦闘の際最大の人数が4人対4人の8人に制限されています。ですが実際問題、魔物の中にはボス一引きとその取り巻き19匹といった状況がありまして、この場合は『ボスのパーティー』一組と『取り巻きのパーティー』4組、となっています」
アリアン嬢がジョッキを傾け、中身を飲み干した。その様子を、眩しそうにカーティスが見ている。眩しそうに、という表現が合っているのかどうかはわからないが、あの瞳のきらめきを表現する言葉を、俺は他に知らない。
「これに対抗するために、通常、冒険者側でも複数のパーティーで討伐に挑みます。これをレイドバトルと呼び、依頼を受けたパーティーの呼びかけでチームが組まれます」
「それがクラン?」
「いいえ。通常のレイドでは、依頼を受けたパーティーと利害関係のないパーティーが集まることになります。そのため、うまく連携が取れなかったり、もっと悪い場合では助けに入ったパーティーが暴走する可能性があったりと、リスクが高いんですよ。それを防ぐために、いくつかのチームであらかじめ同盟のようなものを組んでおきます。それが『クラン』ですね」
「ええっと……」
「まあ、気心の知れたパーティー同志で依頼に当たるためのシステムだと、ざっくり考えてください。ただ、通常はAランクやSランクのパーティーが盟主になることが多いですね。彼らが受ける依頼は高難度のものが多く、素材の品質に期待ができるからです。ですが、私たちはBランクですから、今クランを立ち上げてもそこまで効果があるかどうか……」
アリアン嬢が悩んでいると、横からヴィクトリアが口をはさんだ。
「そこは大丈夫。これは将来に向けた布石みたいなものだし、それに一緒にレイドに向かうのは、イヅモよ」
「イヅモが⁉」
「ええ。いずれあたしたちも大規模な討伐依頼を請けることになる。そのとき、あの子は力になるわ。レベルアップが必要だし、クランに加盟させるのと同時にあの子もパーティーを組んでもらい、冒険に出てもらうことにしましょう」
まあ、確かに一理ある。今はまだ幼生だが、ああ見えてもあいつSランクにカテゴライズされる魔物なのだ。味方ならこれほど心強いこともない。一つ難点があるが。
「でも、イヅモちゃん一人じゃ、依頼なんて請けられないですよ。どう見たって魔物ですし。個性と言い張るには少し無理があるかと」
そう。どうやってイヅモに依頼を請けさせるか、それが問題だった。残念ながら冒険者である俺たちは4人ですでにパーティーを組んでいるし、他に適当な人物は……。
ふと、カーティスを見る。彼はこちらの視線に気が付くと、大慌てで首を横に振った。
「拙者は無理ですぞ。槌より重いものを持ったことがありませんので」
「それで十分な気もするが」
「そんな殺生な!」
「安心して。あなたの貴重な才能は、冒険者みたいなつまらないところで消費させたりしないわ」
「ヴィクトリア氏! 拙者、信じておりましたぞ!」
「実を言うとね、イヅモのパートナーによさそうな人は、もう目星がついてるの。だから心配しなくていいわ。近いうちに、パーティー結成のお披露目とともに皆に紹介することになると思う」
ヴィクトリアが言う。すでに空になったジョッキを店員につき返して、お代わりを要求しながら。
それにしても目星がついているのか。誰なんだろう。『奇跡の泉』の生き残り二人のうち、どちらかだろうか。
「食事が終わったら、リーディの装備を整えましょ。カーティスが作るにも時間がかかるし、方向性だけ彼に見繕ってもらって、今回は店売りので間に合わせることにしましょう」
それを聞いて、カーティスの目が真剣なものに変わる。職人の目だ。
「見繕うだけなら、今でもできますぞ。リーディ殿、少し立っていただけますかな?」
「わかった。お願い」
ヴィクトリアがカーティスを連れて帰ってくるまで、リーディの武器は決めないでおこうと、事前に話していた。俺たちが武器を選んで変な癖がつくよりも、最初から向いている武器を取りまわした方が良いだろうという考えからだ。
言われるがまま立ち上がったリーディに頷き、カーティスは紙とペンを取り出した。そのまま、すごい勢いで何かを書いていく。数字のようだが、その意味は俺にはわからなかった。
「リーディ殿、もう少し腕を上げて……そうそう、その調子でござる。そこで軽く半回転……次に、腕を前で組みながらもう半回転……今度はそのまま一回転していただきたい……おお、上手でござる。インスピレーションが降ってきましたぞ!」
「思ったよりも、きちんとした仕事っぷりで驚きました」
カーティスを見ながらそう言ったのは、アリアン嬢だ。俺の横に椅子を持ってきながら、こそっと耳元でささやく。
「どんな仕事っぷりを想定してたんだ?」
「全身を舐めまわされるように見られたり、触れないギリギリのところを、薄皮一枚隔てる感じで手のひら動かしたりとか」
「なるほど」
『Yesロリータ、Noタッチ!』を標榜してるしなあ。
「でも、あんな感じなんですね。あれなら安心です」
「さすが一流と呼ばれる職人だよな。見てみろよ」
カーティスが、こちらが驚くほど真面目な表情で、数字に続いてデザイン画を書きつけていく。流麗な線で描かれたそれは、まるで一枚の絵画のようだった。こう見ると、武器はだいぶ細身だ。これは何だろう。
「……出来たでござる。リーディ殿には、戦槌がピッタリでしょうな。防具は、フルプレートの全身鎧を、少し体型に合わせて細身にしたものが良いでしょう。兜も、顔がしっかりと隠れるものを作りたいところでござる」
圧倒的な破壊力で敵を叩き潰す、全身鎧に兜をつけた、正体不明の冒険者。近寄ればおそらく魔王のように感じるでしょうな、とカーティスが笑った。
まあ、魔王だからなあ。
正体を知らぬまま、その本質に迫るとは。
彼はまぎれもなく超一級だった。
「じゃあ、この後、リーディの武器と防具を揃えに行きましょうか。カーティス、今日は宿に戻っていて。あたしたちは明日、あの館を住めるようにしてくるから。そしたら皆で引っ越し作業をしましょう」
「承知しましたぞ。いかな拙者が愛で武器を作るとはいえ、先立つものがなければ食べることも出来ませんからな。早く地に足をつけて生きたいものです」
「あ、私たちと一緒に住むんですね」
アリアン嬢が、隠し切れない嫌悪感を滲ませながら言う。まあ気持ちはわからんでもない。
「大丈夫よアリアンちゃん。お風呂は勿論別だから。これからのあたしたちのことを考えると、クランに近いところに職人がいてくれるってのは重要なことなのよ。ギルドや商人に見せるより、よっぽど正確に素材の判断をしてくれるわ。それに、作りたい装備に必要なもののアドバイスもね」
「お風呂が別なのはホッとしましたが、あの館にお風呂が一つしかなかったらどうするんですか?」
「庭に噴水があったじゃない。あそこで浴びてもらうわ」
「オウフ、ヴィクトリア氏。さすがに拙者でも、そんな水垢離みたいなことは」
「じゃあ安心ですね」
「アリアンちゃん⁉」
さて、と言いながら、ヴィクトリアが立ち上がる。今日の分の会計は俺持ちだ。伝票に書かれた金額に多少驚きながら、カバンから金貨と銀貨を取り出す。いや、これだけ食べてこの金額なら安いわ。美味かったし。
ご馳走様、と言いながら、店を出ようとしていたカーティスに声をかける。元Aランクの専属職人が、昇り調子とは言えBランクのパーティーに来てくれたのだ。感謝しかない。
「カーティスさん、これからよろしくお願いします。俺たちと契約したこと、後悔は刺せません」
「頼もしいですな。期待しておりますぞ。それと、これからは気軽にカム、と呼んでくださって構いません。ダイナモ氏もそうでしたが、拙者仲良くなった方は、皆そう読んでくださるので。勿論敬語もいりませんぞ」
「ありがとう。俺のことも、クリスと呼んでくれたら嬉しい。それではカム、これからもよろしく」
「こちらこそ。末永くお願いしますぞ、クリス」
俺とカムは固く握手をする。
明日、あの館の怨霊を退治に行く。勝利した暁には、またここで分厚く切ったステーキを食べよう。今度は10センチに挑戦だ。




