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「カーティスさんと契約が結べたこと、それに私たちの家が決まったこと、どちらもめでたいことだし、お祝いしましょうよ!」
「いいですね! 私、こないだものすごく分厚く切ってくれるステーキ屋さんを見つけたんですよ! せっかくだし、豪勢なものを食べましょう! ねっ、クリスさん?」
「いいんじゃないか。ちょうど腹も減ってたことだしな」
「私は大盛りにしようと思う」
「拙者、こう見えてレアが大好きでしてな。肉も女性も、火が通る前の初々しいころが一番……」
「言わせねえよ⁉」
プリン帝国、帝都プルリン。
コックスとともに、一旦帝都へと戻った俺たちは、金貨1000万枚を引き出してそのまま売買契約を締結した。自業自得なので同情する気にもなれない。悪いことってできないもんだよな。
不動産屋を出て、帝都のメインストリートに戻る。道の端にある屋台から、肉の焼けるいい香りがしていた。
カーティスは、巨体を揺らし、汗を吹き出しながらもついてきてくれている。趣味嗜好はあれだが、基本いいやつなんだよな。
アリアン嬢を先頭にしばらく歩くと、メインの通りから一本入ったところに、大きな肉の形をした看板を掲げている店が目に入った。『肉の林』というらしい。
時刻的にはお昼を少し過ぎているのだが、割とお客さんが入っていた。
店に入り、店員に5名、と伝えると、待たされることなく奥の席に案内された。片方が店の壁に備え付けられた木製のソファ、テーブルをはさんでもう片方が2脚の椅子という席。ていうかここ、多分4人掛けの席だよね。
アリアン嬢、ヴィクトリア、リーディの三人は、迷うことなくソファ側に詰めて座った。うん、まあ体の大きさ的にはそうなるよね。椅子を引いて、カーティスと二人で座る。
メニューはいたってシンプルで、料理長がその日選んできた最高の肉を、一体どのくらいの厚さで食べるかを決めるだけだった。あとは飲み物。付け合わせにはパンが無料でつくらしい。潔くて好きだわ、こういうの。
また最高級とはいっても、値段と品質を両方天秤に乗せたうえでの最高級だ。目の玉が飛び出るほどの価格かといえばそんなことはなく、俺はひそかにこの店を気に入り始めていた。
「あたしは厚さ6センチにしようかしら」
「ここ、一番薄くても厚さ4センチからなんですね……。想像以上でした」
「食べきれそうか?無理しなくても」
「私は8センチでいきます」
「4センチでの葛藤は何だったの?」
各々が、自分の食べたい厚さを決めていく。一番分厚いサイズを指定したのは、リーディで12センチだった。すげえ。
注文を終え、最初に飲み物が運ばれてくる。
木製のジョッキの取っ手を握ると、ヴィクトリアが笑顔で喋りだした。
「それじゃ、『黒いメンフクロウ』のリーダー、クリスから一言!」
「よっ、リーダー!」
合いの手を入れたのはリーディだった。どこで覚えてくるの、そういうの。
俺は咳ばらいをすると、立ち上がり皆を見渡す。
「えー、本日はお日柄もよく……」
「結婚式じゃないんですよ!」
アリアン嬢が笑いながらツッコんでくる。
「カーティスさん、我々との契約を決めてくれて、本当にありがとうございます。後悔させないよう、パーティーとしてさらに精進してまいります」
「オウフ。堅苦しい挨拶は抜きで結構ですぞ。拙者も、こんなに近くで天使を愛でられるという役得がありますゆえ。いえいえ、だからと言って他の皆様の武器防具に手を抜くなんてことはいたしませんのでご安心を。拙者こう見えて、やるときはやる男でして」
デュフフフ、と笑う。
反対に笑顔が消えているのがアリアン嬢だ。見たことがないくらいの無表情になっている。大丈夫かな……。
「それと、家もなんとか決まった。済むにはまだ、いろいろと問題はあるけど……。まあでも、俺たち冒険者だからな。何とかなるだろ。ありがとうな、ヴィクトリア」
「お礼を言われるのって気持ちいわね。いいのよ? もっと感謝してくれても」
「欲張りは、心の毒ですよ? ヴィクトリアさん」
「アリアンちゃん、感謝は心の洗濯なの。だから何の問題もないわ。でも大変よね? 心の洗濯もしてもらえない人って」
「ぐぅっ!」
「お腹空いた」
「青い果実の懸命な訴え、拙者の心に瓶瓶と響きますぞ……!」
これ、誰も俺の話を聞いてないんじゃなかろうか。
少しそんな不安を覚えたが、とりあえず続ける。
「カーティスさんも来てくれて、家も決まった。あとは俺たちが昇り詰めるだけだ。皆、これからもよろしく頼む」
「任せてください」
「当たり前でしょ」
「精一杯やる」
「拙者も参加していいのですか? おお、こんな風に杯を傾けられる日が来るとは……! 初めてのことに、ドキドキが止まりません……!」
「初めてなのか……。まあ、力を抜いてください。それじゃ、皆」
ジョッキを高く掲げると、言う。
「乾杯!」
「乾杯!」
そのタイミングを待っていたかのように、熱々のステーキが運ばれてきた。すごい、と思って厨房を見ると、ひときわ高いコック帽を被った女性が、こちらを見てウィンクした。なんという素晴らしいサービス精神。絶対また来よう。
運ばれてきた肉の塊も、想像を超えてきた。厚さと言うのは、自分の思っている数字よりも迫力がある。俺は8センチで頼んだのだが、まるで岩のようだった。リーディに至っては、もはや小山といって差支えのないレベルである。
ナイフとフォークを手に取り、小さくしてから口へ運ぶと、まず思ったよりも柔らかめの触感に驚かされる。中がうまい具合にレアになっているためだろう。肉自身のうまみと、日の香ばしさと、脂の甘味が同時に口の中で暴れまわる。これは美味い。
誰もが無言で食べ進める。最初に出てきたときは「食べきれないかもしれない」と思ったが、意外なほどぺろりと平らげてしまった。
「明日は、屋敷の幽霊退治か?」
「まあそうなるわね。それと、今夜のうちにイヅモをあそこの敷地に移すわよ。早い方がいいでしょ」
「イヅモ、喜ぶと思う」
「まあ、あそこなら、誰か来ても、イヅモに食べてもらえばいいですしね」
「不穏すぎるがベストな解決法」
屋敷の怨霊をイヅモに相手させてもいいのでは、という意見も出たが、家が滅茶苦茶になるという理由で却下となった。
また、怨霊が残した素材はできるだけ持ち帰ってほしいとのリクエストがカーティスからあった。ギルドに依頼が出ていないのでわからないが、150年モノの怨霊となると、それなりのランクである可能性が高く、その素材は毒などの追加効果を強化する働きがあるかもしれないということだった。
「本当は、劇毒の毒袋があるとはかどるのですが、あれはAランクの魔物しか持っていないですからな……」
残念そうに言う天才職人に、うちの頭脳が笑いかける。
「すぐにAランクに上がってみせるわ。あたしたちにふさわしい武器や防具を考えておいて」
「お任せください。とびっきりのやつが、実はすでに頭の中にあるでござる。ただ、素材の方がちょいと難航しそうでして、しばらくはあり合わせのモノで作るしかなさそうなのが歯がゆいですが」
「ま、その辺はおいおい考えていくとしましょ。それとクリス」
「なんだ?」
「あそこの館を拠点に、クランを設立するわ。書類の準備をよろしくね」
「クラン……て何?」
不思議そうに尋ねるリーディ。クランが何かを知っている俺も、ヴィクトリアのその提案は理解できなかった。通常、クランはAランクやSランクのパーティーが作るものであり、Bランク上がりたてほやほやの俺たちが作るものではない。
「それじゃ、説明しますよ」
そう言って、アリアン嬢がにっこりと笑った。




