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「いやあ、こうして皆様を前にすると緊張しますな! 僕、いや拙者はカム・カーティスと申すものでござる! 一つよろしく! なんつって! ナハナハ!」
これはキツイぞ。
『詐術』のスキルを持つ悪徳不動産屋、ゼネス・コックス。彼が持ちかけてきた物件を見に行くための辻馬車の中で、俺は一人そう思っていた。
Aランクパーティー『女神の前髪』の専属職人だった男、カム・カーティス。
Sランクパーティーにもその能力を認められた、伝説の武器職人の想定以上の存在感に、俺たちは正直面食らっていた。
ていうかリーディ、なんで拳を握りしめてるの? ダメだよ? 君の力で殴ったら死んじゃうよ?
馬車は8人掛けのもので、左右に4席ずつあるタイプだったが、カーティスが一人で二席分を占めていた。彼から放たれる熱気と湿気にやられ、隣に座ったコックスがしおれているように見える。これはヴィクトリアによるプレッシャーも大きいのだろうが。
当のヴィクトリアは、テンションの上がったカーティスの喋りを、ニコニコしながら聞いていた。カーティスはアリアン嬢を痛く気に入ったらしく、先ほどから彼女の美しさや可憐さを褒め讃えている。
出会いがしらからすごかったもんな。彼女を見るなり、いきなりエンジン全開だもん。
「き、君がアリアンちゃん?……ハァハァ。最高ですぞヴィクトリア氏! 僕のインスピレーションが天を衝きますぞ! こんなことって、今までなかった!どうしよう、アイデアがあふれて止まらないでござる!」
「そういってもらえると、紹介した甲斐があったわ。ね? 言った通りでしょう?」
「確かに! 今この瞬間しか出せない、少女と女性の危ういアンバランスさ……。ああ、早く! 早く彼女に似合う武器を作りたい! この天使が! いつまでも天使でいられるような、そんな武器を! 防具を! 作らせてください! お願いします! いやあ、復帰してよかったでござる!」
ヴィクトリアが一体何を言ったのかは知らないが、可哀相なのはアリアン嬢だ。圧倒的な質量と剣幕に押され、見たことのない顔をしている。ていうかちょっと涙目じゃん。気の毒に……。
「『女神の前髪』のダイナモ氏とは、同じ志を抱く同志だったのです。彼が死んだとき、もうこの世に分かり合える友なんていないと思っていた……でも、そこにヴィクトリア氏が現れたってわけでござる! そして今! ついに天使が目の前に! ヴィクトリア氏、本当にありがとうでござる! 貴殿は約束を守るお人であった!」
「お安い御用よ」
「私を生贄にしたんですか! ヴィクトリアさん! こっちを向いてください! そんな口笛なんか吹いてもごまかされませんからね!」
なるほど、隠居生活と言っていたのは単純に引きこもっていただけのようだ。
ひとしきりアリアン嬢を賛美する麗句を並べたところで、少し声のトーンを落とす。
「あ、もしかして僕のこと変態って思ったでござるか? わかります、わかりますぞ、僕を見た人はなぜか皆そういうんでござる。でもご安心をば、『イエスロリータ、ノータッチ!』が僕の信条であるゆえ。コポォ」
「なぜでしょう……昔自分も口にしたことがあるはずの言葉なのに、滅茶苦茶不穏な響きがします……」
こちらを見ながらアリアン嬢。蜂蜜色の瞳には、こぼれんばかりに涙の膜が張っていた。シャボン玉の液みたいだな、と、全く場違いなことを思う。
「元々僕、いや拙者は、彼女みたいな子がドストライクでして」
ドストライク、と言われた瞬間、アリアン嬢が大きくびくっと震えた。
というか拙者って、別にかっこよくないんだけど、わざわざ言い直すことなんだろうか。
「もちろん、少女のうちは手を出したりはしませんぞ。その子が様々な経験とともに大人になったとき、今まで影からサポートしていた僕が、これからは直接支えたい、そう言いながら現れるってわけでござるデュフフフ」
「でも、その子があなたのことを好きかどうかはわからない」
リーディがいうと、カーティスは我が意を得たとばかりに大きくうなずいた。
「そこでござる! 20年以上前ですかな、当時も今のアリアンちゃんみたいな子がいたのですが、その子のために一所懸命作った武器を、ギルドに売られてしまいまして。きっと自分が使うより、誰かの役に立てばと思ってそうしたんだでしょうが……彼女、優しすぎるところがありまして……デュフフ」
それは『シンプルに避けられただけだ』と思ったが、本人的には違うフィルターがかかっているらしい。眉を寄せ、こぶしを握りながら続ける。
「何の間違いか、『猛る栄光』の連中が褒めたせいで悪目立ちしてしまいましたが。元々僕の武器は、そう!」
顔を斜め45度に傾け、アリアン嬢にウインクをしながら。
「愛、で出来てるのでござる」
少女が、明らかに助けを求める顔でこちらを見ている。これ、何かの犯罪に問えないのかなあ、俺が馬車内の熱気で呆けた頭でそんなことを考えていると、ヴィクトリアがふふんと笑った。
「任せておきなさい。このあたしの頭脳があれば、いつの日か必ずアリアンちゃんを幸せにしてあげることができるわ」
「おう、ヴィクトリア氏! なんと心強い」
「ふぁっ⁉」
素っ頓狂な声を上げたのはアリアン嬢だ。それはそうだろう。まさかヴィクトリアがそちら側につくとは。俺も驚いた。
「あら、何を驚いているのかしら? 少女の無垢な成長を願い、その手を取って導きたいと願う、その心のなんとピュアなこと! 応援したくなって当然でしょ?」
ピュア、かなあ……?
アリアン嬢はちらりとこちらに目線を向けると、言う。
「……何をしたって無駄ですよ。私、心に決めた人がいますので」
そっかあ。アリアン嬢は心に決めた人がいるのか。まあそんなお年頃だもんね。おじさんとしては是非幸せになってほしい。彼女は大事な仲間だ。
カーティスはしかし、彼女の独白を意に介さない。
「この年頃の少女が抱える青い想いよ。尊さがマッハですな。こうした心の機微が良き肥料となり、いつの日か収穫の時を迎えるのですぞ」
「あたしに任せてくれれば、最短で40年、最長でも65年で収穫させてみせるわ」
「遠くない⁉ 大分先だよねそれ!」
「負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと信じぬくこと。それが大事」
「リーディ、俺それ、どっかで聞いたような気がする!」
ちなみにコックスはこの間、一言も喋らず、カーティスの熱気を受け続けていた。この人大丈夫なのだろうか。
アリアン嬢はため息をつくと、今度はきちんと俺の方を向いて口を開いた。
「ま、Sランクになるまでは色恋沙汰なんて遠い話ですよ。ですよねクリスさん?」
「お? おお。まあな」
なぜ彼女がそこで俺に振ってくるのかは不明だが、今彼女に抜けられても困る。俺は頷いておいた。
リーディが、懐中時計を見ながらいう。
「もうすぐ30分。おうち、どこ……?」
「地図だとこの辺ね。あっ、あそこかしら」
馬車の窓、その向こう。
彼女が指さした先に、ぼんやりと洋館が見えた。




