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「それじゃ、リーディのスキル『咲き誇る花葬』は、敵全体のアクティブスキルとパッシブスキルを封印する、で間違いないのね」
「ああ、そうなってる」
「それで、『手厚い病』が敵一体への攻撃と、その後敵全体にランダムでのデバフばらまき、『悪趣味な嗜虐』が50%での出血状態付与ね」
「そう」
ヴィクトリアの問いに、俺とリーディが応える。
焚火が、小さく音を立てて爆ぜた。
夕食は干した熊の肉を煮込んで柔らかく戻したものだった。少し離れたところで、イヅモもエサを食べていた。結構な量の干し肉を、その巨体に似合わずチビチビ食べている。可愛い。
空になった皿に、お代わりをよそいながら、リーディがおずおずと聞く。
「……やっぱり、使えない?」
また小さく爆ぜる焚火。
俺もアリアン嬢も、何も言わない。ヴィクトリアが、俺たちの能力を最も引き出せるのはわかっている。だから、余計な口を出したくない。
俺自身、リーディのスキルはすごいんじゃないかとは思っているが、それをどのように活かせばよいのかまでは思いついていない。
もしもあまり使えないスキルであっても、できればあまり傷つけないように伝えてほしい、とも思った。彼女はすでに一度、仲間だと思っていた連中からひどい言葉をかけられている。二度もそんな思いを味わってほしくなかった。ヴィクトリアなら、そこも考えてくれているだろうが、と、祈るような思いで亜麻色の髪の乙女を見る。
「そうね。正直言わせてもらえば」
ヴィクトリアが口を開いた。知らず、息をのんでしまう。
ざわ、と、木々が風に揺れた。
「私が当初理想としていたのは、全体に行動阻害を与えるスキルを持つような冒険者だった。クリスの『組織暴力』による味方への攻撃力強化と敵への防御力弱体化、それにアリアンちゃんの『火樹銀華』での行動阻害、あたしの『幸福論』で味方の行動速度を上げて、クリスの行動速度減少、アリアンちゃんの打撃、あたしの『約束された破滅』での攻撃……と続いていく流れの中、もう一度行動阻害ができれば、一度も敵から攻撃されずに戦うことが可能だと思ったからよ。だから、そういう意味ではリーディのスキル構成は、全く理想のプランに嵌ってない」
手元のカップに入った水を飲むと、続ける。リーディをまっすぐ見つめながら。
「……でも、それは間違ってたの。あたしが想像できなかっただけで、こんなに素晴らしいスキルがあるなんて。リーディ、あなたのスキルは屑スキルなんかじゃない。他の誰にもあなたほどの力を発揮することはできないといってもいい。最高よ。あなたがいればあたし達がSランクに上がる確率は100%だわ」
「100か。そりゃすごい」
「そんなにすごいんですか? 封印スキルって」
「すごいなんてもんじゃないわ」
興奮して、ヴィクトリアがまくしたてる。彼女は今や、立ち上がらんばかりの勢いだった。手に持っていたカップに残っていた水は少なかったはずだが、そのあまりの勢いに、中から水が飛び出してくる。
「クリスの『組織暴力』もバフデバフとしてはこの世界の最高峰の一つだと思うけど、彼女のスキルはまた別の角度でのこの世界の最高峰なの。何てことかしら。あたしとしたことが、こんなすごいスキルの可能性を考えなかったなんて。彼女のスキルのすごいところは、どんなスキルであっても、それを『なかったこと』にできるところなのよ」
呆気に取られている俺とアリアン嬢とリーディ。その表情が不満だったのだろうか、彼女はついに立ち上がり、大きく手を振りながら言う。
「ああ、つまりね。例えば今、あたしたち『黒いメンフクロウ』の生命線になっている、アリアンちゃんの先制攻撃『火樹銀華』、あれも使えなくなるし、何ならパッシブの『クリティカル率50%上昇』も消されてしまうから、そもそも行動阻害も使えなくなる。神が定めた、スキルを使用して戦うこの世界において、それを消されるってことは、死んでいるのに等しいわ」
「つまり、こういうことか。Sランクパーティー『明けの明星』のリザ・メナは、一度死んでも復活できるパッシブスキルを持っている。でもそれも」
「復活できなくなるわね。勿論、他のメンバーのスキルも使えなくなるから、向こうの攻撃はただの直接攻撃よ。そんなの、そこら辺の魔物よりも対処がたやすいわ。だからすごいのよ。リーディ、よくぞあたしたちと一緒に来てくれたわ。ああ素敵!」
おずおずと、リーディがいう。
「私、役立たずじゃないの……?」
「役立たずだなんてとんでもない! そいつらも、あなたを敵に回せば思い知るわ。追放だなんて、いかに愚かな行動を取ったかってことをね。あなたを止めたければ、あなたより先にその行動を阻害するしかない。でも、そんなことあたしがさせると思う?」
高笑いしながら、ヴィクトリアがリーディの手を取った。そして、ぶんぶんと上下に振る。彼女の身体ごと振り回しかねない勢いだ。
「リーディ、あなたは誰よりも早く行動を起こせるようにするの。そして、戦闘開幕直後、『咲き誇る花葬』を発動する。それが、どれほどあたしたちを楽にしてくれることか」
「『手厚い病』もえげつないですよね。攻撃こそ単体でしたけど、その後の全体へのデバフばらまきが。運が悪いと3個もついちゃうんですもんね」
自分がやられた時のことを想像したのか、顔をしかめながらアリアン嬢が言う。確かに、ランダムとはいえ、全体にデバフをばらまけるのは大きい。
「1つでも嫌なのに、3つもつけられたらたまらないわよね。付与できるデバフは何だって言ったっけ?」
「攻撃力低下、防御力低下、行動速度減少、精度減少、抵抗減少、出血、命中率減少のどれかだな」
「行動阻害系は入っていないけど、まあ、能力減少がデバフだからね。どれがヒットしても相手が困ることは間違いないし、アリアンちゃんの言う通り、これはいやらしいわね」
少し離れたところで、イヅモが眠そうに声を上げた。いつの間にか、干し肉が空になっている。後で撫でに行ってやろう。
「明日は、俺とヴィクトリアで依頼達成の報告をしてくるから、少しの間アリアン嬢と待っててくれ。報告を終えたら、すぐに戻ってくる。そしたら、飛空艇を予約して帰国だ」
「カム・カーティスとの契約手続きもあるから、あたしはそのあとも少しこっちに残るわ。彼を帝国に連れ帰ってこなくちゃ」
「あの公主と姫が、そう簡単に国から出すかな?大した職人なんだろ?」
俺がそういうと、ヴィクトリアがにやりと笑った。
「だから、そこは口八丁。で、あたしが適任ってわけ。それよりもクリス、あたしが帰るまでに、ちゃんと新しい我が家を決めておいてよ」
「おう。任せとけ。ちょっと交通の便が悪いところにはなると思うが、まあそこは勘弁してくれ」
Cランクで大活躍したといっても、そこまで大金持ちになったというわけではない。『夜の牙』時代の貯金を取り崩しても、ローンを組まねばならないだろう。イヅモの小屋も建てなくてはならないし。
また焚火が爆ぜた。




