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「ねえ、大丈夫なの?魔王とパーティーを組むなんて。あたし知らないわよ、どうなっても。ギルドの至上命題が魔王を倒すことなのに、まさかのご本人登場でしょ。バレたらただじゃすまない気がするけど」
「大丈夫だろ。言われなきゃ魔王だなんてわからねえよ。普通の女の子じゃん。ヴィクトリアだって、最初はわからなかっただろ。平気平気」
「いや、そりゃ確かにわからなかったけど」
「だいたい、魔王の証明なんてできっこないんだから。楽勝だよ楽勝」
「あなたって、時々驚くほど大胆よね」
間もなく出口の第一階層。俺たちは来た道を戻っていた。暗闇に包まれているとはいえ、一度通ったことがあるというのはでかい。行きにかかった時間の5分の1もかからず、俺たちは地上に出ようとしていた。
ここが、数千人を擁する鉱山で本当に良かった。後ろをついてくる八俣遠呂知を見ながら思う。ここは大勢が行き交い、そのため道幅が広い。彼の体躯でも進むことができた。
希少な鉱物に多いのだが、ごく小規模な鉱山では、しゃがみながら進まなくてはならないことも多い。人間でそうなのだから、もしも彼がそんなところにいたら、動くことすらできなかっただろう。
そうこうしている間に、梯子が見えてくる。これが、地上につながる出口だ。登ればあの大男がいることだろう。時間が時間であれば、もしかしたら寝ているかもしれない。なにしろ鉱山内は暗く、時間の感覚がないのだ。帰りはスイスイ来れたが、行きは相当かかったはずだ。今が何時なのかもわからない。
確か、どこかの国に、時間を示す道具が売っていたはずだ。今度は絶対それを買いに行こう。Bランクの魔物討伐の報奨金であれば買えるだろうきっと。
カンテラを高く掲げる。梯子の先は、木の扉で蓋をされていた。
「お、ここを登れば鉱山の入り口か。ここから先は、死んだフリをしてもらわなきゃ行けないからな。ちょっと大変だけど、頼むぞ」
竜の魔物を見ながら言うと、三つの頭がそれぞれ上下に動きながら鳴いた。
「ゴアフッ」
「『任せて』、って言ってる」
「今のは、あたしにもそう聞こえたわ。不思議ね……」
「私もそう聞こえました。魔物と会話なんて、これもしかしたら世界初の快挙じゃないですかね」
「俺もそう聞こえたよ。仲良くできそうで良かった。それじゃあ、先に上がるから、縛っておいてくれ。皆で持ち上げなければいけないからな」
言いながら、梯子を登っていく。木の蓋を外すと、あたりは暗くなりかけているころだった。鉱山と外を隔てる扉は開いている。ということは、管理事務所か何かにあの大男たちがいるのだろうか。
遠くの空に太陽が沈みかけ、そのおかげであたりが黒、紫、赤のグラデーションとなっていた。山の中腹に鉱山があることもあり、周りの景色はものすごく美しかった。
蓋を横に置き、下を見ると、今まさに彼を縛っているところだった。そのまま一度梯子を下り、八俣遠呂知を縛るのを手伝う。おとなしくされるがままの彼。なんていい子なんだ。
思わず首筋を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
「この子、名前をつけてやろうぜ」
「ゴフッ」
「『嬉しい』、って言ってる。そんなこと言われたことないって」
「それはそうでしょうね」
「いいじゃないですか。私、名前つけるの賛成です!こんなのはどうでしょう」
「どんなの?」
「八俣遠呂知ですから、隣のヤマダくん、とかどうでしょう」
「却下」
見ろ彼の顔を。しかめっ面になっちゃってるじゃないか!
ヴィクトリアが、すっと手を上げる。
「あたしも、ペット買うならつけようと思ってた名前があるの」
「お、ヴィクトリア行ってみようか」
「アレクサンドリア、とかどうかしら」
「お、悪くないんじゃないか。なかなかかっこいい感じもするし」
「本当⁉ ありがとう! 実は、うんと小さいときに飼おうと思っていた犬の名前なの」
「飼おうと、思っていた……?」
「うん、でも、親に反対されて……。そうこうしてるうちに、病気になって死んじゃって……。だから、もしもう一度ペットを飼うことがあれば、絶対にアレクサンドリアってつけようって……」
「却下。重すぎるわ」
涙ぐむヴィクトリアと対照的にドン引きの4人。いや3人と一匹か。もうこれは、リーディに期待するしかない。頼んだリーディ!
俺の視線を感じ、リーディが頷く。
「コウゾウ、とか、どうかな……?」
「……誰?」
今度はリーディ以外の4人が眉をしかめる。コウゾウって誰? なぜかおじいちゃんの絵面しか浮かんでこないんだが。ホラ、八俣遠呂知も何とも言えない表情をしているじゃん。なんかないのかな、いい名前。
「イヅモ、とかどうだ?」
魔物と目をあわせた瞬間に、ふと思いついたフレーズを口に出した。アリアン嬢たち3人はポカンとしている。竜の姿をしている彼だけが、その響きに目を輝かせた。
「ゴァッ! ゴァッ!」
「『イヅモがいい、気に入った』って」
「信じられないです……隣のヤマダ君よりもですか⁉」
「まあそれはそうでしょうけど……わかったわ、アレクサンドリア。これからよろしくね」
「どさくさに紛れて何押し込んでんだお前」
イヅモを縛り上げると、先にアリアン嬢とヴィクトリアが梯子を上がり、上からロープを引っ張った。俺とリーディで下から押し上げる。イヅモの体重はおよそ500キロくらいだろうか。俺一人では無理だったろうが、リーディが押し上げてくれることで、比較的楽に彼を上に上げることができた。ていうか彼、だよな?
リーディが上に上がり、続いて俺も梯子を登る。上につくと、アリアン嬢とヴィクトリアが鉱石を運ぶ馬車を用意してくれていた。これなら、十分荷台にイヅモを乗せることができるだろう。
入り口横の管理棟に向かう。扉を開けると、ちょうどこちらに向かおうとしているスキンヘッドの管理人が出てくるところだった。
「おうお前か。今ここから見てて仰天したぜ。あの魔物をやっちまうたあな」
「それが冒険者ですからね。俺たちが負けたら、あなたたちが困るでしょう?」
違いない、といって、ワハハと豪快に笑った。
それから、思い出したように聞いてくる。
「そういえば、お前たちより前に入った連中とは会ったか? まだ出てこないんだ」
「ああ、あの人たちですが、残念ながら僕たちが入ったときにはもう……」
「そうか……」
「魔物の巣の中で……すみません。ここまで連れてくることもできませんでした」
下を向いて唇をかみしめると、大男が泣いていると勘違いしたのか、俺の肩に手をやって気遣ってくれる。やっぱいい人だよな、この人。
「大丈夫だ! 魔物は退治してくれたんだろう? それなら、後は勝手にこっちでやっておくからよ! いや、よくあいつを退治してくれた!本当に助かったぜ!」
管理棟の窓からは、ぐるぐるに縛り上げられた魔物を、一生懸命荷台に乗せようとしている三人の姿だった。イヅモはピクリとも動かない。あいつめっちゃ頑張ってくれてるな。後でおやつを上げよう。何を食べるんだろうか。




