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「はあああぁぁぁぁ⁉ 何言ってるの?そんなことできるわけないでしょう?」

「そうですよ! 連れて帰ってどうするんですか⁉ 責任持てないことしないでください!」


 二人が一斉に反対してくる。それはそうだろう。

 魔物とともに暮らす冒険者など、聞いたこともない。そもそも、飼いならすことができないのだ。エサをやっても、決して懐くことなく、腹が減れば飼い主をも見境なく襲う。

 

「俺たちでは無理でも、この子が飼いならしているし大丈夫だろう」


 大丈夫だよな?

 

「うん。大丈夫……だと思う。……そうだといいな。……そうであってほしい」

「嘘だろお前」


 汗を浮かべながら、リーディがそっぽをむく。竜の魔物も、つられて横を向いた。お前、人の言葉わかってるだろ。

 気を取り直して話を続ける。


「家を買おうと思う。ちょっと広めのやつを。金はあるから、帝都からちょっと離れたところに大きめのを建てて、皆で暮らそう。もちろん部屋は別だけど。その方が依頼も受けやすいだろう?今の宿暮らしじゃ、お金の効率も悪いし。あ、これは二人が嫌じゃ無ければだけど」

「……嫌なわけないじゃないですか。ずるくないですか、いまそういうこと言うの」

「そういうことならあたしも考えがあるわ。オッケー、その話乗った」


 急に上機嫌になって二人が頷く。良かったわかってくれて。


「そんなわけで、こいつも離れに大きめの小屋を建てて、その中で暮らしてもらおう」

「ありがとう。この子には、良く言って聞かせるから」

「それはいいけど、どうやって出るのよ。どう隠したってバレるでしょ」


 ヴィクトリアが半眼でいう。

 どんなに頑張って隠しても、出口は一つだ。通すときに5メートルもの巨体が通れば、そりゃ気づかれてしまうだろう。

 だが、対策がある。


「死体のフリしてもらおう。できるだろ」

「ゴァッ!」

「今のは肯定なのかしら?」

「それにしても、悪知恵働きますねえ。私にはとても真似できません」

「褒めてるようで貶してるよねそれ」


 アリアン嬢が、長槍斧を背中に背負いながら、帰還の準備を始める。それに倣って、ヴィクトリアも構えたナイフを下ろした。

 

「運ぶのには、第四階層にあったトロッコ使えばいいんじゃないかな」

「階層上がるごとに引き揚げるのね。重いわー」

「自分で飛べる。まだ小さいからちょっとだけど」

「ゴァフ」

「それは肯定なのかな?」


 ワンピースの少女がいうと、嬉しそうに魔物が応える。三つの首が、競うように縦に振られていた。

 すげえ懐きっぷりなんだけど。本当に魔物なの? そいつ。


「そんなわけで、鉱山の外まで運んだあと、いったんどこかに隠しておこう。討伐したことを証明しなければいけないから、何か貰わなきゃいけないけど」

「三頭火竜の討伐証明部位は、牙ですね」

「牙かあ」

「さすがに抜いたり折ったりするのは可哀相だよなあ。仕方ない。検めの際にも死んだふりをしてもらって」

「はい牙」

「大丈夫なの⁉」


 また生えてくるんだって、と言いながら、どうやって折ったのか、牙を手渡してくれた。真ん中の頭が、照れくさそうにこちらを見てうねうねとした。いかんな。だんだんとコイツがかわいく見えてきたぞ。

 ありがとう、と言いながら頭をなでてやる。気持ちよさそうに目を細める。本当にこの子Sランクの魔物なの?昔村にいた犬のコジローに超似てるんですけど。


「君は……荷物もないのか、それじゃこのまま行けるな。俺たちについてきてくれ。このまま外に出る」


 牙をカバンにしまいながらそういうと、リーディが怪訝そうにこちらを見ていた。それで、彼女にまだ、俺たちの名前も告げていなかったことに気が付く。


「そういえば、まだ名乗ってなかったな。俺はクリス・イングブルム。『夜のメンフクロウ』という名のパーティーを組んでいる。それで、こっちが」

「アリアン・ブラックです。よろしくお願いします」

「ヴィクトリア・ノワール。このパーティーの頭脳を努めているといっても過言ではないわ」

「なんかその紹介、ずるくないですか?」

「あらあら、自己紹介くらい、好きにさせてよ」


 ギャーギャーと言い争っている二人を見、それからこちらを見て、リーディが笑った。


「ありがとう。私はリーディ。リーディ・ヘイソォ。よろしく」

「ああ、よろしく」

「ところで、冒険者って、何するの?」


 その言葉に、俺はもちろん、言い争っていた二人も動きを止める。えっ? この子、冒険者じゃないの?

 冒険者でもない子が、パーティーを追放されて、こんなところに流れてきた?

 いったいなぜ、と思ったが、とりあえず冒険者について一通り説明する。彼女は、首をかしげながらそれを聞いていた。隣では、八俣遠呂知が時折頷いている。おい、もしかしてコイツの方が賢いんじゃねえか?


「じゃあ、悪い魔物とか、そういうのを退治すればいいのね?」

「ああ。だが、君は魔物と喋れるんだろう? もしかすると、心苦しいことになるかも」

「大丈夫。喋れるのは多分この子が特別だからだし、あんま他の魔物に思い入れもないし」

「驚くほどドライ」


 それと、と俺は思った。これは言っておかなければならない。


「もしかして、本当にもしかするとだけど、君の元仲間と戦うことになるかもしれない。そのときは、一緒に戦ってくれる?」


 彼女はためらいもなく頷いた。


「勿論。いまの私はあなたたちの仲間だもの」

「良かった。後悔させないように頑張るよ」


 第五階層の梯子を、皆で登っていく。『正義の光』の死体はそのままだ。息のない連中を運ぶのも気持ちが悪いし、何の思い入れもない。魔物がいなくなった後であれば、誰でも回収に来れるだろう。

 全員が梯子を登り終わり、最後に八俣遠呂知が、身体を器用にたたみながら飛び上がった。すげえなお前。撫でてやると、喉をゴロゴロと言わせている。やだ可愛い。


「そういえば、君の元いたパーティーって、何て名前だったの?」

「パーティー?」

「4人組だったんだろう?どこの国の、何て名前か知っておくだけでも、今後いろいろとやりやすくなる」


 共闘を避けることができるようになるだけでなく、工夫すれば二度と会わないようにできるかもしれない。彼女の心の傷は、できる限り広げたくない。


「どこの国、というか、気がついたらなんか変な砦みたいなところにいて、そこ追い出されてから二日くらい歩いたのかな? そんでこの鉱山を見つけたの」


「マジか」

「だから、国とか言われてもわからないな……。ごめんね」

「いや、いいんだ」

「パーティーの名前とかも、わからないんですよね」

「その……パーティー? の名前も、特になかったと思うの。一度、なんか赤と黒の気持ち悪い……あなたの武器みたいな鎧を着た人と、その仲間とは戦ったけど、その時も全員連携とかなくて、好き勝手に戦ってる感じだったし……」


 思い出すようにつぶやく彼女に、血の気が引いていくのが分かった。赤と黒の気持ち悪い鎧、しかもアリアン嬢の武器と同じテイストなど、使っている人間はこの世に一人だろう。

 同じことに気が付いたのか、かすかに震える声でヴィクトリアが言う。


「……クリス? これは、もしかしなくてもあれよね」

「あれだなあ」

「え? なんなんですか?」


 何も知らないのはアリアン嬢だ。この場合、知らない方が幸せな気もする。

 ヴィクトリアが、俺の袖を引っ張った。


「彼女のステータスは見えているのかしら? もし見えているのなら、教えてくれない?」

「攻撃力が151。素手の数字だ」

「ひゃくごじゅういち⁉ 素手でですか⁉」


 アリアン嬢が驚くのももっともだ。この数値は、アリアン嬢より高いのは勿論、Sランクパーティーのメンバーにも迫るものなのだから。

 俺は軽く笑いながら、さらなる情報を伝える。こんな話、笑いながらでもなきゃどう伝えろってんだ。


「ああ。あと、レベルは70だな」

「ななじゅう‼」


 ヴィクトリアが、ため息をつきながらつぶやいた。誰にも聞こえないくらいの小さな声で。


「魔王の1人じゃん」


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