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「どういう、ことだ……?」
思わず声を上げてしまう。魔物と冒険者を装った殺し屋による襲撃を警戒して入った、前線基地となるはずだった広い空間。
工事の途中だったためか、あちこちにカンテラが吊り下げられている。そのため、全貌を見渡すことができた。大体50メートル四方くらいだろうか。高さが10メートルほど。ちょっとした広間のようだった。
そこに、確かに魔物と冒険者はいた。いたのだが、いる位置がおかしい。
まず、冒険者は全員、血まみれで地面に倒れ伏していた。全員男性、だろうか。判断に困ったのは、そのうち一人、首から上がないためだ。
残りの三人は男だったが、心臓や腹が大きく抉られており、一目で死んでいるとわかった。
魔物は、奥で蹲っていた。闖入者を見ることもなく、三つの首がとぐろを巻いて寝息を立てている。
問題は、その魔物に寄り添っている少女だった。寄り添っているというよりは、魔物に座っているような気もする。
そもそも少女、なのだろうか。年若い雰囲気をたたえつつも、意外な高身長がそれを否定する。怪しい雰囲気を持つ子だった。ストレートだが、少し跳ねのある黒髪を肩甲骨まで伸ばし、切れ長の黒目、きりっとした眉。ここからだとやや褐色に見える肌に、白いワンピースが良く映えていた。
美人といってよい顔立ちだが、問題は、そんな彼女が、なぜ魔物に腰かけてくつろいでいるのか、だった。
こちらに気づいたのか、その子が、こちらを見る。
「……誰?」
彼女の声に合わせ、三頭火竜がこちらに向けて首を持ち上げた。俺の『鑑定屋』が発動する。
「……畜生。ギルドの連中、またかよ」
「何ですか? なんかまずいことですか?」
「あんな予定外の存在がいる段階で、まずいことにはなっているでしょうね」
「あれ、三頭火竜じゃねえ。八俣遠呂知だってよ!」
頭の数だけで判断しやがって! 八俣遠呂知って、Sランクの魔物じゃねえか! 昔、どこかの国を一匹で滅ぼしたっていう、伝説の魔物だ。そりゃCランクのパーティーじゃ歯も立たないだろう。
「あれが八俣遠呂知なら、まだ幼生ね。確か、成長とともに首が増えていくのよ。成獣となったら無理でも、今なら何とかなるかもしれないわ」
「何ともならなかったらどうするんだ。俺は、あんな風に」
死体の一つを首で指し示す。
「首のもげた二人の姿なんか見たくないぜ」
「まあ、ちょっとやりあってみて、どうにもならなそうなら逃げましょうよ。それなら、首までは食べられませんよきっと」
「別のどこかは喰われる前提かよ……。それも嫌だなあ」
武器を構える俺たちに対し、八俣遠呂知が身構えた。それに伴い、姿勢が悪くなったワンピースの少女が、魔物の背から降りる。
「……あなたたちも、やっぱりこの子を退治しに来たの?」
少女が尋ねる。目が合った瞬間、『鑑定屋』が発動し、少女のステータスが俺の頭の中に飛び込んできた。
リーディ・ヘイソォ【闇属性】 レベル:70
攻撃:151
防御:130
速度:67
精度:82
抵抗:79
運:30
【スキル1】悪趣味な嗜虐
敵一体に攻撃を行い、50%の確率で少しの間、出血状態にする。
【スキル2】手厚い病
敵1体に攻撃し、その後敵全体にデバフを少しの間ランダムに1~3個付与する。付与するデバフは、攻撃力低下、防御力低下、行動速度減少、精度減少、抵抗減少、出血、命中率減少の中から選ばれる。
【スキル3】咲き誇る花葬
少しの間、敵全員のアクティブおよびパッシブのスキルを封印する。
「は?」
おもわず間抜けな声を出してしまう。何だこのステータス。見間違いではないかと目をこすってみたが、数値は変わらなかった。
というかこの数値、素手のリザ・メナとタメを張るくらいの力じゃん。それがなんで、こんなところに武器も持たず魔物といるのか。
「あー、別に退治するわけじゃないんだけど……。ところで君は、どうしてこんなところに?」
本当は退治しに来たのだが、この流れはどう考えても良くない。しかもこの子は正体不明と来ている。会話は成立するようだし、とりあえずもう少し情報を探ってみよう。
「私は……いらないって言われたから」
「いらない?」
竜の頭の一つを撫でながら、彼女が寂しそうにそうつぶやく。気持ちよさそうに竜が目を細めた。
「4人で頑張りなさいって言われたんだけど、私のスキルについて話したら、『そんな屑スキルはいらない、俺たち3人で十分だ』って言われちゃって」
「そんな……」
「それで、居場所を求めてここまで来て、この子に会って。二人で、静かに生きていこうとしてるの。だから、それを邪魔するなら……」
「……わがるよ。いらないって言われるの、づらいよな。邪魔なんがじないよ」
「クリスさん⁉ 何泣いてるんですか⁉」
事情は異なれど、彼女はあの日の俺だった。いや、彼女の仲間が、ダニのように思いやりを持って接してくれなかった分、俺よりもひどい状況だ。
一緒に頑張っていこうとしていたのに、「不要」と切り捨てられてしまう悲しみは、俺には良くわかる。その後、胸に残る虚しさも。
「それなら、俺たちと一緒に来ないか?」
「え?」
「は?」
「クリスあなた、何言ってるの?」
ヴィクトリアに心の中で詫びる。何しろ彼女は、俺たちをSランクにするために全力で頑張ってくれているのだ。謎の少女が持つスキルはヴィクトリアが指定したものとはかけ離れている。彼女は絶対に面白く思わないだろう。
だが。だがである。
目の前で、傷ついている彼女を見過ごすことはできなかった。大体、ステータス的には圧倒的だし、パーティーに入れてしまえばなんとかなるだろう。物理攻撃だけでも押せるかもしれない。
屑スキル、などと言われて、1人でこんなところにこもる彼女がどれほどつらいか。なんとかして救ってやりたい。そのためには、彼女を必要とする存在が必要だ。
俺がそれになる。
「行くって? どこに?」
「俺たちも、4人目の仲間を探していたんだ。君の昔の仲間が何を言おうと、俺には君が必要だ。だから、一緒に来てほしい。俺たち『黒いメンフクロウ』の一員として」
「クリス⁉」
「ヴィクトリア。ごめん。だが、このままじゃだめだ。俺は、彼女を仲間に加えたい」
「クリスさん……」
少女が、何かを考えるそぶりを見せた。
俺たちは、すでに武器を下ろして話をしていた。俺たちの話し声以外は、カンテラの中で芯が燃える小さな音しか聞こえない。竜は彼女の右隣りで、警戒するように首だけを持ち上げていた。
「……一緒に戦ってみて、私のこといらない、って言わない?」
「言わない。俺も、もとは違うパーティーのメンバーから捨てられた身だ。君の気持は良くわかる。絶対に、1人にはしない。約束するよ」
「……嘘ついたら?」
「殺してくれて構わない。君になら、それができるはずだ」
「クリスさん⁉」
アリアン嬢が驚いた声を出すが、俺は命を賭けてもいいと思っていたし、そうしなければ目の前の少女の信用など得られないと思っていた。人の心はもろく、一度砕ければ再構築には時間がかかる。
「本当にやるよ? それでも、いいの?」
「いい。やれるもんならやってみろ」
「本当に、クリスさんは人が好いというかなんというか」
「全くよ。パーティーとしての戦略を練り直すの、あたしなんですけど」
「悪いな。頼む」
「そんな顔しないでよ。断れるわけないじゃない」
ヴィクトリアが苦笑しながらいう。リーディが、俺を見て、その後魔物を見た。寂しそうな顔だった。
「……やっぱり、行けないよ。この子がいるもの」
はっとしたように、アリアン嬢とヴィクトリアがリーディに振り返る。体長5メートルはある魔物だ。隠れながら出るのは不可能だろう。
俺は八俣遠呂知を見ながら続けた。
「こいつも一緒だ。皆で一緒に、ここから出る」




