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翌日。
俺たちは鉱山の入り口で、管理者と名乗る大柄な男にコインを見せていた。大柄でスキンヘッドのこの男は、俺たちとコインをまじまじと見比べた後、一歩後ろに下がりながら言った。
「お前らが『黒いメンフクロウ』か。チラト支部のサンクスから話は聞いてるぜ。『三頭火竜』を退治に来てくれたんだろう?」
差し出した手の先には、鉱山の内部に入るための下り梯子が用意されていた。周りをカンテラに照らされているとはいえ、まるで魔物の口のようにぽっかりと開いたその様子は、ちょっとした恐怖を感じさせる。
「ええ。場所はわかってるんですか」
「おう。ちょうどこれから掘り進めようとしてたエリアでよ。まずは前線基地をと思ってスペースを作っていたら、奴さんそのまま居座っちまった。おかげで俺
たちはこれ以上進めねえ。まいったぜ」
天を仰ぎながら、大男が言う。ヴィクトリアが、自分のカバンとそのひもの位置を調整しながら聞いた。
「鉱夫の方は、他には?」
「いや。大丈夫だ。全員避難してる。三頭火竜の発見が早かったのと、場所が最前線だったせいもあって、逃げ遅れたやつはいなかったんだ。まあ、不幸中の幸いだな」
アリアン嬢が続ける。
「力いっぱい暴れたら、中で崩落するとかはないですかね」
「お、嬢ちゃん。それは大丈夫だ」
大男が胸をたたく。
「前線基地って言っただろ?だから何があっても崩落しねえように、かなり頑丈に補強してある。遠慮なく暴れてもらっていいぜ」
「ありがとうございます。それなら安心です。心置きなく殺ってきます」
今「やって」の発音おかしかったよな? 「殺って」って聞こえたけど。
内容はともかく、アリアン嬢の笑顔に、つられて管理者も白い歯を見せる。その後ろにいた取り巻きの連中も笑っていた。彼女の笑顔には、そういう不思議な力がある。他人も幸せな気持ちになるというか。
坑道の中に入ろうと、梯子に足をかけ、慎重に下ろしていく。俺の後に続いて、アリアン嬢が降りようとしたとき、管理者の大男から声がかけられた。
「そういえば、あんたらより先にも、チラト支部から派遣されてきたパーティーが入っていってるから、中で会ったらよろしく言っといてくれ。俺たちは、どっちが三頭火竜を倒してくれても万々歳だからな」
「わかりました!なんというパーティーでしたか?」
「『正義の光』とか言ってたっけな!昨日来て、今朝早く入っていったから、4時間くらい前か?もしあいつらが討伐してたら、そのまま戻ってきてくれればいいから!」
ヴィクトリアを見上げると、唇の動きだけで「Cランク」と言っていた。
では同じく昇格をかけた審査なのかもしれない。
坑道の中はひんやりとしており、カンテラがない箇所は1メートル先も見えないような闇が広がっていた。俺に続いて、アリアン嬢、次いでヴィクトリアが降りてくる。
手持ちのカンテラを掲げて歩き出すと、小走りのヴィクトリアが横に並んできた。
「あたし達より先に入った『正義の光』だけど、Cランクってこと以外はわからないの。ごめんなさい」
「いや、それが分かっただけでも有難いよ。Cランクなら、暗殺の心配とかはなさそうでよかった。安心した」
「いえ、そういう暗殺とかの専門チームって、自らの姿を欺くためにCとかBランクのパーティーを偽装していることがあるの」
「安心できなかった」
あの公女殿下がそこまでするかはわからないが、念には念を入れておいた方がいいだろう。物陰から突然襲ってくる可能性も考え、ゆっくりと慎重に歩を進める。
坑道を奥まで進むと、またしても下の階層に降りる梯子が見えてきた。この鉱山は全5層からなり、現在のところ一番奥に当たる場所に三頭火竜がいる。
管理者の男からもらった鉱山の地図をカンテラで照らす。今俺たちがいるのは第一階層だ。ここは下層に降りるための梯子が5つ設置されており、目の前にあるのは最も西側にある梯子のようである。第二階層に降りた際、次の階層への梯子に最も近いのがこの梯子だ。地図通りに進めていることを確認し、梯子を下りる。
「もし『正義の光』に襲われた場合は、どうしたらいいですか?一応ギルドでは、『決闘』以外の私闘は厳禁ですよね?」
「大丈夫よアリアンちゃん。ここらあたりで襲われた場合は、向こうが待ち伏せしてたと判断されるでしょうから、正当防衛が成り立つわ。問題は三頭火竜の部屋で死んでた場合だけど」
前髪をゆったりとかき上げながら、ヴィクトリアがあたりをカンテラで照らす。
「これも、魔物に殺された場合、それらしき傷跡が残るだろうから、死体を運ぶなりすればOK。もし骨になっていた場合でも大丈夫。一番たちが悪いのは、三頭火竜の部屋の前で仲間割れして死んでる場合、それも、使ってる武器が私たちと被るような状況ね。これは言い訳できないわ」
まあでも、ここまで頑張ってきたような連中がそんなことするわけないけどね、と言って笑う。
「もしそんな疑いがかかった場合、ギルドの秘中の秘として、真実を見通すことのできるスキルを持つ審議官が出てくるって聞いたことがあるな」
「あらクリス。良く知ってるじゃない。そう、真実を見抜く『真偽官』が出てくることになっているわ。その人の前では、どんな嘘も通用しないとか」
「じゃあ、『正義の光』がもし三頭火竜を先に倒していたとしても、下手に手は出さない方がいいな」
「当然。Bランクに上がる機会なんて、これからいくらでもあるのよ。そんな小物にかかわって、ギルドから追放とか、下手すれば処刑されるかもしれないリスクを抱えるなんてばからしい。『良くやったねおめでとう』とでも言っておけばいいのよ」
ヴィクトリアの言葉にうなずきながら、下へと降りる梯子を発見し、第三階層へと向かう。鉱夫のために通路に設置されたカンテラがあるが、中のろうそくが燃え尽きているため、何も見えない闇が広がる。手持ちの明かりを掲げ、地図と見比べながら次の梯子を探した。
「静かですね」
アリアン嬢がそう言う。確かに、人気のない鉱山がこれほど静かで不気味なものだとは思わなかった。小さいころの怪談話では、墓場と並んで廃鉱山がよくその舞台になっていたが、なるほどこれは納得だ。滅茶苦茶怖い。
遠くで、何かの水音がする。湧き水でも出ているのだろうか。
40分ほど第三階層を歩き、第四階層への梯子を見つけた。周囲を警戒しながら進んできたため、すでに鉱山に入ってから2時間は経過しているだろう。二人と相談し、梯子の周りで少し休憩を取ることにした。俺が警戒に立ち、二人には座って水を飲んでもらう。
梯子の周りは、ぎゅうぎゅうに詰めれば30人ほどは入れそうなスペースが確保されていた。どこの梯子の周りも、ある程度は広くとってある。緊急事態の際、逃げるところで詰まらないようにとの配慮だろう。
静寂があたりを支配している。深く息を吸うと、迷宮の奥のような、湿った空気が入り込んできた。




