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「何かおかしいのか?」
「いえ、別に……申し訳ありません。思い出し笑いでして」
そこまで言って、顔を上げる。スキル『鑑定屋』が発動し、彼のステータスを映し出した。
ジェイ・サンクス【木属性】 レベル:25
攻撃:42
防御:51
速度:29
精度:37
抵抗:40
運:26
【スキル1】二段構え
敵一体に2回攻撃を行い、それぞれ30%の確率でほんの少しの間、敵の抵抗を下げる。
【スキル2】蛤御門
味方全員に、自分の体力の30%分、見えない壁を作り保護する。
【スキル3】隣人が狂人
敵全員に攻撃し、50%の確率で、ほんの少しの間気絶させる。
ヴィクトリアから言われていた、4人目の条件「敵全体に対する気絶か行動阻害」が入っていることに驚き、声が出なかった。ていうか条件に当てはまってるの、よりにもよってコイツかよ。一緒に冒険したくねえなあ。
「どうした? 今度は急に黙り込んで」
「い、いえ……ちょっと、オーラに圧倒されてしまって」
「ふん。今度はおべっかかね」
ステータス的には全く大したことがない。気絶か行動阻害さえ入っていれば、こんな感じでもいいのだろうか。ヴィクトリアの理想がわからないだけに、判断がつかなかった。
だが、彼女が入ったことで俺たちの戦闘が飛躍的に進化したのはまぎれもない事実。そして、彼女が今、俺たちをSランクにすべく全力で頑張っているのもまた事実。
であれば、何を疑うことがあるだろう。俺はこの事実をヴィクトリアに伝え、その結果を待つだけでよい。
返答を待っている男に意識を戻す。どこまで話したっけな。
「あなたも、冒険者なんですね」
「元、が付くがね。だがなぜ、そんなことを?」
「あ、いえ……立ち居振る舞いがそういった雰囲気でしたので」
俺の言葉に、サンクス氏はつまらなそうに鼻を鳴らす。足を組み替えると、机の中からコインを取り出し、天板上に放り投げた。
「それが鉱山での通行証になる。受け取ったならさっさと行きたまえ。公主様からの直々の依頼なのだろう? 失敗すればことだぞ」
自分で別の人間に依頼を出しておいてなんという言い草だろうか。ちらりと隣を見ると、アリアン嬢の青筋が膨れすぎておかしな形になっていた。これ切れちゃうんじゃないの?大丈夫?
ともあれ、通行証が欲しかったのだから、これで目的達成だ。俺は一礼すると、机の上のコインを受け取り、アリアン嬢とヴィクトリアを連れて外に出る。背後から「はっ」という、人を小ばかにしたような声が聞こえてきた。
宿屋を出ると、アリアン嬢が憤懣やるかたない様子で語りかけてきた。
「何なんですかあの人! あんな無礼な態度、許されるんですか⁉ クリスさんがいくら穏やかだって言っても、限度がありますよ!」
「まあ落ち着けよ。あそこで怒ったって、しょうがないだろ」
「そんなこと言ったって……!」
「そうよ。アリアンちゃんには冷静さが足りないわ」
ヴィクトリアが彼女をなだめるように、その肩を抱く。
「クリスも言っているじゃない。『あそこで怒ったってしょうがない』って。あんな人の目につくとこで殺ったところで、あたし達の立場が悪くなるだけ。わかるでしょう?」
「夜道でなら」
「OKよ」
OKなのかな? 俺そんなこと言ったつもりないけど。まあいいか。いや良くないわ。
そこまで考えたところで彼のスキルを思い出し、二人に話しかける。
「そういえば、あいつ、お前が指定したスキル持ってたぞ」
「え⁉本当?」
「おう、敵全体をほんの少し気絶させるスキル持ちだった。あとは味方に自分の体力の30%分の壁を作るのと、一体に攻撃して抵抗下げるスキルとかだったな」
「気絶は100%?」
「……いや、50%だった気がする」
「50%かあ……うーん……なるほどねえ……」
「50%じゃダメなんですか?私はダメであってほしいです」
「落ち着こうアリアン嬢」
アリアン嬢のスイッチがまた入ってしまった。まいったな。
助けを求めるようにヴィクトリアを見るが、彼女はまだ何かを思案している。
「ちょっと物足りない気もするけど、でも全体行動阻害自体が貴重だからなあ。一応候補に入れておくか……でもなあ……」
「まあでも、パーティーに入ったら私の方が先輩ですからね。そこはこれから躾けていけばいいのか……」
今「躾けて」とか言わなかった? 相手40過ぎたおっさんよ?
ツッコもうかと思ったが、キリがなさそうなのでやめておく。指輪の受け取りにはまだ早いので、ハイポーションや毒消し薬を準備しつつ、腹ごしらえをすることにする。
道具屋では、そのほか麻痺用の薬や睡眠対策の薬なども仕入れた。全員やられた場合はダメだろうが、1人でも無事ならそこから立て直せるように。
また、三頭火竜が火を吐くこともあり、火傷治療の軟膏も仕入れた。火傷状態は炎による追加ダメージが発生してしまうため、なるべく解消したい。
一通り、今回の依頼に必要な道具を揃えた俺たちは、道具屋のはす向かいにある定食屋へと脚を踏み入れた。肉を扱うのがうまいと評判らしい。低ランクの冒険者でもお腹いっぱい食べられるようにと、安くてボリュームがあるのが特徴だ。
正直味は期待していなかったのだが、到着したカツレツ風定食は抜群だった。身体にしみこむ濃い目の味つけ。つい夢中で食べ進めてしまう。
食べ終わって一心地ついていると、ヴィクトリアが尋ねてきた。
「そういえば、クリスはSランクになって何をしたいの?」
「あ、それ、あたしも聞きたいです」
アリアン嬢も乗ってきた。
何をしたいの、か。
二人にそう言われて、少し考える。そして、すぐに思い当たった。ダニだ。
あいつと過ごした少年時代からの思い出が、今、俺をSランク冒険者へと向かわせている。Sランクになって、あいつと肩を……。
「んー、意地かもしれないなあ」
「意地?」
「昔いた『夜の牙』に、ダニ・アンヘルヘアっていうやつがいてさ」
「知ってます。『夜の牙』のリーダーですよね」
アリアン嬢が、食後のプリンをほおばりながら言った。俺といると、ちょいちょい『夜の牙』の名前が出てくるから、調べたのだろう。
「そう。俺とあいつは幼馴染でさ。小さなころから、英雄になりたいって、そればっかりだった。それで、10になったときに街を出てさ。『夜の牙』を立ち上げて。まあ、結局うまくいかなくなって脱退したけど」
二人は黙って話を聞いている。俺はカップに入った水を飲むと続けた。
「その時に、いつかSランク同士でクランを作ろうって話をしてたんだ。だから……」
言いかけて、本音はそこにないということに気が付いた。気が付いてしまった以上、隠して話すのは二人に失礼だろう。
二人に頭を下げると、口を開いた。
「いや、これはカッコつけちゃってるな。ごめん。本音は、やっぱり悔しかったんだと思う。追い出されて、『バカにしやがって』って思いもあった気がする。だから、見返したいんだよ。あいつらより先にSランクになって、ざまあみろって言いたいんだ俺は」
二人は何も言わない。
「だから、二人には付き合ってもらって悪いと思う。でも今の俺は、もう二人なしのパーティーは考えられない。可能であれば、このまま一緒にやっていきたい」
「何言ってるんですか」
声にはっとして、頭を上げる。
アリアン嬢が、いつの間にかプリンの入っていた皿をテーブル上に置き、真顔でこちらを見つめていた。
「言われなくても付き合いますよ。私もクリスさ……あ、いやいや。そう、私は、お金持ちになりたいんです。だから、今のパーティーめっちゃくちゃ居心地いいんですよね。このまま、Sランクで左うちわですよ」
「あたしは、前言った通り、あなたの力になりたいの。あなたの目標が、『夜の牙』を見返すことなら、あたしがやることは、連中より1秒でも早く、あなたをSランクパーティーのリーダーに押し上げることだわ」
「ずるいヴィクトリアさん! 私だって……の……に……たいのに……」
アリアン嬢が小さく何かをつぶやいていたが、声が小さすぎて聞き取れなかった。
「ありがとうアリアン嬢、ヴィクトリア。迷惑をかけるけど、宜しく頼む」
再び頭を下げる。下を向いたままでも、アリアン嬢とヴィクトリアが笑ってくれているのが分かった。




