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公主の居城は、小さいながらも華のある作りだった。
謁見を行っているホールは、150人も入ればぎゅうぎゅうになってしまう程度の広さだが、敷かれている絨毯や壁の照明、公主の椅子など、見事なしつらえだった。本人もおそらく、見た目よりも質にこだわる人物なのだろう。
俺たち3人は、公主の前で膝をつき、首を垂れていた。プリン帝国からチラト公国まで、飛空艇で1日。荷物を飛空艇に乗せたまま、取るものもとりあえずここへと連れてこられたのだ。全く身に覚えがないのだが、知らぬ間になんかやらかしてしまったのだろうか。
「『黒いメンフクロウ』、ご苦労だった。顔を上げてくれ」
そういわれて、ゆっくりと顔を上げる。50を少し超えたところだろうか。銀の割合が多くなった髪を短く整えている。多少の疲れをにじませながらも、上品な顔立ちの男性だった。右隣に、同じくらいの年頃の女性。奥さんだろうか。左には、気の強そうな顔だちの、17~8くらいの女の子が座っていた。上品な仕立ての赤いドレスを纏い、こちらを見下ろしている。公主の娘さんだろうか。
「はっ、『黒いメンフクロウ』、お召しにより、ただいま参上いたしました」
定型通りの返答。『夜の牙』時代、こうしていろいろな国を渡り歩いたことを思い出す。挨拶はいつも俺かダニの担当だった。
マルデ王国の関連する国への派遣だったため、チラト公国へ来るのは初めてだが、まあ同様の対応で問題ないだろう。問題ないよな?
「よい。そう固くならないでくれ。依頼の前にそなたたちを呼んだのは、まずはお礼を言いたかったからだ」
お礼?
アリアン嬢、ヴィクトリアと顔を見あわせるが、まったく身に覚えがない。なんのお礼? 怖いんですけど。
「3か月前の、マイセキ古戦場での件だ。あの時、ほとんどのパーティーが壊滅し、撤退を選択する中、そなたらは持ち場を守り抜き、撤退してくる冒険者を助けた」
ああ、それか。
公主にお礼を言われるまでもない。俺たちだって、『実に醜い鳥』がいなかったらどうなっていたことか。持ちつ持たれつ。お互い様なのだ。
「『女神の前髪』のリーダーは、私の弟でね」
『女神の前髪』?
必死に記憶を手繰るが手ごたえがない。からからと、まるで糸車のように空回りする俺の脳みそ。アリアン嬢に助けを求めると、唇の動きだけで「(奇跡の泉の後に……)」と教えてくれた。
思い出した。ヴィクトリア達の後にきたパーティーか。確かにいたわ。
「傷ついた彼らに対し、そなたらは手厚く介抱を行い、貴重な回復薬を使用し、心まで元気にしてくれたうえで撤退を促し、自らはなお、その場を守ったと聞いている。残念ながら『女神の前髪』はメンバー二人が亡くなり、解散を選択してしまったが」
座ったままで身を乗り出し、公主が言葉を紡ぐ。
「……こんなことを公主が言うのは問題なので、この場限りとしてもらいたい。だが、弟の命を救ってくれて、本当にありがとう。私にとっては、大事な弟なんだ。小さなころから、助けられてきた」
そう言って、深々と頭を下げた。
「お顔をお上げください。我々は、やるべきことをやっただけにすぎません」
「そうはいかない。いや、理屈ではそうでも、気持ちがそれに納得していないのだ。どうかお礼をさせてほしい。私にできることであれば、最大限かなえたいと思う」
いや、本当にいいですよ。気を遣わないでください。公主様ができることが何なのかもわからんし。
といったことを、めっちゃやんわりと言い換えて伝えようとしたときに、俺をさえぎってヴィクトリアが話し出した。
「それでは、貴国の武具職人、カム・カーティスと専属契約を結ばせてください。『女神の前髪』解散以降、どこのパーティーとも契約を結んでいないと聞いております」
「カム・カーティス? いや、しかし、それは……」
「我々は」
ヴィクトリアは公主の言葉をさえぎり、続ける。
「そう遠くない未来にAランクとなり、Sランクへと駆け上がります。私たちには優秀な武器防具が必要になりますし、それを作ったのがチラト公国の『カム・カーティス』ということが明らかになれば、貴国の名は広く知れ渡ることになるでしょう。職人の弟子入りなども増えるかもしれません」
ごめん不勉強で。カム・カーティスって誰?
話の流れから、なんとなく職人のことを指しているのはわかる。わかるのだが、その人がどのくらいすごいのかがわからない。
「む……それは……」
「公主様からお口添え頂ければ、これ以上の幸いはございません。どうか、よろしくお願いいたします」
優雅に礼をし、ヴィクトリアが下がる。公主の口が何度か動き、やがて意を決したようだった。
「わかった。それでは」
「お待ちください公主!私は反対です!」
そう言って会話に入ってきたのは、公主の左に座っていた少女だった。理知的な喋り方でいいね。嫌いではない。
「ルシール」
「カム・カーティスは国の宝! すでにAランクのパーティーであるならばともかく、Bランクにもなっていないようなパーティーと専属契約? ありえませんわ! 身の程を弁えなさい!」
ルシールというのかこの子。言い方きついな。さすがの俺も傷つく。ちょっと嫌いになりそうだ。
「あらあら」
挑戦的に応じたのはヴィクトリアだ。顔を伏せたまま、言葉のとげに応戦する。
「おかしなことをおっしゃいますね。先ほど、公主様からは『できることは最大限かなえたい』とのお言葉をいただいております。私が申し上げたお願いは、『できないこと』なのでしょうか。『女神の前髪』が健在であれば、専属契約は確かに無理でしょう。しかし、現在フリーの職人に対し、専属契約をお願いすることのどこに無理が?」
「だから、Cランク程度で……!」
「Cランクだから契約ができない、という決まりはどこにもありませんよ。パーティーと違い、職人にはランク制度がありませんから。帝国一と名高いヤムヤム・フリッシュも、『明けの明星』と契約したのは、彼女たちがDランクの時でした。さて……何か問題でも?」
「……!!」
意地の悪い笑みを浮かべるヴィクトリアに対し、何も言い返せず真っ赤になって黙るルシール。確かに彼女の言い分は、そのほとんどが感情論だ。自国の英雄の武器を作った職人が、名も知れぬCランクパーティーの専属となるのが嫌なのだろう。
公主がため息をつく。
「それでは、こうしよう。『黒いメンフクロウ』には、今回の依頼を果たしてもらう。昇格審査も兼ねているのだろう?その後、カム・カーティスとの専属契約が行えるよう取り計らおう。Bランクであれば、お前も文句はないであろう」
「はい……」
「『黒いメンフクロウ』よ、すまぬがそれでよいか」
疲れが如実に出た顔で、公主がそう言った。
「承知いたしました。それで、今回の魔物というのは」
「うむ。『三頭火竜』を討伐してもらいたい。鉱山に巣を作ったため、作業がすべてストップしてしまっているのだ」




