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「Bランクへの昇格を兼ねた、指名依頼?」
「はい、『黒いメンフクロウ』に、どうしてもお願いしたいとのことです。ギルドとしても、昨今の皆さんの活躍に鑑み、これを昇格審査にしたいと。私自身も、皆さんの力ならばBランク昇格は当然だと思います」
「本音は?」
「上位ランクの冒険者パーティーの数が足りていないので、さっさとランクを上げてほしいです。あと依頼主はチラト公国の公主ですので、前回の件もあって断りづらかったです」
「正直すぎやしませんか」
アリアン嬢が呆れながら言うが、コリンさんの表情は変わらない。
Sランクパーティー『明けの明星』の依頼が失敗し、マイセキ古戦場に魔王級の魔族が現れてから3か月。
Aランクパーティーの6割、Bランクパーティーの2割が稼働停止、もしくは解散に追い込まれたあの戦いは、未だに帝国のギルドに深い傷跡を残していた。
ヴィクトリアを加え、新たに3人体制となった俺たち『黒いメンフクロウ』は、すぐに活動が再開できたこともあり、この3か月ひたすら依頼をこなし続けた。いや、生まれて初めてギルドをブラックだと思ったね。
ヴィクトリアの立案した戦闘方法により、魔物自体は脅威ではなかった。生まれて初めてノーダメージでの討伐ができた時は、3人で手を取り合って騒いだ。
だがしかし、この手の依頼は討伐だけではない。付随して、移動、捜索、剥ぎ取りなども行う。特に捜索。見つからないときはマジで見つからない。4日間山にこもったときは、風呂に入るのも一苦労だった。メンバー二人とも女性だし、そこは気を遣う。
「どうせ請けることになるんですから」
「なんでそんな投げやりな感じなんですか」
「これを請けてくださるまで、当ギルドには他のCランクの依頼は来ていないことになっております」
「『来ていないことになってる』って言っちゃってるじゃん」
仕方がないので、依頼受注の手続きを行う。出発は明日。迎えのための飛空艇が、港に停泊しているという。そのまま魔物討伐かと思いきや、一度公主のもとにあいさつに行くそうだ。魔物の事前情報もなく、当日何を討伐するのか、公主から発表されるという。いや発表て。本当に、何から何まで異例の依頼である。
「なんか、いろいろ怖いですね」
「まあ、行ってみましょうよ。どうせ、他に依頼は請けられないんだし」
「公主に呼びつけられるなら、俺たちじゃなくて『明けの明星』だとおもうんだけどね」
ギルドを出て、通りを三人で歩く。明日には出発なので、今日中に荷物を整理しなければいけない。
何が相手なのかは知らないが、昇格試験なので、今回はBランク相当の魔物が相手だろう。ハイポーションを買いこんでいこう。
「まあ、大丈夫よ。あたしがついてるし、それに私たち全員、今が伸び盛りだし。大船に乗ったつもりでいてちょうだい」
俺の左手に自らの腕を絡ませながら、そう言ってヴィクトリアが笑った。大きな胸が押し付けられる。圧倒的な柔らかさと、いい匂いがした。
「……鼻の下が伸び盛りですよ」
アリアン嬢に言われて、慌てて顔を引き締める。いやこれ仕方なくね?これで真顔を貫き通せる男がいるなら、そいつを尊敬するよ。俺には無理。これは無理。
明日の準備をする前に、腹ごしらえをしようということになったので、通りを港の方へ抜けた。いつだったか、熊の肉に飽き飽きしていた時にアリアン嬢と見つけた店。港でとれた魚をそのまま新鮮なうちに調理してくれる。白身魚に舌鼓を打って以来、何かあれば通っている店だった。
『マンボウ亭』。
お昼時の少し前ということもあり、店内は比較的空いていた。すぐに案内される。海が良く見える、少しだけ離れたところにあるテラス席。3人で座り、注文を決める。俺はいつもの白身魚のムニエル。アリアン嬢はソテー。ヴィクトリアは初めての来店のため、物珍しそうにメニューを見ていたが、やがてオレンジ色の身をした魚のムニエルに決めた。店員が厨房へ注文を伝えに戻ると、アリアン嬢がヴィクトリアに話しかける。
「そういえば、4人目の候補の方は見つかったんですか?」
「ううん、まだね。クリスにいろんな人のスキルを見てもらってるんだけど、なかなか狙った通りのスキルを持ってる人はいないわよねえ」
依頼を達成してギルドに帰るたび、あるいは旅先で戦えそうな人に会うたび、俺は『鑑定屋』でそのスキルを確認していた。だが、ヴィクトリアに言われたスキルの持ち主はほとんどいないか、いても他のスキルが理想とは異なっているなどして、未だめぐり合ってはいない。
「本当に、攻撃系のスキルじゃなくていいんですか?」
アリアン嬢が、手元のフォークの位置を直しながら聞いた。ヴィクトリアが笑いながらうなずく。
「いいのよ。前も言った通り、パッシブスキルが手ごわい敵への対策を考えたいし、それに」ぎしっ、と椅子を傾けて続ける。「攻撃系のスキルはあなたが1人いてくれればいいもの」
「そ……そうなんですか?」
「そうよ? だから自信をもって。あなたとクリスがいる段階で、もう火力担当はいらなくなったのよ。……その顔はわかってない感じね。いいわ、どういうことか、説明してあげる」
テーブルの上には、それぞれの前にナイフとフォークがあるのみだ。少しそれをよけながら、ヴィクトリアがテーブルの上にコインの入った小さめの革袋を出す。
そのまま、自分の前に11枚、アリアン嬢の前に10枚の銅貨を並べた。
「あたしの前にあるのが攻撃力。アリアンちゃんの前にあるのが防御力。このままだと、攻撃力と防御力の差は1枚だから、アリアンちゃんは1ダメージをうけることになる。……ところでクリス、あなた、自分のスキルがどれほどの力を持っているか、測ったことはある?」
「いや……。そういえば、正確に測ったことはなかったな」
『夜の牙』の時は、スキルを隠している手前、測定などとてもできなかったし、『黒いメンフクロウ』ではそんなタイミングがなかった。なんとなく、本能のようなもので、味方の攻撃力強化と敵の防御力に弱体化がかかるということがわかるだけだ。
「今度、正確な所を測ってみましょうか。ま、それはそれとして、ものの本ではこういわれているわ。攻撃力の強化は約2倍上昇、防御力の低下はおよそ8割減少になるって」
そういうと、面白そうに、自分の前にもう11枚の銅貨を置いた。
「単純にこれだけでも、ダメージが1から12に上がったのはわかるわね?でもクリスがすごいのはここから。敵の防御力に弱体化がかかる。つまり」
アリアン嬢の前から、8枚のコインを取り除く。
「ご覧の通り。攻撃力22に対して、防御力は2。当初の20倍以上のダメージが出ることになる」
「はああ……やっぱり、クリスさんてすごいんですね」
「すごいのはあなたもよ」
ヴィクトリアが微笑む。アリアン嬢の前からどけたコインを自分の前に並べ、さらに革袋から銅貨を取り出そうとして、銅貨がないのに気が付き、銀貨で代用しながら続ける。
「あなたのパッシブ『大樹将軍』は、クリティカルの確率を50%上昇させる。クリティカルも、本で読んだ限りでは、およそ2倍のダメージが出るの。つまり、このケースだと一度の攻撃で44ダメージが出ることになる。これだけで、何人分の攻撃に相当することやら。ね? あなた一人がいれば十分なの」
ちょうど料理が運ばれてきたので、硬貨を革袋に仕舞っていく。アリアン嬢は照れながらも嬉しさを隠し切れない顔でうつむいていた。その様子が微笑ましくて、つい俺も笑顔になってしまった。
「クリスがすごいのは、それを敵味方全員に一気にかけることができるところよ。普通はどちらか一つ、それも1人にしかかけられないのに」
そういうと、運ばれてきたオレンジ色のムニエルにナイフを入れていく。おいしそうな湯気が上がった。
「ま、そんな二人がいるから、あたしともう一人の仕事は、いかに相手に仕事をさせないか、ってことになるわけよ。素敵じゃない? 何もできない相手を、圧倒的な破壊力でボッコボコにするの。最高にゾクゾクしちゃう」




