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「それじゃ、手筈通りにお願いね」
ヴィクトリアの言葉に、二人で頷いた。
俺たち三人は今、砦の門扉裏に身を潜めていた。『動くが死んだ伽藍洞』は、砦の広場に四体で浮遊している。手に大きな斧を持ち、何かを探すように、互いの場所を行ったり来たりしていた。
斧には、何人を血祭りにあげたのだろう。ねっとりとした黒いものがこびりついている。
この魔物、ランク的にはCランクだが、攻撃力と防御力はBランク相当と、かなり高い。代わりに速度などは、一般的なCランクの魔物よりもかなり低かった。
「『組織暴力!』」
「砕けて散らせ!『火樹銀華』!!」
いつも通りのコンビネーション。俺が味方全員の攻撃力を強化し、敵全員の防御力を弱体化する『組織暴力』を発動し、あわせるようにアリアン嬢が敵への全体攻撃+行動阻害の『火樹銀華』を放つ。
地面から生えてきた女性の腰ほどもある枝が、うなりを上げて鎧の魔物に襲い掛かる。しなりを効かせた一撃が重たい鎧を地面に打ち倒し、そのまま縫いつけた。
無生物だからだろうか。『猛毒』の効果は発動せず、即死をした魔物もいない。
ここまでは、いつもの俺たちの戦い方である。このあと、俺もアリアン嬢も敵単体への攻撃しかできないため、複数の敵、それも体力や防御力の高い相手では苦戦が目立ってしまっていた。
ヴィクトリアが飛び出してくる。
「心よ逸れ!『幸福論』!」
身体が軽くなるのを感じる。視界の端で、『動くが死んだ伽藍洞』たちの拘束が解けるのが見えたが、勢いのまま、一体に『素手喧嘩』で殴りつける。一体の動きが遅くなったのがわかった。
「くぅぅぅ!らぁあ!ええぇ!!」
アリアン嬢が、俺が攻撃したのとは別の一体に『刀山剣木』で切りつける。鎧がへこむほどの一撃。そのまま、浮いていた鎧が地面に落ちて動かなくなる。倒したのだ。
「アリアンちゃん、すごいわね! 想像以上!」
「『黒いメンフクロウ』のエースだからな。いつも助かってるよ」
魔物たちの拘束が解けたにもかかわらず、まだこちらへの行動が取れていない。そのまま、別の鎧を殴りつける。こちらにも行動速度の減少があったのが感じられた。
残る鎧は3体。行動速度の減少があった2体と、未だ健在の1体。
その1体に向けて、ヴィクトリアがさらにスキルを発動する。
「ではさようなら。『約束された破滅』!!」
未だ無傷の一体に、黒い影がまとわりつく。これが、スキル説明にあった怨霊なのだろう。今はただ周りをかこっているだけで、特にダメージらしいダメージはないように見える。
その鎧が、斧を振り上げ、こちらへと攻撃を仕掛けてくる。アリアン嬢を庇って、胸当てで受け止めた。あばら骨が悲鳴を上げる。
次の攻撃は? と振り返った俺は、そこで驚愕した。
魔物たちがまだ動けていない。
何が起きたのかわからず、思わずヴィクトリアを見る。彼女は、してやったりとばかりに顔中で笑っていた。
「狙い通り!というよりも想像以上だったわ!二人のうちどちらか、もしかして行動速度減少のスキルを持ってる?」
「俺だ」
「なるほど! それでなのね! ああでも、これでより計画がマーベラスになるわ! Sランクまでの道のりは85%は確保されたわよ!」
「足されたの5%かよ」
「その5%がどれほど貴重なのか、これから思い知ることになるわ」
「何が起こってるんですか?こんなに魔物からの攻撃が少ないなんて……」
動きの鈍い1体を殴りつける、追撃でアリアン嬢の一撃。ヴィクトリアの指示によるものだ。なぜ未だ無傷の方を攻撃しないのか、疑問が残る。
こちらも崩れ落ち、動かなくなる。残りは2体。
残り2体のうち、無傷の方ではなく、彼女もなぜか速度が落ちている一体を攻撃する。ダメージを受けた鎧の魔物が、カウンターとばかりに斧を振りかぶった。肩口に重量のある一撃を暗い、彼女が鈍い声を上げる。防具がある個所のため、身体に刃物が入ることは避けられたようだ。
続けて、無傷の一体が再び斧を振りかぶった。俺を標的としていることが本能的にわかったので、手甲で受け止める。手首ごとたたき切られそうな重い衝撃に顔をしかめた。
次の瞬間、魔物の周りに漂っていた怨霊が一つになり、4メートルほどの実体を持って魔物に襲い掛かった。俺の胴体くらいはあるであろう太い腕で、何度も何度も殴りつける。何度も何度も何度も何度も。
怨霊が消えた時、鎧の残骸だけが残っていた。
なんという破壊力。これが『約束された破滅』か。
残り一体。俺が殴りつけると、力なく鎧が崩れ落ちた。
Cランクとはいえ、4体いたのだ。それを、苦もなく討伐。
「こんなに楽に勝てるなんて、思いませんでした」
アリアン嬢の感想は、そのまま俺の感想だった。1人増えたとはいえ、それだけでここまで楽になるだろうか。
「そこはそれ。あたしの計画通りにことが運んだからね。二人がすごかったのもあるけど」
「一体どういうからくりだったんですか」
「アリアンちゃんの強さは、全体攻撃と行動阻害の組み合わせ。だから、それが使えない間はどうしても苦戦する、多分今まではそう思っていたのよね?」
「は……はい。確かに」
「それはある意味で真実でもあり、真実ではないの」
『動くが死んだ伽藍洞』の素材を剥ぎ取りにかかりながら、ヴィクトリアが言った。目線をアリアン嬢に向け、続ける。
「あなたの攻撃は、全てが必殺よ。だから、火力役はいらないの。その代わり、行動回数を増やすことに主眼を置いたわ」
「行動回数?」
「行動速度を上げて、相手よりも手数を増やすの。私のスキルならそれができる。もともと重いあなたの一撃をさらに引き出すのはクリスのスキル。ね? 完璧でしょ」
クリスが行動速度のデバフを持っているのは嬉しい誤算だった、と笑った。彼女の予想では、後2回ほどは攻撃を食らう可能性があったという。それでも、今まで戦闘の後にポーションをがぶ飲みしていたことに比べると雲泥の差だった。
「あたしの考えがはまれば、Aランクでも一対一であれば、、もしかしたら一撃も貰わずに勝てるようになるかもしれないわ」
「それはすごいですね!」
アリアン嬢は目を輝かせてヴィクトリアの話を聞いている。そうしたくなる気持ちもよくわかった。実に爽快だった。勝ち戦の快感だと思う。こんな気持ちになったことは、『夜の牙』時代にもなかった。
「これだけすごい戦い方ができるのに、あと一人加えることができるのか……」
それでも十分すごいのだが。彼女の目には、もはやAランクは当たり前のものとして映っているのだ。心強いことこの上ない。
「そうなのよ。頭の中には、理想のスキル構成ができてるの。完璧な戦闘を約束するわ。だから、あたしを入れてくれると嬉しいんだけど」
「それは、勿論……」
少しだけ上目遣いに、ヴィクトリアが言う。
俺の返答は決まっていた。
アリアン嬢と顔を見合わせる。ゆっくりと、彼女がクビを縦に振った。
「歓迎するよ。ヴィクトリア。ようこそ『黒いメンフクロウ』へ」




