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「何なんですか、あなた。本当にしつこいですよ」

「別にあなたには関係ないでしょう?私は、クリスの力になりに来たの」

「そのクリスさんが迷惑だって思ってるんですよ」

「あらあら。あたしは一言でも、そんな話を聞いてないけど。ねえクリス、あたしって迷惑かしら?」

「とりあえず、やたらと脚を絡めようとするのはやめてくれ」


 『動くが死んだ伽藍洞リビングデッド・アーマー』の討伐に向かう馬車の途中で、俺はこの良くわからない状況に巻き込まれていた。

 ヴィクトリアは、やたらと足を絡め、そして頬を俺の胸に摺り寄せてきた。睡蓮の花のような良い匂いが鼻をくすぐる。

 そもそも、この子にこんなに懐かれる覚えがないし、力になるというのも意味が分からない。チコ・ラクサニが亡くなり、『奇跡の泉』は立て直しでそれどころではないはずだ。こんなとこにいていいのか。


「『奇跡の泉』は、解散したわ」

「え?」

「心配してくれたんでしょう?ありがとう。でも残念ながら、チコが亡くなって、ジンは腰と背中の間に大きなけがを負って動けなくなった。トビアスも左手のひじから先を切り落とす大けがをしたの。それで、解散よ」


 五体満足だったのは私だけだったのよね、と、寂しそうに彼女は笑った。その顔が泣き笑いに見えてしまい、俺もアリアン嬢も言葉が出ない。


「そんな顔をしないで。冒険者なんてやっていれば、こんなこといくらでもあるでしょ。むしろ、身体が残っただけでもラッキーと思わなくちゃ」

「……でも、実際にはそんなにきっちりとは割り切れないだろ。長く所属してるパーティーが解散になりゃなおさらだ。君は、俺の目から見ても精いっぱいやっていた。だから、そんな顔をするなよ」


 彼らが今まで冒険者を続けてこれたのは、明らかに彼女が舵を取っていたからだろう。全滅に近い状況まで追い込まれたのは、予想もしない強敵の出現によるものだった。

 本気でそう思って言ったのだが、俺の言葉に、ヴィクトリアが弾かれたように顔をあげ、それから笑った。今度は、ちゃんと楽しい時の笑いだった。


「そういうとこよね。本当ずるいと思うわ」

「そういうとこですよ。良くないと思います」

「なんでアリアン嬢まで⁉」


 いったいどういうとこだというのか、

 さっぱりわからないが、それで元『奇跡の泉』の彼女は調子を取り戻したらしい。笑顔になって続ける。


「だから、もう行くところがないの私。可哀相でしょ」

「まあ、確かに……」

「独りぼっちになって、やりたいことを考えた時に、あなたのことが浮かんだのよ。Aランクパーティー『夜の牙』からクビを宣告され、マルデ王国からプリン帝国に流れてきて、それでも腐らず、諦めず、一からパーティーを作ってる。そういうあなたの力になりたいって、そう思ったの」


 今のはちょっとぐっと来た。あえて誰にも見せないようにしていた弱いところを、さらりと撫でられるような感じ。


「でも、すごいわよね。最初のメンバーに彼女を選ぶんだもの。あなたのスキルにピッタリ。彼女なしで、Sランクなんか絶対に目指せないでしょうね」

「えへへ」

「同時に、彼女だけではSランクを目指せないこともわかっているんでしょう?例えば、そうね。彼女の一撃で敵を倒せないようになってきたとか。そうすると、複数の敵との戦闘が厳しくなったりとかするわよね」


 確かに、それは感じているところだった。とはいっても……。

 いたずらっぽい瞳で、ヴィクトリアがこちらを覗き込む。


「顔、近くないですかね」


 アリアン嬢の抗議を、当然のように無視して、彼女は歌うように続ける。


「でも、火力担当なんてそんなにいないし、いたとしても大人気。彼女の本当のスキルが何なのか、聞いてはいないけど、おそらく相当強力で、他の人じゃ物足りなく感じるくらいのものよね?」

「……まあな」

「それで、あなた自身も、自分がどんなパーティーを目指したいのか、わからなくなってるんじゃない?『夜の牙』でも、『明けの明星』でもなく、『黒いメンフクロウ』で最強を目指すんだものね」


 なんなんだこの子は。どこまで見透かしているのか。

 内心でじっとりと脂汗をかきながら、無表情を装う。


「あたしは、その答えを知ってる。あなたが望むなら、力になってあげられる。多分、誰よりも、あなた自身がパーティーを選ぶよりも早く、まずはAランクまで押し上げてあげられるわ」

「どうやってやるんですか?火力担当は大人気でそんなにいないって、あなたが言ったんじゃないですか」


 半眼で睨むアリアン嬢。俺の首元から顔だけを向けて、ヴィクトリアが言う。


「火力担当は、『黒いメンフクロウ』にはもういらないのよ」

「え?」

「知らない?世の中にはね、『発動していないのに、常に効果があるスキル』っていうものが存在するの。大抵は本人にしかわからないし、それゆえに秘匿されているけどね」


 アリアン嬢が黙ってしまうのを見て、面白そうに笑った。


「……あなたも持っているのね?あらあら、興味深いわ」

「……ッ!!」

「『パッシブ』っていうんだ。そういうのを」

受動的発動スキル(パッシブ)ね。なるほどなるほど」


 道が荒い場所に入ったのか、馬車がガタガタと揺れる。4人掛けの小さな座席には、俺たち以外の人間はいなかった。


「話を戻しましょうか。その『パッシブ』を持つのが、冒険者だけとは限らないでしょう?魔物が持っていたっておかしくない。そうすると、単純な力押しでは勝てない可能性が高いの。ダメージを食らえば食らうほど攻撃力が上がる敵とかが出てきてもおかしくない。そうすると、最後の一発でこちらが全滅ってこともあるわよね」

「では、どうしたらいい?」

「あたしを入れて」


 ヴィクトリアが俺から離れ、自分の胸に手を当てていう。その目は、まっすぐに俺をとらえていた。


「あたしを『黒いメンフクロウ』に入れることで、どんな敵とも戦えるようになる。もちろん、あなたたちがスキルの詳しい内容を話してくれれば、もっと効果的に、そうね、4人目のメンバーに必要なスキルとかも考えられると思うけど。とにかく、あたしが入ることで、Sランク昇格への可能性は80%くらいまで上がるわ」

「何を企んでるんですか」


 アリアン嬢がそう言いたくなる気持ちもわかる。俺たちを毛嫌いし、追い返そうとした『奇跡の泉』の元メンバー。そんな彼女が、いくら解散したからと言って、俺たちとともに戦いたいなどというだろうか。


「何も。しいて言うなら、クリスの理想をかなえてあげたいの。Sランクを目指すというなら、そこまでの最短距離を通らせてあげたい。『夜の牙』に後悔させたいというなら、そうなるようにしてあげる。何にでもなれるし、ならせてみせる。彼を支えることが、今のあたしの夢なのよ」


 なんのまじりっけもない、純粋な視線に、かえってこちらが気圧されそうになる。支えてくれる、と言われることが、こんなに嬉しいとは思わなかった。ふと緩みそうになる涙腺を必死に抑える。

 アリアン嬢も、彼女の気持ちが伝わったのか、何も言わない。馬車の車輪がガタつく音と、蹄の音だけが響く。


「……それじゃ、とりあえずこの依頼は一緒にこなすか?」


 ヴィクトリアが、花が開いたかのような笑顔を見せる。


「任せて!ずっと考えていた戦い方があるの!もしそれを気に入ってくれて、あなたたちのスキルを教えてくれれば、さらに戦い方が洗練されるわ!本当に気に入ったらでいいから!見てて!頑張る!」


 なんてまっすぐな子だろう。アリアン嬢と顔を見合わせ、苦笑した。


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