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とっぷりと日が暮れ、あたりを闇が支配する頃。
古戦場から5キロほど下がった、臨時キャンプに、俺たちは帰ってきた。ここには、サポートパーティーと『明けの明星』が情報交換や治療の斡旋をするほか、取ってきた素材を預けるためのボックスが設けられている。各ボックスにはそれぞれのパーティー名が記載されており、管理のためのパーティーが常時監視している。
「『黒いメンフクロウ』さんですね。それでは、こちらのボックスに素材を入れてください」
Bランクパーティー『愛のびっくり箱』だ。俺より年上だろうか、小太りでカイゼル髭を生やした男が受付をしてくれる。
アリアン嬢と頷きあい、荷袋から今日獲得した素材を取り出していく。カイゼル髭がそれを確認し、手帳に書き記した後、俺たちのボックスに収めていく。
「ありがとうございます。それでは、確かにお預かりしました。素材に関しては、依頼達成までに獲得したものが、帝都のギルドにて配布されます」
「こちらこそありがとうございます。よろしくお願いします」
「承知しました。それでは、次の方どうぞ」
お礼を言って振り返ると、そこには『奇跡の泉』のメンバーがいた。アリアン嬢の周りの空気がひんやりとする。殺気立っているのだ。
「……なんだ、お前らか。邪魔だ。さっさとどけよ」
苦虫をかみつぶしたような表情で、トビアスが言った。後ろには、ジン、チコ、そしてヴィクトリアもいる。
全員、ひどく汚れていた。死闘だったのだろう。もしかすると、自分たちよりランクの高い魔物とぶつかったのかもしれない。
相変わらずの、こちらを馬鹿にした口調に、アリアン嬢の殺気が強くなる。落ち着け、という意味でその手を握ると、殺気が収まっていくのが分かった。
「お疲れ様です」
「……俺たちは、Bランクの魔物を討伐したぜ。この調子なら、明日はもしかしたらAランクが出ても行けるかもしれない」
「はあ」
何が言いたいのかこいつは。まともに会話する気も起らず、横を通り過ぎようとする。
『明けの明星』が戻ってきたら、情報交換を行い、それから夕飯だ。これは全員で仲良く……などということは勿論なく、各パーティーごとで個別に炊飯だ。こんな連中に構ってる暇はない。
「……俺たちは、お前らに負けてるなんてこれっぽっちも思ってねえ。見てろ。帝都に帰ったら決闘を申し込む。それで、白黒ハッキリつけてやる」
「負けてる」という言葉で、後ろにいたヴィクトリアを見ると、こちらに向けてウィンクをしてきやがった。どういう言い方で言いくるめたのかは知らないが、やるならもっとうまくやってほしい。いらぬ敵愾心を煽っただけな気がする。
「そうですか。でも、我々はそれを受ける気がありません。いいじゃないですかグレーで」
「ふざけんな!」
ジンが怒鳴る。ああもう。大きな声出すから皆がこっちを見てるじゃないか。恥ずかしい。
何に対してのスイッチが入ったのか、そのまま顔を真っ赤にして続ける。
「ヴィクトリアが言うから、今回は我慢してやってるだけだ! だが、今回の素材で俺たちはさらに強くなる! 何が『今は負けてる』だ! 圧倒的な力の差を見せてやる!」
「悔しいけど、ヴィクトリアの戦術眼はウチらの中でもピカイチだからね。でも見てなさい。あたしたちはまだまだ強くなるんだから!」
『奇跡の泉』の中で、ヴィクトリアの信用は相当高いようだった。
昨日の彼女の洞察力から考えれば、確かに頷ける。決して良質なスキルを持っているとは言えない『奇跡の泉』のメンバーが、今まで生き残ってれたのは、彼女の戦略が大きいのだろう。
「皆さんが強いのは重々承知しています。だから、もういいじゃないですか。我々は皆さんと喧嘩をする気はないんです。お互い、持ち場を守って頑張りましょうよ」
「……チッ、もういいよ。腰抜けが」
トビアスが吐き捨てるように言う。ヴィクトリアが、後ろで片手を「ごめんね」の形にしていた。
「行きましょうクリスさん。腰抜けは早く立ち去らないと」
にこやかに言ってるが、額の青筋が隠せてないぞアリアン嬢。
ため息をつきながら、トビアスたちの横を抜けた瞬間。
「待たせたな諸君!今戻った!」
リザ・メナの良く通る声が響く。『明けの明星』の4人がキャンプに戻ってきたのだ。
あっという間に、周りに人だかりができる。素材を預けようと、『愛のびっくり箱』の列に並んでいる連中も、もれなく彼女たちの周りを囲んだ。
華やかなオーラがあるよなあ。
なんというか、いるだけで周囲を元気づけてくれる不思議な魅力があるのだ。存在するだけで勇気をくれるような。
それは昔、ダニと二人であこがれたSランク冒険者の姿だった。いつかああなりたい、そう思って冒険者になったのだ。
「皆聞いてくれ!砦跡の魔物は一体のみだが、確かに魔神の使徒だった!」
ざわ、と空気が揺れる。
「そうだ!今日我々が相対した魔物からは、姿かたちは違えども、確かに10年前と同じ気配を感じた!あれは、Sランクの魔物である!」
ざわめきが波のように広がっていく。Sランクは、『明けの明星』以外相手にしたことがない未知の魔物だ。動揺するのも無理はない。
波のように広がったざわめきが、どよめきに変わっていく。リザさんが神の祭壇の剣を高く掲げ、咆哮した。
「狼狽えるな! 我々は、10年前、そのSランクの魔物を打倒し、そして今日、さらに強くなっている!諸君らに約束しよう!明日こそ、かの魔物の首を持って帰ると!」
どよめきが収まり、そして歓声となった。
シャルロット、ファイ、ドロシーに囲まれる中、さらにリザが続ける。
「そのためには、諸君の協力が必要不可欠だ!幸いにして、今日は一人も欠けることなくここに戻ってくることができた!明日もこうして集まろう!皆で、世界の危機を救おうではないか!」
歓声は今や、怒号のようになっていた。
弾けるような笑顔で、俺たちのカリスマはいう。
「さあ!ジョッキを手に取れ諸君!今日という日に!そして、明日の我々の成功に乾杯と行こうじゃないか!」
皆が慌てて、各々のジョッキに酒を満たしていく。俺も、アリアン嬢に木製のジョッキを渡し、葡萄酒を注いだ。
「やっぱり、Sランクの冒険者って違いますね!」
無垢な少女が、その頬を興奮で赤く染めていた。
それは、10年前、俺とあいつと二人で浮かべていたであろう表情。
「俺たちも、いつかああなろう。いるだけで周りが安心してくれるような冒険者に」
アリアン嬢が、満面の笑顔で頷く。
リザさんがジョッキを高く掲げた。あちらこちらで、ジョッキ同士がぶつかる音が響いてくる。
俺とアリアン嬢のジョッキも、鈍い音を立ててぶつかった。




