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「『組織暴力』!」
「砕けて散らせ!『火樹銀華』!!」
地面から伸びた狂暴な枝が、5頭の雪飛竜たちを打ち据える。アリアン嬢のパッシブ能力により、確定で行動阻害が発動する必殺の一撃は、致命的なダメージを与えた後、生き残った3頭を地面に縫いつける。
俺の『素手喧嘩』、次いで彼女の『刀山剣木』で、3頭のうちの1頭が絶命する。
枝による拘束を解いた2匹のうち、1匹がこちらに向け『中吹雪』を発動する。氷礫によるダメージと、冷気による速度の減少。
もう一度『素手喧嘩』を放つ前に、もう一頭の雪飛竜が同じく『中吹雪』を発動した。1メートル先も見えないような吹雪の中、いきなり氷の弾丸が飛んでくる。顔を腕で覆って、少しでもダメージがないようにするが、無防備な脚などをはじめ、身体のいたるところが悲鳴を上げた。
『中吹雪』の後、視界が戻ってくる。アリアン嬢を見ると、ちょうど彼女もこちらを見たところだったのか、ばっちりと目が合った。そのまま、首を横に振る。
どうやら、まだ『火樹銀華』を発動するのは難しいようだ。
雪飛竜の頭を殴り飛ばす。続けて少女が、背丈程もある大きな長槍斧を振りかぶり、斬りつけた。一撃で命を刈り取るところまでは行かないが、『猛毒』が周り、ほどなくして絶命する。
最後の一匹が、爪を振りかぶり、俺を襲う。手甲で牙を受け止めながら、『組織暴力』を発動させた。
後ろから、『刀山剣木』の一撃。
それで、最後の一頭も倒れた。
「やっぱり、このランクの相手だと、一撃で倒せる、ってわけにはいきませんねえ」
汗をぬぐい、ポーションを飲みながら、アリアン嬢が言う。
『明けの明星』のサポートとして、マイセキ古戦場に挑んでから4時間。
打ち寄せる波のように次々と押し寄せる魔物たちを、俺たちは割り当てられた持ち場で食い止めていた。足元には、素材を剥がれることもなく横たわっている魔物たちの死骸。俺もポーションを飲みながら、空を見上げる。疲れた。
割り当てられたのは、砦跡を12時、飛空艇があった場所を6時としたときに、大体7時くらいの場所だった。俺たちはEランクということで、大勢に影響のない場所を任されている。ここが崩壊するときは、この依頼が失敗し、『明けの明星』が壊滅した時だけだろう。
「俺がもうちょっとパワフルだったらなあ……」
「何言ってるんですか」
アリアン嬢が俺の肩に手を置きながら言う。
「クリスさんが非力なことなんて、最初からわかってますよ。最初から期待してません」
「フォローになっているようでなっていないパターン」
「私がもっと成長しないと、これより上位ランクの魔物には苦戦するかもしれませんね……」
遠くで、何かが崩れるような音。
『明けの明星』のサポートメンバーは、この周辺に散らばり、俺たちと同じく、魔物の掃討にあたっている。おそらく、そのうちの誰かがスキルを使ったか、もしくは魔物に使われたかだろう。
俺たちに割り当てられた場所は、今のところCランク程度の魔物が現れている。1匹だけBランクの魔物「ミノタウロス」も出たが、それほど苦戦することもなく勝利した。同じBランクの魔物である大邪蛇にあれだけ苦しめられたのが嘘のようだ。
アリアン嬢と、その得物『悪夢の毒毒モンスター』の取り合わせ――いやもはやこれは「マリアージュ」といった方がいいだろう――が、凶悪極まりなかった。行動阻害と猛毒のコンビネーションは、毒耐性のない魔物には天災のように映っているだろう。
この調子で行けば、時間がかかるとはいえ、何とかなりそうだ。
とはいえやはり上位ランク。Fランクのときのように、一撃で、というわけには行かない。アリアン嬢の言う通り、Bランクの魔物が複数で出てきたりすれば、苦戦は必至だった。
「新しいメンバーって、入れる予定はあるんですか?」
「うーん、考えてるけど、いい出会いがないからなあ」
「モテない男の人って、皆そういう言い訳をしますよね」
「どうしてそういうこと言うの」
まあ、しばらく二人でもいいですけどね、と向こうを向きながらアリアン嬢がつぶやく。
いいメンバーを見つけられない俺に対する、アリアン嬢の気遣いが有難い。
しかし、追加のメンバーか……。
これがまあ見つからないのだ。ギルドの掲示板を見ている人などのスキルもこっそり見てみたのだが、アリアン嬢のような人はいない。スキルも、二つの人がほとんどで、三つあってもピンとくるスキルがない。
俺は一体、どんなパーティーを作りたいんだろう。そのビジョンがないのが、一番の問題な気がする。
新生『夜の牙』のように、バランスが取れたパーティーを、と思っていた。『明けの明星』のスキル構成を見て、Sランクとはこういうものかとも思った。
でもどちらも、俺がいるせいでそれは成し遂げられない。俺には、火力も、全体攻撃スキルもないのだから。
可能であれば、俺の『組織暴力』からのアリアン嬢の『火樹銀華』のように、各メンバーのスキルが有機的に噛み合わさり、最高の効果を発揮できれば言うことはないのだが、そんな組み合わせをホイホイと思いつくはずもなく。
いやあ、まだまだ。『明けの明星』どころか、『夜の牙』も遠い。
「すごい深いため息ですよ」
「いやあ、ちょっといろいろ考えちゃってね」
「大丈夫ですよ。クリスさん一般的にはモテないかもしれませんが、刺さる人には刺さると思います」
「違うそうじゃない」
それに、刺さる人には刺さるって、それ結局モテないってことじゃん。
「それにしても、またすぐに新手が来るかと思ったんですが、まだ来ませんね。素材の剥ぎ取り済ませちゃいますか?」
「そうしよう。まずは唯一のBランク、ミノタウロスからで」
「承知です」
ミノタウロスからは、「雄牛人の角」が取れた。Bランクの中でも、優秀な武器防具に使われることが多い。また胃からは、謎の宝石が出てきた。何に使うのかさっぱりわからないが、価値がありそうなので持って帰ることにする。
これまでのところ、俺たちが倒した魔物は、Cランクの雪飛竜、岩山虎、風船爆弾怪鳥、そしてBランクのミノタウロスだ。
ミノタウロスに続いて、雪飛竜を解体する。Cランクとはいえ、『竜』の名が付く魔物だ。価値のある素材が取れる。
「見てください。キンキンに冷えてます!」
アリアン嬢が、雪飛竜の氷嚢を掴んで持ち上げていた。氷系の装備を作ってもらう際に必須の素材である。日の光を受けて、まるでガラスの彫刻のように煌めいていた。
俺は尻尾や鱗を剥いでいく。死してなお、霜が降りたかのように冷気を保ったそれらは、素手で触り続ければ凍傷になってしまいそうだ。
「手をやられないように気をつけろよ。少しずつでいいから」
「はい。それはそうと、他の人たちは大丈夫なんですかね。全然合図が来ないですけど」
「さあな。こればっかりはわからん。待つしかないさ」
「ですね」
『明けの明星』は、今まさに魔神の使徒と思われる魔物と戦っているはずだった。もしもこれがうまくいけば、黄色の狼煙が上がる手はずになっている。失敗すれば赤。
どちらも上がっていないということは、まだ戦っているということだろう。
ちなみに、サポートメンバーは、そのランクによって、持たされている狼煙の煙の色が異なる。これは、例えばAランクのパーティーが敗北した相手に、Cランクのパーティーが行っても犠牲が増えるだけだからだ。
俺たちが持たされているのは茶色。失敗すれば使う手筈になっている。色がなんか嫌だ。
また、あと4時間もすれば、あたりは夕闇に包まれる。その場合も、一時撤退して皆で落ち合う予定になっていた。『明けの明星』を含め、情報交換を行うためだ。
「ま、あと4時間。油断せずに、引き続き張り切っていこう」
「そうですね。まだ誰も失敗の狼煙を上げてないですし、第一号は嫌です」
「確かに。『奇跡の泉』あたりがめちゃくちゃ馬鹿にしてくるだろうな」
アリアン嬢がそれを聞き、ぷくっと頬を膨らませた。
「嫌なこと思い出させないでくださいよ。せっかく忘れてたのに」
「ごめんごめん」
「帰ったら帝都の新しいスイーツ屋さん付き合ってください。甘いもの食べてもう一回忘れます」
「了解。さあ、もうひと頑張りだ。気合入れていこうか」




