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「すごい……。すごい、大きくて立派です……」
「さあ、手に取ってごらん」
「こんな太いんですか……? 私、大丈夫かな……」
「すぐに慣れるさ。初めて、かい?」
「はい。こんなすごいの、初めてです……」
「工房で誤解を招きそうな表現は慎んでもらおうか」
親方が半睨みの目でツッコんでくる。
俺たちは、Sランクパーティー『明けの明星』から紹介された専属の職人、ヤムヤム・フリッシュ親方の工房に来ていた。アリアン嬢が、新しい長槍斧をその手に持ち、うっとりとした表情を浮かべている。
フリッシュ親方だが、最初気難しそうな印象を受けたが、実際は驚くほど細やかな神経の持ち主だった。大まかな武器の希望を伝えたところ、こういったイメージだろうか、いやあっちにした方が、と紙に書いて伝えてくれたり、使い勝手や効果についてもアドバイスしてくれたり。
俺たちも、超一流の職人にお願いできる機会などなかったので、これ幸いとばかりに夢を詰め込んだ要望を出した。いや、もはやこれは、夢ではなく欲望と言った方が良いかもしれない。
「斬りつけたそばから皮膚や鱗が腐り落ちるような武器がいいです」
にこやかな笑顔で恐ろしいことを口走るアリアン嬢。
「お嬢ちゃん。実現可能か不可能かで言えば、そいつは実現可能だ。だが、そのためには『劇毒』の毒袋がいる。今回の素材ではちょっと難しいな」
「そうですか」
「アリアン嬢、残念だが……」
「だが『猛毒』の毒袋があるからな。似たようなところまでは持っていける」
「マジか」
初めて紹介されてからまもなく一か月、打ち合わせに打ち合わせを重ねたアリアン嬢のための武器、『悪夢の毒毒モンスター』が遂に完成、今日はそのお披露目である。
黒い柄に、大邪蛇の牙を黒く染めた刃。ところどころに紫色の筋が、まるで血管のように走っている。デザイン的には、リザ・メナが身に着けている纏炎地獄鎧を彷彿とさせた。やはり同じ職人だけあって、デザインの系統が似てくるのだろう。
そのほか、同じく大邪蛇の素材を使用した鎧と胸当て、それに拳鍔を制作してもらった。どれも紫色の血管状の模様が入っており、一目で素晴らしい品だとわかる。
さすがにSランク御用達の職人、仕事がきめ細やかなうえに丁寧かつ高品質でほれぼすれる。やっぱり専属職人てすごい!そう思わせてくれる完成度だった。俺たちも早く、一流の職人と契約したい。
お値段的にも、今までとは比べ物にならないくらい高価だったが、それだけの価値はあった。『夜の牙』時代にも、こんな素晴らしい装備を身に着けたことはない。
『悪夢の毒毒モンスター』や、新しい軽装鎧を装備したアリアン嬢のステータスを見ると、そのすごさがわかる。
アリアン・ブラック【木属性】 レベル:17
攻撃:95(悪夢の毒毒モンスター +42 猛毒による追加ダメージ、10%で即死)
防御:65(毒毒軽鎧+27 毒無効、猛毒半減)
速度:36
精度:35
抵抗:36
運:69
【スキル1】刀山剣木
敵一体に攻撃を行い、対象の攻撃力を少しの間下げる。
【スキル2】火樹銀華
敵全体に攻撃を行い、少しの間敵の運を下げる。この攻撃でクリティカルが出た場合は、対象の次の行動を阻害する。このスキル使用時、クリティカルの確率が50%アップする。
【スキル3】大樹将軍(パッシブ)
自分のクリティカル率が50%アップし、クリティカル攻撃時のダメージが50%アップする。
なんだ即死確率10%って。猛毒でこれかよ。劇毒になったらどうなっちまうんだ。
というかこれ、アリアン嬢の全体攻撃スキル『火樹銀華』との組み合わせが凶悪すぎるだろ。もしかすると即死、もしかしなくてもスキル3との組み合わせで確定行動阻害、そして猛毒付与。
死神も裸足で逃げ出す無慈悲な連続技だ。
このステータスは『鑑定屋」持ちの俺にしか見えていないが、知らずに挑む連中にはお気の毒に、というしかない。ご冥福をお祈りします。
ちなみに俺の方も、アリアン嬢程ではないがパワーアップに成功した。
クリス・イングブルム【闇属性】 レベル:32
攻撃:111(毒蛇の顎 +29 同一対象への攻撃3回ごとに、50%の確率で『猛毒』付与)
防御:103(ポイズンブレストプレート +20 毒半減)
速度:52
精度:56
抵抗:48
運:38
【スキル1】素手喧嘩
敵一体に攻撃を行い、対象の速度を少しの間下げる。
【スキル2】組織暴力
しばらくの間、敵全体の防御力を減少させ、味方全体の攻撃力を上昇させる。
【スキル3】鑑定屋(パッシブ)
対象のステータスおよびスキル構成を確認することができる。
『毒蛇の顎』に、アリアン嬢ほどの攻撃力が出ていないのは、良い素材をほとんど彼女の装備につぎ込んだからだ。その結果、悪意の権化というしかない装備が出来上がってきたのだから、後悔などあろうはずがない。いや本当素晴らしいよフリッシュ親方。マジで最高。
「それで、明日っから『明けの明星』のサポートに出かけるんだろ? どこに行くって言ってたっけ?」
手になじませているのだろう、『悪夢の毒毒モンスター』を素振りしているアリアン嬢を見ながら、フリッシュ親方が俺に尋ねた。
「マイセキ古戦場ですね。今、魔物が大量発生しているらしく……」
その中に、ひときわ強力な魔物がいるとのことだ。もしかすると、魔神の使徒かもしれないと。それで、『明けの明星』に声がかかったのだ。
各国のギルドは、基本的に横のつながりがない。帝国は王国のギルドに助けを求めないし、逆もまたしかり。今回のマイセキ古戦場は、帝国が保護する小国の領土であるため、帝国のギルドからパーティーが派遣される。
『夜の牙』とは、今回会うことはない。そのことを残念に思う半分、ホッとしている自分もいた。
「そういや、聞いてるかイングブルム」
フリッシュ親方は、目を細めてアリアン嬢を見ている。聞けば、自分の娘も同じくらいの年頃なんだとか。
「今回のサポートで採ってきた素材で、もう一度武器防具を作ってやれるぞ。リザ・メナが許可を出した」
「本当ですか⁉」
「ああ。『明けの明星』も、優秀なパーティーはサポートに確保しておきたいらしいな。そのための飴ってとこだろう。ま、何はともあれ、今回の戦いを生き残ってこそだ」
そうして、俺の肩をたたく。
「こう見えても、俺はお前らのことを気に入ってるんだ。必ず生きて帰って来いよ」




