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一年後

 微かに甘い匂いを運んでくる風と、真っ白な雲が浮かぶ青い空。光を浴びた湖は表面がキラキラと輝き、辺り一面に咲く色とりどりの花。そして何より――。


「なんて美しいのでしょう……」


 興奮しているのか、少し頬を赤くしてシェリーが呟く。

 ザイドは高鳴る胸を押さえ、そんなシェリーを見つめた。

 人間界での出来事から一年が経ったこの日、ザイドはかねてからの約束通り、シェリーを西の野原へと連れてきていた。

 ザイドの努力もあり、シェリーの悲しみも少しずつ癒え、最近では体にも肉がついてきた。完全に立ち直るまではまだ長い月日がかかるだろうが、いつまででも待ち続けるというザイドの覚悟は今も変わりなかった。

「ザイド様、ありがとうございます」

 微笑みと共に礼を言われ、ザイドはぎこちなく頷く。花に囲まれたシェリーは、芸術家が魂を込めて書いた一枚の絵のようにも見えた。


 シェリーの方が美しい。


 そう言いたいが、声が出ない。

 ただシェリーをじっと見つめるザイドにシェリーはもう一度微笑んで、湖に視線を移した。

「あんなところにも花が咲いているのですね」

 シェリーの言葉に、ザイドも視線を湖に向ける。湖のちょうど真ん中に、丸い花が浮かんでいた。

「変わった形をしていますね。それに色も――淡い黄色でしょうか? ここからではよく分かりませんが……」

 頬に手を当てて首を傾げるシェリー。残念そうな表情を浮かべて湖を見つめる姿に、ザイドは思わず叫んだ。


「取って来よう!」


 シェリーが「え?」と振り向いた時にはもう、ザイドは湖に向かって走り出していた。花を踏まぬように爪先だけで駆け抜け、服のまま湖に飛び込む。


「ザイド様……!」


 シェリーの驚きの声は水音に消え、ザイドの姿は水しぶきで煙る。湖が激しく揺れた。

 一直線に湖の中心に向かったザイドは花を一輪摘むと、また大きな水しぶきをあげて、シェリーの元へと引き返す。そして水の中から手を伸ばし、湖の淵まで駆けてきたシェリーに花を差し出した。

「シェリー、受け取ってくれ」

 ザイドがシェリーを見上げる。

「ザイド様……」

 シェリーは泣きそうな顔をして手を伸ばし――、しかし花には触れずに掌を上にむける。

「シェリー?」

 意味が分からずに戸惑うザイドに、シェリーは微かに震える声で言った。


「手を、繋ぎたいのですが。でも強制ではありません」


 ザイドが大きく目を見開く。

「シェリー……!」

 差し出された手と微笑むシェリーの顔を交互に見て、ザイドはごくりと唾を飲む。そして――。

 ザイドはシェリーの掌に、そっと指先で触れた。

 太い指をシェリーが握る。

 シェリーの細い腕に引っ張られるようにしてザイドは湖からあがり、全身からぼたぼたと落ちる滴が地面に小さな水たまりを作った。

「ザイド様、花を見せてもらえますか?」

 言われてハッと花のことを思い出し、ザイドは慌ててシェリーの目の前に花を差し出す。

「綺麗ですね。黄色と赤と……近くで見ても不思議な色……」

 花を見つめて呟くシェリー。それにつられるように、ザイドも呟いた。


「シェリーの方が綺麗だ」


 シェリーが驚き、ザイドを見上げる。

 シェリーの頬が赤く染まり、それに負けないくらい、ザイドの頬も赤くなる。

「その、体を拭かないと、風邪をひきます」

「あ、ああ」


 互いに視線を外し、だけど手だけはしっかりと繋ぐ二人をからかうように、花が風に揺れた。



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