044話 雅樹と秋人
――――目覚めたのは、アルメキスの村だった。
<Kujou Masaki>
周りの木々がざわざわと揺らぎ、開けた平地が来たる魔力の変動に軋んでいた。
「ではいきます、マサキ様」
「おう、いいぜ」
俺が頷くと同時、目の前に立っていたエルシアから膨大な魔力が放たれる。
「いざ魂魄を食らい出でん、“炎の英霊”」
途端、辺りの温度が一気に上昇した。
酸素を奪い、空間の一部を取り込んで、炎はさらにその勢いを増していく。
蛇のような長い胴体、鰐のような鋭い顎に、燃え固まるような炎の鱗。
陽炎を纏って俺の前に現れたのは、炎とは思えないほど生命力に溢れた灼熱の龍である。
「雨纏う剣、“村雨”」
対して、俺が創り上げるのは水の剣。
構えた一メートルほどの白い刀身が俺の魔力を受けてさらに光輝く。
変貌を遂げた姿は、俺が思い描いた通りの水属性を備えた白銀の刃。
エルシアの魔法抗議によると、自然魔法の属性は火、水、雷、土、風、光、闇の七つ。
基本的に火は水に弱く、水は雷に弱く、雷は土に弱く、土は風に弱く、風は火に弱い。
通常の魔法戦闘において、相手の火属性の攻撃に弱点である水属性を当てるのは定石なのだ。
「サラマンダー!」
「うおっ!?」
途端、龍の牙が凄まじい力で俺を構えていた剣を襲った。
純白に光かる刀身は無事だが、そこに宿した俺の魔力が消滅する。
「そんなっ!? こっちは水属性なのに……!?」
「属性関係は複雑なものです。一概に正しいとは言えません」
火は水に弱い……しかしそれは時に逆転することもある。
火は水を蒸発させるし、真水では電気がほとんど流れないといったように、状況により効果は様々だ。
今のはおそらく、俺の魔力が少なすぎたためにエルシアの魔力に負けたのだろう。
「わかりましたか?」
「な、成程……」
首筋に汗が伝う。
熱気にあてられたからではない。
あと一歩右にずれていれば、俺は焼死していたかもしれないからだ。
(あ、あっぶねぇえええええええ!!!)
ぶわっと全身から汗が噴き出してくる。
早く慣れたい、とは思うが、全然慣れそうにはない。
これで俺が死にそうな目に遭ったのは、一体何度目になるだろう!?
「……マサキ様?」
「…………」
正直、エルシアの特訓がこんなに厳しいとは思わなかった。
こんなに可愛い女の子が、こんなに恐ろしい特訓を思いつくなんて一体誰に想像できた?
最初の頃は下手しても擦り剥くくらいで済んでいたのに、今じゃもうミスったら即死である……! 洒落にならない!
「あの、マサキ様?」
「え? な、なに?」
「いえ……今日はもう終わりにしましょうか」
「!? 終わりかっ!? よっしゃーっ!!」
終了の言葉を聞いて固く強張っていた全身に活力が戻る。
この瞬間を一番嬉しく感じてしまう自分が少し情けない。
が! しかし今日もなんとか生き抜いた……良く頑張った俺!(なんか間違ってる)
「もうっ……いつもいつも、特訓が終わった後は元気になりますね、マサキ様は」
「いや……ははは」
エルシアの呆れた言葉に笑ってごまかすのも、もう何度目だろうか?
悪いとは思うけど、やはり嬉しいものは嬉しいのだ……とは、心の中でごちる。
何たってこの日課となっているエルシアとの魔法特訓、これは俺が彼女に頼みこんだものだからだ。
まさかこんな思いをするとは露にも思わなかったが、まぁ必死こいて励んだおかげで大分上達しているような気がするし……。
彼女に感謝していることは確かなのだ。
そんな風に言い訳しつつ、俺は剣を鞘に戻す。
気力はすぐに回復しても、疲労が回復するわけではない。
俺は特訓でくたくたになった体を引き摺って、後ろに止まっていた馬車の前にある切り株に座り込んだ。
「でもさぁ、最近の特訓は少し危険過ぎやしないか?」
続いて俺の横に座ったエルシアに、不満をぶつける。
実を言うともっと前から言おうと思っていたことだ。
今日だって特訓で三回は死にかけたこの身である……今後もこのようなことが続くのは少し遠慮したい。
「少しくらいの危険がないと人は強くはなれませんよ? それにマサキ様は才能があるのですから、多少の危険は克服してくれないと困ります」
「……多少の危険、ね」
これは飽くまでも俺個人の意見だが……多少の危険っていうのは、命を賭すようなものではないんじゃないか?
「……そ、それに、マサキ様は、ですね……将来、私の……(ぽっ)」
「ん? 何か言った?」
少し考え込んでいたせいで、俺はエルシアの小さな呟きを聞き逃してしまう。
「い、いえっ、何でもありませんっ……///」
「え? でも何か言ってたろ?」
「ほ、本当に何でもありませんからっ」
「……?」
時々、エルシアはこんな風に慌てることがある。
こんな時は俺が何を聞いても逸らかしてくるし、一体何なんだろうかといつも疑問に思う。
……っていうか、顔赤いし。もしかして体調でも崩してるのかな?
「ちょっとごめん」
言って、コツっと俺の額をエルシアの額に合わせた。
別に手のひらを乗せても良かったが、さっきまで剣を握ってたから少し汗ばんでるしな。
「…………ぁ……えっ、あっ、えっ!?」
まぁ、さっきまで普通に会話もしていたから、そんなに酷いものでもないとは思うけど。
「マ、ママママ、マサキ様っ!?」
しかし実際、エルシアが体調を崩したとなれば結構大変なことになるのだ。
なんたって今は旅の途中……近くに病院などあるはずもないし、俺は医者でもなんでもない。
そりゃあ馬車の中に薬とかも積んでるだろうけど、俺には何が何だかサッパリだし。
ただの風邪ならいいが、ここは異世界。俺の知らない病気とかもあるかもしれないわけで……。
「ふむ……少し……熱いか?」
「う~~~~う~~~~///」
そんな時に頼りになるのは、エルシアしかいない。
「それに、なんだか顔も赤い……?」
「あうあうあうあう……//////」
だから今、エルシアにもしものことがあってはならないのだ!
「エルシアっ! どこか悪いのか!?」
「あぁ、あぁ、マサキ様ぁ/////////」
「……呼吸も荒い、これは……まさか、本当に……!?」
確認できる症状だけでも発熱、発汗、赤面、息切れ。
これはまさか? と思っておでこを離し、エルシアの肩を掴んで問い質すも、エルシアは力なく揺れるだけ。
しかも瞳を潤ませてどこか目線を彷徨わせているようで。
「マサキ、様……」
「な、なんだエルシア! 何でも言ってくれ!」
苦しそうにエルシアが呻きだす。
「む、胸が……」
「胸? 胸が痛いのかっ!?」
いつもとは違うエルシアの挙動に俺は少なからず懸念を抱いていた。
なので俺は必死に、冷静さを欠いたままエルシアの胸へと手を置く。
「ここかエルシア!? ここが苦しいのか!?」
「あぁぁ、マ、マサキ様、そんな、こんな所で、なんて……」
「何だ!? こんな所ってどんな所なんだ!? エルシア!」
そう俺が叫んだ瞬間。
――――ふにっ。
と、勢い余った俺の手にそんな感触が伝わった。
「ふぁ……///」
「!?」
エルシアの反応と自分の手の感覚に一瞬思考が止まる。
その隙をついたのか、俺の理性が冷静さを取り戻した。
気付いたのは、俺が何かイケナイことをしてるような状況だったことだ。(『ような』じゃねぇよ! 胸触ってんぞっ!?)
「わ、ごめっ……えっ?」
俺は反射的に手を引っ込めようとするが、今度はパシッとその手をエルシアに掴まれる。
何故だ、何故俺の手を掴んだ、エルシア!?(離してくれ!)
「マサキ、様……」
「な、なに……?」
意味がわからずエルシアを見るも、その瞳は妖しく俺を射抜いていて。
(……まさか、今までの反応も……?)
「…………」
「…………」
考えたくはないが、すべて俺の勘違いという線が出てきた。
いや、でも俺が手を置いたのはエルシアの様子が変だったからで……?
と、俺が考えている間に何故かエルシアの顔がゆっくりと近づいてくる……やべ、ちょっとドキドキしてきた!
「エル、シア……身体は……大丈夫なのか?」
「いえ、いいえ、マサキ様……胸が、胸が苦しいのです」
「!?」
胸が苦しい、と悩ましげに俺に訴えてくるエルシア。
その表情は今まで抱ていた俺の不安な気持ちを、一時でも忘れさせるくらいには魅惑的で。
………………ゴクリ。
「あーーーーー! 良く寝たーーーーー!」
「「っ!?」」
その時、馬車の中から大声が響き渡った。
ビクッと震えた俺達は、焦りながらも急いで距離を取る。
対して、絶妙のタイミングでひょこっと馬車から顔を現したのは、一人の少女だった。
「おろ、そんなとこでなにやってんだー二人ともー?」
キョロキョロと視線を彷徨わせて、寝ぼけながら少女が出てくる。
「と、特訓が終わった所ですよ、クゥ」
「そ、そうそう、休憩してたんだ」
クゥと呼ばれた少女の名前は、クゥレン・ベルーガー。
「そっかー、マサキの特訓見たかったなー」
子供のような無邪気さでそう告げる小柄な少女は、しかしただの人間ではない。
俺も初めて見た時は驚いたのだが、なんと彼女は獣耳を持っており、そして尻尾が生えているのだ……!(カルチャーショック!)
何でも人狼という種族らしく、年の頃は十五と聞いている。
肌の色は褐色で髪はきれいな灰銀色、陽気で気さくなボーイッシュ系獣耳少女だ。
彼女を見る度に、あのピョコピョコ動く見慣れない獣耳を弄りたくてしょうがない衝動に駆られるのは、たぶん俺だけではないと思う。
クゥと初めて出会ったのは、旅の途中で立ち寄ったセサリーという街の中。
ある商人の奴隷にされかけていたのを助けたところ、何故かそのまま俺達に着いてきてしまったのだ。
聞けば身寄りは無く、放浪の旅をしていた所を騙されて(食べ物に釣られて)捕まっていたようで。
こんなに若いのに、しかも女の子で大変だったんじゃないかとも思うが、彼女にはそう感じさせない明るさがあった。
「……本当、あなたはよく寝ますね。突然起きるし」
「えへへ、お腹もへったー♪」
「…………はぁ」
と、まぁ、クゥはいつも通りだとして。
そういえばエルシアの体調はどうなんだろうかと思い出す。
何やらクゥの乱入で有耶無耶になった感じだが、今のエルシアはすでに普段とあまり変わらないようにも見える。(機嫌は悪そうだが)
(俺の勘違いだったのか?)
釈然としない面持ちではあるものの、今見た所では何の異常も見られないのと彼女の胸を触ってしまった罪悪感があったので、俺はそれを追求することができなかった。
「も、もうすぐ次の街に着くらしいからそれまで我慢な、クゥ」
「おー、まかせろ。我慢するぞー!」
「……それでは、出発にしましょうか……」
俺は気まずさを覚えながら、クゥは元気いっぱいに、エルシアは少し肩を落として。
俺達は馬車の中へと乗り込んだ。
目指す進路は、西だ――――。
☆
俺が目覚めたのはアルメキスの村だった。
助かったのはエルシアのおかげなんだと、元気な姿のおっちゃんが教えてくれた。
けれども素直に喜べなかったのは、そこに……その村に秋人がいなかったからだ。
俺は自分を責めた。
俺一人だけが助かって、俺を庇った秋人は濁流へと飲みこまれ――――行方不明。
罪悪感に塞ぎこんだ、己の無力さに、理不尽な現実に腹が立った。
そんな腐りかけた俺を、もう一度立ち直らせてくれたのはエルシアだ。
彼女は笑う。
苦しい時も、悲しい時も、どんな時でも笑顔を忘れない。
きっと秋人は生きているのだと、俺を勇気づけてくれる。
彼女が必死になって秋人を探してくれているのに、俺はここで何をやっているんだろう?
そう、思わされた。
翌日、俺はエルシアやおっちゃん達に混じり秋人を探すことにした。
探して探して……日が暮れるまで探し続けて、川の中で携帯を見つけた。
秋人の物ものだ。
エルシアはそれを使って魔法を唱えた。
わかったことは、秋人が『死んではいない』ということだった。
俺は魔法の仕組みがどうなっているのかは知らない。
何で携帯を拾っただけでアイツの生死がわかるのか。
知らない、全く以て全然信用できないのだけれども……それでもエルシアなら、信じられると思ったんだ。
「そろそろ大会が始まる頃でしょうか……」
「大会? なんの大会ー?」
しかし、そこで一旦秋人の捜索は打ち切りになる。
遺跡の調査が一段落ついたことと、謎の襲撃者の情報などを整理するために、俺達はエルシアの故郷であるアルマ帝国の首都圏へと向かうことになったのだ。
その道程で俺はこの世界の文字であるベルバ語を覚え、魔法や剣術の特訓を受けたのである。(魔法はエルシア、剣術はおっちゃんだ)
まぁ、俺から頼み込んだわけだけど。
そういえば、文字を覚える時からエルシアの指導は厳しかったなぁ……。
「ジュノン国選武道大会です。グレーニン隊長が招待されているのよ」
「いいなぁおっちゃん、俺も出たかったなぁー」
国中から強い奴等が集まってくる大会らしい。
そこでなら俺があれからどれだけ強くなったのか、いい腕試しができる。
というか、今なら結構いい所までいけるんじゃないかと思ったり……いや、俺は出れないけれど。
「大会ってくらいだからきっとお金も貰えるんだろうなー。いいな、アタシも出たかったなー」
「あなたにはまだ早すぎます。それに賞金が貰えるのは上位三名だけですから」
……まだ少しエルシアの機嫌は悪いらしい。(風邪ではないらしいが)
でもエルシアはああ言ったが、クゥは人狼の子だけあって身体能力がかなり高い。
魔法も普通に使えるし、素手での肉弾戦とかなら俺でも闘いたくないほどである。(爪とか牙とかあるし)
「そっかー。でもマサキなら強いし、優勝できるんじゃないのか?」
「え……そ、そうかな?」(満更でもない)
「そうですね……マサキ様ならもしかすると……」
おお! いけそうなのか……!
「三位くらいには入れるかもしれません」
三位っすか!
「おお、賞金がもらえるぞー!」
「い、一位は無理かな?」
「まぁ組み合わせ次第ですが……少なくとも、今はまだ隊長の方が上かと存じ上げますね」
そうか……やっぱり厳しいなぁ。
「……さっきからおっちゃんとか隊長とか言ってるけど、誰のことだ?」
「アルマ帝国の騎兵隊隊長のことです。あなたとは一度会っていたと思いますけど?」
アルマ(豪華な城)で取り調べみたいなことされて、色々とこの世界のこともわかってきた頃だった。
おっちゃんが隣のジュノン共和国で開かれる大会に招待されているのを知って、俺達も一緒に着いてきたのである。
秋人が川に落ちた際、あの近辺で見つけられなかったということは、秋人は隣のジュノンへ流された可能性が高い。
ジュノンへ渡った後はおっちゃんと別れ、なるべく多くの街を捜索するために、俺達は地道に一つずつ街を虱潰しにしていた。
クゥと出会ったのは、そのジュノン共和国へ入ったばかりの頃である。
「ああ! あのでっかいおっちゃんか! 確かに強そうだったなー」
「ええ、彼は強いですよ」
エルシアがここまで言うのも珍しい。
確かにおっちゃんには(魔法においての)剣術戦を教えてもらったから、それもわかるんだけど……。
「じゃあ、おっちゃんが優勝で決まりだなー!」
「ええ、彼ならば十分にあり得ます」
「マジで」
おっちゃん、そんなに強かったのか……!!
「何しろアルマで二番目に強いですからね、彼は」
「へぇー」
思えば、城の中でのおっちゃんの扱いは相当良かった。
あれは隊長だからかと思っていたが、それだけじゃなかったのかもしれない。
「あれ? でもそれじゃあアルマで一番強いのは誰なんだ?」
俺はその時思った事をそのまま言った。
言った後に、おっちゃんに勝てそうな人物など一人しかいないことに気付く。
そして彼女は当り前のことを、当り前の顔で、当り前に告げた。
「それは勿論、私ですよ」
▼
「……といったぐあいだ」
おっさんから雅樹の話を聞いた。
場面は変わって、今は高そうな(おっさんの泊ってる)宿屋のロビーである。
場所が場所だったので余り込み入った話はできず、移動することにしたのだ。
因みに、あの恥ずかしい上着はもう脱いでる。(おっさんにも笑われた……)
「そうか……雅樹もうまくやってるんだな」
話を聞いて安心した。
雅樹を一人残してしまったことが(逆かな?)、少し気がかりでもあったのだ。
やっぱり、慣れない異世界で一人ってのは色々と厳しいだろうからな。
「俺が生きてることも知ってたのか」
「ああ、おそらくジュノンの何処かに居るであろうこともな」
そんな魔法もあったのかと、今さらながらに驚かされる。
おそらくは精神世界に干渉する魔法なのだろう。
俺の携帯から魔力の痕跡を辿ったのか、あるいは逆に辿れなかったからなのか……つか、携帯に防水機能付いててマジ良かった! あとで返して貰おう!
「……で、おっさんがココにいるってことは、詳しい事は何も分からなかったってわけか?」
「うむ、残念ながらな。お前達を襲った犯人は何処の誰で、どんな目的があったのか……結局何もわからずじまいだ」
そちらの手掛かりもまるでなし、か……ちょっとやばくね?
「目的って……勇者を殺しに来たんじゃないの? ってか、そもそも俺達って勇者確定なの?」
「いや……そうだな、そこから話そうか」
そして驚くべき事実が解かる。
「まず、勇者召喚の魔方陣は見つからなかった」
姫様の調査に寄ると、だ。
異世界からの召喚に関らず、物や魔物を召喚しようとするには絶対に触媒が必要になる。(らしい)
ましてや人を召喚するなど例外中の例外、異世界人などはさらにその上の話で実現は不可能とさえ言っていい。(え? じゃあ俺達は?)
それを魔方陣すら用いずに魔法を行使し、ましてや成功させるなどこの世の摂理に反する事態であるという。(え? じゃあ俺達は?)
「いやまぁ、そうだろうとは思ってたけど……なら俺達は勇者ではないわけだ」
「それも判断がつかないのだがな。私達が知らないだけで、実際はそうなのかもしれない」
言うだけならタダだからね。
だったら俺は神にもなれる。
「いや、でも変だ。アイツ等は俺達を見て勇者って……」
蘇る恐怖と共に、思い出される言葉。
――――お前らが召喚された勇者だな?
あの時、初めて会った青髪の男は俺と雅樹を見て、そう言った。
――――反応した。さすがは勇者、か。
もう一人の女も確か、そう言っていた気がする。
「奴等は何で俺達のことを勇者だと思ったんだろう?」
「わからん、おそらく黒眼黒髪だったからではないかと思うが……他にも勇者を知る者がいる、ということなのだろう」
そしてそいつらは、勇者の命を狙っている?
「そういやその勇者云々って話は何処から来たんだ? この国で調べてみたけど勇者はフィクションの中にしかいなかったぞ?」
「あれはアルメキス近辺だけで報告されている事例だ。局地的だが、信憑性は高い」
「具体的には?」
「報告では事実、勇者は存在していたらしい。黒眼黒髪、双黒の勇者とアルメキスの神官が並ぶ壁画なども確認されているし、付近の伝承や記録から見ても勇者は確かに実在していたと思われる。……勇者の召喚魔法もそこに記載されていたものなのだ」
確かに勇者はいた。これは事実。
魔王の話も史実だ。これも図書館で確認できたから間違いない。(勇者は出てこなかったが)
そしてアルメキスの遺跡。そこは勇者が召喚された場所で、俺達が召喚された場所でもある。
……………………。
勇者。魔王。アルメキス。
点と点を結ぶ線。
俺達が此処にいる理由。
だけどそれを知るには、まだ何かが足りない。
「……まぁそれはいいとして、大事なのは帰る手段の方か」
道は、ある……と思いたい。
「で、どうなのさ?」
「ない……今の所は」
嫌な言い方だ。
見え空いた嘘は何の慰めにもならない。
「経過がわかれば良いのだがな。そううまくもいかんか」
「そうだねぇ」
収穫はほぼゼロ、か……。
もっと凹むかとも思っていたが、案外そうでもなかった。
これは俺が楽観的すぎるせいなのかな?
「そうだ、雅樹に俺がここにいるってことを教えてやらないとな。探してるんだろ?」
「心配するな、後で報せておく」
鳥(勿論魔獣だ)を使って伝書を飛ばすらしい。
……あれ? 確か魔法で伝達できるんじゃなかったっけ?(諸刃の知識)
「あれは誰にでも使えるものではないし、場所が特定される。重要な案件はやはり魔鳥を使った方が確実なのだ」
「へー」
ごめん、知ったかぶりだった。
「それよりお前の方はどうなんだ? 怪我を負ったとも聞いていたが、その様子だと無事だったようだが……」
「ああ、あの時は腹減って死にそうだったけどな」
それが今では懐がこんなにも温かい。
死にそうな目にも何度か遭ったが……ここまで良くやってきたと、自分を褒めてあげたい気分だ。
「しかし驚いたぞ……まさかおまえが大会に参加しているとは。さすがに姫様でも予想できなかっただろう」
「だろうな」
俺もおっさんが参加してるとは思わなかった。
しかもVIP待遇じゃなかった?(シード権がどうのこうの)
つか、おっさんはなんで国が違うのに招待されてるわけ?
「私達に自分達の国のレベルを見せつけたいだけだろう。呼ばれたのは私だけじゃないし、私だから呼ばれたわけでもない」
そこら辺はやっぱり政治が絡んでくるのかな?
まあいいや、今度ニコラス氏にあったら文句を言ってやろう。
「……冗談か? それでも余り大っぴらに言うのはやめておいた方がいい」
半ば本気だ。
「なおさら悪いわ……やめておけ、罪に問われるぞ」
「そう言われると逆に言いたくなってしまう不思議」
8割方本気になってしまった。
「どうなっても知らんぞ」
「その時はおっさんも共犯な」
「っ……おい! 何故私が共犯なんだ!」
おっさん面白い。
「はぁ……まったく、お前の冗談は笑えん」
「おっさんは笑えたよ」
「うるさいっ! ……それで、お前は今一人なのか?」
「ん?」
そういえばまだ言ってなかった。
おっさんは俺達の事情を知る数少ない人物の一人であるが、ディズのことは知らないのだ。
「おっさん、アルメキスの守り神って知ってる?」
「守り神? ……彼らの村に伝わる土地神のことならば少し知っている」
「土地神?」
アルメキスの村人に語り継がれる神様の話だ。
元来は動物神のはずだが、いつからか村では豊穰の女神と謳われているらしい。(まんまだ)
その姿を現した際には、その年の村の豊作を約束してくれるとかなんとか。(少し神様っぽい)
滅多に人前に姿を見せることはないが、小さな子供の前には度々姿を現しているのだという。(まさかの子供好き?)
「たぶんそれだ。あの時の傷もさ、そいつが治してくれたんだよ」
「土地神が、か? あれはただの言い伝えではなかったということか……」
土地神っつーか、本人は遺跡(聖殿?)の守り神だと言い張ってるけどな。今は俺の守護神らしいが……。
「!? では精霊があそこにいたのか! ……いや、まて、それなら我々が気付かぬはずが……」
「隠れてたんじゃね?」
「まさか、理由がない」
弱ってたらしいし、大勢で来たからビビったんじゃないか?
「だとしても……我々が精霊の領域に踏み込んでいたのなら、向こうから何かしらのアプローチは掛けてくるはずだ」
「あいつ変わってるから、あんまり常識にとらわれない方がいいよ?」
「しかしだな……まあ、うむ。おまえがそう言うのなら、そうなのだろう」
微妙に納得してないな、おっさん。
「名前はディズっていうんだけど、今はそいつと一緒に旅してるんだ」
「ここにいるのか!?」
「あ、今は屋敷の方にいる……って、こんなことならあいつも連れて来てやれば良かったな」
ああ、まだ怒ってるんだっけ?(すっかり忘れてたぜ)
「アイツなら何かわかることがあったかもしれないのに……」
でもアイツ、あんまり自分のこと話さないんだよなぁ。
まぁ俺も大概か……そうだな、今度俺の方から何か話してみようか。
別に隠してるわけじゃないし、昔話でも何でも、偶にはあいつと語らうのも悪くない。
「どういうことだ?」
「ディズは四百歳だからな、遺跡や村のことついては結構詳しいと思う。時々さらっと核心突いてくるし……まぁあんまり期待は持たない方がいいかもだけど」
っていうか、今帰ったらブチ切れていそうで恐いな。(ほったらかしだ)
一応キャルルに言伝は頼んでいるのだが、どうも心配である。
とりあえず話すべきことは話したので、ディズの機嫌を考えるとこれ以上長居は禁物だろう。
「それじゃあ俺はそろそろ帰るよ。ディズと話してみる。何かわかったら連絡するから」
「うむ、それでなくとも大会の会場で会うことになるだろうがな。私の方も姫様に伝えておく」
大会もすぐこそに差し迫っている。
あまり気は進まないが、参加している以上は出る他はない。
正直、こんなバタバタした状況で大会なんて出たくはないんだけど……。
「ではな、大会も頑張れよ」
「おっさんもほどほどにな」
言って、俺はおっさんのいる宿屋を後にする。
夜の静街を眺め、屋敷へと歩を進めながら俺は物思いに耽っていた。
これから先――――。
何かが変わっていきそうな。
何かが変わってしまいそうな。
そんな気がして。
俺は一人、俺達の今後を想い、先の見えない肌寒い夜の街を歩いていった。
雅樹達の出番はもうちょい後に……。




