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遥かな場所で  作者: 生野紫須多
第二章 巡り逢い編
39/59

039話 嘘と真


ずず……ずずーー。


薄く染まった白濁の靄の中、今日も穏やかな朝が始まる。

屋敷の一室から見える朝霧に思考を涼ませ、一人優雅に紅茶を啜る俺。


「……もう朝」


カチャッと器を響かせて空になったカップを置いた。

後方のベッドでは白猫が鼻提灯はなちょうちんを膨らませて、まだ見ぬ船を漕いでいる。

結局、一度も眠れずに長夜を過ごしてしまったのは論外なのだが、体の疲れは取れただろう。


「そろそろか……」


時計の針が朝食の時間を告げる。

どうやらこの屋敷、生活リズムは中々に健康的なようだ。


「起きろディズ」

「はにゃっ!?」


風船を指で弾いてディズを覚醒させる。……手は後で洗っておこう。


「飯に行くぞ」

「う、うむ」






「あれ? いつの間に戻ってきたんだ、アキヒト」


朝一の食堂でキースに出会う。

そういえば昨日はこいつの姿を見かけなかったが……。

なんとなく久しぶりな感じ。言っても一週間ほどしか経ってないけど。


「まだここ居たのか、キース」

「いるよ! いちゃ悪いか!」

「……そこまでは言ってないが、貴族って暇なのか?」


ここで一体何をしているんだろう?


「う、それには色々と事情があるんだよぅ!」


根なし草か……あわれな。

それほど興味はないので、適当に見当をつけて聞き流す。


「そんなことより飯だ、飯」


ズラーッと並んだ使用人たちやメイドたちを尻目に席へと着席。

真後ろから皆の視線を浴びながら、俺達は用意されていた食事を食べる。


ぞわぞわ、ぞわぞわ。


「……これなんてプレイ?」

「何が?」


突き刺さる視線を者ともせずにキースが疑問符を返す。


「はてさて、こいつは大物なのか、それとも単に鈍いだけなのか」

「はぁ?」


視線の原因は俺の横にいるディズだ。

器用すぎる前足を用いてただ食欲を満たすだけの存在となった者。

俺も気にせずに目の前の食事に精を出したいのだが、どうにも居心地が悪い……。


っと、そんなことを思ってる間に……。


「あら早いわね。おはようアキヒト♪」

「……おう」


来たかキャルル……!


「ディズも朝からいい食べっぷりね」

「うむ、ここは料理が美味いからの」


昨夜の出来事がオートで脳内にリプレイされる。

………………いかん! 思い出したらいかんッ!

焦るな俺、まずは深呼吸から始めようじゃないか。


「すぅぅぅぅ……はぁぁぁぁ」

「今日からアキヒト達もここで過ごすのよね……どう? 少しは慣れたかしら?」

「前にも少し泊ってるけど、慣れるにはまだ早いだろ」


意外にも普通に話かけてこられるキャルルさん。(Why?)

と、とりあえず俺も普通に接すればいいんだよな?


「そうか? 儂はもう慣れたぞ」

「お前に慣れる前の過程があったかは甚だ疑問だが」

「ふふ、ディズは相変わらずね」


……俺が構え過ぎなのだろうか?

キャルルの態度や表情には、昨日のようなしおらしさは感じられない。

ま、突然そんな態度を取ってもらっても俺の方が困るわけだけど……。


「…………」

「ディズ、口元が汚れてるわよ」

「否、それはこのスープが……」


フキフキ。


「これで綺麗になったわ」

「そ、そうか、悪いの」

「………っ!」


(アキヒト、アキヒト)


その様子を見ていたであろうキースが肘で突いてくる。


(一体何があった!?)

(それは俺が聞きたい)

(あのキャルルを見ろよ!? 何か悪い物でも食べたんじゃないか!?)


言いたい事はピンポイントでわかる。

ただ……原因はハッキリしているが、そうなった過程は不明だ。


「ほら、アキヒトも手が止まってるわよ」

「そだね」


とりあえず、女はよくわからんことはわかった。





お嬢様の様子がおかしい。

どこがおかしいかは判らないが、とにかくおかしい。

昨日は確かに異変は見当たらなかった。となれば今朝……いや、昨夜に何かあったのか!?


「あの、お嬢様」

「どうしたの? リーファ」


なに? と目を向けたお嬢様。

その様子は特に変わった所はない……ないのだが……。


「……いえ、今日も紅茶でよろしいですか?」

「ええ」


てきぱきと流れる動作で紅茶を淹れる。

今はお嬢様の部屋での食後のティータイム。

それはいつもと同じ習慣で、いつもと同じ空間。


「……はぁ」


遠くを眺めて、息を吐く。


「……はぁ」


紅茶を飲んで、息を吐く。


「……はぁ」


何もしないで、息を吐く。


「お嬢様ぁああああ!!!」


これ以上、見過ごすことは出来なかった。


「な、なに?」

「何があったのですか!? 心配事があるのなら、このリーファになんなりとお申しつけ下さい!」


今、お嬢様には多大な心労があると見受けられる。

こんな時こそ、お世話係である私の役目が果たされるべき時であろう。


「だ、大丈夫ですわ」

「とてもそうは見えません!」


子供の頃からお世話をしているお嬢様のことだ。

彼女が何かを隠している事などお見通しである。


「一体何があったのですか!」

「な、何もないわよっ」


強い態度で揺さぶりをかけていく。

ボロを出しやすい性格なのは、誰よりも熟知している故っ!(直すように言っているのだが!)


「今朝ですかっ!?」

「何を言ってるの?」

「昨夜ですかっ!?」

「……な、何を……」


昨夜、何かあったのだっ!!!


「昨夜ですね!!」

「ち、ちがっ!?」


昨夜といえば試験の合格を祝った時……。

その時は特に変わったことはなかったように思う。

だとすれば夕食後……しかしその後は入浴と就寝しか……。


違う! 違う違う違う!

よく考えて違いを見つけ出せ!

きっとあるはずだ……昨夜とその前で何か変わったことが!


「……はっ、まさか!」


一つだけ、違うことがあった。


「あのアキヒトとか言う輩が何か関係しているのですか!?」

「な、ななな、何を根拠に……アキヒトは関係ありませんっ」


あいつかぁああああああああああ!!!!


「失礼します、お嬢様!」

「あっ、ちょっと待――――」


――バタン。


潔くお嬢様の部屋を退散し、屋敷の中を徘徊する。

目的など知れたこと……お嬢様をたぶらかした咎人を抹殺するのみ。


――コンコン。


例え相手が極悪人であっても、最低限のマナーは守る。


「…………」


それが私のポリシーだ。


――ガチャガチャガチャガチャ!


「……いない」


見つからなければ探し出すまで。

やはり奴にはもっと気を配っておくべきだった。

次こそは見逃さないと胸に誓って、私は屋敷を徘徊し続けるのであった。





「うへーすごいすごい」


大都市の図書館っていうのは本の密林だ。

天高くそびえる本棚が程良い感覚で俺達を待ち受けている。

いったいどれだけの紙片がここに埋蔵されているのか、火事でも起きたら歴史が変わるのではなかろうか。


「むぅ……空いておらんのぉ」

「立ち読みは勘弁」


規模もデカければ人も多い。

かなりの数のテーブルや椅子が配備されているが、何処を見ても満席状態。


「暇人どもめ……もしかしてジュノンは職業難なのか?」


あることないこと呟いて、歴史や魔術のコーナーに足を向ける。


俺達が図書館に来る理由はもはや言わずもがな、地球帰還への糸口を見つけるためである。

本当はジュノンに着いたその足で向かうべきだったのだろうが……つい、遅れてしまった。

いや、弁護するなら他の重要案件に忙殺されていただけで、決して忘れていた訳じゃない。……忘れる訳ないだろう?


「主! あそこが空いておるぞ!」


ディズが手柄を得たとばかりに叫ぶ。


「よし、席の確保はお前に任せる。俺は本を取ってこよう」

「うむ、任せよ!」


えらい勢いで走っていくディズ。

何故か知らんが張り切っている……まぁいい、俺は俺のやるべきことをしよう。

本棚の前で何か関係ありそうな本を吟味し、両手いっぱいに山積みにして進路変更。


「主~! ここじゃ~!」


ギロギロギロギロ!


今日は誰かに注目されることが多い日だ。

全ての原因がディズというのが共通項か。

俺は奴の騒音に導かれながら、皆の視線にすいませんと返して穏便に事を運ぶ。


「お前、図書館では静かにしなさいって教わらなかったか?」

「なんじゃそれは、儂は知らぬ」

「偉そうに言うなよ……ったく、人様の迷惑だろうが――――」


導かれた端っこのテーブル席。(いいポジションだ)

ディズが丸まって座っているその先には一人の先客がいた。


「――――すまんな、見ての通りただの猫の戯言だ。許してやってくれ」


窘めるようにディズの耳を塞いで、当たり障りのない謝罪を述べる。


「…………」


第一印象は……アルビノの少女。


偏見や先入観と言った意味はないが、見た目からはそんなイメージを受ける。

肩下まで伸びた乱雑な白髪に人形のような白い肌、そして色素が抜け落ちたかのような赤色の瞳。

顔は幼く見えるが、纏う雰囲気からして年齢は俺とそう変わらないかもしれない。


ともかく、目立つ外見なのは確かで。


「…………」


彼女は俺の言葉には反応せず、淡々と手元の本を読みふけっていた。

本以外に関心がないのか、俺達には一切気を向けない……何ともミステリアスな少女だ。


「お前も静かにしてろよ」

「ぬぅ、わかった」


そう解釈した俺は、これ以上迷惑にならないように静かに本を開く。


この席が空いていたのは、たぶん偶然ではないかもしれない。

何と言うか……この少女からは近寄りづらいオーラが発信されている。

幸か不幸か、ディズが空気を読まない性格だったために、俺は彼女と相席することになったのであった。



「――――――――!」


誰かが俺を呼んでいる。


「――――――――!」


目の前には一人の女性。

俺の知っている人だった。


「――――――――!」


何を言っているのかは聴こえない。

ただ必死になって俺に何かを叫んでいる。


「――――――――!」


何を――――言っているんだ――――――――■■■――――――――。







「――――主、主!」


ペちぺちとほっぺを叩かれて目を覚ます。


あ? 俺は……いや、ここは――――。


「あぁ、図書館か」

「まったく、漸く目が覚めたか」


ディズが俺の顔を覗き込んでいる。


「主、儂は腹が減ったぞ」


ゆっくりと頭を起こして首を回す。

ゴキゴキと気持ちのいい音が内から響いた。


「……夢か」


テーブルに突っ伏して寝ていたらしい。

確かに昨日は眠ろうにも眠れなかったからな。

文字との格闘は嫌いじゃないが、さすがに長時間は持たなかったか……。


「主、早く帰ろうぞ」


さっきから急かしまくってくるディズ。

どうしたんだと訊き返そうとして、窓から差し込む赤い斜光に気付いた。


「え、今って夕方?」

「そうじゃ、もう夕方じゃ」


おいおい、またこのパターンかよ。

気付けば夕方なんて、俺は一体どれだけ眠り込んでいたんだ。

昼飯も何も食ってないし……あぁ、それでディズが愚図っていると。


「起こしてくれればいいのに」

「否、まぁ……その、気持ち良さそうに眠っておったからの」


優しい奴め。


「しかし、もう閉館時間らしいのじゃ」

「……すまんな」


結果として図書館に寝に来ただけとは……不覚。

周りを見渡せば残っているのは俺達だけだし――――って。


「あんたも居たのか」


隣で置物のように佇んでいた鋼鉄の少女に少し驚く。

え、結構時間経ってるけど、もしかして今日一日ずっと……?

そんなまさか……いやいや、そうとしか考えられない。どんだけ本好きなんだよ。


「……なぁ」

「…………」

「おーい」

「…………」


いいのか? ここまで完璧に無視されると、逆に構いたくなってくるのが俺だぜ?(寝起きでテンションが……)


「奥さん奥さん、聞いてますか?」

「…………」

「君可愛いね。年いくつ?」

「…………」

「ちっ、わかった金か……いくらだ?」

「…………」


反応なし。

ちょっと手強すぎだろう。

これ以上となると俺も紳士でいられるかどうか心配だ。


「ぬ~~~し~~~」

「わかったっ、わかったから涎を垂らすなっ」


しびれを切らしたディズに追われて、俺達は図書館を後にした。

次に図書館であいつを見かけたらリベンジをかましてやろう、そう密かに胸に誓った俺なのであった。





時は黄昏。


――ドドドド。


屋敷の玄関、その庭先で。


――ドドドドドドド。


図書館から戻った俺が最初に見たものは……。


「みぃぃぃつぅぅぅけぇぇぇたぁぁぁああああああああ!!!!!」


かめ〇め波のノリで、此方へと突っ込んでくるリーファさんの姿だった。


「何事?」

「成敗!」

「主っ!」


――ガキーーーン!!!


俺の眼前で火花が散る。

ディズの爪とリーファさんの箒(メイドの標準装備)が拮抗していた。


「貴様、何をする!」

「貴様こそ、主に何をするのじゃ!」


……What'sホワッツ happenハプン?


「邪魔をするのなら容赦はせんぞっ!」

「若輩者めが! 身の程を知るが良い」


なんて言ってる場合じゃなかった!


「待て待て待てぇぇぇぇい! 何しとるんだ君たちは!」

「何をだと? 笑わせる……自分の胸に聞くのだなっ!」

「こやつは主を狙っておった。つまり、儂らの敵じゃ!」


落ち着け、俺。

今、平和は俺の双肩にかかっているぞ……!


「まずは話を聞こうじゃないか。なんでリーファさんが俺を狙うんだよ?」

「ふ、知れたことを……貴様がお嬢様を誑かしたことは既にわかっている」


……何言ってんのこの人?


「主が、そんなことをするはずがなかろうっ!」

「ではお嬢様の様子がおかしかったのは何故だ」


あ……それは俺のせいかも。


「そんなものはキャルルに訊けばよかろう! 何故主を疑うのじゃ!」

「お嬢様に聞いた結果、この男が原因であるとわかったのだ」


待て、早まっちゃいけない。


「昨夜だ、貴様がお嬢様に何かしたのだろう、ぇえ!」

「そ、そうなのか、主!?」


これは……誤解。そう、ただの誤解なんだ。


「とにかく焦らずに聞いてくれ。俺はキャルルを誑かしたわけじゃない。それは確かだ」


常人には余りにも荷が重すぎる試練。

果たして俺はこの誤解を晴らすことができるだろうか……。

どうやって説明したら解かってくれる? 在りのままを言えば間違いなく殺されるのでは?


それは・・・? つまりそれ以外に貴様が関与したことを認めるのだな?」

「主……どうゆう事かしっかりと説明してもらおうか」


キャルルから裏を取ったのなら白を切り通すことはできない。

証言が食い違っては疑われる可能性が高く、話の信憑性もなくなってしまうからだ。

よって、今俺にできることは正しい情報を手に入れ、状況を理解すること。

本当に正しい判断を下すためには、当然それなりの情報が必要だ。

まずは情報を整理し、そこから嘘と真実を適度に織り交ぜ、二人の『信じたい事実』を作りだす。


……やってやれないことはない! そうだろ、俺っ!?


「そうだな、話す前に一つ確認しておきたいのだが、リーファさんはキャルルからどう・・聞いたんだ?」

「お嬢様が昨夜、お前に何かされたということだが?」

「キャルルがそう言ったのか?」

「そんなことをお嬢様の口から言わせるわけがないだろう。しかし態度を見れば一目瞭然だ」

「……成程。それでリーファさんは俺がキャルルを誑かしたと思ったわけだ」

「ふん、私は事実を言ったまで」


……前から思ってたけど、リーファさん、俺の好感度最低な。(俺、何かしたっけ?)


「どうなのじゃ、主!」


導火線は短めのようなので、早急に情報を整理する。


事の始まりはキャルルに変化が見られたこと。

リーファさんはそれを問い詰めたが、キャルルは隠そうとした。

そこから粘ってなんとか得られた情報は……。


『昨夜』、『俺とキャルル』との間で『何かがあった』との3点。


さらに条件として


『キャルルにとってあまり人に知られたくないこと』

『キャルルに何かしらの変化を及ぼすこと』


が加わる。


……さてさて、真実を知っている俺は、これをどう料理したものか。


「主っ、何を黙っておるのじゃ!」

「まぁ落ち着け、俺がそんなことをするはずがないだろう?」

「それは……そうじゃが……」

「ふん、それはどうかな」

「貴様!!!」


どうやらタイムリミットのようだ。


「わかった。今から本当の事を話そう」


俺は詐欺師……俺は詐欺師……俺は詐欺師……。(自己催眠中)


「ほう、観念したか」

「まずは誤解を解こう。昨夜、俺は確かにキャルルと会った」

「そしてお嬢様を誑かしたのだろう?」


……まぁ、キャルルを悪者にはできないわな。


「昨日は何があったか覚えてるか?」

「お嬢様がAランクになられた記念日だ」

「そう、だがキャルルだけじゃない。俺もAランクに合格した」

「だから何だ」

「つまり、俺にとっても記念日なわけだが……昨日の夕食ではキャルルの方が盛大に祝われていたよな?」

「何ィ!? そうなのか!?」


ディズ、頼むから今だけはつっこんでくれるな。


「それは当然だろう」

「うん、俺も気にしてない……でも、キャルルは気にしてたんだろうな」

「……それで?」

「風呂上がりにキャルルの方から会いに来た。お礼が言いたかったんだと」

「お礼だと?」

「それが俺もよくわからないんだよ。『全部ひっくるめて』とかなんとか」


ここら辺まではとりあえず事実しか言ってない。疑う余地はないだろう。


「……お嬢様……ぐす……なんと寛大なお方なのだ」

「え、わかんの!?」


どういう意味だったんだ?


「うっ、お嬢様は心優しいな」

「おい、一人で納得すんなよ」

「ずず、びーー……ふぅ。しかし、それだけのことならお嬢様の態度が変わられる要因はないのではないか?」


やはり気付いたか……ふっ、ならば紡ごう。

俺の考えた結末を、あんたが望んだ行末を。


「……もちろん、続きがある」

「続き?」

「ああ、実はな……見てしまったんだ、俺達は」

「何をじゃ?」

「風呂場から俺の部屋へと続く廊下、あそこから中庭が見渡せるようになっているのは知ってるか?」

「あ、ああ」


なんてことはない。

嘘とは吐くものじゃない、造りだすものだ。

真実を捻じ曲げるんじゃない、新たな現実を造り上げるのだ……!(ノッてきた)


「そこにいたんだよ、人が二人」

「えっ!?」

「夜中だったからな。誰かまでは暗くてわからなかったが、噴水の辺りにいた……間違いなくこの屋敷の人間だろう」

「……なっ」

「しかも、たぶん男と女だ」

「――っ!?」


真実を虚実で覆い隠せ。

小さな嘘はすぐに見破られるが、皆、大きな嘘には騙される。

嘘という大海に落ちた一滴の真実は、永遠の闇に葬られる運命なのだ!(言いたかった)


「どうして性別が判ったのじゃ?」

「どうしてかって? くっくっく……男と女が夜中に二人ですることなんて決まっているだろう」

「ま、ままま、まて!」


突然、堰を切ったかのように取り乱すリーファさん。

どうしたんだよ一体、これから俺の果てない妄想が炸裂するはずだったのに……。


「リーファさん?」

「みっ、見たのかっ!?」

「え? だからそれを今から――――」

「ささ、最後まで見たのかと聞いているんだっ!」


……様子がおかしいぞ? 何を言ってるんだ、リーファさんは。


「ああ、見たな……いや、偶然にも見てしまったんだ」

「待て! もういい! わかったからっ!」

「暗闇の中、男と女が抱き合って――――」

「言うなぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


――キーーーーーーン。


大声、なんて生易しいもんじゃない。

音波兵器だ。

ソニックブームとやらが、俺の三半規管を直で揺さぶる。

ドーン! と耳の後ろが爆発したかのような衝撃。

一瞬、何が起きたのかわからなかった。

それが音と認識できたかさえあやふやだ。


「――――!」

「――――?」


ヤバイ、ダメージがデカイ。

聴覚が一時的に麻痺してしまっている。

ディズもリーファさんも何か叫んでいるが、まったく音が拾えない。(ついでに意識が朦朧と)


「――――――――!」


リーファさん、今の俺には何を言っているのかわかりません。


「――――――――!」


何を必死に伝えようとしているんだ?


「――――――――!」


あ、なんかこれ知ってる……デジャヴュだ。


「――――――――!」


俺には伝わらないと悟ったのか、今度はディズに何かを伝えている。

……って、ディズもリーファさんも聴覚は正常に作動しているのか?(どういうこった?)


「――――!」


謝っているようにも見えるな。


「――――!」


あ、屋敷に戻っていった……なんだったんだ?



「あーあーあー……良かった。聴こえるようになった」


暫くして聴覚が元に戻る。


「リーファさん、何て言ってた?」

「誤解は解けた。疑ってすまなかった、と」


解けたのか? いつの間に?


「あと、例の話は絶対に口外しないように、とも言っておった」

「例の話?」

「主とキャルルが見たものではないのか?」


は? なんでそんな…………ん?


「えっ! マジで!?」

「マジじゃ」


…………。


「えっ! マジで!?」

「主、腹が減った」

「……あ、ああ」


俺は重大な秘密を胸に、屋敷の中へと入っていったのであった。


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