040話 賢者の魔導書
最初に言っておきます。なんかすみません。
ある日、ある時。
「ふぉっふぉっふぉっふぉー、やはり久しぶりの娑婆はええのぉー!」
キースのアホみたいな発言が屋敷内に響く。
「これは……キースが乗っ取られた!?」
その眼は虚ろで足取りも危なっかしいが、とても不気味だ。
「もう、何やってるのよ! ……仕方ないわね、ここは浄化の炎で」
「いかん! 奴を浄化すれば、本の魔力は消え去ってしまうぞっ!」
「おい、もしお嬢様に危害が加わるようなら、私は容赦できないぞ」
キャルルとディズとリーファさんが喚く。
色々と拙い事態に陥ってしまったようだ。
「酒じゃー! 酒を持ってこいー!」
まるで酔っぱらった爺の勢いで傍若無人に振る舞うキース。
俺達は奴に手がつけられず、今は遠目で様子を窺っている状態だ。
解決法を模索するためにも、ここらで一度、話を遡っておこうと思う――――。
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そう、事の発端はキャルルの吉報から始まった。
「賢者の魔導書?」
屋敷内で軽やかなティータイムを堪能していた俺とディズ。
そこにやってきたキャルルが、興味深い話を教えてくれた。
「ええ、父の知り合いに古文書や珍しい魔導書などを収集している人がいますの」
貴族同士の繋がりは案外広い。
深い浅いといった違いはあるものの、貴族同士は手を取り合うもの。
それが三大貴族ともなれば、ほとんどの貴族と何らかの関りがある。
「この前、家の都合で交流会に足を運んだ際に、機会があったので少し聞いてみました」
なんでもその業界では有名な人物らしい。
コレクターと呼ばれる人種はどこの世界でも存在している。
つまりその人々に当たっていけば、地球への手がかりに繋がるのでは? と、キャルルは考えていたようで。
「本当かどうかはわかりませんが……気になる魔導書が一冊――――」
成程、それが――――『賢者の魔導書』
「話によれば、開いた者の知りたい知識が書いてある本、と」
知りたい知識……。
その話が本当ならば、俺の知りたい情報が、地球のことが何か書かれているかもしれない。
普通の本なら何をバカなと笑ってやる所だが、魔導書ともなれば話は別だ。可能性はある。
「持つべきものはコネだったか」
ここに来て、初めてと言える手がかり。
俺は今、世の中を生き抜く真理を得た。
「で、その本は何処にあるんだ?」
「ここにあります」
ドサッと、丸テーブルの上に古びた本を置くキャルル。
「その人に頼みこんで譲って貰いました」
「……マジか」
「気にすることはありませんわ、私も興味がありましたの」
そうは言うが、それだけの本を無料で譲ってくれたわけではないだろう。
一体どれだけの対価を払ったのか……キャルルはそこまでして俺のために…………う、目から汗がっ。
「少し脅――――頼み込んだだけで、快く譲って頂けましたから」
俺の気のせいかな? 今、とても不穏な単語が……。
「…………」
――チョイチョイ。
後ろに控えていたリーファさんを指で呼び出す。
(何だ、貴様如きにお嬢様の3サイズは教えんぞ?)
(そこをなんとか……あー……脅したのか?)
(なにをバカな、お嬢様がそんなことをするはずがないだろう)
(本当だろうな?)
(無論だ。後処理は全て完了している)
(あ、後処理だとっ!?)
何の処理!?
「……アキヒト」
「ん?」
「最近、リーファと仲がいいわね」
「なぬ!? そうなのか主っ!?」
そんなバカなっ!?
「誤解というやつだ」
「お嬢様! 例え今日世界が終わっても、それだけはありえません!」
…………。
「主!」
「今度は何だぁ!」
★
「へぇ~~~、これがその本?」
ちょっとゴタゴタした後の昼下がり。
俺の部屋に皆がたむろっていると、ふらっと自然な感じを装って緑カール(キース)も現れた。
「ああ、でもその本、どうやっても開かないんだよ」
殴っても蹴っても……もとい、力技ではビクともせず。
かと言って、魔法を用いてみても反応が見られることもなく。
なんとか本の開けようと、俺達は部屋で対策を練っていたのだ。
「知りたいことが書かれてる……か」
キースは真剣に本を眺めていた。
「俺の未来の嫁さんのことも載っているのだろうか」
……やばい、また目から汗が……。
「何故君が泣くのかね、アキヒトさんや」
「いや、厳しい現実が書かれてあるのかと思うと、な……」
「なんでやねん」
まさかの関西弁っ!?
「何をしてるのよ、開け方がわかったの?」
「何故キースがここにおるのじゃ?」
「貴様等、お嬢様がこれほど苦労なさっているというのに……覚悟はできているのだろうな?」
先程からうんうんと唸っていた女性陣から小言を言われる。
特に紫の人からは殺気が放たれていて、冗談では済まされなさそうだ。
「普通には開けられない。魔法もダメ。前にこれを持ってた奴はどうやって開けたんだ?」
「それが……その人は開けられなかったらしいの。ですから簡単に譲って貰えたのだけど」
本当に賢者の魔導書なんだろうな? 騙されたんじゃないのか?
「ディズ、何か知らないのか? 今こそお前の知識の出番だろ」
「く……すまぬ主……儂の知りえる知識では……知識では……」
「いや、お前は何も悪くない。ほら、一緒に考えようぜ」
だからそんな落ち込むな。
「リーファさ――――」
「貴様の意見を先に言え」
先手を打たれた。
しかし、本当にどうやって開けるんだろう?
何か特別な合言葉でもあるのか……まさか鍵が必要だとか? 鍵穴はないけど!
「はぁ、何をぉぉ言ってるのかね? チミたちは」
皆が悩む中、不意にキースがそんなことを垂れる。
「これは魔導書なんだろ? だったらそれなりの開け方ってもんがあるだろうに」
何故か自信満々だ。イラッとくるぜ。
「こうゆうのは対価を払うってのが常識だろ。本を読むだけで知りたいことがわかるとか、いくらなんでもおかしいってことに気付こうよ」
「対価、だと?」
「そ、一で十を知るって言葉もあるでしょ。何かを捧げないと答えは得られないってね」
妙だ、キースが言う割には説得力がある。
筋も通っているような、意表を突かれたような。
これは一体どういうことだ! こいつは本当にキースなのか!
「成程、等価交換ってことね……キースにしては良い所に気付いたじゃない」
「失敬な……」
「で、本当の所はどうなんだ?」
「ああ、これと似たような本が家にあってな……読むたびに視力が下がっていくという呪いがかかっていた」
なんと悪質な本だろうか。
そんな物見なけりゃいい。
「男だったらあの魔力には逆らえん。絶対に見てしまう」
「男、だったら……? ま、まさか、それって……!?」
「まさしく。君の思っている通りの物だよ、アキヒト君」
あれだろ? 保健体育の本だろ?
「そのとおりだ。今度持ってこようか? 安心しろ、視力が下がると言っても一時的だから」
「ぜひ」
「わかったぜ、任せろ!」
非常に楽しみである。
「「「…………」」」
……のだが、居た堪れない視線が突き刺ささっていた。
何故だ? 保健体育の本だぞ? 勉強のためじゃないか?
「何の本じゃ? その時には儂にも見せてくれ」
「わ、私が燃やしてやるわ……!」
「下賤な……お嬢様の目に触れる前に私が滅する!」
例によってディズは天然を発揮するも、俺達の予定は脆くも崩れ去ってしまった。
「で、この場合の対価はなんなんだ?」
脱線しかけていたので、話を進める。
「知りたいことを知るってことだから、その逆……知られたくないことを言えばいいんじゃないか?」
如何なる理由か、今日のキースは絶好調だ。
明日あたり魚でも降ってくるんじゃなかろうか。
「秘密をばらす、ということ?」
「そうじゃな、それが妥当であろう」
「よし、とりあえず俺がやってみよう!」
キースが本を手に取った。
「今まで黙ってたけど、実は俺、家から勘当されてるんだ」
「なんと!?」
――ピカーーーーーッ。
本が光る。
おお、ついに開くのか!? 賢者の魔導書が!!
「よっしゃ」
興奮も覚めぬままパカッっと本を開くキース。
「うおおおおおお!!!」
なんだ、何が書いてあった!
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
ちょっ、光が強過ぎて直視できない!
「ぐわっ!?」
そして悲鳴。
途端に光が弱まって……?
「…………」
だらんと本を開いたまま、立ちつくすキース。
「…………」
「…………キース?」
問いかけるが、キースは俯いたままで……。
「ふぉっふぉっふぉっふぉー、やはり久しぶりの娑婆はええのぉー!」
そして、回想は冒頭へと戻る。
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「なんぞ貴様等、早く酒をもってこいー」
本を手に持ったままの格好で、酒を求めるキース(?)がいる。
「ほれ、おまえじゃおまえ、はよう来んかい」
「……私、か?」
すでに酔っていそうな感じで、奴がリーファさんを指名する。
嫌な予感がしないでもないが、俺にはどうすることもできない。
「お、お嬢様」
「ええ、気をつけなさい」
ごくっと目配せして、慎重に近づくリーファさん。
――ムニュ。
そして惨劇は起きた。
「ほほう、ええチチしとるじゃないぁtg;kじゅdbヴぉがああああ!!!!????」
血がっ、俺の部屋に血がっ!?
「ふぅ、お嬢様でなくて良かった」
いや、その心配は……なんでもない。
「お、おまえら、この男がどうなってもええのか……?」
「なんだ、足りなかったか」
「すまん、儂が悪かったっ」
リーファさんのおかげで事態は丸く治まった。
「つい年概もなくはしゃいでしもうたわい」
要するにアレだ。
キースに乗り移ったのは本の意思……精霊みたいなもので、魔導書を作った本人のコピーみたいなものらしい。
当の本人はとっくの昔に亡くなっていて、この本は長年あちこちを旅してきたという。(本人談)
「知りたいことがわかるって言うのは?」
「はん? 儂が溜めこんだ知識のことかのぅ。ふぉっふぉっふぉー!」
魔導書の機能とは開いた者の記憶をコピーする、というもののようで。
本人も知らない忘れ物や、思い出したい記憶などを自動書記してくれるという。
とは言っても、毎回知識は上書きされて、今はキースの記憶だけがあるみたい。
「本人の知らないことはわからないってか」
「じゃが、思い出せないことでも儂にかかれば容易く復元できるぞ?」
便利かと問われれば便利だと思うが、俺の求める知識はないらしい。
「使えねー」
「はずれですわね」
「そのようじゃな」
「何が魔導書だ。燃やしてやる」
そして、リーファさんの怒りは収まっていなかった!
「な、何をするのじゃあっ」
「動くな、じっとしていろ」
本当に燃やす気だっ!?
「させぬ!」
「何っ!?」
カッっと閃光が走ったかと思うと、ぱたりとキースが倒れ込んだ。
なんだ、今度は何が起きた!?
「お、お嬢様……」
本を掴んでいたリーファさんが深刻そうにそう嘆く。
「どうしたの、リーファっ!」
「まさか乗っ取られたのか!」
キャルルとディズが叫ぶ。
「……か、体が動きません」
振り返えることもできずに、立ったまま硬直したリーファさんがそう答えた。
端的に言うとリーファさんは魔導書に乗っ取られた。
ただ意識ごと乗っ取られたというわけじゃなく、彼女の意識ははっきりしている。
辛うじて喋ることくらいはできるが、体自体は自分の意思では動かせないらしい。
「どうするのじゃ?」
「どうするって……本を燃やすしかないんじゃないか?」
「ダメじゃ! 勝手に喋るな! 燃やすなと言うとるじゃろ! 早く燃やせ!」
一人二役、本とリーファさんが交互に喋っている……シュールだ。
「も、燃やしましょう」
「やめろと言うとるじゃろう! 早く! この女の秘密をばらすぞ! 何だとっ!?」
追い詰められたのか、ついに向こうも手段を選ばなくなってきた。
「この前の晩に―――わかった! ストップ! 燃やすのは無しだ!」
ん? それって……?
「じゃあバッサリと真っ二つに……」
「野外で――――お願いだ! それだけはっ!」
話の続きが気になるが、さすがにこれ以上はやめておこう。
「で、でもそれじゃリーファが……」
身体を乗っ取られたまま立て篭もられてしまった。
果たして、今から燃やさないと言っても信用してくれるかどうか……つか、無理だろ。
「……否、主ならばもしくは」
ディズが妙案を閃いたようだ。
「俺がなんだって?」
「ん……気は進まんのじゃが……ゴニョゴニョ……ゴニョゴニョ」
「いやいやいやいや」
それは……別の意味でも気が進まんな。
確かにこの状況を打開できる案かもしれないが……。
「頼む、なんとかしてくれ!」
「……でもなぁ」
「ア、アキヒト、お願い!」
……仕方ない。
「やれるだけやってみよう」
そして俺は覚悟を決めた。
「じゃあキャルル、リーファさんをベッドに寝かせて部屋から出ていってくれ」
「……はい?」
「ああ、ついでにキースも連れてって」
「はあ……?」
キャルルがわけもわからず俺の言に従う。
しかし、これも大事な事前準備というやつなのだ。
「……ディズ」
「う、うむ、わかっておるっ」
留まり続けるディズを諭して、バタンと扉が閉まる。
さて、部屋に誰も居なくなった所で……っと、その前に一応念のために確認しておくか。
「リーファさん、彼氏とかいます?」
「……そのことは今関係あるのか?」
あると言えばある、ないと言えばない。
ただ、俺の気分とその後の処遇については命に関わるかもしれない。
「……い、いない」
「ええっ!?」
フリーだと!? それじゃあこの前の夜に何があったんだ!?
「……ちっ、いいか、絶対に他言するなよ?」
「あ、ああ」
「あの時のこと、貴様は何か勘違いしているようだったが……あそこにいたのは私の兄だ」
「あ、あにぃ!?」
それはそれで意味がわからない。
俺の心荷は随分と軽くなったが、別の不安要素も台頭してきた。
でもリーファさんの顔を見る限り、それはやはり知られたくなかったことのようで。
「もう……いいだろ」
……うん、まぁいいか。
この際それは置いといて、今はこの状況をなんとかしよう。
「さて、それじゃあ始めますか」
「待て、その前に貴様は何をするつもりなのだ」
「ああ、それは――――」
¶
「ねぇ、ディズ。アキヒトは何をするつもりなの?」
部屋から追い出された私は扉に凭れてそう訊いた。
どう考えても、私達が部屋を出ていく理由がわからない。
アキヒトはリーファと二人っきりで何をするつもりなんだろう……。
「主は――――マッサージをするつもりなのじゃ」
「マッサージ?」
それで、リーファの状態が元に戻るものなのだろうか?
「ああ、マッサージと言っても、普通のそれとは違う、魔力的なものじゃがな」
「魔力的……」
そんなの聞いたことがない。
「主が特別な魔力を持っておることは知っておるな?」
それは以前に本人の口から聞いていた。
たしか、誰に対しても拒絶反応が出ないという前例のない驚くべき特異体質。
アキヒトはその特性を利用して、相手の魔法を乱したり操ったりもしていた。
その気になれば人を意のままに操ることもできるだろう、とも言って……ああ、成程。
「つまり、リーファを乗っ取っている魔導書の魔力を乱すのね?」
「と、いうより経路から魔導書の魔力のみを取り除く」
人体には魔力の経路が至る所に張り巡らされている。
目には見えないが、それは血管と同じく体の隅々まで行き渡っているのだ。
当然、その経路に侵入すれば体の支配さえも奪えるかもしれない……否、リーファは今まさにその状態だ。
「そもそも主の力の本来の使い用は、魔力経路を乱すことではなく、その実、魔力経路内の不純を取り除き、流れを潤滑にして経路を最適化することだったはず」
マイナスの補正だけでなく、プラスの補正も与える。
便利すぎるが故に、使い方次第では善にも悪にもなる能力と言えよう。
「ただのぅ……」
ディズにしては珍しく歯切れの悪い台詞だった。
「副作用、とでも言うべきか……主の意図とは無関係に、対象者にはある効果が付随してしまうのじゃ」
「ある効果?」
副作用……そう、それは十分考えられる。
本当ならどんな怖ろしい拒絶反応が起きても不思議ではないのだ。
いくら特異体質だからと言って、何のデメリットもなくそんなことが行えるはずがない。
「ど、どんな副作用なの?」
「…………」
「ディズ……?」
「まぁ、耳を澄ましておればわかる」
言葉では表せないほどに凄まじい副作用らしい。
そうか、だからアキヒトは私達を部屋から追い出したのだ。
リーファが苦しむ所を、私達に見せたくなかったのだろう。
そう思って、私は口を噤んだ。
静寂が辺りを包み込み、時間の経過を単調にする。
ほどなくして、私が待っていた答えが耳に飛び込んできた――――。
『うわっ、な……きさ、貴様、今何をしたっ!?』
扉越しに響いてくる、驚くようなリーファの声。
『くぁ……や……やめ……うくぅっ?』
続いて、苦し紛れの呻き声のようなものが伝染する。
『んっ、ぐ……あくっ……声が……んぁあっ』
頑張って、リーファ!
『ふぅん……ぅくっ……はぁはぁ……はぅぁ』
……リーファ?
『……ふはっ……んんっ、ぁんっ、ひゃぅっ』
…………。
『あああっ……あんっ、あぅっ、んぁっ、ああっ!』
…………//
『あふっ、あっ、まっ、んううっ……くああああああっ!』
…………///
そして、声が止んだ。
「ディ、ディズ……」
「……うむ」
「副作用って……?」
「相手が男性なら苦痛を、女性なら快楽を与えてしまうというものじゃ」
じゃ、じゃあ、今の声は……。
「もう一度言うが、主の意思とは関係ないぞ……否、潜在意識は関係しとるかもしれんがな……」
「そ、そう」
確かに、おいそれと人には見せられない。
『おーい、終わったぞ』
部屋の中から聞こえるアキヒトの声にビクッとした。
恐る恐るといった具合に私はそっと扉に手を掛ける。
中の様子を見たいような、見たくないような……そんな心の葛藤に悩まされていた。
その葛藤を乗り越えて、部屋の中へと足を踏み入れる。
「お嬢、様……」
「リーファ……」
顔を真っ赤にしていたリーファに目を向けた。
私の顔も同じような色をしてるかもしれない。
「か、体は動くの?」
「はい……今は、その、少し、力が入りませんが……」
互いに目を合わせ辛い。
この後、私はリーファになんて言えばいいのだろう……。
「魔導書の本体はすでに確保した。余計なこともできないよう力も割いておいたし、これで万事解決だな♪」
アキヒトが明るい声でその雰囲気をぶち破る。
これで万事解決だな♪、じゃないわよっ!!!
「ア、アキヒト!」
「どうしたんだ?」
どうした? どうしたですって? 本気で言っているのかしら?
「主、何か言う事はないのか?」
どうやらディズも私と同じ気持ちのようだ。
「………………おつかれさま?」
「ディズ」
「うむ」
解からないと言うのなら、私達で解からせてあげましょう……!
「え……ちょ、それ浄化のほ―――――――――――――!?」
‡
――ドサ。
落ちて、気付く。
意識は途切れ途切れになっていた。
「あ、アキヒト、おまえも来たか……」
「キースか……ここは……どこ、だ?」
満足に動かない首を捻って周りを見渡すと、そこが自分の部屋の前だとわかった。
たった今、投げ出されたのだ。
「……なァ、俺はなんでこんなにボロボロなんだ?」
キースは何も覚えていないらしい。
「知らん」
「なら、なんでお前はボロボロなんだ?」
「……知らん」
誰か、説明してくれ。
「それは私が説明してやろう」
何故か背後から返事が返ってきた。(と言っても俺は廊下にうつ伏せ状態だが)
「コレでな」
にやっと笑う悪魔のような囁き。
キースは怯えたように蹲り、俺は人生の句を考えていた。
俺が最後に見たのはリーファさんの拳の残像だったということは――――後になってからわかったことである。




