037話 Aランクへの道Ⅲ
『いやはや、そこを突かれると痛いな』
キャルルお嬢様とミズリー様が無事に屋敷に帰還した日の晩。
『……いや、俺も少し言い過ぎまし……言い過ぎた。あんたの言ったことは何も間違っちゃいない』
パーティを開いた会場の隅、賑やかさに欠ける目立たぬ場所に彼等はいた。
『無事だったのは運が良かっただけだ。……本当に』
『……ふむ。まぁ、私としても譲れない所だったのだ。少々無粋だったかもしれんが……』
『んなことはないさ。誰にも責められないってのも、な』
『わかっているのなら良い。ただ有耶無耶にはできないものなのでな』
決して会場が五月蝿いわけではないが、静かなわけでもない。
遠目に見ても少し離れて世間話をしているようにしか見えない。
『当然だ』
『自覚はあるようで安心した』
しかし、二人の間に流れる空気は優しいものではなかった。
『…………』
恐らくそれに気付いているのは私だけだろう。
『私の話はこれで終いだ。手間を取らせて悪かったね』
『いや……俺も話せてよかった』
会話を聞いているいないで、受ける印象は大きく違ってくる。
『そうかね、それは良かった。では失礼する』
『ああ』
二人が分かれる。
機を見計らって、私は周りに人が来る前に彼と合流した。
『どうでしたか?』
『うむ。用事は済んだ』
今までの真剣な表情を崩した顔は、満足の笑みを浮かべていた。
『しかし、あのような態度を許しても良かったのですか?』
『聞いていたのか?』
『申し訳ありません。ですが……』
『いや、私は気にしていない。そうなるように仕向けたというのもあるが、期待も得られたのでな』
ニコラス様の言いたい事はわかった。
納得したわけではないが、彼がそう言うのなら私から言えることは何もない。
『期待……ですか』
『なに、思ったよりも心配は少なく済みそうだというだけだ』
どうやらニコラス様はあの少年のことが気に入ったらしい。
だがいくらお嬢様を救ったとはいえ、私としてはそこまで心を許すことはできない。
みすみす窮地に陥った原因にも、少年が絡んでいるからだ。
『ふむ。気になるのであれば、おまえが気にしておけばいい。ともかく屋敷に招待する分には異論はなしだ』
『わかりました』
表情には出していないと思っていたが……こういった所はさすがというべきか。
『そろそろ宴もたけなわか。後はリーファ、おまえに任せる』
『承知致しました。ごゆっくり御休みなさいませニコラス様』
夜が更ける。
パーティを締めくくり、私はメイド達の指揮を取る。
お嬢様たちを送り、彼女等の友人たちを部屋へ招くも、銀髪の少年と白猫の姿はもうそこにはなかった。
・
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・
・
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「ダメです!」
と、問答無用の一喝。
キャルルお嬢様を止めるのはお世話係である私の役目なのだ。
「な、何故ですか? 前から言っていたことでしょう!?」
「確かにそうですが、私は賛成できません」
高貴な香りを纏わせるお嬢様の部屋に呼ばれ、話を聞いた私はいち早く答えを出した。
「ご自分の立場は前に諭されたでしょう。何故そんな危ない真似をなさるのですか?」
「それが私にとって大事なことだからです。それに、前のことがあったから貴女に話したのよ?」
「如何なる理由があろうとも、ダメなものはダメなのです」
見た所、お嬢様の意志は固い。
説得するのは難しいが、お嬢様の安全を考えるなら賛成は無理だろう。
「大体、ニコラス様には仰ったのですか?」
「いいえ、先にリーファに話しておこうと思って」
……確かに、いくらお世話係であってもお嬢様の意志には基本逆らえない。
無理を通せば行動派のお嬢様のこと、私の制止を無視して計画を実行する可能性もある。
「いいですか、万一に私が許可した所で、ニコラス様に通さなければ話は進みませんよ?」
「わ、わかっていますわ」
お嬢様の反応を見るに、私の許可をとってニコラス様の説得材料にするつもりだったのかもしれない。
「ともかく、私は反対です。お嬢様はもっとご自愛なさってください。ついこの前、お嬢様は大変な目にあったばかりではございませんか」
「だからこそよ! 私が無茶をしたばっかりに、皆には迷惑をかけてしまった……」
「でしたらご無理をする必要はないでしょう。わざわざ危険を冒さなくとも、お嬢様にはお嬢様の生活があるのですよ?」
言うが、お嬢様の瞳に浮かぶ炎は消えない。
「それはわかってる。……でも、もう無力な自分は嫌なの」
いや、それどころか炎はより強く揺らめいているように感じた。
「誰に勝てなくてもいい。それでも、せめて親友を助ける力くらいは欲しいの」
……親友とはミズリー様のことだろう。
以前とはまるで違ったその表情に、芯の強さを感じた。
やはり屋敷に帰って来てから、お嬢様は少し変わったかもしれない。
「それだけは妥協したくないのよ」
眼差しは強く、決して他の事を蔑ろにしているわけではないと気付いた。
「……そうですか。そこまで意志が固まっているのでしたら、やはりニコラス様にお話した方が宜しいかと思います」
「リーファは、反対?」
賛成はできない。かといって、反対するとも言えなかった。
「ニコラス様次第です」
私は少し微笑みながらそう答えた。
▼
Aランク認定試験。
それに合格しないといくら難しい依頼をこなした所でAランクにはなれない。
逆に言うと、それさえクリアすれば誰でもAランクの傭兵にはなれるわけだ。
認定試験を受ける条件は色々とあるのだが、ここ数日ギルドに入り浸っていた俺に意味はない。
傭兵ランクがBであることやAランクの依頼を遂行していることなど、必要なことは全部やった。
他にも依頼の達成率などの規定はあったが、今までの依頼も全部達成しているので問題はなかった。
なので、俺は今試験会場に来ている。
もちろんAランク認定試験の会場だ。(とは言っても、ギルド内部だ)
月一開催なので、これを逃せばAランクへの道は遠ざかる。
申し込みが間に合って良かった。本当に良かった。(ギリギリだった)
そんな喜びを噛みしめながらギルド会場へ来た俺。
びっくりしたことは二つある。
「なんでキャルルがいんのさ?」
まずは驚きその一だ。
その惚れ惚れするほどの金髪ドリル。
俺の見間違でしたじゃ済まされない。
「あら、アキヒト。来ましたわね♪」
「何故キャルルが? それに後ろにいるのはリーファさん?」
「来たか、アキヒト」
「は……とぉおおお!?」
一瞬で近づいてきたリーファさんによるギロチンチョーク。(首固め)
えっ、ちょっと、なんだこれ!?
「ななな、なんですかっ!?」
「貴様、お嬢様に何かあれば……わかっているな?」
は、話が見えない! タップタップ! 最初から説明してくれ!
「試験中は何があってもお嬢様を守れ。それが貴様の任務だ」
待て! だから一体何のことを言ってるんだ! 胸が当たってる! 嬉しい!
「リーファ、どうしたのよ?」
「主、何を遊んでおるのじゃ」
忘れていた二人の言葉に、はっと我に返る。
「わかったな?」
「わかりました」
俺が答えた所で、首に巻きついていた細い腕が離れた。
少し名残惜しかったが……さて、今は状況を整理するところから始めようか。
「で? 何がどうなってんの?」
「ふふ、実はですね――――」
キャルルが言うには、彼女もAランク認定試験を受けに来たらしい。
そういえばキャルルもBランクだったか……ふむ、試験資格も十分なわけだ。
勝手に無茶をしては悪いと思い、ニコラス氏を説得してここにきたから安心していい、と。ほうほう。
「Aランクになりたいってのも意外だけど、良く説得できたな」
あのおっさん、そういうのシビアだと思うんだが。
「ええ、まぁ。しっかりと説明しましたので……」
「…………」
リーファさんが無言で何か言いたそうにしていた。
ディズがキャルルに話かけている間にちょっと聞いてみると――。
「ニコラス様は少しお嬢様に甘いのだ」
――とのこと。
『嫌いになるわよ』→『ま、待ちなさい』→『いいわよね?』→『わかった』
みたいなやりとりがあったらしい。……親バカ?
「それでいいのか?」
「貴様のせいだ――――」
俺が一緒に試験を受けるから、ニコラス氏も許可を出したという話。
「マジですか?」
「無関係ではない」
おっさんよ、この前の仕返しか?
「どうやらニコラス様は貴様のことを買っているようだ」
おかしい。俺の認識とは違う。
俺はてっきり警戒されていると思っていたのだが……。
「アキヒト、一緒にAランクになりましょうね」
「あ、ああ」
気品あふれるその笑顔はとても眩しかったが、その後ろからくる厳しい視線にビビりながら、俺はキャルルと握手を交わした。
リーファさんが脅迫ともとれる言葉を俺に残して帰っていった後。
「にしても、人が少ないな」
「ええ、私達を入れても6人だけですわね」
驚きその二。
会場……集合場所にいるのはキャルルの言った通り6人だけ。
ディズは入ってないが、これだけ見るとBランクの傭兵ってのは案外少ないのかもしれない。
「試験の合格率は低いと聞いています」
試験は毎回違ったものを行うそうだ。
ギルドに選ばれた教官が考えた試験を行い、判定はすべてその教官に委ねられるらしい。
当然のことながら教官はAランク以上の傭兵で、試験監督として俺達と同行するのが通例なようだ。
「主なら何も問題あるまい。間違いなくAランクになれるじゃろうて」
「おまえのその根拠のない自信には問題があるな」
「いいえ、私もそう思いますわ。アキヒトならきっと大丈夫でしょう」
「キャルルもAランクになるんだぞ?」
「ええ、もちろん」
ビーーーー。
三人で話している間に試験時間の合図。
そして、会場に一人の女性が現れた。
「私が今回の試験を担当するウラト・フラージュだ。まずは受験者6名の確認をとる」
静まり返る会場。
理由はたぶん試験官に起因する。
彼女が見慣れない服装である以上に、その見慣れない風貌に意味があった。
「あれって……」
「エルフじゃな」
ディズがただ事実を口にする。
「それもハーフエルフじゃ、儂も初めて見る」
「珍しいですわね」
褐色の肌に目が覚めるような銀の髪、纏った服装は葉をイメージした民族的な衣装。
美人であることは疑いようがなかったが、やはり長く尖った耳が特徴的と言えるだろう。
その存在は本で知っていたが、会ってみると余計に感じる。
俺達とは似ているようで、違う。種族の違いだ。
「よし、皆いるな。それではこれより試験の説明に入る」
突き刺さる視線もなんのその。
気にする様子も皆無で、会場には彼女の言葉だけが響いていた。
†
試験内容は、これまで俺が行ってきたAランクの任務(少ないが)とあまり遜色ないようだ。
新鮮だったのは竜籠と呼ばれる移動手段。……そう、移動手段だ。
小型の竜族、ワイバーンと呼ばれるドラゴンに吊るされた籠に揺られて、俺達はとある火山口に降り立った。
「うえっぷ……あぁ、酔った」
とても快適な空の旅。
初めてがこれなのが辛いところだ。
俺はこれ以上ドラゴンを好きになれないかもしれない。……いや、ワイバーンを。
「ちょっと、だらしがないですわよ」
「そうじゃぞ主、此れしきのことで」
「いやいや、半端なく揺れてたから」
「はん、情けねーなぁ」
俺には平然としてる皆が不思議だ。
というか最後の誰だ? 知らない奴が話かけてきたぞ?
「あぁ? 聞いてなかったのかよ。お前らと同じグループになったカインだっつーの」
残念ながら移動中の説明は聞く余裕がなかったのだ。
「丁度いい、カインという青髪の青年よ。説明してくれ」
「……やる気あんのか? てめえは」
「あるある」
まぁ、最初の方は聞いていたのだが……確か、最近活発になってきた火山がどうのこうのと。
「それだ。この火山には精霊がいるって言ってたろ」
「あー……精霊が怒ってるんだっけ?」
「それを確かめにいくんだよ。このガゼル火山は20年前に噴火したばかりだ。噴火するにはサイクルが短すぎる」
成程。それで3人グループを組んで調査に向かうわけか。
「試験内容は精霊との交渉と活発原因の排除……つまり、なんとかして噴火する前に食い止めろってことだな」
精霊か……ディズも精霊なんだよなぁ。
ならディズに交渉してもらおうか。その方が手っとり早そうな感じだし。
「準備は出来たか?」
と、そこで俺達に近づいてきたのは褐色の女性……ウラトさんだ。
背ぇ高けー! なんて思いながら返事を返す。
「OKです」
「おい、本当だろうな?」
「説明を聞いてなかったのではなくて?」
「わかっとらんじゃろ、主」
カイン、キャルル、ディズから謂れのない言葉が飛んでくる。え、俺こんな扱い?
「……のようだが、説明しておくか?」
「いやいや、聞いてましたよ。火山が噴火しそうだから調べに行くんでしょう? ここの精霊にも挨拶して」
「てめ、俺がさっき言った事まんまじゃねえか!」
いらぬつっこみはスルーする。
ウラトさんも微妙な顔だったがわかってくれたようだ。
しかし変な空気になったのを感じたのか、改めて簡単に自己紹介することになった。
「今回君たちの担当教官に当たることになったウラトだ。よろしく」
「俺はカインだ。よろしくな」
「ルルですわ。よろしくお願いします」
「秋人。よろよろ」
「ディズじゃ。主の使い魔(ということで通している)になる」
そういえばキャルルはルルだったっけ、と思いつつウラトさんに問いかける。
「ウラトさんは教官ってことですけど、具体的には何もしないんですか?」
「ああ、私のことは空気だと思って行動してくれ。無論、君たちが危険な時には助けにも入るが、そんなことにはならないよう気をつけてもらいたい」
「まぁ、監視役だと思っていてくれ」ということらしい。
単純な質疑応答の後、俺達はいよいよ火山口へと足を踏み入れる。
火山の噴火を阻止する。その課題を胸にAランク認定試験が始まった。
因みに、もう3人のグループには現地で落ちあった教官がついている。
¶
俺は3人プラス一匹を伴って火山口から内部へと侵入した。
入口らしき場所は何箇所かあったが、一番遠い場所から入る。一番涼しいと思ったからだ。
「……またか、またなのか」
一人呟くは煩悩の嘆き。
前の洞窟よりも暑かった。
空気は乾いているのでカラッとした暑さだが、それでも暑い。いや、熱いっ。
「少し休憩しよう」
「ざけんな」
俺の提案はカインに却下される。
「お、おまえ、熱くないのか?」
「てめーもここにいるなら魔法くらい使えるだろうが」
「……え?」
「気温操作くらい基本中の基本だろうが」
俺はその言葉に衝撃を受けた。
「ディズゥゥゥゥゥ!!!」
「な、なんじゃ?」
「なんで黙ってた!!」
「いや、儂も無意識で行っておったからな。忘れておった」
無知とはかくも無謀な存在だったのか……。
情けなくなりながらもディズに魔法を掛けてもらう。
「ど、どうじゃ?」
「とても快適だ♪」
「ほ……良かった」
俺達に変な視線が向けられていたが、人類の叡智を知った俺には気にならない。
「休憩は終わりだ」
さて、気を取り直して奥へと進む。
途中からゴゴゴゴ、と余震みたいな揺れが何度か起き始めた。
「これはもう噴火するんじゃないか?」
「いえ、たぶん私達は侵入者と見なされているのでしょう」
「だな。精霊の力を甘くみちゃいけない。そろそろ妨害に遭うはずだ」
精霊の力……思わず足元のディズを見る。
たしかにこいつを怒らせたらけっこー怖い。
「ん? どうした主」
でも普通にしてる分には害はない気がする。
いや、しかしディズは他の精霊とは少し違うとかモンさんが言ってたような……。
「……な、なんじゃ?」
「いや、なんでもない」
「そ、そうか……///」
なんで照れてんだ?
「――――あれ?」
不思議に思って目線を上げると、ディズの顔以外も真っ赤っかだった。
「ストップ。何かあるぞ」
一時行進をやめて目の前の現象を確認すると、所々が赤くなっているのが確認できた。
たぶん魔力が異常に集まっているのだと思う。周りの壁もそうだが、地面が特に危ない。
「地面に何かある」
「ふむ……罠かの」
キャルルとカインがそれに沿う。
「確かに……地脈とは違う魔力の流れね」
「俺にはボヤっとしかわからないが、壁の方も同じ感じだな」
試しにそこらにあった大きめの石を投げてみる。
――ズオオオオオオオオオオ。
巨大な火柱が上がった。怖ろしい罠だった。
「随分とセキュリティの高い山だな。お宝でもあるのかねぇ」
「危険だな。迂回していくか?」
「他も一緒なのではないかしら」
「うむ。ここを抜けなければ奥へは進めまい」
問題はどうやってここを通り抜けるかだ。
地面には地雷が沢山。
俺なら全てを解除することもできるが……。
「数が多い。疲れそうだな」
「全部潰すか?」
ふむ。カインは野蛮な人種なようだ。
「俺の魔法の土流葬を使えば、全部押し流せるかと思うが」
「無理ですわ。魔力は地面の下にあるから流せたとしても一部分だけよ」
「しゃーない。少し疲れるが……帰り道はキレイにしとかないとな」
言って、魔力を地面から走らせる。
とりあえず見渡せる範囲の地雷を取り除いた。
「ま、魔力が消えた……だと?」
「消えましたわね」
「主が消したのじゃ」
「さっさと行こうぜ」
カインが何か言ってきたが、適当にあしらって奥へと進んでいく。
次いで開けた場所に出た途端、モンスターの襲撃にあった。尻尾に火が点いた犬コロだ。
「10,15……ち、30匹も居やがるっ」
「こういう時こそ極式の出番じゃないか」
あっという間に敵を殲滅。まぁ雑魚だし。
「す、すごいわね……」
「鞭がな」
さらに煩くなったカインを無視してさらに奥へと向かう。
ピタッと足を止めたのはディズだ。続いて俺も同じように静止する。
どこか前と似たような光景だった……規模は違うが、これはまさか……。
「……おい」
「……瘴気」
線香のような煙だったが、間違いなく瘴気だ。
こんな所にまであるのか……そう思った瞬間――。
――ズオオオオオオオオオオ。
地面から噴き出す瘴気を、火柱が覆った。数秒後に、全てが消え去る。
「浄化の炎、ね……」
「原因はこれか……」
それぞれで頷き合う。たぶん間違いないだろう。
この火山は瘴気に侵されていた。
それに対抗するために火山活動が活発化している、ということは……?
「なら瘴気の排除を優先すっか?」
「それよりも先に精霊を探しましょう。精霊が瘴気に侵されていれば、事態は急を要しますわ」
「それがいい。たぶん手遅れだと思うが……」
「うむ、でなければ既に状況は好転しておるはずじゃて」
さすがAランクを目指すだけあって、やるべきことは皆ハッキリわかっている。
俺の予想だと、この後精霊との戦闘なんてビジョンが見えているのだけれど……相手の陣地だからなぁ。
最悪精霊を消滅させるなんてことにならないように気をつけないし、苦戦は必須だと思われる。
「ディズ、わかるか?」
「もうすぐじゃ。この先じゃな」
ディズを先頭に俺達は予想通りといった様子でそいつと対面した。
辿り着いた先はマグマの池だ。吹きさらしの空間でマグマが渦巻いている。
池の中心には人型を象った炎の精霊、イフリートが俺達を待ち構えていた。
☆
――――畏怖。
人は神聖に触れた時、思わずそう感じることがある。
私が感じたのはまさにそれだった。
一目見た瞬間に畏れを抱く。
その存在の尊さを理解し、畏敬の念を抱く。
自然の総身と言えばいいだろうか……人の姿であって人ではないもの。
「其の方がこの火山を統べる者か? 炎の精霊イフリートよ」
「如何にも」
低い声が聴こえた。
その身は炎であるが意思を持つ。
これほど不思議で純粋な存在を私は知らない。
「今火山が活発になっておるが、それは瘴気を退けるためじゃな?」
「如何にも……然し、事は厄介だ」
「厄介とな?」
「瘴気に毒された我ではもう抑えきれない。一度大規模な浄化が必要と判断した」
ディズとイフリートとの対話。
そこに緊張も弛緩も一切ない。
ただ事実を確認するためだけの作業に思えた。
「儂等なら止められるかもしれん」
「不要だ。邪魔ものは去れ」
交渉は決裂。いや、最初から交渉の余地はなかったのか。
「去らなければ、殺す」
――ゴゴゴゴゴゴゴ。
イフリートの姿が獣に変わり巨大化した。
直後に地震、マグマの池から炎の竜巻が巻き起こる。
大自然による猛威が私達を襲おうとしているのだと、本能は状況を一早く掴み取った。
「ちっ!?」
「いかん、離れろっ!」
先手必勝、容赦なしの業火の鉄拳。
巨大化した獣人の拳が目を見張る速度で打ち出される。
「くっ」
なんとか避けた。しかし、敵の攻撃はまだ止まない。
「っ!?」
マグマの洗礼が背後に迫る。
「憤怒の氷」
空間の熱量を奪い、マグマを凍結した。
しかし、新たな炎が別方向からやってくる。
「ふっ」
さらにその場から離れる。
このままでは反撃できない。
一度距離を取って周りの状況を――――。
ビキビキビキ。
「――え」
地面に着地した瞬間、地割れが起きた。
ゴゴゴゴゴゴゴ。
地割れは地割れを呼び、足場を失った私は裂け目の底へと落下する。
「ぁ――――」
真っ暗な暗闇へ。
「――――き」
苦し紛れに手を伸ばした。
けれど差しだした手は空を切って――――。
「キャルル!」
「!?」
――――気付けば身体ごと抱えられていた。
「ふぅ、危ない。ギリギリセーフ……」
「あ、アキヒトっ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
「……でもないみたいだ」
着地するはずの地面が裂けた。
「きゃぁああああああああ!!!!???」
今度は二人一緒に、奈落へと落ちていった。




