緋色の剣と5秒前
左利きなのですが、「左利きなんですねぇ。」って言われた時の返しに困ってます。
「えぇ!?左利きなんですか私!!」って聞き返すのはどうですか?違いますよね、知ってました。
「危なかったね。」
HPポーションが私の傷を癒し、徐々に身体は動く様になる。私の横には1人の男性が気を失って寝転がっている。知っている顔、忌々しい顔、私の元父親だ。
「ありがとう……」
「いや、礼なんて良いよ。俺の自己満足で助けただけだから。後、コイツ……指名手配犯だった筈だから軍の人でも呼んでおくと良いよ。」
黒髪の男の子はそう言って柔らかな微笑みを見せてくれる。
「その指輪はね、発動した事を俺に知らせてくれる様になってるんだ。何故君が持っているか知らないけれどさ……結果オーライって事で。……うん……まさか捨てられた?いや、あの2人に限ってそんな事は……」
「おいセドナ!!師匠の金指輪を使って、勝手に居なくなったと思ったらナンパの為かよ。」
「うげっ……シルバ……」
「流石の師匠でも、怒るぞお前。」
「俺を追って、金指輪を使ったお前もな。」
「俺はお前の兄弟子だ。勝手に何処か行って危ない目に遭ってもらっては困る。それこそ俺が師匠に怒られちまうだろ!全くお前はいつもいつも……」
「うるせーハゲ……」
「あぁあん!?お前今ハゲって言ったか!?俺はハゲじゃなくて坊主だ!次言ったらぶん殴るぞオラ!」
「あ、あの……助けて頂いて有難うございます……貴方達は何者なのでしょうか?」
坊主頭と黒髪の少年は、摑み合いの喧嘩を止めて私の方を見る。
「俺は将来神格軍の隊長になる男ッッ!!神格者の1番弟子シルバだ!よろしくなっ!」
「俺は将来神格者になってコイツを使いっ走りにする予定のセドナだ。」
「あぁあん!?」
黒髪の男の子の言葉に私は耳を疑った。セドナ……今セドナと言った?
「セドナ……セドナ・フルムーン……」
「あれ?何で知ってんの……いぃ!?」
「セドナ、シルバ……私の金指輪を使ったな?」
風が通り過ぎたーー
瞬きよりも速いスピードで、私達3人の前に現れたのは目も覚める様な美人だった。
「ひっ……し、師匠!!」
「あの……シルバが勝手に使おうって!」
「おまっ……ふざけんなっ!」
「2人共同罪じゃ……帰ったら何が待っているか分かるの?」
「「やだ……あの修行だけは……」」
金の翼が辺りを包み込むと、私以外の3人を黄金色に照らし始める。コレが魔法だって事ぐらい私でも分かるけど、どれだけ凄い魔法なのかは私じゃ分からない。
「師匠、人助けしたって言っても……ダメですよね?」
「ダメじゃ❤︎」
そして黄金の光は、目の前の3人を連れて消えていった。
その後の話だ。
私は町の軍兵に掛け合って男の身柄の確保を頼み込むと、逸る気持ちを抑えながら家へと早歩きで帰った。
そう。今日という日に全てが変わった。
私は父親から解放され、そして本当の意味でフルムーン家の子供になれた日……言うならば私の誕生日。
「……はっ……はっ……」
今の出来事を何度も何度も繰り返し思い出す。何か熱いものが込み上げてきて、それは涙となって私の頬を濡らした。
「……ただ……いまっ……はぁはぁ」
「ん?シャルナ、早かったわね。」
「お母さん……お母さんお母さんお母さん!!」
抱きしめる。抱きしめて温もりを感じで、生きていることを実感して。
「私は本当に自由になれた!もう後ろめたさなんて感じなくても良い!!私は……私はお母さんの娘だよ!」
心臓が跳ね上がる程、鼓動が地響きに感じる程、涙が洪水で町を飲み込んでしまわないか心配になる程。今、私の心は動かされている。
「そんな事……今更言わなくても知ってるわ。」
温かい母の腕の中で、私は掠れた言葉を紡ぎ出す。
「今日初めて……私のお兄さんに会ったよ……」
※※※
保険をかけて良かった……
腐敗の泉から少し離れた森の中を、前足を引きずりながら考える。俺と男とを線で結び、その延長線上に泉が来る様に上手く仕向けるのに中々苦労したが、それも今回に限っては必要な労力だったな。
「うッ……」
おいおい……複雑骨折どころじゃねーぞ……他人の物の様に手の感覚が無くなって、いよいよ腕の形をした肉塊って感じだ。猫の状態の今の現状、追い打ちをかける様に右手は右足へとジョブチェンジしてしまっている。回復をすべきだが、持って来れたのはシャルナから貰ったブレスレットだけだ、仕方ないので尻尾に付けておく。コレがモノイレロだったら最適解。
きっとあそこでセドナになっていたら、男は焦って、死人に2人の首を搔っ切らせていただろう。
「さて……」
不意にカサカサっと横を這うクモが目に入る。
「うわっ!?
びっ……くりした……くそッ。
この目線でのクモは大迫力通り過ぎて放送禁止だって……」
まぁ魔力を帯びていない俺に襲いかかってくる事は無いだろうが……ここは一旦ギルドに戻って体勢を立て直すことが先決か?それとも……
セナッーー
ノアの叫び声が脳内で再生される。
身体がセドナになるまで待機するのはナンセンス、あの2人が危険だし、いつ変化出来るか分からない。
けれど……今すぐなんの策もないまま戻っても、2人を助ける事は出来ない。
けれど、俺の足は2人の元へと向かって進んでいた。
※※※
「家を出た私は町で襲われます。私が両親だと思っていた人は奴隷商人で、物心が付く前の子供を誘拐し、育て、奴隷として売っていたのです。その奴隷商人を倒し、捕まっていた子供達を解放したのが兄さんだったのです。妹だという事はついぞやお話出来ませんでしたが、感謝と尊敬の念を抱き、そして恋心も抱きました。」
「………んっ」
「泣かないで下さいよノア。」
「だって……幼少期のシャルナがどれだけ辛い思いをしたかと思うと……」
「昔の話です。今の私は、中々に充実した日々を送っているのですから。」
そうだ。だからこそ私はこんな所で足踏みをしてる暇なんて無い。
「私が絶対にセドナに会わせる!!約束する!!」
「……!!」
潤んだ瞳から真っ直ぐな想いがヒシヒシと伝わってくる。長ったらしい昔話を笑わずに聞いてくれただけで無く、本気で協力する気だ。この世の中で、こんなにも純粋な人には中々出会えない。
「……ふふっ……有難うございますノア。では此処を打開してから本格的に兄探しを手伝って貰いますよ?」
「えぇ望むところよ!まぁ、すぐに見つかるかも知れないけどね!」
「五月蝿い。……ぺちゃくちゃと喋るのもまぁ今の内だが、私を怒らせない方が得策では無いか?」
歩く道を確保する為に、死人を蹴飛ばす男。その荒々しさと動かない死人から推測するに、泉の修復に手間取っているようだ。
「泉の修復が思う様に捗らないのね。寂しいなら乙女の会話に入れてあげるわ。」
「君達が森に入って2度目の夜が来る。残念ながら私もコレが仕事でね、明日の朝日は拝めないと思ってくれ。」
「仕事?レメゲトンは自分達の脅威になり得る冒険者を減らしているのですか?」
「ふん……どうせ死ぬのなら教えてやっても良いか…………私の仕事は軍だ。国を攻め落とすには、命令絶対遵守の死人軍隊が必要なのだよ。面倒な事に、その能力を持っているのは私の魔格なのだ。」
「……そんな事無理です。軍隊と呼称するぐらいならば、死人を何千、何万と死人を操る事が出来ないといけません。一個人では保有出来ない程膨大な量の魔力が必要なのは目に見えている!」
「あぁその通りだ副隊長。」
「ならどうやってーー」
「シャルナ……アレじゃ無いかしら……」
ノアが見つめるのは美しい装飾が施された鎌。刀身部分が視認できない程、深く地面に突き刺さっており、其処からは禍々しい魔力を感じる事が出来る。
「アレは私の魔格能力と、とても相性の良いウルトだ、魔力を吸い取り所有者に還元する。私は死人に対して、常に魔力を放ち続けなければならない、ウルトが無ければ魔力は一瞬で尽きてしまうが……アレで森の魔力を頂けば話は別よ、その所為で水が濁り、地面が腐り、木々は死んだがーー私にはどうでも良い事だがね。」
刀匠の忘形剣、通称ウルトと呼ばれる強力な剣。まさか目の前の男が所有しているとはこれっぽっちも思っていなかった。
「人だけでは飽き足らず森まで殺めるなんて!!アンタなんて人の心を無くした怪物よ!」
「金髪の麗人よ、今更私に人の心を説くなど無意味にも程があるだろう?それとも負け惜しみか?だとしたら目も当てられんな。」
「シャルナ……」
ノアに言われて感覚を研ぎ澄ませる。
「はい……そろそろ。」
「ふふっやっぱり……」
「何を話している?」
反撃の芽を潰し切ったつもりだろうが、私達は2人じゃない……3人だ。
「負け惜しみって、劣勢側が優勢側に放つ言葉ですよね?……よもや貴方は自分が優位に立っているとでも思っているのですか?」
「思っているが……何か可笑しいかな?」
それは突然だった。
森が騒めきだしたと思えば、小さな影が近づいて来る。
「っ可笑しいですね!!……はぁ……はぁ……」
男の問いに答えたのは私でもなければシャルナでも無い。けれどその声を耳にするだけで、まるで温かいスープを飲んだ様に安心する。
「……ほう。」
1匹の黒猫は、荒い呼吸を抑えながら大地を踏みしめて進む。
「セナ!!」
「……失望したよ銀髪の麗人。町に戻って次の犠牲者を連れてくる役目はどうしたのかな?これではわざと逃がした意味が無い。それともそんな薄い魔力量で私を倒せるとでも?最悪でも何かしらの策を持っていなければ、ここに戻って来たのは本当に無意味な行動だ。」
「策は無いですが……仲間なら連れてきましたよ……ほら。」
森の騒めきは止まらない。ここまで来れば喧騒とまで言っても良いだろう。
「まるで何かから逃げて来たみたいに衰弱していたのは、【みたい】では無く、本当に逃げてきたからだったのか。」
※※※
先程までその影も見なかったクモが、何十、何百と腐敗した地に散らばり、死人に群がる。それを追う様に、黒猫が連れてきた狼の群れが動き出し、クモ諸共死人に襲い掛かっている。
「……何ッ!?」
隙が生まれたーー
黒猫が、地面に転がっている黒指輪から魔法を取り出し、私達の縄に向け放つ。
「《リング》『ミニファイア』」
「「……!!」」
縄は容易に解け燃え朽ちる。
「セナちゃん!大丈夫ですか!?」
「魔力を使い切りました……少しだけ……休憩します……」
大丈夫、死んではいない。死人の無力化、足止め、2人の解放、その為に魔力を全て出し切ってしまい、その代償で意識が飛んでしまっているのだ。
「有難うセナ……少し休んでてね。後は私達でやるから。」
「クソッ!!あいつめ!魔力を追う様に命令したのがアダになっているでは無いか……!!」
「シャルナ!私が前線に出る!貴方はーー」
「いえ、約束通り私が奴を喰らいます。ノアはセナちゃんを回復させていて下さい!
《メインリング》『アンテンナデギリ』」
風を斬り裂き、詰めた距離は推定8メートル。もう1度、大地を踏みしめればリーサルまでゼロメートル。
キャィィッンーー!!
刹那ーー
黄金色の火花と心地良い金属音が響く。喉元めがけて薙ぎはらったつもりが、短剣によって阻まれてしまった。
「用心深いですね。けれどーー
1対1なら負ける気がしません。」
木々の隙間を縫う様に繰り広げられるミリの戦い。次の一手、次の次の一手の読み合いに、荒くなる呼吸。
「……ッ!!」
剣先が男の頬を掠める。
……惜しい、うん、このままなら押し切れそうだ。隊長を除く軍兵の中で、白兵戦なら私の右に出るものは居ない。ましてや武器のリーチも、精神状態も私の方が上。
「疾いですか、追いつかないですか。」
攻撃の太刀筋が増え、相手は防戦一方。
「貴様……!!」
短剣を握る右手を弾き上げ、ガラ空きの横腹へと刀身を誘う。
「……獲った。」
「《リング》『ウォーターガードォ!!』」
「なっ!?」
重く沈んでいく銀の煌めきを引き戻し、少し距離を取る。しかし、それを読むかの様に、着地に風の弓矢が唸りを上げて向かって来る。
「……んっ!!」
「《リング》『水龍の轟』」
「……んぁっ!!」
追撃の衝撃波を、ギリギリのタイミングで切り落とし対処する。
「……っはぁ……金指輪ばかりッ!!」
「私の魔力が朽ちる時は、森が枯れ果てる時だ!!」
そうだ、あの鎌の所為か!!魔力を吸い取り自分のものとする武器……あれがある限り魔力切れは期待しても無駄みたいだ。
「分かるか!!今の魔法で大方の狼共、そしてクモは消えた!」
「その様ですね……けれど貴方の軍兵さんは酷く食い千切られていて、戦える状況では無いのでは?」
「……元よりこの戦に死人を出す事はせん。こんなにも楽しいのは久方ぶりだからな!!」
「なら私も本気を出させて頂きますね。」
身体中の魔力が剣へと流れ込み、水が氷になる様に固まって、定まっていく。
「そこまでとは……いいぞッ!良いぞ副隊長!!」
長髪を揺さぶりながら、両手で顔を覆って見せる男。感情が昂ぶっているのか、私が強敵だということに歓喜している様に見える。
「喜んでいる暇は無いですよ。」
大分準備に時間がかかってしまったが、無事に発動出来た。
「刀匠の忘形剣、『アンテンナデギリ』発動」
白刃から徐々に緋色に染まる刀身。
昼から夕暮れへと進みゆく時の様に美しい。
刀匠の忘形剣は、その強力さ故に能力の発動条件が厳しいモノや、とても限定的になっているモノが多い。これはその条件すら満たせない者には持つ資格が無いという意味だ。もしくは、簡単に力を引き出させない様にするストッパーなのかもしれない。私の『アンテンナデギリ』は所有者が【使う】と判断してから発動するまでのズレが条件に当たる。
今回は大分時間が経ってしまったが、このタイミングで発動出来たならまだ間に合ったと言える。
「私の言動、行動、全てをしっかりご覧下さい。……忘れない様に。」
Q 人が魔力の限界を迎えると、シンボルに沿ったモノが身体に現れますが、獣人族、並びに魔族は何か変化はありますか?
A 獣人族は身体能力に、魔族は性格的に変化します。表面的に現れる人間が、1番魔力枯渇が分かりやすく、畳み掛けられるキーになる可能性が有ります。




