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猫が美少女で実は俺?  作者: もこ
腐敗の森
42/53

私の意味

時間を切り取って保存する能力があったとしたら、もし持ち得たらとても有意義ですよね。

例えば、夜中の寝れない3時間を切り取って保存して置く、そして次の朝、寝足りなかったら使うも良し、宿題や課題に使うも良し。

けれど切り取った3時間は、貴方がこの世界に居ない時間であって、張り付けた時間は、貴方が別世界に居る時間かもしれませんね。



それは戦闘に入る以前の問題だった。強力な個よりも中位の数か、俺達3人は成す術無く囚われてしまった。


「ちょっと!!触らないでよ!!」


「安心しろ小娘。死人に自我など無い、敵を縛り上げる動作中に性欲を満たそうとする輩は居ないさ。」


「そういう問題じゃ無いわよ馬鹿!!」


「私達を殺さずに木に縛り付け、死人に刃物を持たせ見張らせる。何故です、手っ取り早く殺せば良いでしょう。」


「残念ながら死人化出来るのは1日に4人までだ。今日は既に3人、あと1人のみだ。それに殺すのにも厄介な条件があってな、あの泉で溺死させなければならんのだ。」


HPポーションである程度体力を回復したものの、身体を拘束されていては闘う事も出来ない。ステータスから呼び寄せ、スコープで覗いて見ても年齢以外、芳しい情報は無い。奴が魔格者か否かだけでも何かの役に立つかも知れないのに……


「……。

冷静さもここまでくれば冷血にも思える……ふん、私を調べたとて何も出まい。」


「首元の刻印はレメゲトンのモノだ、魔格者にすがる快楽殺人者ですか?」


「確かに私はレメゲトン所属している……らしいな。けれど少し違う、魔格者を崇拝していなければ、死こそ人を救う術などという奇天烈な解釈もしていない。」


見れば見るほどに彼のやつれ具合が気になってしまう。顔のシワや節々に出る動きは、どうしても歳相応とは思えない。


「私は復讐にこの身を焦がしているだけだ。それは軍の犬に、あるいは冒険者に。」


「復讐?」


「愛する者を冒険者に蔑められ、軍に殺された。理由はそれで十分だろう?」


「……愛する者を守る力が無かった、貴方の甘えでしょう。」


「厳しいね副隊長。

さて、話はここまでだ。そろそろ儀式を始めようか。」


秘策中の秘策……使うなら今か……!!


「……そ、そんな物騒な事止めて僕と楽しい事でもしませんか?この縄を解いてくれたら……少しぐらいご奉仕しますよ?」


「銀髪の麗しき娘よ、既に私の心は1人の女性に預けてある。その手は通用しない、勿論コイツらにもな。」


「で、ですよねぇ……」


残るはーー

泉に投げ捨てられる時、如何してもこの縄は外さなければならない……その時か。その為には、奴のヘイトを俺に稼がなければならない。


「貴方は……いや、アンタは何に囚われているのですか?何に怯えてる?僕が見る限り、アンタはわざわざ自分の作った舞台まで冒険者を誘い込み、絶対に勝てるという安心感を得てからの戦闘しかしない臆病者だと思うのですがーー」


「セナちゃん!?」


シャルナとノアは俺を止めようと必死だ。

けれど続ける、火傷してでも奴の逆鱗に触れて見せる。


「復讐に身を焦がしている?少し遅い厨二病ですか?冒険者や軍に恨みがあんならこんなジメジメした所で誘い受けの闘いしてんじゃねぇよ!卑怯者!!変態!!えっと……そろそろ髪切れ不潔!!」


「私を怒らせて最初の犠牲者になるつもりか?そうする事で2人を助けるつもりなら策が甘過ぎだ。明日になればすぐ残りの2人もあの世行きだと分からんか?」


「ちちちち、違いますよ!そんなつもり無いです!」


「それはもう滑稽。だがその勇気に免じて……お望み通り貴様から死んで貰おうか。」


そう言ってアイザーは、短剣で縄を切り裂く。


「有難うございます。」


……掛かった!!

無詠唱でシャトルーズ・ムーンを召喚し、両手でガッチリと握り締める。無詠唱は安定しないが、魔力のコントロールをしっかりすれば何て事無い。


「ッ!?無詠唱だとッ!?」


「縛られている間って暇ですね……繊細で時間の掛かる魔力調整に当てても余るぐらいにッ!!」


短剣を上手く弾き飛ばし、後ろへ退く敵との間合いを一気に詰める。


「《剣技》『雷震!!』」


「なッーーー」


どうだ?自傷する分威力の高い剣技、レベル差が有ろうとかすり傷程度では済まない筈だ!!

土煙が周囲を覆い視界を遮る、腐敗し緩んだ地面には強すぎる衝撃だったか。シャトルーズ・ムーンを杖の様にしながら、フラつく足取りを如何にか安定させる。ありったけの魔力を込めた一撃……脳が揺れ動き、気分が悪いったら無い……気を抜けば吐いてしまいそうだ。


「後ろッーー」


「ーーッぁがッ!!?」


不意に訪れる激痛。

全身の毛が逆立ち、呼吸すらマトモに出来なくなる程の激痛ーー緋く流れる身体のシグナルは右肩からだ。男を前に、こうべを垂れる様にして膝から崩れ落ちる。


「奥の手は吐き切ったか?《リング》『魔の湾曲』」


不意に右腕に触れられたと思えば、自分の意思とは関係無くギュルリとあらぬ方向へ回り始める。バキバキと骨が軋み鮮血が噴き出せば、右肩から先の感覚は過去の遺物と化した。

痛い……痛いッッ!!!

この世界で痛みという痛みには慣れたつもりだったが、レベルの高いセドナの姿だったからというのか。


「今は剣を握れずとも、死人になれば嫌でも握る事になる。そろそろ朽ちて生き返れ。」


首根っこを掴まれ、華奢な身体は簡単に持ち上げられてしまう。


「ーー。」


「何だ?」


「剣は……剣は無くとも……反撃は……」


今セドナの姿になって如何なる?目の前の男にある程度の傷は与えれるだろう。しかしそれだけだ。2人を助けるよりも速く、死人の短剣が喉元を掻っ切るだろう。


「反撃は……何だ?」


「ふッッ!」


「ぐっ……小賢しいッ!!」


左手で握り締めた土を男の顔面目掛けて投げ捨てる。……上手く目潰しは出来たか?きっとこの溜息程度の時間で、出来る事は1つでーー


「《リング》『白銀の獄矢!!』」


※※※


次第に濃くなる霧。

男の放った金魔法は、空中に白銀の弓矢を創り出す。禍々しくも美しいと感じてしまう魔力の塊は音も無く空気を穿つ。それも15連で……だ。

舞い上がる土煙でマトモに周りを把握出来ないが、セドナが1人で闘っているのは分かる。そして今の魔法がどれだけ危険なモノなのかも。手足を固く縛る縄と首元に押し付けられた短剣とーー

目の前の男と周りの死人達とーー

その全てを何とか出来れば良いのだが、私の力では到底叶わない。叶わなければ目の前の仲間を助ける事は出来ない。


「セドナッーー」


副隊長のシャルナですら動けない縄。何らかの魔法によって強度が増しているに違いない。


「私が……私が救わなきゃ……」


「シャルナ!!しっかりして!セナはきっと大丈夫だから……きっと……」


タダでさえ圧倒的不利な状況なのにあの男自身も強いなんて……


「あの世で感謝してくれ白銀の娘よ。手加減をしなかったのは、反撃を試みようとするその心意気に免じてだからな。」


無造作に投げ捨てられたセドナの愛剣を見ると背筋が凍りつき脳が震える。きっと大丈夫なんてどの口が言えるのだ。今のセドナは神格者では無く、弱体化したセナなのだ。そんな状態であの魔法は……生きている訳無いッーー


「セナ……ちゃん……」


弱々しいシャルナの声。彼女の潤んだ瞳が映すのは……烈風で抉り取られた地面。そこに居た筈のセナは居ない。


「…………。」


言葉を失うとはこの事か。

私は何処かで思っていたのかも知れない。セドナなら何とかしてくれる……と。私の他力本願で甘ったるい考えを壊れるまで殴りつけたい。何か出来筈だ、考えれば手は有った筈だ。

セドナを殺したのは……私だ。

風が森の闇に溶けていく中、男は微動だにせず私達とは逆方向を見据える。


「……やってくれたな。」


抉り取られたのはセナが居た場所だけで無かった。彼女……いや、彼が放った剣技は男に向けられたモノでは無く、儀式とやらに使われる泉を破壊するモノだったのだ。


「……腐敗の水を用意するのにどれだけの魔力と時間が掛かると思っているのだ。置き土産にしては厄介な雷よ。」


ひしめき合っていた死人の動きは鈍化し始める。


「泉を……泉を蘇らせる為の魔力は、死人へ供給していたモノを当てるのですね。」


「コイツらは魔力を食い散らかす。

それなのに魔力供給を常にしなければ動力の無い機関車と同じだ。それを知ったとて今の君達に何をする事も出来んさ。」


「お仲間が動かなければ、貴方を倒す事など造作も無い事。隙を見せない方が良いですよ?セナちゃんの為にも必ず生きては帰しませんから。」


「ほう、ならば縄をもう少しキツくしようか?」


「どうぞご自由に。」


「勇ましいものだな。」


死んだ水が申し訳程度に溢れる大地に触れ、魔力供給を始める男。シャルナは悟られぬように小声で話し始める。


「泉が蘇るまで死人は弱体化しています。

彼女が残した逆転の武器と猶予を上手く使わなけばゲームオーバー、私達の負けです。」


「…………。」


「ノア、貴方こそしっかりして下さい、落ち込んでも仕方の無い事ですよ。」


先程までの涙目が嘘の様にケロッとした態度で話すシャルナ。


「仕方の無い……?何よその言い方ッ……セナが……私達の所為で死んだのよ!?」


「ノア、落ち着いて。」


「落ち着いてられるもんですか!」


「……セナちゃんは生きています。私の差し上げたブレスレットですが、少しばかり魔力を注ぎ込んで有るのです。自分の魔力が動いている事ぐらい、深い森であろうと感じる事が出来る……微弱ながらですが。」


「ーー!!」


セナが生きてる!?

今はその言葉を鵜呑みしよう……いや、したい、飲み干したい。


「ノアの位置からだと見えなかったと思うのですが、セナちゃんは魔法が発動されたと同時に逃げてます。彼女の魔法と判断力は素晴らしいですね、まさか猫に姿を変えてあの場から逃げるとは……私の演技も相まって奴は完全に殺したとタカをくくっています。」


「凄い……セナったら咄嗟に魔力玉を口に入れ変化を促したのね!」


「魔力玉……何でしょうそれ?」


「うんん……こっちの話!」


そうよ……そうよね!あのセドナが簡単に死ぬなんて有り得ない!安堵と罪悪感からの解放によって気持ちは高まり頭は冴える。


「今の状況下でこの身を解放して頂ければ、この剣に誓ってあの男を倒すと宣言します。唯……セナちゃんが戻って来てくれる保証も無いですし、上手い事縄を解けるとも限らないですが……」


「戻ってくるわ。」


「……!!」


他力本願を嫌って自分を責めても……どうしてもセドナには頼ってしまうし、頼りたくなる。

それは彼が期待に応えてくれる人間だと知ってしまったからだろう。


「信頼しているのですね。」


「そんな大層なものじゃ無いわ……私はいつも甘えてるだけ。」


「んふっ……ふふふっ。

私もこんな所で死ねないですね!生きて帰って兄さんを見つけて、誰よりも甘えないといけませんから。」


彼女の微笑む姿に張り詰めた糸が緩み始める。

私も少しぐらい甘えてみようかな、シャルナに習って。


「1度も会った事無いのに、そんなに好きなんて何か理由でもあるの?」


「有ります。それに……実は兄さんに会ったことないと言いましたけど、厳密に言えばアレは嘘なんです。」


「え?」


話が長くなっちゃいますけど良いですか?と、彼女は照れながら笑う。私も微笑み返し、無言で頷いてみせる。


「それは私が、まだ私では無かった時の事です。」


※※※


土砂降りの中ーー

頬撫でる風は冷たい。私は街角の小さな小さな存在で、そんな自分が寒さを凌ぐには、馬小屋の端で充分だ。

藁を集めて膝を抱き締めるように座る。

こうする事で少しばかりだが寒さを緩和出来ている気がする……けれど空腹まではどうにもならない。そうだ、次に出会った人で私の運命を決めよう。


不幸そうなら金品を奪おう。

幸せそうなら殺して貰おう。

そうして私は……人を棄てよう。


「うわわっ!!

降ってきたな……これじゃあ露店も閉まっちゃうね……取り敢えず馬小屋で雨宿りしよう!」


「はい……ぐすんっ」


慌てて入って来た男女2人組に、冷めきった目を向ける。…………あぁ、……ごく普通の夫婦といった所か。私に選ばれた事、心より祝福します。


「アイネ!?……まだ泣いているのかい?」


「だって……だって……」


「ほらこれで涙を拭いて。

私達の息子が神格者に選ばれたんだ、誇らしいことだろう?メリナ様も凄く喜ばれていたし、これから僕達の役目はセドナの活躍を祈って見守る事さ!きっと立派になる。」


誰が見てる訳でもないのに拳を突き上げ、満足気に頷く男。


「それに……彼がここから去る事は、産まれ落ちた時から分かっていたろう?」


「……初めてスキルを見た時、類稀なる剣術の才能を感じた時、子供らしからぬ大人びた思考を見せた時。

セドナの一挙一動には【神格者】が確かに有りました……だからそれを見るたび胸が苦しくなって、何時まで私達の子でいてくれるか指折り数えたり……うぅ……うわーん!!」


「なっ、泣かないでアイネ!!

僕も悲しくなるだろうっ!!うわーん!!」


涙を流しながら抱き合う2人。

その光景で私の決意は簡単に萎えてしまった。


「……五月蝿いです。茶番は何処か別でやってくれませんか。」


「うわっ!!?

び、びっくりしたぁ人が居たのか……って子供!?」


「……酷い傷!アナタ!早くこの子を手当しなければ!」


「必要有りません。

何時もの事ですから……」


差し伸べられた手を払いのけ、私は立ち上がろうとする。しかし身体が思うように動かず、その場で尻餅をついてしまう。流石に5日も食べ物を口にしなければ、簡単な動作にすら支障をきたすようだ。


「……この子を連れて帰ろう、家になら回復ポーションも有るからね。」


「アナタならそう言うと思ってました。

この子は酷く衰弱しているから、急ぎましょう。」


抵抗する力も無く、私は男に背負われる。


「やめて……私に関わらないで……」


「やめない。きっと大丈夫だから、君を回復させたらちゃんと解放するよ。」


雨の中、ずぶ濡れになりながらも足音は続く。


不意に暗転する世界。

静寂と暗闇ーー

目を開けると私は見知らぬ小屋に居た。


「あら。アナタ!目を覚ましましたよ!」


「おぉ!!傷の具合はどうだい!?」


夫婦は心配そうに私を見つめる。


「ここは……ぐっ……」


「おっと!まだ起き上がったらダメだよ。私達は魔法を上手く使えないんだ、HPポーションの効果もただの気休めになってしまっているかもしれないからね……あぁセドナが居てくれたらなぁ。」


「セドナ…………うわぁーーん!!」


「ごっ、ごめんよアイネ!!思い出させちゃったね!?」


「…………。」


目に涙を浮かべた女性を、男性が優しく抱き寄せる。


「何故……私を助けたのですか?」


「人を助ける事に理由なんているのかい?

僕達の微力な力でも助けられる命があるなら手を差し伸べるさ。」


「仮にーー

私がアナタ達を殺し、金品を奪う算段を脳内でしていたとしても助けましたか?」


「……えぇ、助けます。だって……貴方はそんな事しないって見れば分かりますよ……」


「偽善ですか?」


「難しい言葉を使うんだなぁ、ほらスープをどうぞ。」


ほんのりと温かいコップと、丁寧に切り分けられたパンを1つ渡される。

香辛料のスパイシーな香りが鼻を抜け、半透明の液体がチャプチャプと音を立てる。もう何日も食べていない私にとってはご馳走と言う言葉では足りないぐらいの、とびきりのご馳走だ。


「まぁ、偽善で人の命が救えるなら結構!!

そんな事よりそのスープを飲みな?アイネ特製スープはとびきり美味しいぞ!!」


一口……一口だけだ。

そしたらこの家を出よう、迷惑をかけない様に……


「美味しい……」


スープで喉を潤し、パンで腹を満たす。

1度口に運んでしまうと、止める事なんて出来ない、脇目も振らずに出されたモノを平らげてしまった。


「気に入ってくれたなら嬉しいです、良ければもう一杯いかがかしら?」


私は何も言わずにコクリと頷く。


「うふふっ。はい、どうぞ。」


そしスープが並々注がれたコップを渡された時、目の奥から熱い何かが溢れて来るのを感じた。


「……ひっく……ひっく……」


「ど、どうして泣いているんだい!?」


「あら!?もしかして何か苦手なモノが入っていたかしら!?どうしましょう泣かせてしまうなんて……ごめんなさい私の所為で……ごめんなさい……ぐすん。」


「あぁ……アイネまで泣いて……僕も……僕も悲しくなって来たよ……」


私の涙を見ると2人も揃って涙を流し始める。

こんな人達見た事も聞いた事も無い、私の事を自分の事の様に思ってくれる。


「……んっ……ふふっ。」


途端に、3人で泣いているこの場面が可笑しく思えてきて、笑いが込み上げてくる。


「……あ、ようやく笑ったね、やっぱり子供の笑顔は最高だなぁ。」


「えぇ……そうですね……美しい翡翠の髪も、可憐な容姿も良いですけど……貴方は笑顔が1番素敵です。」


「……ありが……とう。」


何……これ……。

胸の奥深くが温かな光に包まれた様なそんな感覚?

コレ……知らない……私はコレを知らない……。


「それは私達の愛だよ。」


「愛……?」


「うん愛、友達や恋人から、そして両親から貰わなかったかい?」


ドクンッと跳ね上がる心臓。


「両親なんて……親なんて居ないッ!!!」


「…………!!」


「奴隷なんだッ!!

ゴミの様に扱われて毎日毎日暴力の繰り返し!!私の事を子供なんて思ってないッ!!」


コップを投げ捨て、立ち上がる。

八つ当たりだと分かっていてもーー

理不尽だと知っていてもーー


「君ッ!!!」


扉を開くとザァーッという雨の音が、私を包み込む。まだ雨が降り止まない、けれど行く。


「私は戻らないと……戻らないと怒られてしまうので。」


勿論、地獄へ戻る足取りは重たい。

眠れない夜の連続に、怯える毎日に戻りたくは無い。けれどあそこしか私の居場所は無い。

ほんの少しの家出だったけど……この人達に出会えて良かった。

一歩踏み出したその時。


「待って!!」


女性に腕を掴まれ、その身を引き寄せるられる。そしてそのまま抱きしめられたーー


「私の居場所はあそこしか無い……最低限死なない考慮はしてくれているし……」


「でも……貴方は苦しいでしょう?」


「…………。」


「教えて、本当の気持ちを。」


「苦しいです……苦しいに決まってるッ!!」


涙が止めどなく流れ、土砂降りの雨がそれを洗い流す。


「なら気がすむまでココに居れば良いですよ。」


「……!!!」


「……僕も賛成だ。

狭苦しくて家だし少しうるさいけれど……何時も泣いているアイネと、お節介な僕と。きっと君の居場所になってあげられる。」


「見つかったら……貴方達も私も無事では済まない……」


「そんな事は心配しなくて結構。こう見えて僕は未来の神格者セドナ・フルムーンの親なんだよ?」


私は……私はココに居て良いの?

あそこに帰らなくても良い……の?

身体中の筋肉が弛緩し、その場に崩れ落ちる。

それは落胆の先にある動作で無く、心身共に解放された喜びに基づくものだった。こんなボロボロで生きる意味を失った私に、救いの手を差し伸べてくれた2人。


「……うぅ……ひっく……ひっく……」


2人に甘えて、地獄から抜け出せるのだろうか?違う……少しでも私は愛とやらを知りたい、私は時が許すまでこの人達と過ごしてみたい。


「ほら、こんなに濡れちゃって……アイネ、風呂でも用意してあげようか。」


「そうですね、今日はワルカナの花でも入れましょうか。」


今日、こんなにも雨が降ったのには理由があるのかも知れない。


※※※


それから数年が経ち、私はすっかりフルムーン家の娘となっていた。2人の愛情に甘えていると、時が過ぎるのはとても早い。あと1日だけ。それを繰り返し、今に至る。


「それじゃあ、すぐ戻って来ます!お父さん、お母さん!」


「何時もごめんなさいね。私が町に出れたら良いのだけれど……貴方が町に出かける事はとても危険なのに。」


「そんな事いわないで私は大丈夫ですから。自分の身体をもっと大事にして下さい。」


「そうだぞアイネ。あれから時は過ぎているし、昔の姿からでは今のシャルナを同一人物とは思わないさ。やっぱり僕の魔法で髪の色を目立つ青から変えたのが大きいのでは無いかなぁ?」


「私もシャルナもセドナと同じ黒髪が良いって言ったのに……どうして桃色になんてなるのかしら?」


「そ、それは耳が痛い話だ……うぅ済まない。」


「んふふっ!大丈夫ですよ!髪色も名前も、2人から貰った大事な大事なモノなんです!超が付くぐらい気に入ってます♪」


前の名前など忘れた。私はシャルナ・フルムーンとして生きていくとあの雨の日に決めたのだ。


「ではそろそろ時間ですので!」


「ん?なら僕もそろそろ仕事に出かけるよ。」


空気が澄み渡る晴天の午後にも関わらず、急いでいるのは、夕刻が迫っているからだ。

とはいっても町が1番賑わうのは夜、昼に買い物をする人など珍しい部類。これも日照時間が短い我が国ならではかもしれない。

などと考えながら、扉を開けて緩やかに照りつける日の元に足を運ぶ。すると後ろから肩を叩かれる。


「シャルナ、これを持って行きなさい。」


手渡されたのは銀色に光る指輪。


「雷系統の魔法が入っている。私の息子、セドナが特別強く魔力を込めてくれたモノなんだよ。私達の為に残していってくれたモノだけれど、もしもの時に使うと良いさ。」


「えぇ!?た、大切なモノなんじゃ……」


「良いんだ。誰かを守る為に残してくれた魔法だからね、その誰かがシャルナであって悪い事なんて無いんだよ。それにね……僕は少しだけ罪悪感を感じているんだ。どんな理由があっても君の親から娘を奪ってしまった。機会があるのであれば、1度話をしたい所さ。」


「私がココに居るのは自分の意思です。それに……もう私は2人の娘ですよ。」










セドナ「この間違い探し、10個も本当に有るの?9個までは見つけたんだけど残り1つが難しいって……まさか……10個ある事が間違いで、それが10個目!?」


ノア「だとしたら間違いが10個になって、10個ある事が間違いじゃ無くなるじゃない。」


セドナ「た、確かに……」


ノア「じっくり探せばあるわよ……ほら!この猫の尻尾!こっちより少し短いわ。」


セドナ「簡単な事を難しく考えてしまう良い例だ。生きるのももっと単純で良いのかもな。」


ノア「臭いわよ……そのセリフ。」

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