森へ
もしも1日が25時間なら、プラスの1時間をどうしますか?
そうです、寝ます。
ヒゲの男、ザンダ。
タトゥーの男、パンテノ。
ピアスの男、デメテー。
ついでに、行方不明事件はクエストを渡したのは自分の責任だと言い張るリスの獣人族、ギルド嬢のマイナ、神格軍副隊長並びに桃髪美少女のシャルナ、ツンデレノアと俺。
それぞれ自己紹介を終え、ギルド嬢が持って来た、いわくつきのクエストを受注した。
気付けば7人、パーティーにしては多い方だ。
「ひぃぃい!セナぁ!私無理かも!」
「僕もです!!うわぁ!」
「私もですぅぅぅ!!兄さぁーん!!」
んでもってその即席チームは、フォレストバットが生息する森の中を進んでいる。森自体がダンジョンとなっており、奥に奴らが好む泉があるとの事。
困難は多いと思っていたがーー
「やっぱ女に協力すんのはダメだったんじゃね?たかだかクモで怖がってやがる。」
俺は男なんだが……って言うか!男でもこのサイズは大き過ぎだろ!!ルン○かよ!自動で掃除してくれてもこんなのは要らないけど!
「《リング》《クラック》」
「うわぁ!!」
「きゃっ!?」
バンッと衝撃波の音。
マイナの指輪から仄かに煙が立ち込める。どうやら魔法を発動したらしい。
やるなら言って欲しい所だ、心臓が飛び出るかと思ったよ。
「私は大丈夫ですよ、出身の森にはこんな奴ばっかでしたし!しかもこのクモ、触っても大丈夫な部類ですよ、ほら……可愛い!!」
「毒グモじゃねーのなコイツ。」
うげ……巨大クモを躊躇うことなく触ってる……。3人も同じ様に触ってみせるが、無理なもんは無理だ。
「もしかして……焼いたら食えるんじゃね?
《リング》フレイ……いって!!嚙みつきやがった!!」
「食われるのはどっちなんだか……。」
こんなやりとりを何回繰り返しただろう。けれどクモごときでワーキャー言っている内が花だった。
※※※
「……!!
おい、ザンダ!!」
「あぁ、分かってる。」
ザザッと揺れる草木ーー
風では無い事ぐらいはメンバー全員理解している。ヒゲのザンダ、タトゥーのパンテノは剣を抜き取り、構えに入る。ここはダンジョン内、いつ魔物が来ても可笑しくない。
「森林狼です!」
「グルルル……。」
マイナの声に反応し、喉を鳴らす魔物。茶色がかったボサボサの毛並みに、鋭く尖った牙と爪、今にも襲い掛かって来そうだ。
「……皆さん、南南西から群れが合流しようとしています。細かい数までは分かりませんが、ここは引きましょう。」
「バカ言え。こんな雑魚、俺達に任せろ。」
「森林狼は森の守護者です。強敵なのではっ!?」
「大丈夫、大丈夫。ザンダの言う通り、俺らだって冒険者だ。これぐらい狩れなくてどうするよ?」
セドナの姿であれば話は別だが、今の俺には群れの気配など感じない、勿論その魔力量もだ。シャルナの報告は正しいか分からないが、「引く」と判断した彼女を無視して交戦すべきか?
「グルルゥア!!」
「おらっ!」
飛びかかってくる魔物を斬り伏せ、満足気に剣を回すパンテノ。デメテーはめんどくせぇと呟きながらもモノイレロから指輪を取り出す、どうやら加勢するようだ。
ザザッーーザザザッッ!!
「グルルルル!!!」
シャルナの読み通り、狼の魔物は群れをなして俺達を囲む。木々の合間から光る目は獲物を狙うハンターのソレと同等に思えた。
「はっ!!」
3人は魔物を倒そうと思い思いに動き出す、ザンダとパンテノは剣、デメテーは魔法を。
風が強く吹いたその瞬間、狼達は一斉に飛びかかる。
「ふっ!!《剣技》《ジャイアントクラッシュ》」
「はぁ!《剣技》《ツインステップ!》」
「《リング》《ファイアアロー!》」
飛び交う剣技と炎の弓矢。ことごとく魔物を刈り取るが、倒しても倒しても湧いて出て来る奴らには足りない。更に、クモ達が息を合わせた様に飛び付いて来るので集中力も続き辛い。
「多過ぎだろっ!はぁっ!!」
「ちっ。このままだと指輪も魔力も持たねぇぞ。」
様子を見ていたノアと俺も加勢する事にする。
大体彼等の実力は理解し、レベルは見かけだという事は良く分かった。
……引くべきだったな。
「《メインリング》《フラマウインク》」
ノアが指輪を撫でると、宙にぼうっと炎が燃え上がる。そこから現れた黄金の剣を握り、マイナに飛びかかる狼を簡単に斬り伏せる。
「《メインリング》《シャトルーズ・ムーン》」
来い俺の愛剣ーー
飛びついて来る狼を交わしつつ、美しい刀身が一太刀を浴びせる。
1匹1匹の能力は低い。個体を丁寧に撃破していけば切り抜けれるか?
「グルルルルルァァ!!」
「…………おい……まじかよ……。」
……個体撃破?
そんな甘い考えが通用する森では無かった。
【群れ】なんてもんじゃ無い、この数は最早【軍】だ。
「《剣技》《雷鳴の理》」
バチチッ。
耳を劈くほどの音を立てて、地面切り裂いていく雷の束。上手く敵だけを狙い撃ち、焦げ臭い匂いが辺りに広がる。例に漏れず、仰向けのクモがボトボトと地面に落ちている様は中々強烈な絵だ。
「雷系統の剣技……。」
高レベルの剣技、雷鳴の理を放ったのはシャルナ、雷系統はかなり難しい属性であり、珍しい。まさか彼女も雷系統だったとは……これは驚いた。
「狼数匹と周辺のクモは撃破しましたが、圧倒的に手数が足りません。消耗戦では私達の方が不利、逃げますよ!」
シャルナの言葉に反論する者はもう居ない。
「《シンボルスキル》《白熊の濃霧》」
ザンダがシンボルスキルを発動させると、辺りに濃霧が発生する。
「敵の視覚と嗅覚を断つ霧だ!これなら狼共も簡単に追ってこれない!!数秒しか持たないから逃げるなら今だぞ!」
「こっちです!こっちの道へ進みましょう!」
濃霧の中でもマイナが手を挙げ、アピールする様子がバッチリ視界に映る。皆そこへ集まり、すかさず逃走を図る。
「グルァァ!!!」
「なっ!?」
……っ!?あぶねッ!!
左方から不意に鋭利な一撃が飛んで来た……鼻先を掠めたのは狼の爪か!!
「獣の勘ってヤツだ!!気を抜くなよ!!」
「……はっ……はっ……こ、この先に……川が有ります!!其処まで逃げ込めれば……奴らも諦める筈です!!」
「それは本当なの……っ……マイナ!」
「はい!!」
「…………ねぇアンタ!あの霧って聴覚は奪わないわよね!?」
「……はぁ……はぁ……あぁ!!」
「丁度良いわね……みんな!耳を塞いで!!」
ノアの警告に耳を傾けた俺達は、傾けた耳をそのまま両手で塞ぐ。
「《シンボルスキル》《炎虎の咆哮!!》」
ノアの咆哮が森に響き渡るーー
周辺で動き回っていた狼は勿論、上空の鳥や木に張り付いていたクモまでも動きを止められ、這い蹲る様に地面へ落ちる。シンボルスキルは基本的に強力なモノだが、ノアのは特別強力に思える。
「や、やりますねノア!」
「これぐらい当たり前よシャルナ!ほら!この隙に川へ急ぐわよ!!」
※※※
俺達が川へ着く頃には、森に夜の帳が下り始めていた。こうなると、仄かに薄暗い森を進むのは危険だ。それに狼から逃げ切った後では、進む気力などハナから無い。
「この川を拠点に、今日は此処で休みましょうか。」
「「…………。」」
皆、シャルナの言葉に返事をする元気すら無い。あのノアですら木に背を預けている。
「そ、そうだ!焚き火でもしましょうか!段々暗くなってきますし、夜は冷え込むと思われるので!」
「おい、ギルド嬢。薪を集める役目は誰がするんだよ。」
「では……言い出した私と御三方で行きましょう!女性に取りに行かせる様な無粋な真似はしないですよね?ほら!」
「ちっ。これだから女は。」
「火元は魔法で良いが、継続させるには薪が必須だ。文句言ってないで行くぞデメテー、コレも金の為だ。ついでに食いもんも探さなければ何ないしな。」
ブツブツ言いながらもマイナに付いて行く3人……厳密には俺も男だから薪を拾いに行けよってのは無しね。
「ノア、セナちゃん。待っている間に、私達は状況の整理とこれからの行動を立案しましょう。」
「はい。」
「そうね。何もしないのは……性に合わないわ。」
ノアはそう言いながら、岩に腰を下ろすシャルナの隣へ移動する。それと対面する様に俺も座り込む事にした。
「目的は行方不明者の捜索とその原因の追求です。このクエストの本来の目的であるフォレストバット討伐、この魔物は森の最奥地の泉に居るとの事でしたね。つまり今まで消えていった冒険者達も、泉を目指し移動している筈です。」
冒険者達が道中に消えたのであれば、ここへ来るまでに何かあっても可笑しく無かったんだな……。
もっと張り詰めた気持ちで居ないといけない、そう自分を戒める。
「道中に消えたのか泉で消えたのか……何にせよ私達は何の手掛かりも見つけられて無いわね。」
「そうなんです……。
森は広い、明らかに人数不足感が否めませんね。」
はぁ……っとため息を吐くシャルナ。
体操座りをしながら、切り揃えられた前髪を弄っている。
「副隊長なら部下っていうか仲間っていうか……その……軍のメンバーを連れて来る手があったのでは?」
「あぁ……それは無理ですね……。
私が此処に訪れたのは偶然で、こんな問題を知ったのはセナちゃん達が来る数時間前です。
仲間は愚か、魔法も最低数しか持ってなくて……。」
「ちょっと待って!?
シャルナはこの問題を解決する為にギルドに居た訳じゃ無いの?」
「……?
そうですけど……そもそも私はこの国の神格軍では無いですし。」
人が消える呪いのクエスト。被害者も多数、通常クエスト数が減る程冒険者が激減している。なのに何故神格軍は動いていない?其処までミネルヴァ軍は人手が居ないとは思えないし、この問題を軽視する程、軍の人間の目は腐ってないだろう。
だとしたら……神格軍はこの状況を知らなかった、そう考えるのが妥当だ。
では何故?
ギルドで行方不明者達を待つ人々は、軍や神格者に一報を入れていない?
「この国の神格軍じゃない?」
「はい。私はディアナ神格軍副隊長です。」
「……え?
ちょっ……ちょっと待って下さい!
ディアナ軍副隊長はヨネ爺……ヨネスコ・アンドレイの筈ですよね?」
「それは前の副隊長ですよ。
ヨネさんが最近引退されたので、私が後を引き継いだのです、それにしても良く知ってるねセナちゃん。」
俺が居ない間に副隊長が変わってる……師匠やアユモセ、シルバの野郎も知ってる筈だよな。
シャルナに頭を撫でられながら、1人妙な疎外感に包まれる。
教えてくれたって良いだろ……俺、神格者だよ!?
「副隊長が他国で何しているの?要人にでも会いに来たのかしら?」
良い質問だノア、俺も気になっていた。
「要人……私にとっては要人ですけどこの国の要人であるかは……いや、でも世界的に要人であるからこの国でも要人なのかな?セナちゃん?」
………え!?……俺に聞かれても分からないですけど?
「シャルナは人に会いに来たのね。
その要人がこの町に居るとは思えなかったけど……だって有名な人ならこの問題ぐらい片してくれている筈でしょう?」
「会いに来たというより探しに来たって感じなんです。ついこないだまで、ビギナックに滞在していたらしいから……順調にいけばここら辺に居ると思うんです。」
「どんな人なの?もし良ければ教えてくれないかしら。此処で出会わなくても、これから私達が出会うかもしれないでしょう。その時には、シャルナが探してたわよってその人に伝えるから。」
「本当ですか!!ありがとうございます!!
えとえと、その人は私の兄なんですが、血は繋がって無いんです。しかも私が養子に来た時には、既に家を出ておりまして……1度も会った事が無いんです。
……でもでも!
特徴は隊長に聞いてきたので大丈夫です!!」
シャルナはモノイレロから1枚の紙を取り出して見せる。
「この人です!
珍しい黒髪と優雅な立ち振る舞い、そしてまごう事なきイケメン。」
「「…………。」」
うわぁ…………酷い。
紙に描かれていたのは、目を疑う程下手な似顔絵だ。色が塗られているので辛うじて黒髪だという事は分かるが……前提として人間の形をしていない。
「も、もしかしてこれ……シャルナが描いたの?」
「はい!少しばかり兄の偉大さが足りない気がしますが、大体こんな感じの容姿ですね!」
うん……なんでこのクオリティで自身満々なのかなこの子……お兄ちゃんもきっと悲しいと思うよ、顎がこんなに長く描かれたら。
「ん?これは何です?」
顎長おじさんの隣に、これまた幼稚園児が描いたかの様な棒人間が居る。
その棒人間は中々良い色合いの服を着ている様だが、それがワンピースなのかTシャツなのか、軍服なのか水着なのか。
残念ながらシャルナの画力では把握出来ない。
「これは前ディアナ神格者のメリナさんです。この和服が特徴なんですけど……ご存知なかったみたいですね。」
正解は和服でした。でもなんで師匠がこのメルヘン絵画に?
「私の兄からしたらお師匠様なんです。折角なんで一緒に描いて置こうと……ひゃ!?急に立ち上がって……どうしたんですセナちゃん?」
「兄の……お師匠?」
ドクンドクンッと心臓の音が大きくなり、脳内で再生される。
「シャルナのお兄さんの名前って……」
「あれ?ノアに言ってませんでしたっけ?
【セドナ】です。セドナ・フルムーン。
勿論私は【シャルナ・フルムーン】ですから正真正銘の兄妹です!」
急に目の前が真っ暗になり、身体中の力が抜けていく……。
バッシャーン!!!
「ちょっと!?セナ!!」
「あーー!転んで川に落ちちゃいました!!急いで助けないと!」
冷んやりと冷たい水が肌を包み込むと頭も冴えて来るもんだ……けれど幾ら考えても分からないし思い出せない。ブクブクと浮き沈みする泡を掴んでみても真実なんて分からないしな。
……ははっ……はははは。
……俺、妹が居たみたい……。
セナ「ゴブリン、ゴブリン、スライム、ゴブリン。まぁ入り口はこんな魔物ばかりですかね。」
シャルナ「そうですね。力は温存しておきましょうか。」
セナ《スライムって……ゼリー感覚で食べられないかな。》
ノア「セナ、今良からぬ顔をしてたわよ。」
セナ「え!?別にスライムを食そうとしてないですよ!?」
ノア「スライムって身体に毒なのよ。食べたら恐ろしい事になるってお爺様が言ってたわ。」
セナ「恐ろしい事?」
ザンダ「男女が反転するんだとよ。」
セナ「食べましょう。今すぐ。」
シャルナ「確か……性格が、ですよね?」
ザンダ「そうだ。いきなり女口調になったアイツを俺らは忘れない。なぁお前ら?」
デメテー「おぇぇぇぇ」
ノア「ちょっ!?だ、大丈夫?」
デメテー「あの夜を……思い出した…んだ」
セナ「やっぱ、止めときます。」




