銀と金と桃
早朝は涼しくなってきましたね。すり抜けていく風が心地良くて、秋はとても好きです。
「可愛い……。」
じーっと見つめるシャルナの瞳、吸い込まれてしまいそうだ。……これはかなり照れるなぁ。
「な、何ですか?顔に何かついて……うわぁ!」
目線を逸らしその瞳から逃げようとするが、グイッと体を引き寄せられる。
「あぁん❤︎可愛いです!」
「!!?」
気付けばシャルナの腕の中、俺はフニフニと柔らかいモノに顔を埋める形で抱き締められていた。
「ち、ちょっ!!?貴方いきなり失礼でしょ!」
「ふへぇー!!」
次はシャルナから奪い取る様に、ノアに抱き寄せられる。俺は必然的にもっと柔らかく大きいモノに顔を埋める…………
「ちょっと!!独り占めはずるいです!」
シャルナと、ノアに挟まれた僕。
そうそう!異世界転生ってこんな感じだよね!
「シャルナだっけ?貴方はセナと会ったの今日が初めてでしょう!!いきなり抱きつくなんて無礼極まりないわ!」
グイッと、より強くノアの方へと引き寄せられる。そこには既に俺の意思など微塵も無い。
「いえいえ、初めてセナちゃんと出会えたからこそ、抱き締める事で嬉しさを表現しているのです。」
俺はグイッとシャルナに引き寄せられる………。
もう完全にオモチャだ。
「…………2人とも……ねぇ?2人とも……?」
「私のモノよ!」
「少しだけ良いじゃ在りませんか!ケチ!」
「…………息が……ねぇ?2人とも……ふがっ」
「ケチって何よ……んあっ!!
ちょっとセナ、あんまり動かないでよ、今アンタを取り合ってるんだから!」
「……ひゃん!!そ、そうですよ。
あまり動かれるとその……胸が擦れて……」
「…………。」
ダメだ……意識が遠く…………
「あれ?セナ?」
「セナちゃん!?」
2人の声を最後に、目の前が真っ暗になった。
※ ※ ※
「散々な目にあいました……。」
意識回復後、シャルナとノアは俺に謝罪した。
別段2人の仲が悪い訳では無く、悪ノリがエスカレートしただけの様だった。悪ノリで窒息死寸前ってのも恐ろしい話だよな。
「ノアったら負けず嫌いなんですもん。」
「シャルナには言われたくないわ。」
むしろ俺が寝ている間に仲良くなっていた。
「し、シャルナさまぁ!
お求めの資料全て持ってきましたぁ!」
突然現れたギルド嬢、テーブルの上にドンッと置かれたのは膨大な量の紙だ。その1枚1枚に、冒険者の個人情報が記載されている。
「有難うございます?」
これが彼女が、数時間かけて待っていた物?
個人情報だ。余程の事が無ければ神格軍副隊長であろうと開示しない。
ともなれば……これはなかなか大きな事件か。
「セナちゃん、ノア、有意義な時間をありがとうございます。見ての通り私はこれから仕事ですのでーー」
「手伝うわ!」
突然発せられる強気な言葉。
そろそろ俺に許可を得ず物事を決めるのやめませんか。
「コレは軍の仕事であって、大きな案件です。
一介の冒険者にはどうにもならない事ですよ。」
「この冒険者の資料、もしかして行方不明者ですか?」
「あ!コラっ!勝手に見たらダメですよ!」
ここら一帯の冒険者行方不明事件。もしそうなら辻褄が合うだろう、ギルド側がクエストを張り出したとて、それを行う者が居なければ意味が無い。
これは推測だがーーこのギルドに居る大半の人間が、行方不明になった冒険者を待つ者だろう。
「まぁ……そうですけど……」
「こっ、こんなにも!?」
「こんなにもです。
だから2人には関わらないで良い話です。危険な吊り橋を渡るのは私だけで良いでしょう?
それに、貴方達にメリットが無い。」
「一応、この行方不明の方々を見つけるクエストは多々出ており、報酬も出ますが……」
「「ほ、報酬!!?」」
空気の読めないギルド嬢が、俺達へのメリットを開示した所でゲームスタート。こうなったらノアは絶対に手伝う。
「なら、お金の無い私達にもメリットはあるわねシャルナ。」
「う……でも!貴方達が私の力になるとは限らないですよね!」
ノアは、いつの間にか冷め切っていた紅茶のカップを持ち、もう一方の手を添える。すると生き返った様に湯気が立ち始める。
炎系魔法が得意な人間で、少し手練れであれば指輪無しで出来る芸当だ。因みに俺の雷系はパチッと目眩し……何に使うの?
「な、何ですか……」
「ね?」
何が「ね?」なのか解説が欲しいのは、俺も彼女も同じだろう。唯……ノアは今ので力を示したと思っているらしい。
「ノアはプライドが高いので、断る方が力を使いますよ。」
囁き戦術は如何でしょうか?
「えぇ……」
「シャルナ!」
「はぁ……分かりました、これも何かの縁です。」
「やった!」
きっと紅茶を一瞬で温めたというビックリマジックで折れたのでは無い。ノアのまっすぐな瞳の前では誰でもそうだ、そうやって俺の旅について来たからな奴は。
「では、この冒険者達の共通点でも探しましょうか。」
シャルナはそう言いつつ資料に目を通す。
俺とノアも同じ様に目を通すが何せこの量だ、3人でも時間がかかる。
「行方不明者は前々から、ここ最近になって密に増えたそうです。年齢層、性別などはバラバラ、共通点は冒険者という事だけですね。」
「冒険者ですか……彼らが最後に受けたクエストまで分かりますか?」
俺がそう言うと、シャルナはすかさず反応を示す。
「良いところに目をつけますね。
すいません、そういった記録は?」
急にシャルナから話を振られたギルド嬢は、リスの尻尾をビクッっと跳ね上げる。獣人族はビックリしている事が分かりやすくて可愛い。
「すいません……そこまでは……」
資料に書かれているのは名前と大体のレベル、あとは出身ぐらいだ。
勿論、みんな同じレベル!?
とか、全員名前一緒かよ!!
とか、同じ故郷の人間だと!?
なーんて共通点は無い。
「ねぇーお嬢様方?
俺達、それについて知ってる事があるんだけど、力になれるかも知れねぇよ?」
「……?」
突然現れたのは若い男性3人組だ。
それぞれタトゥーやらピアスやらヒゲやらで、いかにもチンピラです、と言った格好。信用出来るか出来ないかで言えば、出来ない部類に入る事この上無し。
「お、お嬢様じゃないわよ!!」
ノア……それは彼らが過剰に持ち上げた言い方をしただけで本気にするなよ……。
「おいザンダ。この呼び方、気に入らなかったみたいだぞ?」
「あれー可笑しいなぁ、大体の女の子が喜ぶんだけど。」
「お話中申し訳無いですが、貴方達は?」
俺がそう問うと、指にはめた指輪を見せてくる。モノイレロとメインリング、冒険者だな。
「冒険者ですか……盗み聞きされていたのは癪ですけどまぁこの際良いです。知っている情報とは何ですか?教えて頂きたいのですが。」
「そうあせんなピンク髮ちゃん、俺らがちゃんと順を追って説明するさ。」
見た目通りダンディーな声のヒゲ、他の2人よりまともそうだ。
「事の始まりは【フォレストバットの討伐】ってクエストだ。数年前からずっと張り出されているいわくつきのクエスト。
行方不明になった冒険者は全員それを受けている。」
「フォレストバット……森を好むコウモリの魔物ですね。そう強くは無いはずですが。」
「その通り、けど冒険者達は消えた。」
そのクエストの難易度が高く、冒険者達がフォレストバットにやられた訳では無いだろう。
魔格者の影ーー
そう考えるのが妥当だ。
「そんな危険なクエスト、何故挑戦する人が後を絶たないのでしょう?」
「決まってんだろ。金だよ。唯、最近は森に行く奴なんざ、変わり者だけさ。今日だっておたくらが初。」
俺の疑問に答えたのはピアス君だ。
「今現在、クエストは外してあります。
流石に危険と判断しましたので……後ほど神格者様に文を送ろうと考えていたのですが……」
そう言ってギルド嬢はため息を吐く。
「んでさ、君達は行方不明事件を解決しようとしてるんだろ?って事はそのクエストを受ける、それに俺達も連れて行ってくれねぇか?」
「目的は?」
ノアの鋭い眼光と直球の問い。
「怖いねぇお嬢ちゃん。
俺らも君達と同じさ、消えた冒険者を見つけたい。それともこんななりじゃ信じられねぇか?」
「…………。」
「それと報酬の山分けだな。」
あ、目的はそっちね。
シャルナ「私のタイプはどんな男性でしょう!」
ノア「そんなの分かる訳無いじゃない……出会ったばかりなのに!」
シャルナ「適当にどうぞ、案外当たるのでは?」
ノア「そうね。ものは試しに……んーと。黒髪で、顔は……まぁカッコ良くて、普段は頼りないんだけどいざって時に頼りになって……影から助けてくれたりとか」
シャルナ「何ですかその男性、どストライクです!」




