金欠スターター
目を通して頂き、とても嬉しく思っています。
「はい!お疲れ様でした!こちら報酬になりますね!」
袋に包まれた雀の涙程度のゴールド。
「こ、これだけ……。」
「セドナ……私達の旅、ここで終わりの様ね……」
アルカナタウンの一件から5日、今の現在地はアルカナ国領のフォレンフォート。
相変わらず気温が高いが、俺達の居るギルド内はとても涼しい。微弱な氷魔法をクーラーの様に使う事で、建物内は冷気に満ちている。
「はぁ……。」
「お腹減った……もう俺は神格者だよ?って言って無理矢理食べ物を……」
「馬鹿ね……神格者ってバレたら周りの対応にエネルギー使うわよ……」
最高の環境で、最高にテンションの低い俺とノア。理由は簡単、圧倒的に金が無い!!
馬車代も払えないし、今日の食い扶持も見つから無い。間も無くしてギルドに駆け込み、クエストをクリアしたのだが……肝心の報酬はこれっぽっち。
「ノア……水着になって握手会でも開いてくれ、1回2000ゴールドだ。ぼったくりじゃないぞ。」
「はぁ!?嫌に決まってるでしょ!!私がやらなくてもセナがやれば良いじゃない!!」
「このままじゃ、ノアは晩飯も食えないぞ!俺は秘策があるから良いけど!!」
「……その秘策って何よ。」
「ドナになって優しそうな冒険者に甘える。んで猫缶でも貰って腹を満たす。」
「…………。」
真顔で俺を見つめるノア。
あぁ、俺の素晴らしい考えに感動しているのか……………うん、違う。明らかに呆れている。因みにドナって言うのは猫状態の俺の名で、セドナ、セナ、ドナと三段活用の様に、名が変わる。分かりやすいだろう?分かりにくいか。けれど名前で区切りを付け無ければ、猫なんてやってられない。
「そもそもカッコつけてアルカナタウンを出てきたのが悪いのよ!カノン達に少しばかり援助を貰っていれば楽だったのに!」
「かっ……カッコなんてつけてねーよ!
皆復興に忙しいのに、「あのぁ〜少しお金くれません?旅の資金にするんですぅ。」なんて言えるか馬鹿!」
「なんか馬鹿って聞こえたけど気のせいかしら?」
ノアは俺にジト目を向け頬杖をつく。プライドの高い金髪ツインテールは歯向かうと面倒だって決まってる、これは世界のルールだよ。
「言ってません。」
「あら、よかったわ♪」
彼女は頬杖を止め、ギルド内常設の椅子に腰掛ける。つられる様に俺も隣へと座る。
「やっぱりもう1度クエストを受けてーー」
「……お食事でしょうか?ご注文はお決まりですか?」
不意にギルド嬢の営業スマイルが、俺達の席を襲う。
あ、まずいーー
「ね、ねぇ?ギルドって基本的に飲食する場所じゃないわよね?」
ノアがこそこそと耳元で呟く。
「そ、その筈だが……この街のギルドは、レストランと併設されているらしい。良く見たら周りの冒険者、何かしら食べてるぞ。」
「あの〜ご注文は?」
俺とノアはゴクリと息を飲み、2人でこう言い放つ。
「「水で!!」」
「はい!すぐにお持ち致しますね!…………え!?水!?」
「「以上で。」」
俺達の財布の紐は緩まない。
ギルド嬢は一瞬だけ驚いた顔をし、そのまま奥へと歩いて行った。
「…………。」
うぅ、周りの目が痛い……。
ダメ?ギルドで座って無料の水頼むのってダメなの?こっちは金が無いんだ、文句があるならかかってこいよ!おら!
「…………。」
「お腹……空いたな。」
「止めてよ……もっとお腹空くじゃない……」
「はぁ………これであの人達になんか出してあげて下さい。」
「かしまりました♪」
数分後ーー
トントンっと肩を叩かれそちらを向くと、先程とは別のギルド嬢がホットドッグの様な物を俺達の前に置く。
「え……俺達頼んで無いんだけど……これって強制的に注文が来て無理やり金取られるシステム?世知辛く無い?」
「な訳無いでしょバカセドナ。あのー……私達、料理頼んで無いんですけど……」
「お会計はあちらのお客様が既に済ませております。」
ギルド嬢はフリフリと尻尾を振りながら答える。あの尻尾はリスか?うん、多分リス。
彼女はリスの獣人の様だ。
「「え!?」」
ギルド嬢が示すは俺達の座るテーブルの真横。
女性が1人で優雅に紅茶を飲む席だ。女性と表現すると、それ相応の歳を想像してしまうなら変えよう。それはノアと同い年程度の見た目、フードを深く被りよく見えないが、少しばかり覗くピンク髮と淡麗な容姿は明らかに若い娘だった。
「まさかこの世界でも「あちらのお客様から」があるとは!!!うん。誰か分からないけど有難く頂こーー」
「待った。それは余りにも不用心だわ、毒でも入ってたらどうするのよ、仮にもアンタは有名人なんだからちょっとは考えなさいよね!」
「う……確かに……。」
「全くもう。」
「……ノアのそれってさ。怒ってる様に見せかけて心配してたんだな、最近やっと分かってきたよ。」
「は、はぁ!?
し、心配なんてしてないわよ!バカ!」
ノアは顔を真っ赤にしてペチペチ叩いてくる。
「折角恵んであげたのにそれは酷くないですか?」
あ、喋った……
「そ、そうですよねぇ〜」
俺もそちら側につくことによって、あたかも最初から貴方の味方でした感を出す。そして食べ物にありつける状況に身を置く。
「アンタも疑ってたじゃない。」
「おい!それを言うなよ!」
「……食べても食べなくても、私は別にどちらでも良いですよ。他人の好意を疑うのは良いことですが、今回は愚策、なんなら私が食べましょうか?」
彼女はスプーンで手元の紅茶をクルクルと混ぜ、ふわりと湯気が宙に消えていく様を眺める。
「好意は嬉しいが、何で助けてくれるんだ?」
「職業柄、困ってる人は助けたいのですよ、それだけです。」
ノアと2人で顔を見合わせる。
グゥゥ〜〜。
何故こういう時に限ってタイミング良く腹が鳴るのだろうか?
「…………ノア。」
「……わかったわよ……背に腹はかえられないもの。」
プライドの高いノアも追い込まれると常人並みになる。つまり彼女の好意を、快く頂く覚悟が出来たのだ。因みに俺は食に関してプライドなどない、貰えるものは貰う。そんな奴なんです。
「……その……ありがたく頂くわ。」
「俺も頂くよ、ありがとう。」
※※※
腹一杯、とまではいかないが、彼女のお陰で空腹は満たせた。 もうちょっと食べたいんだけどって言ったら怒るかな?
「貴方達は無一文なのに、どうしてギルドなんかに居るのです?」
「それは違うよ命の恩人さん。
お金が無いからギルドに居るんだろ?金を稼ぐためにさ。」
そう、俺とノアは資金回収にココに来たのだ。
「そう言うことよ。何か良いクエストなんか有れば良いんだけれど……このギルド、あんまり良いクエストが貼られてないわね。」
「いいえ、むしろクエストは増えてます。
その見た目だから、ギルド嬢に不審がられたのでは?」
フード被って顔も見えない2人、それに名前とスキルを秘匿にしたままだったからな、重要なクエストなんか渡さないか。
「君だってフード被って充分怪しいけどな。」
「失礼ですね。」
「何時間もここで待たされているからって、機嫌が悪くなるなよ。」
彼女は紅茶をかき回す手を止める。
「何故それを?」
「君の紅茶、湯気が出てた。
外から来たばかりの人なら、物好きで無い限り熱い飲み物は頼まないだろ。それに他の冒険者と距離を置いた場所に居るのは、話しかけられて自分がここに居る理由を聞かれたく無いからだ。」
「付け足すならーー
貴方は重要な事件でも追っているのかしら。
それがこのギルド内に冒険者が少ない事、ギルド嬢が遠出のクエストを貼りださない事に関係あるの?副隊長さん。」
「なっーー!」
彼女が立ち上がった時、神格軍副隊長である事を示すペンダントが揺れる、ノアもなかなか鋭いなぁ。
「そのペンダントもだけど、常に剣を腰に携えているからすぐ分かったわ。」
周りに指輪をはめてる輩が極端に少ない。それだけで冒険者の可能性を捨てるのはナンセンスだが……こんなにも少ないクエスト版を見て、文句の1つも垂れないのは冒険者として可笑しいだろう。
「貴方達……何者ですか?」
「名乗るなら自分から、教わらなかった?」
「…………。」
副隊長は深くかぶったフードを脱いで見せるーー
……うわぁ、可愛い。
などと俺の心の声を周りの人間が口に出す。
しかし彼女の容姿を一目見て、神格軍副隊長と思う人は、頭が沸いてるか相当キレ者だろう。
薄いピンク髮に、その幼いながらも美麗な顔立ちは、到底軍の人間とは思えない。
「私はシャルナと申します。貴方がおっしゃった通り軍の副隊長格です、これで良いですか?」
こうなった以上、俺達もフードを脱がなければならない。まぁ、神格軍副隊長相手なら良いだろう。
「私はノアよ、ただの冒険者。」
シャルナに負けず劣らず、ノアがフードを脱いだ時も周りから感嘆の声が漏れる。
「んでこっちはーーって!!」
ノアが俺の方を見るなり、驚いたように目を大きく見開く。
ーーへ?
ああぁぁ!?いまぁ!?
「あ!!ごめんなさい!」
ガッシャーンッッ!!
ノアはテーブル上のコップを手で叩き、思いっきり床に落とす。ギルド内の視線はそちらに釘付け。その間に俺は変化を無事終え、セドナからセナへと姿を変える。
上半身は大丈夫、フード付きパーカーはちゃんと体格にそって大きさを変えてくれている。
問題の下半身だが、ダボダボのズボンは即座に脱ぎ捨て、モノイレロから適当にスカートを引っ張って履く。忍法早着替えの術、デメリットは寿命が縮む事。
「あの!お怪我は?」
ギルド嬢が慣れない手つきで、回復の指輪をノアに手渡す。
「大丈夫よ。それより片付けをお願いできるかしら。」
ノアは渡された回復の指輪を、ありがとうとギルド嬢に返す。
「んで、こっちは……セナ。私と同じ冒険者よ。」
俺はフードを脱いで目をパチクリさせる。
「よ、よろしくです。」
「「「うわぁ!!」」
この日1番の歓声はーー
シャルナでも無く、ノアでも無く俺だった。
セドナ「水……水でも腹は満たせる……」
ノア「最底辺ね私達。」
セドナ「酷い言い方するなよ……ゴクゴク。」
ノア「ちょっとセドナ……それ私の水なんだけど……」
セドナ「あ!スマン!代わりに俺の方飲んでくれ、ほら一口しか飲んで無いから量的には余り減ってないし。」
ノア 《か、関節キス……!?》
セドナ「そんなに嫌がらなくても良いだろ?俺も恥ずかしいんだからさ、そう何回も頼めないからな……すいません!水下さい!え?料理?良いです、結構です!
……ほら新しいの頼んだから。」
ノア「良い。」
セドナ「え?」
ノア「私はこれで良いって言ってんの!!」




