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猫が美少女で実は俺?  作者: もこ
閑話1
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閑話〜小さな冒険者2〜



廃船きょてん近くの堤防沿い。

結局夕刻まで寝てしまった俺達は、早歩きで帰路についているのであった。」


「おい……寝てたのはドナだけだろ。俺は寝てない。」



「その道中……私の目が1匹の猫が横たわっている姿を捉える。

寝ているのだろうか?こんな時間まで寝るとは中々肝が据わっている猫だ。」


「もう!その話し方やめろ!

……それにこの猫、こんな所で寝てたら危ねぇ。俺らの廃船に連れて帰るぞ。」


迷子の俺に声をかけたり、焼き魚を譲ったり……本当にお人好しだな。いや、お猫好しか。


「おい……起きろ。こんな所で寝てると……!!!」


「どうしたポンコツ……ッ!?」


……寝ている。

それ自体認識が違った。

身体中切り傷だらけの猫は、立ち上がる力も無く横たわっている。


「ネブソク!!

だ、誰がこんな事を!!」


「は……は……廃……」


「落ち着け。無理せず寝ているんだ。

《リング》《HPポーション》」


俺の放った魔法が傷みるみる癒していく。

完全とは言えないが……うん、ある程度回復させた、会話する事も可能だろう。


「ドナ!!

それって……魔法じゃ……いや、話は後だ、今は状況把握が先、一体何があったんだ!?」


「……はっ……廃船が!!

廃船が冒険者達に襲われてます!!

僕自身、リーダーに知らせようとする道中に傷を負ってしまいまして……。」


「冒険者!?」


「はい!今も尚、トンソク、サイソクを筆頭に防衛戦を繰り広げていると思います。

しかし相手は人間、崩されるのも時間の問題です!」


「くそっ急いで戻るぞドナ!

ネブソクは他地区のリーダーにこの事を知らせろ!」


潮風を掻き分け、四肢で地面を蹴り飛ばす。

急げ、このままでは彼らが危ない。

夕日に染まり、キラキラと輝く海を眺める暇など勿論無い。


「……はぁ……はぁ……。

何で……何で俺達猫が狙われる!?」


「思い当たる節は無いのか?」


「……ない。」


俺が絡んでからを思い起こせば魚屋の主人が濃厚か?

いや、所詮魚をくすねられてる程度。

ならばわざわざ冒険者を雇う程では無いだろう、雇う金と猫がこれから出す損失を天秤にかければ冒険者を雇う金の方が巨額だ。

売り手からすればその金でもう一隻船でも出した方が当然儲かる。

……では何だ?

俺達が消えて得をする存在を見出せ。


「…………。」


数時間前の言葉がフラッシュバックするーー


【「いつもいつも私の所に遊びに来てくれる猫達、この子達がいる限り、私はこの家を売ったりしない。」


「なるほどな、猫か………。」】


「……成る程そういう事か!」


「何か分かったのかドナ!」


「きっとあのエセ解呪師だ。

奴はどうしてもあの家が欲しい。

家主が猫を理由に売らないなら、猫を消せば良いと考えたんだ。」


「成る程!!

あの野郎……わざわざ冒険者ギルドにクエストとして俺達の討伐を出したのか!」


「そうみたいだな。

生憎、金なら幾らでもある筈だ。」


「よし、敵は捉えた。

廃船に着いたら直ぐさま解呪師を狙うぞドナ。」


「ちょっと待てポンコツ、大して力の無い2匹の猫が廃船に戻って何の意味がある?

少なくとも冒険者は5人以上、いや、もっとかもしれない。

魔物と戦っている訳でも無い魚屋に、いとも簡単に負けてしまう俺達が、冒険者の攻撃を潜り抜けて解呪師を倒せると思うか?」


ポンコツは歩みを止め肩を震わす。

毛並みと尻尾は逆立ち、口元からは牙を覗かせる。


「だったら廃船に戻らずここで仲間が朽ちるのを待つってのか!!」


ポンコツを追っていた俺も、四肢を止める。

僅かな沈黙が2匹の間を通り抜け、俺は口を開く。


「信じられないと思うがーー

俺は……人間だ。」


「お前急に何を言ってーー」


「一時的にこの姿になっているだけで、まごう事なき人間だ。

魔法を使える事が証拠だろう?」


先の横たわっていた猫の傷。

それを一瞬で治した光景を、ポンコツは思い浮かべているのだろう。


「そんな事いきなり言われてもな!

こっちはーー」


「この際、信じなくても良い、ただ俺は人間に戻れる術がある。そして廃船の仲間を、救う作戦もある。

……協力してくれポンコツ、お前の力も必要だ。」


「…………。」


真剣な顔つきに瞳の奥に覗かせる闘志。

ポンコツなら信じてくれると、協力してくれると俺は信じている。


「人間同士の会話で、猫の手を借りたいなんて表現があるらしいな。

……でもダメだ、プニプニの肉球があるだけこの、このちっぽけな前足じゃ、アイツら全員を救えない。」


コクリと頷くポンコツを見、俺はモノイレロから魔力玉を取り出す。

渋ってる場合じゃ無い。ここで使わないと、きっと後悔する。


「その大きな人間の手を借りたい。

頼むドナ、俺達を助けてくれ。」


「任せろ。」


※※※


ガンガンッ!!


「ひッ!!」


「怯えなくても大丈夫だ。

奴らが石を投げてるだけ、この船に乗り込めない理由があるみたいだな。」


「でも〜それも時間の問題みたいだお〜。」


「大丈夫、大丈夫だ。」


……なにが5人だドナ、20人弱は居るぞアレ!

ふぅ……落ち着け俺。

リーダーがドッシリ構えなくては、ここの皆が不安になるだけだ。

船内を盛り上げなければ、突撃の時に動けない。


「ポンコツ君……この船は捨てて逃げた方が良いよぅ。逃げよう!早く!早く逃げよう!」


「待て、サイソク。先に話した作戦でいく。

それがドナとの約束だ。」


この船のスクリュープロペラは腐っている。

いざとなって船ごと逃げるなんて出来ないし、海に飛び込んだとて泳げない猫も多い。

だからお前の作戦に俺らの命を賭けるしか無い。


「合図を……合図を待つ。」


※※※


フードを深く被り、廃船前でたむろする人混みに混ざり込む。


「あの廃船に猫が集まっているらしいが、なんせ持ち主が神格軍の男らしいぞ。

勝手に荒らして捕まっても馬鹿らしい。」


「別に少し邪魔するだけだろ?

誰かー!猫を数匹追い出してこい!」


「お、おい。やめろって。

ここで待っていればいずれ出てくるさ。」


ここに集まった冒険者は全員、例に漏れる事なく楽して金を稼ごうとしている者だ。

【町に蔓延る野良猫の除去】

魔物でも無く、対してリスクの無い動物を狩るだけのクエスト。

この報酬額は破格だろう。

ステータスを呼び起こし、スコープ越しに冒険者を覗き込む。

レベルは20〜50程度、敵じゃ無い。


「何してる?早く行け!

何の為にお前らを雇ったと思ってるんだ。」


来たかエセ解呪師……俺の睨みは間違って無かった。


「そうは言ってもな旦那。

一見廃船に見えるこの船も、持ち主がいるみたいなんだわ。運の悪い事にそいつは軍の犬だぜ?」


「構わん!責任は俺が取るから早く行け!」


「へいへい。行くぞお前らー!」


「「うぃーす!!」」


「ヘヘッ、こんな楽して儲けられるとは旦那も気前が良いぜ!よっぽど猫に恨みでもあんのか……グハッ!!?」


先ずは1人。


「……!!

おいおい。何の真似だ兄ちゃん、参加者が多いから報酬は山分けって話だろう?

勝手な事してると……グアァッ!!」


2人目の溝内へ殴り入れ、意識を飛ばす。


「ノツベルトとクラッシュがやられた!!?」


廃船を背に、驚き慌てふためく冒険者と対面する。各々がメインリングで武器を取り出し、その手で固く握りしめる。


「お前……何者だ?」


「俺のシンボルって猫なんだわ、悪いけど今回は見逃してくんない?」


「馬鹿でしょアンタ!!

私達冒険者がこんな良クエストを降りる訳無いわ!!退きなさい!!

退かないってんなら……」


彼女の剣先に光が帯び初め、それは次第に波を打つ。それと共に歩を進めているのは、俺に剣技を放つ気だろう。


「《剣技》《ライトネス・スパーク》」


俺に雷系統の技を使うのはナンセンスだ。

その技の強みも知っているし、弱点も熟知している。

ライトネス・スパークは、魔力を剣先に集め、対象を切り裂く剣技だ。

つまり、剣先以外は雷が付与されていない。

振り下ろされた剣を軽く躱し、地面と触れるその瞬間、剣の腹を足で踏み付ける。


「えっ!?」


「3人目。」


手刀で首の後ろを叩き脳震盪を誘う。

くらりと揺れ崩れ落ちる彼女の身体を支える事もせず、近寄ってきた4人目の顎に1打、5人目は脚を払い海へ投げ飛ばす。


「ーーッ!?」


騒ついたこの場は一瞬にして冷め渡り、波音だけが場を支配する。


「で、でたらめだ……。」


「勝てる相手じゃねぇ……。」


「1人相手に何やってんだ!!

早く蹴散らして廃船の猫を狩れよ!!

報酬は倍出す!!」


エセ解呪師の言葉に内部分裂は加速する。

剣を再度持ち直し、意地でも廃船へ向かおうという冒険者も居れば、俺には敵わないと悟りこの場を後にする者も居る。

好機は今だ。


「《メインリング》《シャトルーズ・ムーン》」


「奴を倒せ!!

人数はこっちが有利だ!!」


「行けッ!行けッ!」


「《剣技》《ライトネス・スパーク》」


剣先に集まる魔力は次第に雷となって牙を剥く。

……左5、右7か。

何人もの冒険者が突撃してくるが、最早この目には止まって見える。


「……消えた!!?」


体勢は低く鋭く。

身体を捻りながら敵の剣を悉く斬り伏せる。

【疾風迅雷】

速さを極める者が得る強者のスキルだ。

雷を帯びた風が吹いた後ーー

自慢の剣を砕かれ、戦意を失った冒険者達が膝から崩れ落ちていた。


「これ以上戦う意味も無いだろ?廃船は諦めて去れ。」


冒険者というカードを失った解呪師。

切れるカードがあるなら切ってみろ。


「おい、何か勘違いして無いかお前?」


おもむろにモノイレロをなぞり、取り出したのは1枚の紙。

綴られた文字を視認し、まるで氷塊でも呑んだかの様な悪寒が身体中を襲う。


「契約書だ。既にこの船は俺の物であり、中に居座る猫を追い出す事も殺す事も俺の自由。

廃船を諦める?それはお前だろう?もう手出しは出来ない筈だ。」


「その契約書……ちゃんと見せてくれ。」


「フン。この俺を疑うとは……正真正銘、本物だ。」


解呪師が契約書を俺に手渡そうとするその時。

俺はシャトルーズ・ムーンを地面に投げ捨てる。

刹那ーー


「うわっ!!!」


廃船から雪崩れる様に現れる猫達。

ポンコツを筆頭に解呪師へ攻撃を開始する。


「ナイスタイミングだな、ポンコツ。」


カランカランッと音を立てる事ーー

それが俺達が決めた合図。

そして奴の最後の切り札を奪い取るのは、俺では無い。

仲間を傷付けられた彼らの仕事だ。


「やめ、やめろ!!クソったれ!噛み付いてんじゃねぇ!オイ!!」


頃合いかーー

俺が、シャトルーズ・ムーンをメインリングに仕舞うと猫達は一斉に廃船へと戻って行く。

撤退の合図もタイミングバッチリだ。


「ーーッ!!急に飛び出してきやがって!絶対に処分してやるからな。」


「あれっ!?

処分って……貴方にその権利があるのですか??」


「はぁ?何を言ってやがる、先も見せた通りココに契約書が……無い!? 契約書が無い!!」


「あらら。猫共に一杯食わされたね……残念。」


「……くっ、俺に金がある。もう一度契約を取り付ければ良いだけだ!」


「ふふっ。」


ここまで上手くいくと笑いが止まらない。

ふふふっ……腹がこじれそうだ。


「何笑ってやがる!…………っは!? おい嘘だろ!?モノイレロすら無い!」


ポンコツに指示を出しておいて正解だったな。

奴を始めて見た時、モノイレロを2つはめている事に気付かない俺では無い。

1つは武具やら魔法、日用品のモノイレロだろう?

ではもう1つは?

詐欺でボロ儲け。

家を欲してる時点で定点が無い。

金を入れる場所は、そのモノイレロしかない。


「俺の……俺の金がぁぁぁぁあ!!

お、お前ェ!こんな事許されると思っているのか!」


「詐欺で集めた金だろう。

お前のじゃない、またココに近寄る様なら……分かってるよな?」


俺はフードを脱いで見せる。


「し、神格者……セドナ・フルムーン!!?」


そんなに怯えられたら少し応える。


「う、うわぁぁあ!!」


半泣き半ベソの解呪師は、最後の抵抗として胸ぐらへ掴みかかってくる。

容赦はしない。金を巻き上げられた個人的な恨みとともに吹っ飛べ。


「オラァ!!」


渾身の力を込めて放った俺の右ストレートは、男の身体を吹き飛ばし海へと誘う。

秘技 俺の金返せパンチだ。

対象者は社会的に死ぬ。


※※※


一件落着。


冒険者達は逃げる様にこの場を去り、ポンコツ達は廃船からその身を表した。

俺は渋々気を失った解呪師を海から引き上げる。

こいつは……神格軍にでも任せるか。

詐欺を働いていたんだ、逮捕でしょう。


「ニャー。」


「…………!!

……ポンコツか。」


ポンコツだけじゃ無い。サイソク、タンソクその他に何10匹もの猫が俺に向かって喉を鳴らしている。


「……悪いけどお前らの言葉分かんねぇや。」


「ニャ。」


「感謝してくれてんだろ?

それぐらい分かってる。

……大丈夫、これはお前らにお世話になった恩返しさ。」


ポンコツの頭を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じる。沈み行く夕日が海を照らし、海面がキラキラと光り輝く。


「……少し肌寒くなってきたな、そろそろ俺は仲間を探しに行くよ。

お前らも廃船に戻りな?」


「ニャー!」


あの太った猫はトンソクだな。

一目散に廃船に戻りやがって……。

俺が1人微笑んでいると、直ぐさまトンソクがとんぼ返りしてくる。違いと言えば口元にまるまる太った魚を咥えている事か。


「おいおい、こんな時でも食い意地を張ってんのか?」


「ニャー……。」


「……!!!」


俺の足元へ置かれる魚。

トンソクがわざわざ持ってきたのは、自分が食す為では無く、感謝の印だったのか。


「それ、お前が楽しみにしてた……」


「ニャ。」


「……ありがとな。」


どうやら今夜は焼き魚らしい、けれど特別美味しいに違いない。


「セドナッ!!」


「!!」


振り向くと息を切らした美少女が立っていた。

金髪ツインテールが潮風に揺らされ、顔は夕日に照らされほんのり赤みを帯びている。


「ノア……。」


2日前喧嘩した旅の仲間。

怒り出したのは俺だし、大人げ無いのも俺だと分かっている……けれど、男である以上謝るなんて事したく無い。

数秒の沈黙ーー

トンっと背中を押される感覚を覚える。

スタッと目の前に飛び降りて来たポンコツは、尻尾でノアを指し示す。


【「くだんねーよ喧嘩なんてさ。

お前が悪いかどうかなんか知らねぇけどさ、早いとこ片付けときな、俺達猫は、人間程生きれねぇんだから。」】


……お前の言葉だったなポンコツ。


「ノア……俺……ごめん!!

くだらない事で怒って2日も行方眩ませて……」


「バカ……」


ポロリと頬を伝う涙。


「……へ?」


「バカセドナぁ!!

私の前から居なくなっちゃったんじゃないかって……ずっと不安で夜も寝ないで探したんだからぁ!」


「ごめん!ごめんって!」


「ギルドで猫討伐のクエストがあって……冒険者達が町を闊歩して……もしセドナが猫の状態だったらって考えたら私……私……」


よく見ると彼女の両眼は真っ赤に充血している。

夕日なんかじゃない。

泣き腫らした後だーー

俺なんかの事がずっと心配で心配でーー


「…………。」


ノアはこんなにも純粋だ。

純粋に俺の心配をしてくれていたんだ。

俺はそっとノアを抱き寄せる。


「……ごめんな。」


「……う、うわぁぁん!!」


ポンコツは俺らの2人を見届けると、仲間を引き連れ廃船に帰って行く。

結局助けられたのはどっちなんだか……


「ありがとうな。

俺はもう大丈夫だ、お婆さんは任せたぞ。」


「ニャー。」


彼が最後に何を言ったかは分からない。

けれどーー

「任せな」

そんな風に聴こえたのは何故だろう。






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