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猫が美少女で実は俺?  作者: もこ
紙飛行機は空高く
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本の妖精と不死鳥

目の前を歩く全身迷彩服の彼……こんな街中で何から身を隠そうとしているのか……



「分かりません。」


知恵の神格者が発する何度目かのエラーに、俺は落胆を隠せない。


「そもそも私は知恵の加護を受けた神格者ですが、いきなり果実を味わう訳では有りません。

私の特筆すべき能力は「速読と熟読」

他の数10倍のスピードで本を読む事が出来、数倍理解する事が出来るのです。

つまり生涯で読める本の冊数が違う。それが知恵に繋がるといっただけです。私が図書館を本拠地にしているのも納得でしょう?」


なんとも面倒くさい能力……。俺だったらゴメンだ。

本を読んで覚えて読んで覚えて読んで覚えて。そして知恵が身につく。彼女が知恵の神格者であり続けるには、無限に続く知識の海を泳ぎ続けなければならないのだ。


「貴方はこれから各神格者の元へ訪れるつもりでしょう?ならば1つの案として持っておく事が賢明です。1つにすがり続けるのは愚か者のする事ですから。」


「なら尚更旅を続けなきゃな。」


「…………はぁ、そうなる事は分かってました……。」


ハイネは空間をなぞりモノイレロを開く。ゴソゴソと取り出したのはフード付きのパーカー。

黒を基調とした落ち着いた雰囲気のものだ。


「貴方は貴方自身が思っている以上に目立つ、勿論貴方のお連れ様も。

だからこれを差し上げます、今よりは周囲の目を遮断出来るはず……まぁ気休め程度ですが。」


ありがとう、と受け取った俺の分とノアの分の2着、そして替えに数着。モノイレロに入れておいて後で彼女に渡そう。


「それと……貴方の黒指輪を少し触らせてください。」


「何故?」


「座標を保存する為ですよ。私は保存した座標にちょっとしたモノなら送る事が出来る。貴方がどうしても姿を変えたい時、必要なのは他神格者の濃い魔力です、今現在、力になれて現実的なのは私でしょう?」


……。

なんだかんだ彼女は、俺に力を貸してくれるらしい。あの魔力玉があれば俺はある程度変化をコントロール出来る筈だ。


「助かるよ。ありがとなハイネ。」


「いえ、これはこの街を救って頂いたお礼でもあります。丁度バリトンは出払っていて……この街の神格軍も少し引っ張っていたので手薄でした。私だけじゃ力不足、しかし貴方が偶然にもこの街に来たので、僭越ながらお任せする事にしたんです。

私は貴方の旅を反対しましたが、それを考えるとメリットもあるようですね。」


「当たり前だ。もっと俺に感謝しな。」


褒められるともっと求めたくなるよな。

世間的に強い相手だと尚更。

……うわぁ、俺の小物感凄い。


「ふふっ。

実は前々からダモダ・カレンストリーは注意を置いていました。しかし彼はその資金力で神格軍に援助を渡していたので。こちらも動きにくかったのですよ。」


「援助と言う名の賄賂か?」


「はい。」


楽観的だった俺の感情は、怒りへと矢の先を向け始める。


「つまり、金を貰ってたから奴に何も言えなかったのか?種族差別を良しとし、キララエル一家を貶めるような行為に明け暮れ、挙句の果てには街を半壊させた男。全部事前にふせげたんじゃねぇのか?」


「静の怒り。男性のソレはなかなかそそるモノがありますね。」


「ふざけるな…………。」


「神格者として失格ですか?

貴方は何も分かっていない。良いですか?」


ハイネは背筋を正し、こちらに再度向き合う。


「【レメゲトン】ダモダ・カレンストリーが秘密裏に繋がりを持っていた魔格団体です。

彼を泳がせていたのは、その彼を餌にその団体を根本から壊す為、実質今回の事件被害者の倍以上の魔格軍を逮捕、もしくは除去出来ました。」


柔らかい微笑みは無い。俺はこの顔を知っている、この世界で初めて人を殺した時の俺だ。


「犠牲はつきものです。賢い貴方なら分かるでしょう?」


「…………。」


何も……何も言い返せない。

いや言い返さない。

全てを助ける、それが不可能だという事はこの世界で何度も感じ捨てた概念。

ハイネ、この会話をノアに聞かせなかったのは良い判断だったな。


「正直、ドラゴンが出現する。其処までは読めませんでした。ここからは推測ですが……あの場にはダモダ・カレンストリー1人では無かった。もっと邪悪で狡猾な者が背後にいた様ですね。」


「魔格者か?」


「其処まではなんとも。」


そうか、分かってはいたがーー

所詮ダモダも駒の1つだったという事だ。


※ ※ ※


「ハイネ様、失礼してよろしいでしょうか?」


「どうぞ。」


「失礼します。」


私は、主に許可を得ては扉を開く。ギィィと館内に老朽化を示す音が響き、もう1度響いた時には「音が無になった。」


「何度来ても不思議な部屋です。」


「自分にとって必要な音以外の音量を極端に下げる部屋。先代から継承されている部屋ですから大事に扱わなければね。

ところでバリトン、私に何の用かしら?」


ハイネ様は何度も何度も読み返したであろう有名な童話を熟読していた。彼女がその本を手に取るときは決まって機嫌が良い時だ。


「先の訪問者、ディアナの神格者であるセドナ様についてです。

彼が入館する事実を把握していたにも関わらず、何故気付いていないフリをして、私とぶつからせたのですか?それも本来の姿を抑えて。」


固く閉ざした力を抜き、本来の姿に変化する。

足は人とはかけ離れた鳥のモノへ、背中には燃え滾った翼が羽撃く。


「単純に彼の能力を見たかった。それじゃあ不満?」


にこやかに頷く。ハイネ様の事だ、私には分からない裏がある。


「悪いけれどそれ以上も以下も無いわ、私はこの図書館主体にあまり動かない神格者、いつも依頼の実働は貴方でしょ?

他の神格者に会える機会なんてこれから数える程も無いわ。」


なるほど。だから機嫌が良いのか、彼女が興味を持っていた事を1つ達成出来たのだから。

彼女がチリーンと手元のベルを鳴らす。特に意味も無い行動で、目の前にあったから鳴らしただけだろう。

そうと気付いてから彼女が幾ら鳴らそうとも鐘の音は聞こえなくなった。


「彼を一言で言えば『素敵』だわ。

神格者に選ばれるべくして選ばれた偉大な人。

最上階までのトラップを猫のようにすり抜け、バリトンを剣も指輪も使わず倒した。

そして何も考えて無いように見せて注意深い。」


彼女が指輪を撫でると黒い球体が2つ、キュルキュルと回転しながら宙に現れた。

次の瞬間、 バチバチッ っと音を響かせ球体は砂状になり消え去っていく。


「彼らを盗聴する為だったんだけれどね、ものの数秒で壊されたの。

ディアナの神格者だと自覚が足りず、計画無しの無鉄砲、ましてやそこまで価値の無い他人を励ます為に、自分が呪いにかかっている事まで教える愚か者。

…………けれど隙は無い。」


「そこまで観ていたとは……なかなかお気に入りの様ですね。ですが彼が本で防いだ場面、もし私が本来の炎魔法を使えば……いや良いです。

それよりもハイネ様、貴方でしたら前日の事件も事前に防げたのでは?」


彼女は地球儀をくるくると回し目を閉じる。口元を緩ませ思い出す様に微笑む。


「彼の力にはなるけれど、彼の道の邪魔はしないわ、運命に逆らうと良いことなんて無いもの。今まで読んで来た物語は全て運命に逆らった者から消え去ったの。」


彼女は、お気に入りの童話を記した本、ベル、地球儀をモノイレロに仕舞う。


「さぁ、そろそお仕事が溜まって来たわね。バリトン、何時までも老いたままで居るつもり?そろそろ生まれ変わりなさい。」


「かしこまりました。

ハイネ様が知恵を戻してくれるお陰で、私は今日も私で居れます。

…………それでは数日後。」


そう言って私はナイフを手に取る。

セドナ様はコイツを護身用と思っていたらしいがそれは間違い、何故ならコレは自害用だからだ。


「本当に魔族は面白いわね。特に不死鳥の貴方は。」


不死鳥族は魔族の中でもかなり珍しい。私は今まで同じ種族に出会った事は無い、それぐらいだ。


「歳の取り方が何倍も早く、死なない事。何度殺されても灰になるだけでのちに命は返り咲く。そうは言ってもやはり死ぬのは痛いですし怖いですよ。それに、戦場を共にした友人が死に行くのは辛い。」


生まれ変わった所で前の記憶と知恵は引き継がない、つまりリセットされてしまう。しかし目の前の彼女、ハイネ様が居れば問題無い。

私の記憶、知恵、力を本に保存しまたロードして貰えば良い、結局の所身体が若返るだけでメリットしか無いのだ。


私はナイフを手に取り自分の喉元へ向ける。

次に目を開くときは、世界が数段大きくなっている筈だ。

……いや違うな、私が縮むだけか。


「ハイネ様、彼らに風の加護を。」


そう言って指輪を渡す。


「ふふっ。貴方も人が良いわね。それに、炎の鳥が言う言葉じゃ無いわ。」


彼女は微笑み部屋を後にした。


※ ※ ※


思い出の書庫、知恵の神格者のみが立ち入る事を許された部屋。

ミネルヴァの神格者の1番強力な能力であると共に、最高のシェルター。

ここでは全ての人間の過去が各個人の物語として書物化されている。

1日1人のみ覗くことが出来るのだが、私は何度も何度も同じ人間の本を手に取る。

【セドナ・フルムーン】

若き頃から神格者としてメリナ・コアレスターに育てられ、最年少で神格者を継ぐ。

その後、魔格者と対立する日々に、この世の残酷さを身を持って感じる。

よって飄々とした性格の裏側には正確な取捨選択を出来る強さを併せ持つ、そして呪いに侵されながらも旅を続ける男ーー

そんな話どうだって良い。

私が興味を惹かれたのは、もう1冊のタイトルも読めない書物だ。

万人が1人1冊なのに対し、セドナ・フルムーンのみ上と下の二部作になっている。

あらゆる言語を理解した私でも読めない言語で記された上巻を何度も何度も繰り返し読み解く試みをする。


あぁ、なんて面白い男なのだ。

私は1度気に入ったモノを手放したりしない、セドナ・フルムーン、月の神格者よ。

私は貴方を理解するまで死なせない。



ハイネ・メトログラン

レベル120

メインリング 【ペンツェル・ゴシップ】


スキル

知恵の加護 ビブリオマニア 聖なる審判

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