目的は
「あ!目を覚ました!!」
「……ん。」
「まだ眠そうですよノアさん!そんなに大声出したらセナさんが驚いてしまいます。」
「カノンはセナに優しすぎよ。こんな奴耳元で叫んで起こしてやれば良いのよっ!」
暗闇から明転後、状況を理解するのに数10秒。ベットの上に横になっていた俺は、重く沈んだ上半身を持ち上げて、2人の美少女を押しのける。
「邪魔ですよっ!!」
「きゃっ!!」
「ふわぁ!?」
何で隣で寝てんだよ!!体が重いと思ったらお前らじゃねーかよ!
「ずっと看病してたのにそれは酷いですよぉセナさぁーん!?」
「ずっと??」
「ええ、セナさんが寝込んでから丁度2日ですね。因みに今は早朝ですよ?」
そう言ってカノンは機嫌良く頬を緩める。
重いけど……可愛いから許す!
「あんたねぇ!起きるの遅すぎよ!死んだんじゃ無いかって思ったぐらいよ。まぁそのまま死んでも私は悲しんだりしないけれどね。」
「そ、それは酷く無いですか?」
「ノアさんったら……。セナが寝込んでから今は一時も離れて無いのに良くそんなこと言えましたね……。」
「ひふぁ!?そ、そんな事ないわよ!」
「ノアさんは本当にセナさん……いや、セドナさんの事が大大大大好きなんーーーふにゃぁぁん❤︎」
ノアは顔を赤くしながら、カノンの尻尾をガッチリと握る。尻尾が敏感な彼女は、握られると同時に飛び上がり、ペラペラと動いていた口からは吐息が漏れる。
「い、今のは嘘だからね!!」
「はい。」
恥ずかしがりながら念を押す様に釘を刺してくる。それ逆効果だよ、本当だからねって言ってる様なもんだ……。それよりノックアウト寸前のカノンをはなしてやってくれ。
「……ここはどこです?」
豪華に彩られ、無駄に広いこの部屋はゴローの宿では無いことは確かだ。そもそもあの宿を守れなかったのに有るはずが無い。
「ここはダモダが運営してた宿よ。」
「え?」
「何も可笑しくは無いでしょう?勝負に勝ってこの宿は既にゴローのものなんだから。それにダモダの奴もどうやらこの街から逃げ出したみたいだしね。」
ノアによるとゴローはあの闘いの後、すぐにこの宿を利用しようと考えたらしい。負傷者、住宅を失った者に部屋を無償提供し、今は瓦礫の撤去作業に追われている様だ。
「ゴローも変わりましたね。」
「セナさんが……セドナさんが変えてくれたんですよ、ありがとうございます。」
カノンが零した言葉。
人に感謝されてーー
誰かに求められてーー
【こんな世界つまらない。】
前世界でそう思っていた俺を、変えてくれたのはカノンの様な人のお陰だ。俺は新たなこの世界を……更に、もっと、今より……好きなる。
※ ※ ※
「んじゃ行ってきます。」
「気をつけて下さいねー!」
「おにーさん頑張ってねっ!!」
男に戻った俺は、猫耳姉妹に送り出され、宿を後にする。右隣には何時ものように、ノアが金髪を靡かせている。【歩く】という動作1つ切り取っても絵になる。気付いたらこんな美少女と旅をしているなんて、なんかすげぇな。
「?どうしたの?」
ノアの顔をジッと見つめていると、それに気付いたら彼女が上目遣いで首を傾げる。
長い睫毛に気品が揺れて、仕草は女性らしく可愛い。当たり前だけど戦闘の時と全く違う。
「……いや何でもない、何でもない。それよりやっと本来の目的に戻れるなぁ!」
「そうね神格者に会う事が目的だったものね。久しぶりにセドナに戻ってやる気も十分そうだしね。」
俺はコクリと頷きながら目線を前に向ける。
街の中央に佇む図書館。あれこそ俺の当初の目的であり、完遂すべきミッションだ。
「よし!じゃあ早速……」
「あら?ノアちゃんじゃないの!」
「お!本当だ!身体はもう大丈夫なのかい?」
街行く人々が、ノアを見つけるなり嬉しそうに声を掛けてくる。
「ええ、大丈夫よ。」
「街を救ってくれてありがとな。アンタが居なかったら俺は今頃……おっと。そんな事はどうでも良い、セナちゃんの方はどうなんだ?」
「セナならもう元気よ。走り回ってたわ。」
「おー!それは良かった!後で差し入れでも持ってくかな。」
「お前はセナちゃんに会いたいだけだろ……。」
「バレちまったか!はははっ!」
……。どうやら俺とノアがドラゴン退治に関わった事は町中に広まっていて、まるで英雄の様に扱われているらしい。
「そういえばさっきから隣に居るアンタは誰だ?まさかノアちゃんの……」
「ち、違うわよ!!」
ノアは顔を赤くして全力で否定する。
「違うに決まってんだろ?よく見てみろよ、ディアナの神格者様だ。」
「「え!??」」
1人の男性の言葉にあたりの人の視線が集まる。勿論、俺に向けられたものだ。
「せ、セドナ様!?すいませんこんな無礼を!」
「いいって。」
「ありがとうございます!!」
ぞろぞろと集まりだす人々。
ここから抜け出せなくなる前に退散するか。
「ノア。ちょっと掴まって。」
「え!?ちょ、ちょっと!!」
俺は彼女をヒョイと持ち上げて屋根の上に飛び乗った。
「面倒くさいからこのまま図書館目指すからな。」
「ふぇ!?え?」
ギュンとスピードを上げて、街を駆け抜けて行く。久しぶりの全力だ、風が気持ち良い。
「お、降ろして!」
「え?何で?この方が速いでしょ!」
「だって……このままじゃ胸が破裂しちゃう……。」
顔を見る限り恥ずかしがっているのは分かったが、ギュンギュンと風が耳元を過ぎていく音で、ノアの声は掻き消された。
「なにぃ?聞こえなぁーい!!」
彼女は顔を赤らめ、ギュッと俺にしがみついてくる。
「やっぱこのままで……お、落とさないでよね!!!」
「ん?よく分かんないけど了解っ!!」
俺は更にスピードを高めて目的地へと向かう。
この高速移動……本当に爽快だ。許されるならずっとこうしていたいなぁ。あ、でも気付いたら全く知らない土地に行っちゃってノアに怒られるんだろうな。
「ねぇ、セドナ?」
「ん?」
「……優しいわね。」
美しく煌る金髪を靡かせ、ノアはそう言った。
「何で?」
「だって……自分に関係無い問題まで手を貸してるじゃない。一刻も早く呪いを解きたい筈なのに。」
「……あのダモダが気に入らなかっただけさ、普段なら助けない……って言うと師匠に怒られるからなぁ。神格者なら当然の事!って言っとく。」
「うふふっ。なにそれ。」
俺の選んだ言葉にクスクスと笑うノア。
正直言うと思う所は別にある。異世界に飛ばされ、大きな力を得て。才能と言う力を持たされなかった昔の俺。知らず知らずに、過去の自分をゴローに重ねていたのかもしれない。
ノアを抱えたまま街の中央に位置する図書館に無事到着。
「…………。」
「…………………。」
「ノア?降りて?」
「…………あっ!!そうね!」
ノアは渋々俺から離れ、スタッと地面に飛び降りる。そして、少し拗ねたようにそそくさと入口へ歩いていった。
「入館しても良い?」
「身元を確認出来る物を提示して下さい……あ、貴方は!!!?どうぞどうぞ!」
入口の警備員は俺たちを見るなり、すぐに扉を開いて手招きをする。本当に神格者って偉大。
質の良いファストパスって感じ。
「では失礼するわ。」
ノアが入口に吸い込まれていき、俺も後に続く。
「おい貴様、彼女の連れだから許可するが、普段なら身元確認をさせるからな。妙な真似をしたらすぐに牢屋に放り込むぞ。」
「は?」
警備員の言葉に俺が振り向いた時には、既に扉は閉ざされていた。
彼女の連れだから……俺じゃなくて、ノアを見て即座に入館許可を出したのか……。
そうなると……彼女は一体何者なんだ?
「案外楽勝だったわね。まぁ、神格者が居ると言っても所詮は一般開放の施設、すんなり入れなかったらそれはそれで面倒くさいか。」
「ノア……お前は……」
「ん?」
まてよ……わざわざ詮索する事でもないな。彼女から言わないという事は、まだ信頼に当たる人物になってないだけだ。……ふう。なんか悲しくなってきたぞ?
「いや、いい。」
2つの人影が、コツコツと足音を立てつつ螺旋階段を登っていく。柔らかく陽が射し込み、宙に舞う僅かな埃の動きも目で追える。図書館ならではの心地よい静寂に包まれ、俺とノアはそれを害さないよう小声になっていく。
街の人々をあまり見かけないのは、あんな事件の後だから仕方ないだろう。
「神格者様なら最上階最奥の扉ですよ。」
聞き覚えのある声に顔を上げると、2日前に共闘した神格軍副隊長が深々とお辞儀をしていた。
よう!2日ぶりだな!
そう言葉を投げようとして、急ブレーキをかける。2日前、副隊長と知り合っているのはセナであってセドナでない。神格者が神格軍の副隊長を知っていても可笑しく無いのだが、ここは知らないフリをしよう。
「初めまして、僕の名前はパトリオールと申します。未熟ながらも神格軍副隊長の座を任されて居る者です。貴方はディアナの神格者、セドナ様で間違い無いですよね?」
「ああ。」
「お会い出来て光栄です。」
「そう何回も頭を下げなくて良い。逆に面倒だ。」
彼の事は好き、嫌いの以前に何とも思わないのだが、セドナの姿だとつい本音が出てしまう。
「これは失礼しました。しかし、神格者様には感謝してもし足りないです。」
………え!?まさかセナ=セドナって気付いたのか!?? いや、そんな筈は無い、バレるような事はしていないし言動も気を付けている筈だ。
「お、俺が何かしたか?」
「はい!いや、厳密に言うと其方の方に。まさか神格者様のお連れの方にだったとは……その節はありがとうございました。
いやー……やはり魔格者絡みは卑怯者ばかりですね。神格者様が居ない時を狙って暴れるとは……。」
なんだノアの事か。含みのある言い方するなよ、弱く見えるぞ。
「それで?貴方はなんで此処に居るの?」
「この前の一件、それの報告を神格者様にしてたんだよ。すぐ終わる筈だったのに、なかなかクセのある人物で疲れたよ……。」
パトリオールはもうお手上げと、両手を軽く挙げる。
「ん?それはどう言った意味なんだ?」
「会えば分かりますよ。セドナ様、くれぐれも気に入られないように。」
彼はそう言ってゆっくり階段を降りていく。
はぁ……引っかかる言葉を置いて行きやがって……。
もし相手の神格者がクセの強い人物だとしても神格者である以上こちらの味方だろう。俺が、猫や女の姿になってしまう事を隠す必要が無いだけで、普段よりもほんの少し気が楽だ。
ノア「お姫様抱っこ……はぅぅぅ♡」




