開場
夏が来るまでに
それは冒険者のお陰かノアのお陰か、ノアも冒険者なので一括りにしても良い。ともかく冒険者のお陰で人々は、この場から安全な場所へと移された。今居るのはダモダとゴローと神格軍副隊長、そして俺の四人だ。
「……ひひっ!!魔力が集まっていくぜぇ!こんだけのモンが出て来るなんて流石魔格者様の指輪だぜぇ!」
ザンっ!!
「は?……。」
「魔格者だと?」
刹那ーー
副隊長の放った剣技によってダモダの右手首より先が斬り飛ばされる。
痛みに顔を歪める男は、ジタバタとその場で足踏みを繰り返す。
「て、手が無い……!?
ッッッ!!!ギャァッッッッ!ーー!!いてぇッ!!いてぇヨォ!!」
「この金指輪……。魔格者から貰ったものなのか?いや答えなくても良いよ、自ら確かめるからさ。」
地面に落ちた手を拾い上げて、指にはめていた指輪を全て外していく。1つ1つ中身を確認しては、足で踏みつけて指輪を壊していった。
「……禁止されてる呪い系の魔法ばかり。ダモダさん、いや貴様は魔格者と繋がっているのか?」
「いてぇ……いてぇよぉ……。いてぇ…………。」
「貧弱な男め……問いに答えずショックで意識を失ったのか。」
……呪いの魔法か。
金にモノを言われせて、かき集めたって事ね。
「ガォォォォォッッッ!!!」
「!!?」
不意に濃い霧を吹き飛ばす爆音が響き、急な出来事に、俺は驚き飛び退いた。
霧を吹き飛ばしたのは咆哮では無く、黒く艶めいた巨大な翼だ。
「……ドラゴン…だと!?」
副隊長の声を聞いて、俺は賺さずスコープを覗き込む。
【マフ・ドラグナー (闇)】
ドラゴンゾンビ
レベル89
スキル
『ーーー』
『ーーー』
焼け焦げた様な異臭が鼻を突く。
発生源はゴローと副隊長を挟むように現れた漆黒のドラゴン、奴に間違い無いだろう。巨大なその身体を動かして、今にもゴローに襲い掛かりそうだ。
「ゴロー!逃げて下さい!!」
俺は必死に叫ぶが、彼は頑なにその場から動こうとしない。
ゴローに迫る巨大な前足、助けようと全力で走るが、女の姿では確実に間に合わない。
「こっちだって!」
「ぐ、副隊長様!?」
ドガァァンッ!!
ゴローは副隊長に突き飛ばされ、ドラゴンの踏み付けをギリギリの所で回避する。顔を上げ、自分の元いた場所を見るゴロー。その顔がみるみる真っ青になっていく。無残な姿になった自分の宿を見て敵の強さを痛いほど認識した様だ。
「無謀と勇気を履き違えるなよ宿主。
《剣技》『フォトンスライド』」
賺さず繰り出される光。それは副隊長が放った剣技で、ノーモーションで投げられた剣はレーザーの様に敵の翼を撃ち抜く。
「ほらもう一丁!
《リング》『泥沼地獄』」
「グォォ!!」
飛行能力があったであろうドラゴンは、片翼を捥がれ、さらに四つ足は泥沼に埋まっている。……やるなアイツ。被害を最小限に抑える為に敵の拘束を最優先にしたのか。
「ほら君も逃げるんだ。
君みたいな可愛い娘がこんな所で死ぬなんて馬鹿らしい……っとこんな事言ってるとまたシャルナちゃんに怒られるなぁ。」
副隊長は地面に刺さった剣を拾い上げながら、そんな事を呟く。
「馬鹿にしないで下さい。」
女なんだけど……女の姿なんだけれど、まるで自分がお荷物の様な言い草をされては流石の俺でも冷たく当たる。
しかしーー
彼の言う通り、ココは任せて良い所かもしれない。
「……馬鹿にしたつもりはないけどね。」
副隊長の言葉を聞き流し、俺は腰を抜かしているゴローの元へと駆け寄って手を取る。
「逃げますよゴロー。ココは神格軍に任せましょう。」
「は、はい!ですが足をくじいてしまって……。」
右の足首に置かれた両手。見た感じ軽傷そうだな。……それなら。
「《リング》『HPポーション』」
「あ、ありがとうございます!」
「感謝は良いですから立ち上がって!奴のヘイトがこっちに来るかも知れません!」
俺は必死に立ち上がるゴローを庇いつつも、周囲への警戒を解かない。
「ガァァァッッ!」
「おっと危ない。
やっぱ部下を連れ来れば良かったかな?まぁ副業がバレたら色々と面倒くさいから無理なんだけどさ。」
「ガァァァァァァアア!!」
高密度な空気の渦がビュンビュンと音を立てて奴の口元へと集まっていく。
「……な、何だアレ!?
街中で放って良い魔力量じゃないぞ!!……君達!!今すぐ走るんだ!」
「ゴロー!!走れますか!!?」
「はい!!」
俺達は背後など気にせず、全力疾走でドラゴンから離れていく。背中から感じる圧力は、鬼ごっこで鬼に追われる焦燥感によく似ている。
「な、なんだアレ!?
ダンジョンボスでも見た事ねーぞ!?」
「ビビんな!神格軍副隊長様に続け!」
誰も居ない通りを進んで行くと、風の様に走る数名の男とすれ違う。
きっと今のは観衆を誘導していた冒険者達、ドラゴンを退治しに戻って来てくれたのだろう。
……俺も後から加勢に入る。
今はゴローを安全な場所まで連れて行くんだ。
※ ※ ※
街の顔である厳かな門の前、そこには冒険者に誘導され逃げて来た人々が、何千人と座り込んでいた。
今この瞬間を切り取って見れば、座って花火を楽しんでいる人達だが、現実はそんな悠長なことを言ってられない。
今もなお戦いは続いているのだ。
「おにーさん!お父さん!!」
「貴方!!」
ゴローは飛び出して来る2つの人影を抱き寄せる。
彼の腕の中にはミオと女将さんが安堵の顔を浮かべていた。
「良かった……ちゃんと逃げれてたんですね。」
「はい。娘とノアさんが助けてくれました。」
ちゃんとやってくれたんだな2人。
ありがとう。
「ノアさんとカノンはどこに行ったんだカプチ。」
ゴローの問いに答えるのはこんな状況でも元気一杯のミオだ。
「お姉ちゃんならあそこだよ!」
彼女が指差す先にはノアとカノンが負傷者の手当てをしていた。
「……これでひとまず安心よ。けど悪魔でも応急処置だって事を忘れないで。」
「……ノア!カノン!」
俺の声掛けに2人は手を止め、顔を上げた。
「!!
セナ!!ゴローも!無事だったのね!心配したわ!」
「無事で良かったです!」
ノアは自慢の金髪を揺らしながら、カノンはカールがかった茶髪を靡かせ駆け寄ってくる。
「話は後です!今、ダモダが強力なモンスターを呼び出して街を破壊しようとしています!」
「……あの霧?」
「はい。今は副隊長が足止めをしていますが相手はドラゴン。もしかしたら彼を蹴散らしてこちらに来る可能性も充分あります!」
不意に遠くで聞こえる竜の咆哮。
戦いはまだ終わっていない。
「レベル30そこらの私達が行ってもなんの足しにもならないと思うわ。
それに有力な冒険者が多数向かったから出番すら無いかも。」
「ですがーー」
ドォォォンーー!!
それは一瞬の出来事だった。
距離からするにドラゴンのいた所、つまり猫の集会の前。
そこから立ち昇るは黒煙、先の音から察するに爆発が起きたらしい。
俺が事態を呑み込めた時には、既に数名もの人が目を見開いて恐怖に震えていた。
「セナ……レベルが低くても今は援軍が要るようね。」
「……今すぐ向かいましょう。」
「私も行かせて下さい!」
手を挙げたのはカノン。彼女も俺達と共にダンジョンに潜っていたのである程度のバトルスキルと立ち回りは持っている。
……だがレベルの低いカノンを連れて行っていいのか?俺はゴローに目配せする。彼は理解したように優しく頷いて口を開いた。
「カノン……あの場所は今や地獄だ。私達の家は焼け落ち、通りは火の海。その地獄の根源と言えるドラゴンはまだ居座っている筈だ。それにお前は冒険者でもなんでもない。……それでも行くのか?」
「行きます。」
「……。」
カノンの強い返事にゴローは目を瞑る。それは熟考しているのか何かを振り返っているのかは分からない。
だがその顔つきは出会ってから1度も見せた事のない彼の『父』である姿だった。
「…私達はセドナさんとノアさんに救って頂いた。そんな彼らは今、この街すら守ろうとしてくれている。
……。
私達家族の中で力になれるとしたら……それはお前しか居ない。」
「……。」
「少しでもセドナさん達の足を引っ張らない様にな。」
「ありがとうお父さん!」
この場所に来てまだ5分と経っていないだろう。けれど仕方ない目の前であんな爆発を起こされたら神格者として向かうより他ない。
「……行くわよ!」
ノアの号令と共に俺達3人は火の海へと駆け出した。
ゴロー「またギルドを見てるのかい?」
カノン「そうだよお父さん!!だってね!だってね!!あそこからいっつも強そうな人が沢山出てくるんだ!私も大きくなったら冒険者になりたいなぁ。」
ゴロー「……そうか。お父さんは反対だなぁ。」
カノン「なんでよー!!」
ゴロー「冒険者はとても危険な職業なんだよ。カノンの何倍もあるモンスターと戦わなくちゃならない。」
カノン「………。それでも私はなってみたいなぁ。」
ゴロー「…………ダメだよ。」
カノン「むーー!!」
ゴロー「いつか……いつかその時が来たらお父さんも許可を出すよ。でも今は、君が大切なんだカノン、分かってくれ。」
カノン「約束だよ!私が大きくなったらぜーったいだからね?」




